KJ法のコツ(13) − 表札づくり「核融合法」−

情報処理

表札づくりがむずかしいときは「核融合法」をつかいます。殺し文句を書いたら元ラベルはかくします。殺し文句だけをみてたたき台をはきだします。

KJ法のコツ(12)「ラベルひろげとラベルあつめ(4段目)」により4段目の「ラベルあつめ」がおわり、8組のラベルのセットができました。つぎに4段目の「表札づくり」に はいります。セットになったラベルをそれぞれかさね、あたらしい空白のラベルをその上にのせます。

KJ法のコツ

それぞれのセットについて、それぞれのラベルがうったえかけてくる志をよくきいて、それらを統合し要約して表札をつくっていくわけですが、表札づくりがなかなかすすまない、むずかしいと感じた場合は、表札づくり「核融合法」(注)をつかいます。

まず、どれか1組のセットをとりだし、元ラベルをよんで、それぞれのラベルの志の核心を「殺し文句」にしてシンボリックに書きだします。つぎに、ラベルは かくし(みないで)殺し文句だけをみて、そのセットを同時にみつつその全体感を心におさめ、その意味を要約して「たたき台」の文として はきだします。そして、ラベルをあらためてみなおし照合し、補足・訂正・圧縮し、表札とします。

なおラベルの右下隅には、4段目の「表札」であることをしめすために「4-1、4-2、4-3・・・」と記入します。「核融合法」は、4段目で今回はつかいましたが何段目でつかってもかまわず、むずかしそうなラベルのセットがでてきたらつかうようにします。

KJ法のコツ
KJ法のコツ
KJ法のコツ

殺し文句は、わかりきった前提ははぶき、形式にとらわれずにシンボリックに情念的に書きだします。各ラベルの核心を表現しつくさずとも不完全でかまいません。そして元ラベルは一旦かくしてしまい、殺し文句だけをみます。ここがポイントです。殺し文句だけをみてその全体感を心におさめ、中核的な意味は何だろうとかんがえ、殺し文句を論理的につなごうとはしません。ひたいにシワなどよせません。たたき台は、すべてをいいつくそうとはせず大筋をとおし、不完全さに耐えます。たたき台を はきだしたらラベルと照合し、文に歪みがあれば添削します。たたき台を放棄して別の文を起草してはなりません。

この方法は、データカードの見出しづくりに似ています。そこでは、「気になる言葉を書きだしてみる」という方法をつかいました。気になる言葉を書きだしたら、データカードの本文は一旦かくしてしまい、言葉だけをみて見出しをかんがえました。気になる言葉あるいは殺し文句は、本文あるいは元ラベルのなかの言葉をつかってもよいですし、あらたにかんがえてもよいです。みじかいコンセプトのこのような組みあわせをつかったほうが高次元のコンセプトへ飛躍しやすいというわけです。こうした原理がKJ法全体をつらぬいています。

ただし見出しにしろ表札にしろ、情報のひとまとまり(ファイル)の核心をついているのが理想ですが、実際には、そのそばをついていればよいです。完璧をもとめて もたもたしているよりも、不完全さに耐え、先にすすむことのほうが大事です。

こうして表札ができたら、表札をつけたセットを元の場所にもどします。

4段目においてはセットにはならず一匹狼としてのこったもの、つまり「4-1、4-2、4-3・・・」と右下隅に記入されていないものについては、それらが4段目の一匹狼であることをしめすために、ラベルの右下隅に黒点4個「・・・・」を記入します。3段目のときに一匹狼としてのこっていたもの、つまり黒点3個「・・・」がすでに記入されているものについては、黒点1個を追加して「・・・・」とします。

KJ法のコツ

これで、4段目の表札づくり、つまり4段目のグループ編成(ラベルひろげ→ラベルあつめ→表札づくり)はおわりです。ついで5段目のグループ編成(第5サイクル)にすすみます。

まとめ

  1. セットになったラベルをみて、殺し文句をそれぞれ書きだします。
  2. ラベルは かくします。
  3. 殺し文句だけをみて、たたき台を はきだします。
  4. あらためてラベルをみなおして添削します。
  5. みじかいコンセプトの組みあわせが高次元のコンセプトへの飛躍をもたらします。

▼ 注:表札づくり「核融合法」の小史と特徴
「表札づくり」は、KJ法の作業のなかでもっともむずかしいといわれ、ときに苦痛をともなうものとなっており、KJ法に耐えきれず、簡略化手法あるいはKJ法もどきに はしってしまう人々もあらわれていました。KJ法学会でも、「KJ法講座」として「表札づくり」をいくたびかとりあげ練習していましたがいまひとつピンときませんでした。

そんななか、1988年11月5日、第12回KJ法学会の「KJ法講座」において、「表札作りの新しいやり方『情念法』」をKJ法創始者の川喜田二郎先生が発表しました。その後、翌年6月24日、第13回KJ法経験交流会において、「情念法」は、「核融合法」と改称・改良され、創始者が発表し、実習もおこなわれました。1991年6月23日、第15回KJ法経験交流会においても創始者が発表し、実習もありました。KJ法本部・川喜田研究所主催のKJ法研修コースでもこの方法を指導するようになり、その後さらに改良がくわえられ、1994年10月18日には、解説シートとともに実例集・練習問題集を川喜田研究所が発行しました。

「核融合法」は、殺し文句の発想で、その人らしい閃きがいかされ、本人も満足できます。「ミニKJ法」などの従来の方法よりも、元ラベルの文がとくにながい場合に表札づくりの苦痛が格段にへります。心の葛藤はありますが不毛な葛藤がへり、生産的な葛藤がのこり、これらのため充実して着実に作業がすすみ、表札の内容がおおきくくるうこともなく、作業時間も結果的に短縮します。

殺し文句で発想するというところがすばらしく、表札づくりだけでなくさまざまな場面でつかうことができます。みじかいコンセプトの組みあわせが高次元のコンセプトへの飛躍をうながすことに気がついてください。

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日本語の作文法 ー 原則をつかう ー

▼ 参考文献

KJ法
野外科学と実験科学
KJ法実践記

川喜田二郎(著)『野外科学の思想と方法』(川喜田二郎著作集 第3巻)、1996年、中央公論社
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 第5巻)、1996年、中央公論社
田野倉達弘(著)『野外科学と実験科学 − 仮説法の展開 −』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『KJ法実践記 情報処理と問題解決』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『国際協力とKJ法 ネパール・ヒマラヤでの実践』、2024年、アマゾンKindle

(冒頭写真:ネパール、カスキ郡、ルムレ農業研究センター、1997年12月7日、筆者撮影)

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