全体観がいります。相似に注目します。現場からボトムアップします。
似ているか異なるか
下の図をみてください。

AとBとCの全体をみたとき、AとBは、Cとくらべると似ているといえます。
図2をみてください。

AとBとCとDをみたとき、AとBとCは、Dとくらべると似ています。全体をみないと、何と何が似ているか、異なるかはわかりません。
近いか遠いか

図3の日本列島において、都市Aと都市Cは近いでしょうか、遠いでしょうか?
ある人は「近い」といい、ある人は「遠い」というかもしれませんが、2地点だけをみていたら近いとも遠いともいえません。AとCは、AとBとくらべると遠いですが、AとDとくらべると近いです。近いか遠いかは相対的であり、全体をみないときまりません。
老けているか若いか
2人の女性、AさんとBさんがいました。Bさんはいいます。
「わたしたちは同じ年なんですが、一緒にでかけたとき、親子によくまちがえられます。老けた人と一緒にいると若くみられます」(注1)
一般的には、若くみられるためには、化粧をしたり髪型や服装を工夫したりしますが、そのようなことをしなくても、となりに老けた人がいると若くみられます。老けているか若いかは相対的にきまることです。
(注1)「怒りん坊将軍」、2025年3月15日放送、TBS
上手いか下手か
わたしは、吹奏楽部にかつて所属していて、吹奏楽コンクールにでたことがありました。各学校が順番に演奏して評価をうけていくわけですが、そのとき演奏順が、強豪校(金賞常連校)の直後になったある学校の指導者がのべていました。
「今年は運がわるい。強豪校の上手い演奏のあとでは、どんなに上手く演奏しても下手にきこえてしまう。無名校の直後に演奏できればもっと上手くきこえるのに」
上手いか下手かも相対的にきまります。
高いか低いか
富士山(3776m)にわたしはのぼったことがあります。やっぱり富士山は高い。ほかの山とは格がちがうとおもいました。
しかしその後、ネパール・ヒマラヤへいくようになり、8000メートル級の山々がどこまでもつらなる山容に圧倒されるようになると、日本の山々がちっぽけに感じられるようになりました。
高いか低いかも相対的であり、体験の場を日本列島に限定するか、世界の屋根にまでひろげるかによって感じ方はあきらかにちがってきます。
相似関係と因果関係

図4の A、B、C をみて類似性に注目すると、AとBが似ているといえます。これは相似関係といってもよいでしょう。
ところが一方で、CとBの関係をみいだすこともできます。すなわち「ライターをつかってロウソクに火をともす」という「C→B」の時系列の関係です。これは因果関係といってもよいでしょう。この関係をつかえばストーリーをえがくことができます。たとえば日記や旅行記・小説・歴史などがそうです。時系列でどんどん書いていきます。これは誰もがやっていることであり、とくに説明はいらないとおもいます。
しかしKJ法では、そうではなく相似関係に注目します。そのような方法で最終的に文章化ができるのか、疑問をもつ人がいるかもしれませんが、できます。因果関係とは別の原理がそこにはあります。
相似関係と因果関係は、類縁と縁起といいかえてもよいでしょう。縁起は、どちらかというと時間を重視した見方であるのに対し、類縁は、どちらかというと空間を重視した見方です。これらは区別して情報処理をすすめていきます。
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以上みてきたように、相対的に物事をとらえることが大事です。そうでないと認識・判断をあやまります。そのためには大きな視野、全体観をもつようにしなければなりません。
KJ法では、相似に注目します。このとき、似ているということは、異なる(同じではない)けれども似ているということであって、似ていることをみとめるときには、同時に、異なることもみとめており、異なるものがあってこそ似ているものがわかり、似ているものがあってこそ異なるものが区別されます。つまり類比と対比を同時におこなっているのであり、こうして類縁があきらかになります(注2)。
このようなことは、生物分類学を例にあげるまでもなく、あらゆる分野で歴史的におこなわれてきたことです。
ただしKJ法では、既存の分類体系・分類項目にしたがってデータを分類するのではなく、フィールド(現場)の「声」にあくまでもしたがってラベルをあつめます。フィールドワークで取材したことをデータカードにし、その見出しをラベルにしたことをおもいだしてください。既成概念にとらわれず、ファイルがうったえかけてくる志を感じとってください。既成の“教科書”にしたがっているかぎりあらたな発想はうまれません。教科書にしたがって分類するときにはトップダウンの思考がはたらきますが、KJ法では、ボトムアップの思考がはたらきます。
(注2)相似と相異につては、川喜田二郎の師である今西錦司の『生物の世界』(1972年、講談社)の第1章にくわしく解説されています。KJ法は、今西錦司の「相似と相異」を技術化したものであるととらえなおすことができます。
まとめ
- 大きな視野、全体観がいります。
- 相対的にとらえます。
- 因果関係でなく相似関係に注目します。
- フィールド(現場)の「声」にしたがいます。
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▼ 参考文献
川喜田二郎(著)『野外科学の思想と方法』(川喜田二郎著作集 第3巻)、1996年、中央公論社
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 第5巻)、1996年、中央公論社
田野倉達弘(著)『野外科学と実験科学 − 仮説法の展開 −』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『KJ法実践記 情報処理と問題解決』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『国際協力とKJ法 ネパール・ヒマラヤでの実践』、2024年、アマゾンKindle
(冒頭写真:ネパール、カスキ郡、ポカラ、フェア湖とマチャプチャレ山、1997年11月29日、筆者撮影)