KJ法のコツ(1) − データカード −

情報処理

フィールドワークとKJ法がむすびつきます。ファイルをつくります。アウトプットします。

「KJ法」とは、ヒマラヤ探検家・民族地理学者の川喜田二郎が、ネパール・ヒマラヤのフィールドワークでえた膨大な定性データをまとめ文章化する過程でうみだした発想と問題解決の方法です。創始者のイニシャルをとってKJ法と命名されました。データとは、言葉や数値で事実を記載したものであり、定性データとは数値化できないデータのことです。

KJ法は、定性データを処理する手法として、あらゆる課題にとりくめるように技術化・体系化され、各界にひろく普及しました。技術とは、練習すれば誰でも身につけ実践できるものであり、特別な能力は必要ありません。わたしも今日まで、フィールドワークそしてKJ法に国内およびネパールにおいて徹底的にとりくんできました。今回の連載は、ネパールでの体験をとくにふまえてのべていきたいとおもいます。

フィールドワークでは、しりたいという素朴な気持ちがとても大切です。目的ではなくて。そうした気持ちをもちつづけることによって問題意識がおのずとふかまり、テーマもきまります。

フィールドワークにでかけたら、まず、見たり聞いたり感じたりしたこと(事実)をフィールドノートにメモします。そのときのメモはごく簡略なメモでよく、それを「点メモ」といいます。今日では、フィールドノートとともにスマートフォンもつかいます。写真撮影・動画撮影・音声記録・メモアプリなど有用な機能がいくつもあります。ただし電源の確保がむずかしいことがある開発途上国や山岳地帯などではスマートフォンと紙のノートを併用するのがよいです。

メモは、何だか気にかかることがあったらどんどんとります。ハプニングも逸しないようにします。あることを見たり聞いたりしたら、そこから飛び石づたいに観察や聞き取りをつづけ、ひとつのことにとらわれずに360度の視角からアプローチします(注1)。このような情報収集は最初から本格的におこなわなくてもよく、散歩や旅行あるいは仕事や生活のなかで気軽におこなうようにします。

フィールドワークというと、地理学者や地質学者・生態学者・人類学者・考古学者などがおこなう調査・研究、あるいは新聞記者が、社会の出来事や事件現場を取材することなどをおもいうかべるかもしれませんが、もっとひろくとらえなおすことができ、散歩や旅行・観光、あるいは出張や視察など、あるいは日々の生活のなかで、さまざまな現場で見聞きし取材することはすべてフィールドワークであるといえます。

そして宿あるいは自宅にもどったら、点メモをみながら、今度は、他者がよんでもわかるように正確な文にして「データカード」に記入します。データカードとは、「京大型カード」(注2)のようなB6判のカードであり、上欄に1行見出し(要点・要約)、その下に本文、下欄に、4注記(時、所、情報源、記録者)を記入します。

データカードの例
データカードの例

データカードは、フィールドワークとKJ法をむすびつけるきわめて重要な役割をはたします。KJ法を論じるときに欠かすことのできないすぐれた発明であり、これなくして話は前へすすみません。

データカードをつくるときは1枚のカードには1つのことを書く、つまり1枚1項目にします。そのような情報のひとまとまり(情報の単位)を情報用語で「ファイル」といい、つまりデータカードはファイルでなければなりません。KJ法をとらえなおすときにファイルの概念が決定的な役割をはたします。

もし、1枚のカードに2つの見出しがつけられるときはどうすればよいか? その場合は、カードを2枚にわけなければなりません。もし、2枚のカードにおなじ見出しがつけられる場合はどうすればよいか? その場合はカードを1枚(1件)にしなければなりません。つづきもののカードがおなじ見出しで何枚かできた場合は一連番号をうちます。たとえば3枚つづきの2枚目なら、カードの右肩に2/3と記入します。

カードの見出しはファイルの表層構造、カードの本文はファイルの潜在構造になっていて、このような構造をつくっておくことが情報処理(注3)をすすめるためにとても役だちます。データカードにとりくんでいればファイルの仕組みが理解でき、それがつかえるようになります(注4)。初歩的・基礎的な情報処理の訓練としてデータカードが重要です。

カードのモデル
カード(ファイル)のモデル
(ファイルを球でモデル化)

データカードは、開発途上国や山岳地帯では紙でできたカードが依然として有用ですが、インターネット環境がととのったところではそのかわりにブログあるいはメモアプリを今日ではつかいます。これらをつかえば容易に記録が整理され、写真や図表もはりつけられ、参考文献・参考資料のリンクもはれ、データベースが簡単に構築できます。カテゴリーやタグ・その他の検索機能も充実しています。

とくに、ブログをつくることは情報をアウトプットすることになり、つまり、フィールドワークの結果を公表し、他者と情報を共有することができ、チームワークもすすみます。公表しないと、その人はいったい何をやっているのかわかりません。

わたしはかつて、「移動大学」(注5)に参加してデータカードを徹底的に実習し、その後も各所で実践していたため、データカードの要領でブログの記事も書け、すみやかにブログに移行できました。ブログの1記事もひとつのファイルです。なおブログは、無料ブログサービスが簡略にはすぐにつかえ、あるいは WordPress が有用です。

長年の経験からは、フィールドワークをまずおこない、そしてデータカードやブログを書くという姿勢よりも、データカードやブログを書けば書くほど、フィールドワークがすすむということがいえます。書けば書くほど、観察眼や聞き取り能力がつよまります。アウトプットをすればするほど、インプットがすすみます。さらにプロセシングもすすみ、心のなかが整理されます。アウトプットの効能ははかりしれません。

質よりも量をもとめ、あまりかんがえすぎずに折にふれて日頃から書いていくことが大事でしょう。すぐには役だたないファイルでも活用できるときがかならずやってきます。

まとめ

  1. フィールドワークにでかけたら何だか気にかかることをどんどん点メモします。
  2. 点メモをみながらデータカードに1枚1項目で文章化し、見出しをつけます。
  3. データカードはファイルであり、表層構造(表面構造)と潜在構造(下部構造)によって構成されます。
  4. データカードをつくることは初歩的・基礎的な情報処理の訓練になります。
  5. 今日では、紙のデータカードのかわりにブログやメモアプリなどがつかえます。

▼ 注1「探検の五原則」
観察や聞き取りなどのためにどこをどうほっつきあるけばよいか、その指針として「探検の五原則」を川喜田二郎が提唱しました。

探検の五原則

▼ 注2「京大型カード」
京大型カードは、『知的生産の技術』(1969年、岩波書店)の著者・梅棹忠夫が開発したB6判のカードです。京大式カードともいい、市販されています。

▼ 注3「情報処理」
ここでいう情報処理は、人間がおこなう情報処理(人間主体の情報処理)をさします。

▼ 注4「ファイル」
コンピューター・ファイルをふくむあらゆるファイルは表層構造(表面構造)と潜在構造(下部構造)によって構成されます。表層構造は、見出しあるいはファイル名などとよばれ、必要に応じてシンボル化・アイコン化されます。

▼ 注5「移動大学」
移動大学は、キャンプをしながら、フィールドワークとKJ法にとりくむ2週間のセッションです。わたしは、第16回移動大学(丹後移動大学)と第17回移動大学(鳥海山移動大学)に参加しました。

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▼ 関連記事「日本語の作文法」
日本語の作文法 ー 原則をつかう ー

▼ 参考文献

KJ法
野外科学と実験科学
KJ法実践記

川喜田二郎(著)『野外科学の思想と方法』(川喜田二郎著作集 第3巻)、1996年、中央公論社
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 第5巻)、1996年、中央公論社
田野倉達弘(著)『野外科学と実験科学 − 仮説法の展開 −』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『KJ法実践記 情報処理と問題解決』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『国際協力とKJ法 ネパール・ヒマラヤでの実践』、2024年、アマゾンKindle

(冒頭写真:ネパール、カトマンドゥ盆地(背後はヒマラヤ山脈)、2005年1月5日、筆者撮影)

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