見出しをラベルに書きだします。ラベルをひろげます。大観します。
ある課題について、データカード・ブログ・メモアプリなどにデータ(データとは事実を記載したもの)がある程度たまってきたら、それらの見出しを書きだします。するとあつまったデータの概要がおぼろげながらわかります。ただし見出しと本文をよみなおしてみて見出しが不満足な場合はそれを補足・修正します。単語や単語をならべただけの見出しは誤解をさけるために原則として単文になおします。なおこの段階では、あくまでも客観的な事実を記述し、自分自身の意見・仮説・主観などはいれないようにします。
ここでは、2011年2月23日〜3月4日に開催した山岳エコロジースクールの参加者によるフィールドワークでえられたデータカードから、ネパール西部・パルバット郡サリジャ村に関するデータカードを50枚ピックアップし、それらの見出しを書きだしました。山岳エコロジースクールとは、ネパール・ヒマラヤの山村にホームステイをしながらフィールドワークをおこない、人間と自然環境について体験をとおしてまなび考察する約2週間のセッションです。()内はデータカード(順序不同)につけた通し番号です。
- ロクタ紙(手漉き紙)の製造販売事業が少しずつ進んでいる。(1)
- 母がかつぐドコ(しょい籠)にあこがれて小さいサイズのドコをつねにしょっている少女がいる。(2)
- 子供たちは裸足であそんでいる。(3)
- 子供たちはヤギを素手でつかまえてあそんでいる。(4)
- 他人の家の庭をことわりなくとおって村人たちは自分の家にかえる。(5)
- 村全員の顔と名前を誰もがしっている。(6)
- 家と家の前の空間、家畜小屋、洗い場、トイレが一本の動線でむすばれている。(7)
- ラジオ・テレビ・携帯電話が重要な情報源になってきた。(8)
- 都会あるいは外国からかえってきた人たちから村人たちは未知の情報をえている。(9)
- 先進国で開発された最新情報端末とそれらがもたらすエンターテイメントなどが急激に普及しつつある。(10)
- 家族は、バラバラになりつつある。(11)
- はたらきざかりの男性は外国にほぼ出稼ぎにでていて村内にはのこっていない。(12)
- 他村ではみたことのない大きなサイズのドコ(しょい籠)を女性たちがかついでいる。(13)
- ヤギは飼育が比較的容易であり村人たちの生活をささえている。(14)
- アンゴラ毛や食肉用として売れるときいてウサギを飼いはじめた家がある。(15)
- 家畜を飼う村人が目にみえて減少している。(16)
- 畑作農業が中心で、養鶏はかなりすくなくなってきている。(17)
- 獣害予防としてのかかしはサルには効果がある。(18)
- 農業に関してのアドバイザーを村人たちがほっしている。(19)
- 農業の指導者を村人たちが必要としている。(20)
- ゴミ処理事業はうまくいっていない。(21)
- プラスチック・ゴミが人目のつかない場所にすててある。(22)
- ゴミに関する村人たちの意識はひくい。(23)
- 村のヘルスポストは地方政府の支援によって建設された。(24)
- 試行錯誤をしながらも苗畑管理は順調にすすんでいる。(25)
- 熱効率のよい改良カマドが一部の家ではつかわれている。(26)
- 村の人口(約2100人)には、外国に出稼ぎにでている若者もふくまれる。(27)
- 10代のうちに結婚する人と一生 結婚しない人とがいる。(28)
- クスマ(ちかくの都市)からサリジャ村へは2〜3便/日のジープがきている。(29)
- ジープ1台とバイク1台を村は所有している。(30)
- 1ヵ月間前にはじめて電気が通じた。(31)
- 飼育している家畜はおもにスイギュウとヤギである。(32)
- 家畜は、おもにスイギュウ・ヤギ・ウシであり、一部の世帯ではニワトリとウサギも飼育している。(33)
- 村の外の世界を子供たちはほとんどしらない。(34)
- アロー(イラクサの一種)から繊維をとり、機織りにまわしている。(35)
- 出稼ぎや出稼ぎ先(外国)に関することがしばしば話題になっている。(36)
- 近隣の村人と交流できる祭りを村人はたのしみにしている。(37)
- 結婚相手をみつけるお祭りが一大イベントになっている。(38)
- 機織り工房が、いこいの場、創意工夫の場になっている。(39)
- ロクタ紙製造販売事業がすすんでいる。(40)
- 村内には、地区長・委員長・学校長がいるが、民間レベルの問題は村人同士で解決する。(41)
- 学校は、規模はおおきくなったがニーズにはこたえきれていない。(42)
- 縫製の訓練のために30人もの女性が他村からきている。(43)
- 機織り工房での作業と日常家業の両立は大変であるが充実感がある。(44)
- 村にはまだきていない町の流行に女性たちは敏感である。(45)
- 結婚は、2人の気持ちが尊重されるようになった。(46)
- サリジャ村は、ネパール西部、パルバット郡、ヒマラヤ中間山地(標高約2000m)に位置する。(47)
- サリジャ村には、マガールとチェトリがおもにすんでいる。(48)
- 植林を中心とした環境保全事業がすすめられている。(49)
- となりのナンギ村にくらべてサリジャ村は開発がおくれている。(50)
これらのデータをこれから処理して文章化していくわけですが、上記のように見出しを箇条書きにしただけではわかりにくく情報処理の効率があがりません。そこでラベルが登場します。たとえば机の引き出しがあって、上段には、鉛筆・ボールペン・消しゴムなどをいれ、中断には、ノート・メモ帳・カード・封筒などをいれ、下段には、コンピューター周辺機器をいれたとすると、上段には「文房具」、中断には「用紙」、下段には「PC関連」といったラベルをそれぞれにはりつける人がいるとおもいます。あるいはボックスファイルが多数あれば、見出し・目印となるラベルをそれらにはりつけるかもしれません。このように、標識として実務的にラベルは有用であり、見出しをラベルに記入し、ラベルという形にしておけば情報処理がすすみやすくなります。ファイル(情報のひとまとまり、単位)の見出しはラベルにしておいたほうがよいです(図1)。

ファイルのモデル
見出しをラベルにして、縦横にならべた例を図2にしめします。これが「ラベルづくり」と「ラベルひろげ」です。()内の番号はデータカードの番号であり、元ラベルに番号をふっておけばデータカード(の本文)が簡単に検索できます。
ラベルの下には、データカードの本文(情報の本体)が潜在しています。ラベルは表層構造(表面構造)であり、情報の本体は下部構造(潜在構造)といってもよいです。図1は、ファイルを横からみた図ですが、図2は、ならんだ50個のファイルを上からみた図です。
このようにラベルをひろげるとデータを大観でき、見通しがきき、今後、ラベルの移動や組みかえが容易にできるようになります。箇条書きの場合でも、アウトライン機能をつかえば前後には移動できますが、ラベルをつかえば前後だけでなく左右にも斜めにも移動できます。つまり情報処理の次元を、1次元(直列)から2次元(平面)にひとつあげることができ、並列処理が可能になります。情報処理は、努力するだけでなくその次元を物理的にあげることにより急速にすすみます。
なおラベルづくりとラベルひろげは、市販のラベル(シール)やポストイットをつかってもよいですが、グラフィック系のアプリをつかえば簡単にできます。わたしは、The Omni Group の OmniGraffle(注)をつかっています。あるいは Microsoft Word でも、メニュー:「挿入」→「図形」により、中に文字が記入できるラベル形式の図形が表示でき、平面上でそれを自在にうごかすことができます。
作成するラベルの枚数は、実務的には100枚が目安であり、本格的には、数百枚(200〜300枚、ときに500〜600枚)にとりくみます。わたしがかつて参加した移動大学では100枚が必修でしたし、現地事業をおこなったときには200〜300枚が普通でした。しかし初級レベルでいきなり100枚にとりくむのにはやや無理があり、時間的な制約もあるので約50枚でまずははじめるのがよいでしょう。
KJ法入門コースをわたしがかつて指導していたとき、当初は30枚で実習していましたがおもったほど効果があがらなかったため、50枚にとりくむようにしたところ一定の効果がつねにあらわれるようになりました。30枚ではすくなすぎ、すくない枚数では、KJ法をつかわなくてもワープロをつかえばすぐに文章化できます。KJ法は通常は、ラベル枚数が50枚以上で効果があらわれはじめ、100枚以上になるとおおきな効果が実感でき、ほかの技術をつかうよりも情報処理が高速ですすみ、時短にもなります。
まとめ
- データカード(あるいはブログやメモアプリなど)の見出しをラベルに書きだします(ラベルづくり)。
- ラベルに書きだす見出しは必要に応じて補足・修正します。原則として単文にします。
- ラベルを縦横にならべ大観します(ラベルひろげ)。
- 情報処理の次元をあげます。
- 情報の本体(データカードなどの本文)がラベルの下に潜在していることを意識します。
- ラベルの枚数は、50枚以上で効果があらわれ、実務的・実践的には100枚が目安であり、比較的おおきな事業では数百枚になります。
▼ 注
OmniGraffle(オムニグラフ)は、The Omni Group が販売する MacOS・iOS・iPadOS 用のダイアグラム作成アプリであり、App Store からダウンロードできます。
▼ 関連記事「KJ法のコツ」
KJ法のコツ(1) − データカード −
KJ法のコツ(2) − 見出しづくり −
KJ法のコツ(3) − ラベルづくりとラベルひろげ −
KJ法のコツ(4) − ラベルと記憶 −
KJ法のコツ(5) − ラベルあつめ −
KJ法のコツ(6) − 相対的にとらえる −
▼ 関連記事「日本語の作文法」
日本語の作文法 ー 原則をつかう ー
▼ 参考文献
川喜田二郎(著)『野外科学の思想と方法』(川喜田二郎著作集 第3巻)、1996年、中央公論社
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 第5巻)、1996年、中央公論社
田野倉達弘(著)『野外科学と実験科学 − 仮説法の展開 −』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『KJ法実践記 情報処理と問題解決』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『国際協力とKJ法 ネパール・ヒマラヤでの実践』、2024年、アマゾンKindle
(冒頭写真:ネパール西部、パルバット郡サリジャ村、2011年2月26日、筆者撮影)