得点主義にたちます。段階的にピックアップします。方針をきめ決断します。
これまでの連載で、フィールドワーク、状況把握、本質追求とすすんできました。これらは、課題にとりくみ問題を解決するためにおこなうのですから、そのためには問題の核心がどこにあるのか、それをしることがとても重要です。問題解決のポイントは大局をみて急所にいどむところにあります。急所がわかれば、これから何をすればよいか、どう行動していけばよいか、その方針がきまります。
問題の核心は、KJ法図解をつかえばすぐにあきらかになります。
まず、本質追求のKJ法図解をみなおします。
サリジャ村の例では、「住み分け」「穏健」「環境問題」「ライフスタイルが激変」「格差」「差別」「崩壊」という7つの島が最終的にできました。これらをみて、重要だとおもった島を5つぐらいえらびだし、それらに☆印をつけます。
つぎに、☆印をつけた5つの島だけをみて、さらに重要だとおもった島に☆印をつけくわえ「☆☆」とします。
そして、☆印が2つの島だけをみて、もっとも重要だとおもった島に☆印をつけくわえ「☆☆☆」とします。
最後に、3つ星の島は赤色に、2つ星の島はややうすい赤色に、1つ星の島はうすい赤色に、それぞれ色どりします。
これで、問題の核心があきらかになり、同時に、それぞれの島(ファイル)の重要度のランクづけもできました。視覚的に表現した方がわかりやすく、アイディアもうまれやすくなります。この方法は、「多段ピックアップ」といいます。
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ネパール西部・サリジャ村では、村人のライフスタイルが激変しているところに問題の核心(急所)があります。近代化にともない、最新式の文明の利器とともに多様な文化が流入し、村人たちのライフスタイルは急激にかわりつつあります。人生における選択肢も選択方法も格段にふえ、人々の競争もはげしくなっています。
ネパールといえば多民族国家ですが、さまざま民族が無秩序に混在するのではなく、空間的に住み分けることによってこれまでは共存してきており、一方で、「ジャート」とよばれるネパール独自の社会身分制度があり、住み分けと相まって独特の秩序が国内でたもたれてきました。
しかし近年、ネパールにも近代化の波がおしよせ、都市と山村の格差、貧富の差が顕著になり、従来の身分制度とはことなるあらたな格差が生じ、社会は混乱しています。サリジャ村のような山村僻地は、インフラ・産業・教育がととのわず、社会の発展からとりのこされています。
男性たちは、生計をたてる(現金収入をえる)ために外国へ出稼ぎにいきます。最近では、女性が出稼ぎにでるケースもふえています。外国へいくチャンスを誰もがうかがいます。地元には人材がいなくなり、ふるきよき地域社会、伝統的な社会は崩壊します。
ふるい秩序が崩壊し、あらたな時代へ移行するということは、ネパール独自のふるい身分制度(差別)が崩壊する過程でもあり、このような時代の転換は良し悪しではなく歴史の必然ととらえるべきでしょう。一概に悪いとはいえません。
そして出稼ぎにいった人たちのその後の人生はさまざまです。出稼ぎにいったからといって誰もが成功するわけではありません。病気になってしまう人もいます。事業で失敗する人もいます。そのまま外国に定住してネパールにはかえってこない人もいます。財をなしてネパールに帰国し、都市部で家をたてて村にはかえってこない人もいます。他方で、村にかえってきて村の発展のために努力する人もいます。さまざまです。
生き方は多様化します。誰もが、時代の潮流にただ翻弄されるのではなく、自分らしい最善の生き方をみずからみいださなければなりません。そこでは、自分の考えを他人におしつけたり、特定の価値観・世界観をひろめようとすることはのぞましくなく、「人は人、我は我、されど仲良し」といった考え方を前提にしたライフスタイルがもとめられます。そうでないとうまくいきません。
わたしは、フィールドワークと国際協力をおこないながら、ネパールの変化をこれまで目の当たりにしてきました。
かつて、NGO のスタディツアーをネパールで開催したとき、そのテーマは、「本当の幸せとは」「笑顔がたえない村」「微笑みのすみか」「ヒマラヤからのおくりもの」「学びあい協力」などだったのであり、心あたたまる歓待をうけ、ネパールの素朴な人々や有機的なコミュニティから数おおくのことをまなび感動し、日本人が近代化でうしなってしまったものを実感しました。
一方で、ネパールといえば多様性の国であり、そうでありながら、不思議なバランスで秩序がたもたれた なつかしい王国でした。民族学者による調査・研究がさかんにおこなわれ、その結果が、ネパールを理解するための基盤となり、わたしもその恩恵にあずかっていました。ところが時代はかわり、従来の理解はもはや通用しません。
時代が転換し、ライフスタイルをかえるということは日本でもおこっています。今日の日本は、明治時代にまさるともおとらない転換期であり、技術ばかりが先行し、精神文化の変革がおいつかず、混乱しています。ネパールの事象は決して他人事ではありません。
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方針がさだまる
このように、KJ法図解上の高ランクの島を中心にして問題の核心をつく文をあらためて書くことができます。ここでしめした「多段ピックアップ」(注1)は、個人でも短時間で自然にできる簡単な方法ですが、重要な島(ファイル)を段階をふんでひろいあげるという得点主義にたっており、欠陥をさがして不要なものをきりすてるという減点主義にはたっていないことに注意してください。
ランクがあきらかになれば、どこに重点をおいてどこを簡略にすませるか、何を先にやって何を後まわしにするか、優先順位がきまり、方針がさだまり、迷いがなくなります。
たとえば受験生でしたら、ある人は、1.数学、2.理科、3.英語、4.社会、5.国語というように優先順位をきめ、数学や理科に時間・労力をかける一方、社会や国語はなるべく短時間で効率的にといった勉強のしかたをするでしょう。あるいは、1.国語、2.英語、3.社会、4.数学、5.理科、といった順位で勉強する人もいるでしょう。
あるいは登山家でしたら、のぼりたい山が20座あったとしても、1.D山、2.M山、3.Y山・・・、というように優先順位をきめて順番にのぼっていくでしょう。複数の山に同時にのぼることはできないのですから。
たべあるきがすきな人でしたら、駅前にあるいくつものレストランにいって、F店が一番おいしい、N店はまあまだ、C店はいまいちだ、というような感想をもつでしょう。
学生が、ある課題についてしらべるために図書館にいって関連書を10冊ぐらいかりたときは、すべてを1回よみおわったら、そのつぎは、高ランクの本をくりかえし重点的によんで理解をふかめたほうがよいでしょう。あるテーマに関する資料や論文などが大量にあつまった場合も、重要度のたかいものをえらびだして処理していったほうが効率があがります。すべてを平等にあつかうようりも、濃淡をつけたほうが成果がうまれやすいです。
このように、ランクづけは誰もが普通におこなっていることであり、ランクづけなしでは生活も仕事もなりたちません。しかしランクづけをもっと意識して自覚的におこなうようにすればおおきな効果が期待できます。めりはりのある生活ができます。多段ピックアップは、短時間で自然に順位をきめられる方法としてとても有用です。
減点主義か得点主義か
ところで、「ランクづけ」とこれまではいってきましたが、これは、いいかえれば「評価」ということです。いわゆる評価は世間でよくおこなわれていますが誤解や問題がある場合があり、まちがってつかわれるケースもみうけられるため補足説明を以下にします。
評価というと、学校の教師がおこなう生徒を対象にした評価がまずはおもいうかびます。それは、生徒の間違いや欠点・失敗をカウントして点数を減らしていくという方法であり、減点主義の評価といってもよいでしょう。役所や一部の会社の人事評価などでも減点主義を採用しているところがあるでしょう。また最近、国際協力事業でも人事評価・事業評価がおこなわれるようになってきて、この場合でも、減点主義にたった評価がおこなわれることがあります。
減点主義にたつと、評価される側は失敗をおそれて積極的には誰もが仕事をしなくなります。欠点をうみださないためには よけいなことはしないほうがよいとかんがえます。チャレンジングな人材はそだちません。
それに対して、多段ピックアップのような得点主義では、粗探しとは逆に、長所・利点をみいだし、ひろいあげ、価値をもとめます。どこがいちばん大切かとかんがえ、問題解決にそれをいかそうとします。心のむきが減点主義とは正反対です。
減点主義でも学校や役所はつぶれないかもしれませんが、これが会社だったら人材をいかすことができず、つぶれてしまうでしょう。実際、減点主義の管理者がいた会社は経営難におちいり他社に買収されたという事例をわたしもしっています。
傍観者か当事者か
減点主義にたつか得点主義にたつかは、評価者が傍観者であるか、当事者であるかできまるという見方もできます。
たとえば学校の教師の場合、教師からみれば勉強するのは生徒の方であり、教師は傍観者です(注2)。それに対して、会社はひとつの事業体であり、管理職と平社員の区分はありますがいずれも事業体の構成員であり、誰もが当事者です。当事者である以上、長所・利点を発見し、人材を育成し、事業を成功させるために得点主義に誰もがたたなければなりません。減点主義ではうまくいきません。
わたしがおこなってきた国際協力事業でも、事業を実際にすすめる当事者は得点主義にたちますが、事業を管理するような立場にいる人は傍観者にすぎず、事業を外からながめて、おおくのばあい減点主義にたちます。わたしはかつて、国際協力の「評価専門家」と自称する傍観者にであっておどろいたことがありました。外野からの批判、高圧的な態度、きびしい口調、このような人たちは“評価”と称して“検閲”を実際にはやっていたようです。傍観者による“評価”は将来に禍根をのこすことがあります。
傍観者と当事者は、アウトサイダーとインサイダーといいかえてもよく、両者のちがいは、批評家と実践者のちがいといってもよいでしょう。外からみているだけなのか、みずから仕事・事業をおこなっているのか、まったく立場はことなります。実践者は、課題にとりくみ、困難を克服し、なんとか問題を解決したいとねがいます。
決断する
以上のことから、仕事や事業をすすめ問題を解決するためには当事者が評価をおこなったほうがよいことがわかります。当事者がおこなえばおのずと得点主義になり、問題の核心がわかり、方針がきまり、決断できます。あらたな1歩をふみだせます。こうして急所にいどんでいくことができます。
KJ法図解と多段ピックアップをつかう方法は、状況の全体構造の把握ができているため信頼性がとてもたかいです。特定の評価項目を既存の観点からならべておこなう機械的な評価とはくらべようもありません。
評価は、「これは良い、あれは悪い」とばらばらにながめていうよりも、さまざまなファイルをよくみくらべておこなったほうがよく、ファイルが直列(箇条書き)のときよりも、面的あるいは立体的に構造づけられていたほうがよりよく比較ができます。KJ法図解は3次元構造になっているため、全体をみたうえで、個々の島(ファイル)をみくらべながら評価できます。そうでないと散漫な評価になり、焦点がしぼりにくくなります。線よりも面、面よりも立体のほうが強力です。図解がよくできていれば評価がつよく収斂します。
生活や仕事あるいは趣味であっても何かをすすめるときには評価が必要です。あれもこれも同時にはできないのですから行動をおこすためにはかならず評価がいります。評価をきらう人がときどきいますが、評価なしでは世の中はなりたちません。
重要なのは評価の方法です。不適切な方法による評価は組織も人もダメにし、評価法をあやまると将来に禍根をのこしますが、適切な方法をつかえば評価は有用です。後ろ向きではない前向きの評価法がもとめられます。
▼ 注1
「多段ピックアップ」は、川喜田二郎著『KJ法 渾沌をして語らしめる』(中央公論社)などで、多数のラベルから重要なラベルを選択する方法として取材法の一環で解説されていますが、ランクづけ(評価)の方法としてもつかえます。とくに個人でおこなう場合に有用であり、川喜田二郎先生もよくおこなっていました。
今回の例では、もっとも簡単な方法として、グループ編成の最終の島(もっともおおきな島)を対象にしてランクづけをしましたが、2段目の島あるいは3段目の島などを対象にしたもっとこまかいランクづけをおこなうこともできます。
なお今回は説明しませんでしたが、チームや集団でおこなう評価法としてより本格的な「衆目評価法」とよばれる方法があります。合意形成の方法としてもこれは有用です。
▼ 注2
生徒とともに教師もなまび成長していくという姿勢があったら、教師と生徒が一体になって問題解決をすすめていくという学校があったら、それはひとつの事業体であり、教師は傍観者ではなく当事者になります。得点主義が採用されます。
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▼ 参考文献
川喜田二郎(著)『野外科学の思想と方法』(川喜田二郎著作集 第3巻)、1996年、中央公論社
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 第5巻)、1996年、中央公論社
田野倉達弘(著)『野外科学と実験科学 − 仮説法の展開 −』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『KJ法実践記 情報処理と問題解決』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『国際協力とKJ法 ネパール・ヒマラヤでの実践』、2024年、アマゾンKindle
(冒頭写真:ネパール、バクタプル、石の水道、1998年2月21日、筆者撮影)










