KJ法のコツ(5) − ラベルあつめ −

情報処理

フィールドの「声」を素直にききます。自然にあつまるラベルをセットにします。似ているファイルはあつまります。

KJ法のコツ(3)「ラベルづくりとラベルひろげ」では、50枚のデータカードをピックアップし、それらの見出しをラベルに記入し(ラベルづくり)、そしてそれらを縦横にひろげ大観しました(ラベルひろげ)。ラベルのならべかたはどうでもよく、でたらめでかまいません。ここでひろげたラベルは「元ラベル」とよびます。大観するときは、中心視野だけでなく周辺視野もつかって全体を丸ごととらえます。風景をながめるように視野をひろくしてインプットします。

そしてつぎの作業が「ラベルあつめ」です。

まず、左上から下へとラベルを順次よんでいき、ついで、すぐ右の列のラベルを上から下へよんでいき、さらに右の列を、というようによみすすみ、最後のラベルまでよんだら、ふたたび最初のラベルにもどり、また同様によんでいきます。このサイクルを約5回くりかえし全体観をつかみます。

それぞれのラベルは、フィールドワークによってえられたデータカードの見出しですから、ラベルをよむときには、情報の本体(データカードの本文、潜在構造)を意識しながら、フィールド(現場)の「声」に素直に耳をかたむけ、それらがうったえかけてくる志(こころざし)をしっかりきくようにします。理屈ではなく心で感じとり、自分の意見や仮説・主観などはここでは いれこまないようにします。

5回ぐらいよむと、このラベルとあのラベルとは、ほかのどのラベルよりも志が似ている、同じではないけれども他とくらべて志が近いというように感じられるラベルが目についてきます。志とは、ベクトルとかんがえるとわかりやすいかもしれません。つまり、そのラベル(現場の声)がうったえかけてくる方向性とその大きさを感じとります。するとベクトルが類似するラベルが目にとまります。

そして、それらのラベルを1ヵ所にあつめ、ラベルの縁をかさねておきます(セットにします)。セットにする場所をつくるために、その下のラベルは下方にずらしたり、あいた場所にうつしたりします。縦横にならんだラベルの場外(外側)にセットになったラベルをださないようにします。セットになるラベルは2〜3枚を基本とし、おおくても5枚とします。ただし元ラベルの枚数がとてもおおい場合(たとえば約100枚以上)は、もっとたくさんのラベルがあつまることがあります。

元ラベルとセットになったラベルのすべてをくりかえしよんでいると、ラベルのセットがあちこちにいくつもできてきます。ただし自然にあつまるラベルだけをセットにすればよく、セットを無理につくらないようにします。「このラベルとセットになるラベルはどれだったか?」などとさがさないようにします。これが「ラベルあつめ」です。

一方で、セットにはならず1枚のままのラベルもあり、これは、「一匹狼」とよびます。一匹狼がたくさんあってもかまいません。

ラベルあつめは、今おこなっているのは1段目であり、今後、2段目、3段目、4段目・・・とつづくため、1段目であつまらなくても2段目以降であつまる(セットになる)ラベルもあり、最初からたくさん無理にあつめても作業の効率があがるわけではありません。どのくらいのラベルがうごいてセットになるかということにとらわれる必要はまったくなく、2〜3セットしかできなくてもうあつまらないと感じたらそれでやめてよいです。なかなかあつまらないとおもってウンウンとうなったりあせったりしても意味がありません。

ラベルあつめ1
ラベルあつめ
(7組のセットができた)

自然にあつまるラベルだけをセットにするのがポイントです。あくまでも、志が類似するラベルをあつめ、「○○について(のべている)」という観点や元ラベル中の“キーワード”にとらわれないようにします。キーワードに注目してあつめると既成概念にしたがった単なる分類でおわってしまいます。分類項目が世間にはすでに多数ありますがそれらにはとらわれません。たとえば「これは教育問題」、「これは経済と貧困」、「これはインフラ整備」、「これは人口構造」、「これは環境」などと分類しないようにします。ここに、創造的な世界にすすんでいけるか、それとも分類・整理でおわってしまうか、分岐点があります。いわゆる情報整理は先入観にもとづく分類にすぎず、KJ法とは ことなります。

先にのべたように、ラベルとはファイルの見出しであり、ファイルの表面構造です。ラベルの下には情報の本体が潜在していることをおもいだしてください。したがって実際には、ファイルがうごいているのであり、ラベルあつめは「ファイルあつめ」であるといえ、似ているファイルはあつまります。

似たファイルを1ヵ所にあつめて保存しておくということは誰もがよくやっていることです。しかしファイル(情報のひとまとまりとその構造)を意識しておこなうようにすれば情報処理が急速にすすむようになります。ファイルはもっているだけではダメ、そのいかしかたを習得します。

まとめ

  1. ラベルを順次よんでいき全体観をつかみます。
  2. フィールド(現場)の「声」に耳をかたむけ、それぞれのラベルがうったえかけてくる志をよくききます。
  3. 志が似ているラベルをあつめセットにします。
  4. 既存の分類項目にとらわれないようにします。
  5. ラベルあつめはファイルあつめです。

▼ 関連記事「KJ法のコツ」
KJ法のコツ(1) − データカード −
KJ法のコツ(2) − 見出しづくり −
KJ法のコツ(3) − ラベルづくりとラベルひろげ −
KJ法のコツ(4) − ラベルと記憶 −
KJ法のコツ(5) − ラベルあつめ −
KJ法のコツ(6) − 相対的にとらえる −
KJ法のコツ(7) − 表札づくり −
KJ法のコツ(8) − ラベルひろげとラベルあつめ(2段目)−
KJ法のコツ(9) − 表札づくり(2段目)−
KJ法のコツ(10) − ラベルひろげとラベルあつめ(3段目)−
KJ法のコツ(11) − 表札づくり(3段目)−
KJ法のコツ(12) − ラベルひろげとラベルあつめ(4段目)−
KJ法のコツ(13) − 表札づくり「核融合法」−
KJ法のコツ(14) − グループ編成(5段目)−
KJ法のコツ(15) − グループ編成(6段目)−
KJ法のコツ(16) − グループ編成と情報処理 −
KJ法のコツ(17)− シンボルマーク −
KJ法のコツ(18) − 図解化(空間配置とインデックス図解)−
KJ法のコツ(19) − 図解化(細部図解 ①〜②)−
KJ法のコツ(20) − 図解化(細部図解 ③〜⑦)−
KJ法のコツ(21) − 図解化(全体図)−

▼ 関連記事「日本語の作文法」
日本語の作文法 ー 原則をつかう ー

▼ 参考文献

KJ法
野外科学と実験科学
KJ法実践記

川喜田二郎(著)『野外科学の思想と方法』(川喜田二郎著作集 第3巻)、1996年、中央公論社
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 第5巻)、1996年、中央公論社
田野倉達弘(著)『野外科学と実験科学 − 仮説法の展開 −』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『KJ法実践記 情報処理と問題解決』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『国際協力とKJ法 ネパール・ヒマラヤでの実践』、2024年、アマゾンKindle

(冒頭写真:ネパール、カスキ郡、ポカラ、オールドバザール、1997年11月29日、筆者撮影)

アーカイブ
TOP
CLOSE