run, look, watch, see, listen, hear, taste, talk, say, tell, think, believe, know, wonder, find -「基本動詞 ③」(NHK ラジオ英会話, 2022.06)-

イメージ(モデル)をつかいます。トップダウンとボトムアップの思考をくりかえします。似ている情報を区別しておぼえます。

イメージ(モデル)をつかいます。トップダウンとボトムアップの思考をくりかえします。似ている情報を区別しておぼえます。

NHK ラジオ英会話、今月は、視覚・聴覚などの感覚をあらわす動詞や思考・知識をあらわす動詞を中心に練習しています。

Lesson 41 run のイメージ

She runs a ramen shop in Tokyo.

run のイメージは「スピーディーに・線上を走る動き」です。便利な言い回しがたくさんあります。

Lesson 42 感覚を表す動詞:look

Look at me. Look what you’ve done to me!

look は、「目を向ける」という自発的な動作をあらわします。at は「点」をしめし、ある「点」にむけて「目を向ける」という意味です。

Lesson 43 感覚を表す動詞:watch

Please watch your step.

watch は「注視する」、「ジィィッと見る」ということです。

Lesson 44 感覚を表す動詞:see ① 

Can you see that stone over there?

see は「見える」、look のように目をむける自発的な動作ではなく、対象が目にはいっていること、認識されていることをあらわす、「向こうからやってくる感触」をもつ動詞です。

Lesson 46 感覚を表す動詞:see ②  

Can’t you see I’m busy?

see は、心が映像をとらえているということであり、look や watch よりもはるかにふかく心理と関わります。

Lesson 47 感覚を表す動詞:listen

He never listens to my advice.

listen は、「耳を傾ける」という自発的な動作をあらわします。look(目を向ける)の聴覚バージョンです。

Lesson 48 感覚を表す動詞:hear

Have you heard about Takuma?

hear は、「聞こえる」という、「音が、向こうからやってくる感触」をもつ動詞です。 see(見える)の聴覚バージョンです。

Lesson 49 感覚を表す動詞:taste、smell、feel

This sandwich tastes funny.

基本は、「this sandwich = funny」であり、taste の意味が文全体にオーバーラップして「this sandwich = funny〔な味がする〕」となる「説明型オーバーラッピング」の形です。

Lesson 51「話す」を表す動詞:talk、speak

Can we talk?

talk は「話し合う」であり、「コミュニケーション」に焦点がおかれた動詞です。speak は「(口から)音声を出す」という「一方通行」を基調とする動詞です。

Lesson 52「話す」を表す動詞:say

It says you can’t smoke.

say は「言葉を言う」ということです。

Lesson 53「話す」を表す動詞:tell

Please don’t tell anyone about this.

tell のイメージは「メッセージを伝える」です。

Lesson 54 心理に関わる動詞:think

I think you’re an amazing singer.

think は「思う・考える」ということです。

Lesson 56 心理に関わる動詞:believe 

I can’t believe it!

believe は think よりもふかく「心」に根をおろします。

Lesson 57 心理に関わる動詞:know

I know you’ll do a great job.

この例で「I know」は、「確信」をくわえる意識でつかわれています。

Lesson 58 心理に関わる動詞:wonder

I wonder if he still likes her.

wonder は「大きなクエスチョンマーク(?)が頭に浮かんでいる」イメージです。

Lesson 59 心理に関わる動詞:find

I found you a great T-shirt in Tokyo.

find は「見つける」ということであり、「あ、あった」「あ、そうだったんだ」という発見が多少なりともあります。

今月も、英語をはなすときに欠くことのできない基本動詞をその周辺表現とともに練習しています。日本語を経由しない英語力を身につけ、英語を英語としてつかいこなすためには基本動詞の習熟が不可欠であり、そのためには何といってもイメージが役だちます。

たとえば run のイメージは「スピーディーに・線上を走る動き」であり(図1)、run という英単語とそのイメージをひとまとまり(ファイル)にして記憶しておけば、run をふくむあらゆる英文が容易に理解できます。情報のひとまとまりを情報用語でファイルといい、ここではそれを球でモデル化します。

図1 run のファイルのモデル
図1 run のファイル
のモデル
(Lesson 41 の図を改変)

イメージを念頭におくとつぎの例文もすぐに理解できます。

My parents used to run a small hotel.
The buses run every 20 minutes.
The road runs around the campus.
My nose is running
Time is running short.
The well ran dry.
I’ve run out of cash.
Let me run a bath for you.
I run a program.

イメージから具体的な英文へ、トップダウンの思考がはたらき、さまざまな言い方をイメージが派生させ、イメージをおもいうかべればどんな英文でも理解でき、つかえるようになります。そしていろいろな英文に接したあとであらためてイメージを確認すればイメージが確実に身につき、わすれることはもうありません。多数の例文からイメージを確認するときには、今度は、ボトムアップの思考がはたらきます。イメージには、多様な情報を統合するはたらきがあり、これはモデルといってもよく、物事の見とおしをよくします。

また look・watch・see のような似た英単語のつかいわけもイメージをつかえば簡単にできます(図2)。そうでなく、日本語訳(理屈)でとりくんでいるといつまでも混同がつづきます。似ている情報を比較し区別しておぼえることは記憶法の重要なポイントのひとつです。

look・watch・see を区別しておぼえる
図2 look・watch・see を区別しておぼえる
(Lesson 42〜44 の図を改変)

talk・speak・say・tell もイメージをつかえば容易に区別できます(図3)。

talk・peak・say・tell をつかいわける
図3 talk・speak・say・tell をつかいわける
(Lesson 51〜53 の図を改変)

理屈でやっていると時間をかけた割に効果はあがらずストレスがたまりますが、イメージ(モデル)をつかえば直観がはたらき、情報処理が加速し、勉強がおもしろくなります。

▼ 関連記事(2022年度 NHK ラジオ英会話)
make, have, put, leave -「基本動詞 ①」(NHK ラジオ英会話, 2022.04)-
take, go, come, be, give, get -「基本動詞 ②」(NHK ラジオ英会話, 2022.05)-
run, look, watch, see, listen, hear, taste, talk, say, tell, think, believe, know, wonder, find -「基本動詞 ③」(NHK ラジオ英会話, 2022.06)-

▼ 関連記事(2019年度 NHK ラジオ英会話)
前置詞をイメージする -「英単語は日本語訳では語れない」(NHK ラジオ英会話, 2019.04)-
言葉とイメージ -「前置詞のイメージの完成」(NHK ラジオ英会話, 2019.05)-
イメージをうごかす -「基本動詞の征服 ①」(NHK ラジオ英会話, 2019.06)-
イメージと文型のシンクロナイズ -「基本動詞の征服 ②」(NHK ラジオ英会話, 2019.07)-
プログラムにしたがって練習する -「基本動詞の征服 ③」(NHK ラジオ英会話, 2019.08)-
類語をおぼえる -「基本動詞の征服 ④」(NHK ラジオ英会話, 2019.09)-
スキットを想像する -「基本動詞の征服 ⑤」(NHK ラジオ英会話, 2019.10)-
印象をつかう -「基本形容詞」(NHK ラジオ英会話, 2019.11)-
単純なイメージで本質をつかむ -「基本副詞・名詞(可算・不可算)」(NHK ラジオ英会話, 2019.12)-
イメージして、言葉でアウトプットする -「限定詞・助動詞・時表現」(NHK ラジオ英会話, 2020.01)-
メッセージをうけとり、メッセージをつたえる -「大きな『単語』:定型表現 ①」(NHK ラジオ英会話, 2020.02)-
心にしみわたるコミュニケーション -「大きな『単語』:定型表現 ②」(NHK ラジオ英会話, 2020.03)-

▼ 関連記事(テレビ英会話)
ファイルのしくみ -「大西泰斗の英会話☆定番レシピ」(NHK Eテレ)-
イメージと言葉をむすびつける - DVD「おとなの基礎英語 Australia」(1)-
イメージと言葉をむすびつける - DVD「おとなの基礎英語 Australia」(2)-
キー・イメージ - DVD「おとなの基礎英語 Australia」-
イメージして言う - 『おとなの基礎英語 Season3』(NHK テレビ DVD BOOK)-

▼ 参考文献
『NHK ラジオ英会話』(2022年6月号、NHK テキスト)NHK 出版、2022年

▼ 関連教材

(冒頭写真:イングランド、ストラットフォード・アポン・エイボン、ウッドストリート(Wood St.)、1999年 撮影)

3D「宝石」(国立科学博物館) – 自然と人間の合作 –

火成作用・熱水作用・変成作用などによって原石(鉱物)がうまれます。人間が加工してジュエリーになります。文化的な価値がうまれます。

特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」が国立科学博物館で開催されています(注)。多種多様な宝石と、それらをつかった豪華絢爛なジュエリーを科学的・文化的な切り口から展示・解説しています。

ステレオ写真は交差法で立体視ができます。
立体視のやりかたはこちらです

第1展示室 原石の誕生
第2展示室 原石から宝石へ
第3展示室 宝石の特性と多様性
第4展示室 ジュエリーの技巧
第5展示室 宝石の極み

特別展「宝石」マップ
会場マップ
宝石の原石がうまれた場所
宝石の原石がうまれた場所
ダイヤモンド
(南アフリカ産)
ダイヤモンド
(南アフリカ産)
ダイヤモンド(南アフリカ産)
ダイヤモンド
(南アフリカ産)
ペリドット(かんらん石)(米国アリゾナ州産)
ペリドット(かんらん石)
(米国アリゾナ州産)
パイライト(黄鉄鉱)(米国カリフォルニア州産)
パイライト(黄鉄鉱)
(米国カリフォルニア州産)
アマゾナイト(微斜長石)(米国コロラド州産)
アマゾナイト(微斜長石)
(米国コロラド州産)
アメシスト(紫水晶)ドーム(ブラジル産)
アメシスト(紫水晶)ドーム
(ブラジル産)
ガーネット(灰鉄石榴石)(イタリア産)
ガーネット(灰鉄石榴石)
(イタリア産)
トルコ石
トルコ石
パビリオンカット
パビリオンカット
サファイア
サファイア
ルビー(ピジョン・ブラッド)
ルビー(ピジョン・ブラッド)
パイライト
パイライト
葡萄の葉のクリップ(イエロー・ゴールド、プラチナ、ミステリーセットルビー、ダイヤモンド)
葡萄の葉のクリップ
(イエロー・ゴールド、プラチナ、ミステリーセットルビー、ダイヤモンド)
苺のブローチ(ルビー、デマントイド・ガーネット、サファイア、ダイヤモンド)
苺のブローチ
(ルビー、デマントイド・ガーネット、サファイア、ダイヤモンド)
カメオ(山頂で教えるイエス)
カメオ(山頂で教えるイエス)
ダイヤモンド・リング
ダイヤモンド・リング
ダイヤモンドのネックレス・ブローチ・ピアス
ダイヤモンドのネックレス・ブローチ・ピアス

宝石の原石は、高温高圧下にある地下ふかいところで形成された鉱物であり、それらがふくまれる岩石「母岩」をしらべることによって原石ができる過程がわかります。母岩は、火成岩・熱水脈・ペグマタイト・変成岩におおきくわけられます。

ダイヤモンドやペリドット・サンストーンなどは火成岩を母岩とし、火成岩はマグマがひえてかたまった岩石であり、火成岩からみつかる原石は、地下にできた高温のマグマ(800〜1200℃)がかたまる過程で結晶化します。マグマの成分や結晶化するふかさなどにより多種多様な原石がうまれます。

ダイヤモンドの原石は、キンバーライトという特殊な火成岩からみつかります。高温高圧でなければ生成できないためおおくのダイヤモンドは、マントルの約150kmよりもふかいところでうまれ、マグマによって地表付近にはこばれるとかんがえられます。

アメシストやロッククリスタル(水晶)・オパール・マラカイトなどは熱水脈(または熱水鉱脈)からみつかる代表的な原石です。熱水脈(または熱水鉱脈)は、地下ふかくに存在する100℃をこえる高温の水(熱水)が岩盤の割れ目などをとおって上昇した跡であり、熱水にとけこんでいた物質が温度・圧力の低下とともにさまざまな鉱物となって隙間に沈殿・充填します。

トパーズやトルマリン・アクアマリンなどはペグマタイトからみつかることがあり、ペグマタイトとは、おおくの揮発性成分(水やガス)をともなうマグマがかたまった特殊な火成岩です。マグマの冷却がすすんでも最後までかたまらずにのこった「マグマの残りかす(500〜800℃)」では、揮発性成分が濃集して粘性が低下していたり分離して気泡になったりして元素が移動(拡散)しやすくなり、おおきな結晶ができやすくなります。揮発性成分としてフッ素やホウ素がおおくふくまれるとトパーズやトルマリンなどの原石ができます。

ルビーやエメラルド・ひすい・ガーネットのような濃い色の原石は変成岩からみつかる原石の代表です。変成岩は、プレート運動により地下ふかくにはこばれたり、高温のマグマに接触したりして既存の岩石が熱や圧力で再結晶してできた岩石です。地下深部の岩石中でゆっくり再結晶化がおこり、隙間がないためおおきな結晶ができることは滅多にありません。

このようにしてできた鉱物は、地表に露出した原石に人間が気がつくことで発見され、その後、地下の鉱床を探査し採算性を計算してから、採掘の形態(露天掘りや坑道堀など)がきめられます。よい原石がえられれば、成形と研磨の工程、すなわち「カット」によって宝石になります。カットのできばえが、原石の品質におとらないほど宝石の価値を左右し、宝石の特性をひきだし、良質部分だけをのこすようにカットし磨きをかけることで宝石の価値がたかまります。

カットのスタイルには、多数の研磨面(ファセット)でかこまれた多面体にしあげる「ファセットカット」と、ファセットをつけないタイプの2つに大別され、ファセットカットは、石のなかにはいった光をファセットで反射させることで最大限にかがやかせる方法であり、透明度がたかい原石に一般的に適用されます。これに対して、ファセットをつけないカットは、半透明から不透明な原石の色や艶をいかしたり、光の筋をうきたたせたりするのに適しています。

ファセットカットのなかでも、無色透明なダイヤモンドの輝きときらめきを最大限にひきだすためにデザインされたのが「ラウンドブリリアントカット」です。ダイヤモンドの屈折率を考慮し、上面からはいったすべての光が内部で反射して上にもどってくるように設計された58面のファセットから構成されます。ダイヤモンドは、当初は、カットや研磨のないまま珍重されましたが、14世紀頃には、ダイヤモンド粉末でみがく技術が発展し、17世紀なかばから18世紀はじめにかけてブリリアントカットの原型が発明されておおくの人々魅了するようになります。現在も、原石をスキャンしてカットの仕上がりをシミュレーションしたり、レーザーをつかってカットしたりするなど、研磨技術の進歩がつづいています。

宝石の輝きは光の反射によるものであり、透明な板ガラスとおなじように、透明な宝石のファセットに対して斜めにさしこむ光は反射します。ダイヤモンドは屈折率がたかいため反射がおおくなります。おおくの宝石が無色にかがやく七色にきらめいてみえるのはプリズムにように光が七色に分解されるからであり、この現象を「光の分散」とよび、光の波長によって屈折率がわずかにちがうことが原因です。分散の程度は透過する物質によってことなり、ダイヤモンドは光の分散がおおきいため、透過した光はあざやかな七色の光にわかれてきらめき、それは「ファイア」ともよばれます。

カットされた「ルース(みがいた石)」は貴金属でできた「ベゼル(台座)」におさめることで「ジュエリー(宝飾品)」となります。ベゼルには、宝石をひきたてる役割とともに強度や耐久性・耐食性などももとめられ、ゴールドやプラチナなどが素材としてつかわれ、ルースを固定する技法(セッティング)にも工夫がこらされ、芸術的なデザインと融合することで宝石の価値がたかまります。

古代の人々は、願いや祈りのような宗教的な意味合いをもたせ、お守りや魔除けとして宝石をつかいました。その後、国家の時代になると、王侯貴族の権威の象徴として、ジュエリーはなくてはならないものになりました。

たとえばコロンビア産エメラルドは、ナポレオン帝政期からロマン主義時代を通じてたかいステータスをほこり、中東やインドの富豪がきそって破格の高値をつけるほどの希少品であり、その威風と優美で周囲を圧しました。

「ダイヤモンドのコルサージュ・オーナメント」(1879年頃)は、オーストリア・ハプスブルク家とスペイン・ブルボン家の豪華絢爛の宮廷趣味が融合した希有な伝承品であり、近代宝飾ではありえないおおきさと品質をほこる宮廷宝飾として史的価値を有します。オーストリア大公の家門にうまれ、スペイン国王アルフォンソ12世の王妃となったマリア=クリスティナ(のちに女王)が国家の威信の象徴として着用しました。

「ヴィクトリアン・ダイヤモンドのリヴィエール・ネックレスとブレスレット」(1890年頃)は、グラデーションで中央から配した34個のダイヤモンドは計130カラット(1カラット=0.2グラム)、ブレスレットに配した16個のダイヤモンドは計32カラット、総162カラットという威容をほこります。「リヴィエール」とはフランス語で「川」を意味し、ダイヤモンドの壮麗な輝きがながれるようにつらなり、旧来のローズカットにかわるブリリアントカットにより輝度が増幅されたことから、ほかの意匠を凌駕してネックレスの王座に君臨することになり、英国王室の戴冠式や日本の皇室の婚儀といった重要な儀式にもちいられます。

以上のように、鉱物にみがきをかけ、ジュエリーにしたてることによってあらたな価値がうまれ、それを身につけることによって権威を象徴したり、特別な日にアクセントをつけたりすることができます。

このようなジュエリーは人間がつくりだしたものですが原材料は天然素材であり自然がつくったものです。したがってそれは自然と人間の「合作」とかんがえたほうがよいでしょう。

ここで、人間が原石を採取することはインプット、加工することはプロセシング、ジュエリーをつくりだすことはアウトプットといいかえることもでき、こうして宝石の輝きはアウトプットとなり、メッセージを他者へつたえます。アウトプットをすることによって、単なる美の追求にとどまらず、社会的な意味と価値がうまれます。したがってプロセシングでは、素材をみがいて潜在的な輝きを増幅させるという過程がとても重要です。このようなことをくりかえすことで宝石の文化が発展しました。

今回の特別展では、原石(鉱物)とジュエリーを対比させてみることができ、自然環境と人間の合作という観点から文化をとらえなおすことができました。このような仮説をたてると、ジュエリー以外にも合作はいたるところにあることがわかります。料理もそうです。道具もそうです。技術もそうです。実は、あらゆるものが合作でした。

これを機に、合作の方法をあらためてみなおし、自然と共生し、あらたな文化を創造していきたいものです。

▼ 関連記事
〈人間-文化-自然環境〉系 - 企画展「ビーズ - 自然をつなぐ、世界をつなぐ -」(国立科学博物館)-

▼ 注
特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」
会場:国立科学博物館(地球館 地下1階 特別展示室)
会期:2022年2月19日~ 6月19日
特設サイト

※ 名古屋会場
会場:名古屋市科学館(理工館地下2階イベントホール)
会期:2022年7月9日~ 9月19日

▼ 参考文献
宮脇律郎・門馬綱一・西本昌司・諏訪恭一監修・執筆『特別展 宝石 地球がうみだすキセキ』(図録)、TBS・読売新聞社発行、2022年4月3日
諏訪久子著・宮脇律郎監修『宝石のひみつ図鑑 地球のキセキ、大研究!』世界文化社、2022年
諏訪恭一著・中村淳写真『指輪が語る宝石歴史図鑑』世界文化社、2022年
宮脇律郎・諏訪恭一・門馬綱一・西本昌司著『起源がわかる 宝石大全』ナツメ社、2022年
諏訪恭一著『価値がわかる 宝石図鑑』ナツメ社、2015年

わかりやすい日本語を書く(23) - 題目と対照(1)-

複数の題目語をしめします。対照が明瞭になります。メッセージが的確につたわります。

複数の題目語をしめします。対照が明瞭になります。メッセージが的確につたわります。

今回は、題目と対照の効果について以下の例文をつかって検証します。

例文110
25日は各地で気温が上がり30度以上の真夏日となったところもありましたが、26日は低気圧と前線の影響で九州から東北で大雨になるおそれがあります。(NHK NEWS WEB, 2022.4.25)

例文111
北陸は朝から、関東や東海は昼頃から雨が降りそうです。(tenki.jp, 2022.4.30)

例文112
研究者としては彼女はすばらしいですが、先生としてはそれほどよくありません。(NHKラジオ英会話テキスト, 2022年1月号)

例文110
25日は各地で気温が上がり30度以上の真夏日となったところもありましたが、26日は低気圧と前線の影響で九州から東北で大雨になるおそれがあります。

テンの原則「逆順」にしたがってテンをうちます。

  • 25日は、各地で気温が上がり30度以上の真夏日となったところもありましたが、26日は、低気圧と前線の影響で九州から東北で大雨になるおそれがあります。

「25日は」は25日についてのべるならばということであり、「26日は」は26日についてのべるならばということであり、ともに題目語であり、「○○は」とすることによって何についてのべるのか、題目(話題)を提示することができます。

この文では、「25日は、・・・」、「26日は、・・・」とすることによって「25日」と「26日」を対比し、両者の相違をしめしています。題目から対照が派生しています。結果として、大雨にそなえるようにと注意をうながす効果がうまれています。

例文111
北陸は朝から、関東や東海は昼頃から雨が降りそうです。

「北陸」についていうならば「朝から」、「関東や東海」についていうならば「昼頃から」「雨が降りそうです」ということであり、「北陸は」と「関東や東海は」は題目語であり、「○○は」とすれば題目を提示することができます。

この文では、「北陸」と「関東や東海」というように場所を対比させて両者の相違をしめし、結果として、西から天気が次第にくずれることをつたえています。題目から派生する対照の効果をうまくつかっています。

なおつぎのように「○○では」としてもよいです。

  • 北陸では朝から、関東や東海では昼頃から雨が降りそうです。

しかし「○○で」とすると対照の効果がうまれません。

  • 北陸で朝から、関東や東海で昼頃から雨が降りそうです。

「は」ぬけでも文はなりたちますがメッセージはつたわりにくくなります。メッセージを的確につたえるためには「○○は」のつかい方に習熟しなければなりません。

例文112
研究者としては彼女はすばらしいですが、先生としてはそれほどよくありません。

「研究者としては・・・」、「先生としては・・・」のように、「○○は」をつかうことによって対照の効果が生じます。しかしもし、「○○は」をつかわないと対照がうまくしめせません。

  • 研究者として彼女はすばらしいですが、先生としてそれほどよくありません。

英語でも対照をしめせます。

  • As a researcher, she’s brilliant, but as a teacher, she’s not so good.

「As a researcher」と「as a teacher」を対比し、本来は文末にあるはずの語句を文頭におくことによって対照を明瞭にしめすことができます。英語でも対照をしめすことができますが日本語とはやり方はことなります。日本語には英文法はあてはまりません。

なお例文112は、3つの「○○は」があり、題目語は「彼女は」であり、「彼女」についてのべるならば、「研究者としては・・・、先生としては・・・」ということであり、「研究者としては」と「先生としては」は、「彼女」にふくまれる ちいさな題目語、あるいは題目をしめす係り助詞「は」の派生として、対照の係り助詞「は」がつかわれているとみることができます。

  • 太郎が大阪へ、次郞が札幌へいきました。

という文において、「太郎」と「次郞」を対照したければつぎのようにします。

  • 太郎は大阪へ、次郞は札幌へいきました。

「太郎」についていうならば「大阪へ」、「次郞」についていうならば「札幌へ」ということを明瞭にしめせます。

題目と対照のモデル
題目と対照のモデル

題目語が3つあっても同様です。
(カレー屋にて)

  • 三郎はポーク、四郎はビーフ、花子はチキンを注文しました。

「○○は」とすることによって、「三郎」、「四郎」、「花子」それぞれの違いを明瞭にしめせます。

つぎのような会話もよくききます。
(食堂にいって)

  • 春子「わたしは親子丼にする」
  • 五郎「おれはカツ丼だ」

「わたし」と「おれ」が題目であり、対照をなしています。

題目をきめるということは話題の範囲をきめることであり(対象を限定することであり)、ほかとの違いがおのずと暗示され、複数の題目語は対照をなします。「○○は、・・・(が)、○○は、・・・」が基本の形です。

▼ 関連記事
日本語の作文法(日本語の原則)

わかりやすい日本語を書く(16) - プロセシング→アウトプット –
わかりやすい日本語を書く(17) - ながい修飾語ほど先に –
わかりやすい日本語を書く(18) - テンの原則「ながい修飾語」-
わかりやすい日本語を書く(19) - テンの原則「逆順」-
わかりやすい日本語を書く(20) - 思想のテン –
わかりやすい日本語を書く(21) - 題目をあらわす「は」-
わかりやすい日本語を書く(22) - 特定の語句に焦点をあてる –
わかりやすい日本語を書く(23) - 題目と対照(1)-

「○○は」によって題目をしめす - 学問の自由は保障する –
「は」と「が」をつかいわける - 川本茂雄『ことばとこころ』-
三上章 『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』をよむ
日本語法を理解する - 三上章『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』-

▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

take, go, come, be, give, get -「基本動詞 ②」(NHK ラジオ英会話, 2022.05)-

心のなかにイメージがきざみこまれます。動機づけがたかまり記銘力がつよまります。イメージがふくらみます。

心のなかにイメージがきざみこまれます。動機づけがたかまり記銘力がつよまります。イメージがふくらみます。

Lesson 21 take の基本イメージ・「選択」

I’ll take these.

take のイメージは「手に取る」です。

Lesson 22 take のイメージは広がる

Let me take your temperature.

temperature という情報を「取る」というニュアンスでつかわれます。

Lesson 23 take の「受け入れる」

I’ll take your advice.

take の「手に取る」うごきはそのあと、「手に取ったものを自分のほうに引き寄せるしぐさ」があり、「受け入れる」というニュアンスが生じます。

Lesson 24 take の「かかる・必要とする」

It’ll only take 15 minutes or less if we walk fast.

take の「手に取る」は「手に取って使う」につながります。

Lesson 26 take の「持っていく・連れていく」

Can you take me to Stonehenge?

「ひょいと手に取ってどこかに持っていく」というイメージです。

Lesson 27 go の基本イメージ

I really have to go.

go のイメージは「元の場所から出ていき進んでいく」です。

Lesson 28 go の「進行」

It goes like this . . .

「元の場所から出ていき進んでいく」イメージです。

Lesson 29 come の基本イメージ

Nothing comes to mind.

come のイメージは「やってくる」であり、何かがこちらにちかづいてくる様子をイメージします。

Lesson 31 come の方向・go の方向

I’ll come and pick you up at the station.

英語には、会話で焦点があたっている場所(話題の中心になっている場所・相手のいる場所)を基準に go あるいは come をえらぶつよい傾向があります。ここでは、「相手がいる場所(駅)」が基準となり、そこにちかづく自分をイメージします。

Lesson 32 go の変化・come の変化

Our love’s gone sour.

移動をあらわす表現が状態の移行(変化)をあらわします。go は「元の・本来の・あるべき状態」から離れるうごき、 come はそうした場所にちかづくうごきをあらわすところから、「悪い変化」「よい変化」とざっくりかんがえてもよいです。

Lesson 33 be 動詞

(Is) everything OK?

be 動詞が省略されていました。時折省略されることが be 動詞の特殊性をものがたっており、be 動詞は実質的な意味をもたない単なる「つなぎ(=)」です。

Lesson 34 give のイメージ

This place gives me a strange feeling.

give は、何らかのものが何かから単に「出てくる」状況をイメージする動詞です。

Lesson 36 get の基本イメージ

I got the idea to actually eat here.

get は「(動いて)手に入れる」というイメージ、「動き」のニュアンスがいつも感じられます。get は一般動詞の中でもっとも汎用性・頻度がたかい「大物」です。

Lesson 37 get の「動き」

I’ll finally get to see the Pyramids!

get は、「(動いて)手に入れる」から「動き」一般へ意味をひろげています。

Lesson 38 get の「変化(~になる)」

Let’s get going.

get の「動き」は「変化」につながります。まわりの状況に触発されて、「(ジッとしていないで)もう行くことにしよう」といった、「動き出す」変化の感触がくわわっています。

Lesson 39 get の目的語説明型

I got Frankie to do it.

to 不定詞をつかった目的語説明型で get がつかわれています。矢印(→)を to で連想します。get が、Frankie を to 以下の行為に「押している」感触を意識します。

take のイメージは「手に取る」(図1)、go のイメージは「元の場所から出ていき進んでいく」、come のイメージは「やってくる」、give のイメージは、何らかのものが何かから「出てくる」(図2)、get のイメージは「動いて手に入れる」です(図3)。このような状況をイメージできれば日本語訳からおのずと解放され、動詞の力を手にすることができます。

take
図1 take のファイル
(Lesson 23 の図を改変)
図2 give のファイル
(Lesson 34 の図を改変)
図3 get のファイル
(Lesson 36 の図を改変)

たとえば take は、目の前にあるものを体をうごかさずに手にとるイメージですが、get は、そうではないことがすぐにわかります。「I’ll take a taxi.」と「I’ll get a taxi.」をくらべると、take は、タクシーを「選び取る」感触がありますがそこには動きはありません。一方、 get は、その場にいないタクシーを「捕まえてくる」という動きのニュアンスがあります。get は、「動き」一般をあらわすため、非常にたかい頻度でつかわれる「大物」です。

get started, get angry, get wet, get warmer, get drunk, get married, get excited, get disappointed など。

このように、イメージをつかえば直観的に理解でき記憶できます。時間も労力もいりません。そうではなく、イメージをつかわないで苦労していると潜在意識が拒絶反応をおこしてうまく記憶できません。

ラジオ英会話のテキストには、わかりやすいイメージ(絵)がいくつもでており、これらをみていれば単語が自在につかえるようになります。上記のようなファイルとして記憶しておけば、いくつものファイルをくみあわせたり体系化したりすることもできます。こうして、英語あるいは言葉に対する興味・関心がつよくなり学習の動機づけがあがり、記憶の第1段階で必要な記銘力が非常につよまります。

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make, have, put, leave -「基本動詞 ①」(NHK ラジオ英会話, 2022.04)-
take, go, come, be, give, get -「基本動詞 ②」(NHK ラジオ英会話, 2022.05)-
run, look, watch, see, listen, hear, taste, talk, say, tell, think, believe, know, wonder, find -「基本動詞 ③」(NHK ラジオ英会話, 2022.06)-

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前置詞をイメージする -「英単語は日本語訳では語れない」(NHK ラジオ英会話, 2019.04)-
言葉とイメージ -「前置詞のイメージの完成」(NHK ラジオ英会話, 2019.05)-
イメージをうごかす -「基本動詞の征服 ①」(NHK ラジオ英会話, 2019.06)-
イメージと文型のシンクロナイズ -「基本動詞の征服 ②」(NHK ラジオ英会話, 2019.07)-
プログラムにしたがって練習する -「基本動詞の征服 ③」(NHK ラジオ英会話, 2019.08)-
類語をおぼえる -「基本動詞の征服 ④」(NHK ラジオ英会話, 2019.09)-
スキットを想像する -「基本動詞の征服 ⑤」(NHK ラジオ英会話, 2019.10)-
印象をつかう -「基本形容詞」(NHK ラジオ英会話, 2019.11)-
単純なイメージで本質をつかむ -「基本副詞・名詞(可算・不可算)」(NHK ラジオ英会話, 2019.12)-
イメージして、言葉でアウトプットする -「限定詞・助動詞・時表現」(NHK ラジオ英会話, 2020.01)-
メッセージをうけとり、メッセージをつたえる -「大きな『単語』:定型表現 ①」(NHK ラジオ英会話, 2020.02)-
心にしみわたるコミュニケーション -「大きな『単語』:定型表現 ②」(NHK ラジオ英会話, 2020.03)-

▼ 関連記事(テレビ英会話)
ファイルのしくみ -「大西泰斗の英会話☆定番レシピ」(NHK Eテレ)-
イメージと言葉をむすびつける - DVD「おとなの基礎英語 Australia」(1)-
イメージと言葉をむすびつける - DVD「おとなの基礎英語 Australia」(2)-
キー・イメージ - DVD「おとなの基礎英語 Australia」-
イメージして言う - 『おとなの基礎英語 Season3』(NHK テレビ DVD BOOK)-

▼ 参考文献
『NHK ラジオ英会話』(2022年5月号、NHK テキスト)NHK 出版、2022年

▼ CD
『NHK CD ラジオ英会話』(2022年5月号)

▼ 関連教材

(冒頭写真:イングランド、ストラトフォード・アポン・エイヴォン駅(Stratford-upon-Avon station)、1999年 撮影)

わかりやすい日本語を書く(22) - 特定の語句に焦点をあてる –

「○○は」とします。題目を明示します。テンをつかいます。

「○○は」とします。題目を明示します。テンをつかいます。

今回は、特定の語句に焦点をあてる(特定の語句を強調する)技術についてのべます。

例文106
昨日私の先生をかんだのは、ファイドーだったのです。(NHKラジオ英会話テキスト, 2022年1月号, ファイドーは犬の名前)

例文107
ファイドーが私の先生をかんだのは、昨日だったのです。(NHKラジオ英会話テキスト, 2022年1月号)

例文108
昨日ファイドーがかんだのは、私の先生だったのです。(NHKラジオ英会話テキスト, 2022年1月号)

例文109
男性は米国のビザ(査証)を申請したが、妻と子ども3人と共に国外退避便に乗るために用意した書類を、混乱の中で紛失してしまったという。(AFPBB News/JIJI.COM, 2021.8.27)

例文106〜108を英語であらわすとつぎのようになります。

例文106
It was Fido that bit my teacher yesterday.

例文107
It was yesterday that Fido bit my teacher.

例文108
It was my teacher that Fido bit yesterday.

NHKラジオ英会話テキスト, 2022年1月号

これらの元になる文は「Fido bit my teacher yesterday.」(ファイドーが私の先生を昨日かみました。)であり、「It+be動詞」をつかえば、焦点をあてたい語(強調したい語)を前へひっぱりだして目だたせることができます。

いっぽう日本語では、題目語「○○は」をつかうことによって焦点をあてたい語をひっぱりだして強調することができます。

「ファイドーが私の先生を昨日かみました。」という文おいて、「ファイドー」に焦点をあてるのであれば、「ファイドー」を「ファイドー」とし、「ファイドー」を題目にします。さらに強調するために、「ファイドーは」のあとに思想のテン(自由なテン)をうちます。

  • ファイドーは、私の先生を昨日かみました。

「昨日」に焦点をあてるのであれば、「昨日」を「昨日」とし、「昨日」を題目にします。

  • 昨日は、ファイドーが私の先生をかみました。

「私の先生」に焦点をあてるのであれば、「私の先生」を「私の先生」として、「私の先生」を題目にします。

  • 私の先生は、ファイドーが昨日かみました。

焦点をあてたい語句(強調したい語句)を「○○は」として題目を明示し文頭におき、テンの原則にしたがって必要に応じてテンをうちます。

英語でも日本語でも強調したい語句を前に配置することによって目だたせることができますが英語と日本語ではやり方がことなります。英語と日本語では原則がことなり、英語の原則は日本語にはあてはまりません。また「日本語では、重要なことを先にいえない」とのべた “教育者” がかつていましたがそれは誤解です。

なお「私の先生は、ファイドーが昨日かみました。」という文をみて、“主語” が2つあっておかしいとおもう人がいるかもしれませんが、これは、

  • 私の先生についていうならばファイドーが私の先生を昨日かみました。

ということを、「私の先生についていうならば」を「私の先生は」とあらわし(題目をしめし、「私の先生」を話題にあげ)、「私の先生を」は省略できるので、「私の先生は、ファイドーが昨日かみました。」となり意味が通じます。日本語として問題ありません。そもそも日本語には “主語” はありません。

同様につぎの文もなりたちます。

  • 太郎は、先生が昨日ほめました。
  • 次郞は、仕事が一昨日おわりました。
  • タマは、花子が先週ひろってきました。
  • 白いバラは、太郎がさっきえらびました。
  • 川は、村人が去年せきとめました。

ただし特定の語句に焦点をあてるこのような技術はつかいすぎるとかえって効果がよわまります。たとえばゴシック体を文中でつかいすぎると効果がなくなるのと似ています。強調は、すくないからこそ効果があがるのであり、特定の語句を強調する必要がない場合は文頭に配置しなくてよく、語順の原則にあくまでもしたがいます。題目語を文頭におくという原則はありません。

例文109
男性は米国のビザ(査証)を申請したが、妻と子ども3人と共に国外退避便に乗るために用意した書類を、混乱の中で紛失してしまったという。

「男性」に焦点をあてたければ、

  • 男性は、米国のビザ(査証)を申請したが妻と子ども3人と共に国外退避便に乗るために用意した書類を混乱の中で紛失してしまったという。

「妻と子ども3人と共に国外退避便に乗るために用意した書類」に焦点をあてたければ、

  • 米国のビザ(査証)を申請したが、妻と子ども3人と共に国外退避便に乗るために用意した書類は、混乱の中で男性が紛失してしまったという。

「混乱の中」に焦点をあてたければ、

  • 米国のビザ(査証)を申請したが、混乱の中では、妻と子ども3人と共に国外退避便に乗るために用意した書類を男性が紛失してしまったという。

「○○は」と テン をうまくつかいます。強調の効果をあげるためにはテンはすくないほうがよいです。

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わかりやすい日本語を書く(16) - プロセシング→アウトプット –
わかりやすい日本語を書く(17) - ながい修飾語ほど先に –
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わかりやすい日本語を書く(19) - テンの原則「逆順」-
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わかりやすい日本語を書く(22) - 特定の語句に焦点をあてる –
わかりやすい日本語を書く(23) - 題目と対照(1)-

日本語の作文法:日本語の原則
「○○は」によって題目をしめす - 学問の自由は保障する –
「は」と「が」をつかいわける - 川本茂雄『ことばとこころ』-
三上章 『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』をよむ
日本語法を理解する - 三上章『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』-

▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

make, have, put, leave -「基本動詞 ①」(NHK ラジオ英会話, 2022.04)-

単語のイメージをおもいうかべます。イメージと単語がひとまとまりになってファイルになります。心のなかにファイルをふやし活用します。

単語のイメージをおもいうかべます。イメージと単語がひとまとまりになってファイルになります。心のなかにファイルをふやし活用します。

2022年度の NHK ラジオ英会話がはじまりました。今年度のテーマは「日本語を経由せずに表現する」です。基本単語をイメージで理解し、そのまわりにある表現を効果的に音読・暗唱します。基本動詞そして前置詞、形容詞へすすんでいきます。トップバッターは make です。

Lesson 1 make の基本イメージ

I’m sure you made the right decision.

make のイメージは「力を加えて作り上げる」です。

Lesson 2 make it

I’m not sure if we’ll make it to the planned landing site.

「力を加えて作り上げる」が、努力をして目的を達成することにつながります。

Lesson 3 make のとるさまざまな形 ①

She made me this Mexican bracelet.

目的語が2つの「授与型」です。

Lesson 4 make のとるさまざまな形 ②

It made me a little homesick.

「目的語説明型」でもつかえます。

Lesson 6 make のとるさまざまな形 ③

You can’t make her love you.

「目的語説明型」です。「力を加えて(強制的に)」状況を「作り上げる」ニュアンスがあります。

Lesson 7 have の基本イメージ

He will have blond hair and green eyes.

have のイメージは「周りにある」であり、位置をあらわす、うごきのない静的なイメージです。

Lesson 8 have の「権利・影響力」

We have a new piano in our house!

have のイメージは「周りにある」です。

Lesson 9 have の表す行為

You can have my camera.

have は「周りにある」位置関係をあらわし、位置関係から間接的に類推される行為をあらわすことがあります。

Lesson 11 have の目的語説明型 ①

Could you please have my order ready by seven?

「my order = ready by seven」の状況を「have する」というわけです。

Lesson 12 have の目的語説明型 ②

I’m not having you walk home alone in this rain.

「周りにある」イメージの延長、「許す・大目に見る」のつかいかたです。

Lesson 13 put の基本イメージ

I never put milk in my tea.

put は、「何かを・どこかに・ポンと移動する」というシンプルなイメージです。

Lesson 14 put のイメージを豊かに広げよ

Sure, as long as it doesn’t put too much pressure on the band.

「何かを・どこかに・ポン」というイメージです。

Lesson 16 put でネイティブスピーカーのイメージの広げ方を理解する

That’s why I am putting you in charge of the advertising department.

put が「何かを・ポン」する場所は、日本語の「置く」よりはるかに多彩です。

Lesson 17 leave の基本イメージ

It’s tough leaving this company.

leave のイメージは「ある場所から去る」です。

Lesson 18 leave のもうひとつの焦点

I left my wallet in the train.

leave のイメージは「ある場所から去る」ですが、「去る」という行為に注目する場合と「残されたモノ」に注目する場合(視点のちがい)があります。ここでは、「残されたモノ」に注目しています。


Lesson 19 leave の目的語説明

Don’t leave your valuables unattended.

「残されたモノ」に焦点があるつかいかたでは目的語説明型がとくに重要です。

今年度は、基本単語のイメージを身につけ、つかいこなします。たとえば make のイメージは図1のとおりです。

make
図1 make のモデル
(Lesson 1 の図を改変)

「力を加えて作り上げる」というイメージ(絵)のシンボル(符号)が「make」という単語です。イメージとシンボルがまとまって「ファイル」(情報のひとまとまり)をつくり、イメージはファイルの本体、単語はファイルの見出し(ファイル名)として機能します(図2)。

図2 ファイルのモデル

こうして make からイメージをおもいうかべ、イメージをおもいうかべて make をつかいます。英単語→日本語、日本語→英単語ではなく、英単語→イメージ、イメージ→英単語の練習をくりかえします。イメージは容易に記憶に定着するため、このようなイメージ訓練(心象法)はそのまま記憶法に発展します。視覚情報をつかうのは記憶法の基本でもあり、文字情報→視覚情報、視覚情報→文字情報の変換は記憶法のなかの「変質法」(注)の練習といってもよく、このような情報の質的変換は創造性開発にもつながります。

同様に、have のイメージは「周りにある」であり(図3)、put は「何かを・どこかに・ポン」であり、leave は「ある場所から去る」です。これらについてもイメージをおもいうかべます。

図3 have のモデル
図3 have のモデル
(Lesson 7 の図を改変)

たとえば Lesson 12「I’m not having you walk home alone in this rain.(私は、あなたをこの雨の中ひとりで歩いて帰らせたりはしませんよ。)」の have は、「使役動詞」と学校ではおしえられましたがこのような用語にとらわれる必要はなく、「周りにある」イメージを拡張させます。have は動きを感じさせない動詞であり、「~させる」が自然な訳になるときであっても make のように強制的に「させる」感触はないことがイメージにより直観的に理解できます。実におもしろい。

以下も「周りにある」イメージです。

  • have two windows
  • have a lot of rain
  • have an accident
  • have a headache
  • have tea
  • have a bath
  • be had
  • can’t have such behavior

すべてが have のイメージで理解できます。「be had」が「だまされる」であることもわかります。言葉とは類似な情報を統合するシンボル(符号)であり、言葉には、イメージをはじめさまざまな情報を統合する力があり、この力が、アウトプットに役だちます。

従来の “学校英語” や “受験英語” になれてきたわたしたち日本人にとっては日本語訳を頭からおいだしてイメージをつかうことはハードルがいくらかたかいかもしれませんが、日本語を脱することは英語を習得し、外国人とコミュニケーションをするために必要なことです。イメージをつかい、ファイル(情報のひとまとまり)を心のなかにふやしていく方法は情報処理をすすめアウトプットを容易にします。

この方法は、ほかの外国語を習得するときにもつかえますし、あるいは言語にかぎらず、あたらしいことをまなぶときにも役だちます。あらゆる分野に応用できる普遍的な方法をラジオ英会話がおしえてくれます。

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前置詞をイメージする -「英単語は日本語訳では語れない」(NHK ラジオ英会話, 2019.04)-
言葉とイメージ -「前置詞のイメージの完成」(NHK ラジオ英会話, 2019.05)-
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プログラムにしたがって練習する -「基本動詞の征服 ③」(NHK ラジオ英会話, 2019.08)-
類語をおぼえる -「基本動詞の征服 ④」(NHK ラジオ英会話, 2019.09)-
スキットを想像する -「基本動詞の征服 ⑤」(NHK ラジオ英会話, 2019.10)-
印象をつかう -「基本形容詞」(NHK ラジオ英会話, 2019.11)-
単純なイメージで本質をつかむ -「基本副詞・名詞(可算・不可算)」(NHK ラジオ英会話, 2019.12)-
イメージして、言葉でアウトプットする -「限定詞・助動詞・時表現」(NHK ラジオ英会話, 2020.01)-
メッセージをうけとり、メッセージをつたえる -「大きな『単語』:定型表現 ①」(NHK ラジオ英会話, 2020.02)-
心にしみわたるコミュニケーション -「大きな『単語』:定型表現 ②」(NHK ラジオ英会話, 2020.03)-

▼ 参考文献
『NHK ラジオ英会話』(2022年 4月号、NHK テキスト)NHK 出版、2022年

▼ CD
『NHK CD ラジオ英会話』(2022年4月号)

▼ 関連教材

▼ 注:参考文献
栗田昌裕著『栗田博士のSRS記憶法 ― 潜在能力をぐんぐんひきだす』ダイヤモンド社、1993年

(冒頭写真:イングランド、ストラトフォード・アポン・エイヴォン駅(Stratford-upon-Avon station)、1999年 撮影)

アウトプットのために -「追悼 立花隆の書棚」展 –

インプット:アウトプット = 100:1。場所(位置)で記憶します。情報を統合してアウトプットします。

インプット:アウトプット = 100:1。場所で記憶します。情報を統合してアウトプットします。

2021年4月30日に逝去したジャーナリスト・評論家の立花隆さんを追悼し、「追悼 立花隆の書棚」展が文春ギャラリーで一周忌を前に開催されています(注1)。仕事場兼書庫であった通称「猫ビル(ネコビル)」(注2)、通称「三丁目」、立教大学研究室・屋根裏の10万冊をこえる書棚の写真をみながら、立花さんの圧倒的な「知」の世界にはいりこみます。

写真家の薈田(わいだ)純一さんは「全部撮る」を条件に立花さんから書棚の撮影をゆるされ、2010年から週に3~5回かよい、7222枚もの写真を1年半かけてとりました。3m×8mの巨大な書棚写真がみどころであり、また1m×2.5mサイズの書棚写真や生原稿や立花さん愛用の品々も公開しています。

ステレオ写真は交差法で立体視ができます。
立体視のやりかたはこちらです

会場内
会場内
直筆原稿と愛用の品々
直筆原稿と愛用の品々
愛用のスーツケース
愛用のスーツケース

あたらしいことにとりくもうとおもったら本をまずみるとおもいます。そのとき立花さんは、「インプット100に対してアウトプット1」だといいます。たとえば1冊の本をかこうとおもったら最低100冊の本をよみます。ひとつのアウトプットの背後にはその100倍以上の取材・努力があり、膨大な情報が一本に統合されてアウトプットになります。

このようなことをくりかえしているうちに膨大な本があつまりました。仕事場兼書庫は3ヵ所あり、なかでも「猫ビル(ネコビル)」は、地下2階、地上3階+屋上、本をつりあげるクレーンもある「本の砦」です。これだけ膨大な本をどうやって整理していたのだろうか? 立花さんは「本をおいた場所で記憶していた」そうです。たとえば「あの本は、猫ビル3階の南側の書棚にある」というように。したがって「本をうごかして整理しないように」と秘書にいっていました。これは空間記憶法の実践例のひとつです。

同様なことは図書館で誰でもできます。ちかくの図書館にいって館内をブラブラして気にいった本があったら、それがおいてある場所(位置)を記憶します。まずは10冊ぐらい記憶するとよいでしょう。場所をつかえばいつでもすぐにおもいだせます。図書館でつかわれている日本十進分類法にとらわれる必要はありません。

空間記憶法は、無意識のうちに誰もがやっていることですが自覚しておこなうことが大事です。そうすれば本とはかぎらずあらゆる物・情報の記憶が容易になり、「あ、そういえば!」といったおもいつき・ひらめきもうまれやすくなります。

立花さんの書棚の写真を実際にみていくとおもしろそうな本がたくさんみつかります。たとえば「三丁目」の「中央机周り」のランプのそばの書棚をみていたら『見る』という本が興味をひきました。

書棚の例
書棚の例

そのまわりには、『読むということ』『ヒトはなぜ絵を描くのか』『視覚と記憶の情報処理』『もうひとつの視覚』『視覚のメカニズム』『眼と神経』『脳と視覚』『目が人を変える』『心は遺伝子の論理で決まるのか』『脳のなかの幽霊、ふたたび』『ブレイン・ルール』『意識する心』『なぜ記憶が消えるのか』『脳と心』『社会的脳』『読み 脳と心の情報処理』『脳科学と芸術』『視覚の文法』『生命とはなにか』『性の起源』『ヒトはいかにして人となったか』『人間はどこまでチンパンジーか?』・・・、というように、どんどん世界がひろがります。興味がわいてきます。今回の「書棚展(写真展)」と 立花隆著・薈田純一写真『立花隆の書棚』(中央公論新社)(注3)は参考文献集として役だちます。類書をさぐるために最適です。興味をひく本をみつたらその周辺にどんな本があるか、空間的なひろがりとして本がとらえられます。類推がはたらき、発想の場としてもつかえます。同様なことは図書館でもできます。日本十進分類法などの既存の分類法にとらわれる必要はありません。

そもそも立花さんに注目するようになったのはわたしも『田中角栄研究』(注4)からでした。しかしそのきっかけは地球科学者・竹内均の推薦文でした。

私はかつて、文藝春秋社発行の「諸君」という雑誌の書評欄で、この立花隆の「田中角栄研究」をりっぱな科学書であるとして推薦したことがある。(中略)

「田中角栄研究」の材料となったデータは、すべて公開のデータである。立花さんや、そのスタッフのだれかが、どこかの倉庫へしのびこんで盗み出してきたといったものではない。(中略)立花さんは、こういうデータの各々を年表にまとめ、それを横につなげてみて、そこから「田中角栄が怪しい」という推理をし、それをたんねんに跡付けたのである。

こういう方法はまったく科学的なものであり、また一つ一つの仕事は、たいへん地味な作業である。

竹内均著『私の知的鍛錬法 きれっぱしからの発想』徳間書店、1980年(注5)

立花さんは、公開データをたくさんあつめ、内面にインプットし、仮説をたて、推論し、検証しました。まさに科学的方法であり正攻法であり王道です。これは、竹内均がとくに指摘したように、大陸移動説を提唱し体系化したアルフレッド=ウェゲナーの方法とおなじであり、地球科学の方法であり、科学の方法です。アイザック=ニュートン、チャールズ=ダーウィン、アンリ=ポアンカレなどをみてもあきらかです。

このように、膨大なインプットからアウトプットをみちびくところに情報の統合がみられます。立花さんは、大量インプット、空間記憶法、統合出力のながれが重要であることをわたしたちにおしえてくれています。ちいさくとも密度のたかい展覧会でした。

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虚空蔵菩薩像を中核にして空間記憶法を実践する -「日本国宝展」- 

▼ 注1
追悼 立花隆の書棚展
場所:文春ギャラリー
会期:2022年4月11日~4月15日
※ 撮影が許可されています。
日本を代表するジャーナリスト 立花隆の一周忌を偲ぶ「追悼 立花隆の書棚展」が開催!(文春オンライン)

▼ 注2:猫ビル

▼ 注3
立花隆著・薈田純一写真『立花隆の書棚』 中央公論新社、2013年

▼ 注4
立花隆著『田中角栄研究全記録(上)』(講談社文庫)、講談社、1982年
立花隆著『田中角栄研究全記録(下)』(講談社文庫)、講談社、1982年
文藝春秋特別編集『「知の巨人」 立花隆のすべて』(文春ムック)‎文藝春秋、2021年

▼ 注5
竹内均著『私の知的鍛錬法 きれっぱしからの発想』徳間書店、1980年

英語と日本語では語順がちがう - NHKテレビ「大西泰斗の英会話☆定番レシピ」-

英語と日本語では原則がことなります。英語は、主語のあとに述語が展開します。日本語は、補足語を述部が統括します。

英語と日本語では原則がことなります。英語は、主語のあとに述語が展開します。日本語は、補足語を述部が統括します。

NHKテレビ「大西泰斗の英会話☆定番レシピ」の2022年度の放送がはじまりました。番組のキャッチフレーズは「話すための7つの文法レシピ」であり、今月のテーマは「英語と日本語の違いを知る」です。

英文づくりに不可欠な「レシピ」はたったの7つしかありません。この7つを習得すればどんな英文でもつくれます。5つの基本文型と2つの修飾方向です。

基本文型
 他動型 主+動+目
 自動型 主+動
 説明型 主+動+説明語句
 授与型 主+動+目+目
 目的語説明型 主+動+目+説明語句

修飾方向
 指定ルール 指定は前に置く
 説明ルール 説明は後ろに置く

これらは英語の語順の原則といってもよく、これらをつかって練習すれば英語がおのずと身につきます。英文法は、たくさんのことをおぼえなければならず大変だとおもっていましたが簡単でした。これらにより学習は一気に加速し驚異的な効果があらわれます。文法学習の時間が短縮でき音声訓練や単語の記憶に時間をさけます。

英語に対して、日本語の語順の原則はつぎのとおりです。

述部(動詞・形容詞・形容動詞)を最後に。
形容する詞句を先に(修飾辞が被修飾辞の前にくる)。
ながい修飾語ほど先に。
句を先に。

たとえばつぎの例文をみてください。

英 語  I gave Mary a present.
日本語 プレゼントをメアリーに私はあげた。

このように、英語と日本語では語順がことなります。このことに気づかず、日本語の語順で英文をとらえたり(これまでのいわゆる英文和訳・英文読解)、英文法を日本語に無理にあてはめたりしていると語順の原則は身につかず、アウトプット能力がのびません。

つぎの例もみてみましょう。

英 語 The teacher gave the boy the book.
日本語 先生は少年に書物をあげた。

構造化します。

英語と日本語

英語は、「主語」と「述語」のブロックにおおきくわかれ、文頭に、主語「The teacher」をおき、そのあとで文が展開し、それぞれの語句の機能・意味が文のなかの位置によってきまります。

それに対して日本語は、すべての修飾成分が述部「あげた」によって統括される述部中心の言語であり、述部以外はすべて、その補足語として機能します。「先生は」も補足語のひとつにすぎず、文頭に配置するという原則はなく、したがって日本語には “主語” は存在しません。それが証拠に、述部の前であれば「先生は」をどこにでも配置できます。

  • 先生は少年に書物をあげた。
  • 先生は書物に少年にあげた。
  • 少年に先生は書物をあげた。
  • 書物を先生は少年にあげた。
  • 少年に書物を先生はあげた。
  • 書物を少年に先生はあげた。

いずれの文も成立します。ただし修飾語のながさ(字数)がことなる場合は「ながい修飾語ほど先に」の原則がはたらきます。

  • 地域の歴史をくわしく解説した書物をひっこしてきた少年に先生はあげた。

かつて学校で、「主語『○○は』を文頭に書きなさい」と指導した教員がいましたがそれはまちがいでした。

  • 先生は地域の歴史をくわしく解説した書物をひっこしてきた少年にあげた。

たいへんわかりにくく誤解が生じるため、この場合は、「逆順のテン」の原則によりテンがいります。

  • 先生は、地域の歴史をくわしく解説した書物をひっこしてきた少年にあげた。

語順とテンの原則がはたらくことに気がつかねばならず、主語を文頭に配置するという原則はなく、日本語にはそもそも主語はありません。

このように英語と日本語を対比してみると英語のみならず日本語もよくわかります。英語でも日本語でも原則がわかれば見通しがよくなり、アウトプットが容易になり、コミュニケーションがすすみます。

▼ 関連記事
そのままインプットする -「配置の言葉」(NHK ラジオ英会話, 2022.03)-
日本語の作文法(日本語の原則)
わかりやすい日本語を書く(20) - 思想のテン –

▼ 参考文献
『大西泰斗の英会話☆定番レシピ 2022年4月号』NHK出版、2022年
『<新版>日本語の作文技術』(朝日文庫、Kindle版)朝日新聞出版、2015年

ふとおもったことからはじまる仮説法・演繹法・帰納法

ふとおもったことを大事にします。事実・前提・仮説を区別します。仮説法→演繹法→帰納法とすすみます。

先日、あるショップにいったら、テーブルの上に赤い玉が1個おいてありました。そのすぐそばに箱があったので、その玉は、その箱の中からとりだされたのではないかとふとおもいました。

この出来事を冷静にかんがえなおしてみると(箱の中はみることはできませんでした)、テーブルの上に赤い玉がおいてあるという事実をみて、仮に、箱の中には赤い玉がいくつもはいっている(箱の中身は赤い玉である)という前提にたつと、その玉は、その箱の中からとりだされたのではないかという仮説がたてられる、ということになります。

  • 事実:テーブルの上に赤い玉がおいてある。
  • 前提:箱の中には赤い玉がいくつもはいっている。
  • 仮説:その玉は、その箱の中からとりだされたのではないだろうか。

こうして事実と前提にもとづいて仮説がたてられました。これは仮説法です(図1)。

図1 仮説法
図1 仮説法

一方、つぎのこともかんがえました。箱の中には赤い玉がいくつもはいっている(箱の中身は赤い玉である)ということを前提とすると、もし、その箱の中のものをとりだせば、それは赤い玉だろう。

  • 前提:箱の中には赤い玉がいくつもはいっている。
  • 仮説:もし、その箱の中のものをとりだせば・・・
  • 予見:それは赤い玉だろう。

この予見がただしいかどうかは、箱の中から中身を実際にとりだして確認すればよく、赤い玉であれば予見はただしかったことになり、事実として確認されます。実際にとりだしてみたところやはり赤い玉であり、予見は事実となりました。これは、推論をへて事実を確認するプロセスであり、演繹法です(図2)。

図2 演繹法
図2 演繹法

さらに、つぎのこともかんがえました。もし、箱の中から中身をもっととりだせば、それらはすべて赤い玉であるはずであり、いくつもの赤い玉が事実として確認できれば、その箱の中身は赤い玉であるといえるだろう。

実際にとりだしてみたところ、すべてが赤い玉だったので、箱の中身は赤い玉であるとかんがえられます。つまり、仮説法・演繹法でかんがえた前提がみちびかれます。これは帰納法です(図3)。

  • 仮説:箱の中から中身をもっととりだせば・・・
  • 事実:とりだしたものはすべて赤い玉である。
  • 前提:箱の中身は赤い玉であるといえる。
図3 帰納法
図3 帰納法

このように、仮説法・演繹法・帰納法という3つの論理がありますが、これらを、一連の出来事としてとらえなおすこともできます。

テーブルの上にあった赤い玉は、そばにある箱の中からとりだされたのではないだろうかという仮説をたてたら(仮説法)、それをたしかめるために(検証するために)箱の中から中身をさらにとりだしてみて、それらが赤い玉であったなら仮説の確からしさがたかまります(演繹法)。とりだしたものがすべてが赤い玉であったなら箱の中身はすべて赤い玉だろうとかんがえられます(帰納法)。中身をとりだして確認しながら仮説を検証する過程でデータがふえ(データとは事実を記載したもの)、箱の中身をすべてみなくても、中身が何であるか一般的なことが想像できます。

またたとえば、つぎのようなケースもかんがえられます。10個の玉を箱からとりだして、そのうちの9個は赤い玉、1個は白い玉だったとしたら、箱の中身のおよそ90%は赤い玉であり、およそ10%は白い玉であり、もし、箱の中に200個の玉がはいっていたとするとおよそ180個は赤い玉であり、およそ20個は白い玉であるといえます。この箱から玉を1個とりだしたら、およそ90%の確率でそれは赤い玉になるだろうという予測もできます。

このように、ふとおもったこと、ちょっとしたおもいつきを仮説としてとらえなおし、仮説法・演繹法・帰納法を連続的につかえば(図4)、一連のストーリーができ、論理が展開し話がひろがります。いわゆる直観も、このように論理的にとらえなおせばアウトプットに発展します。

図4 3段階モデル
図4 3段階モデル

仮説をたて、もしそうだとしたらとかんがえるのが基本であり、かんがえたとおりにもしならなかった場合は “失敗” ということになりますが、その場合は仮説をたてなおせばよいのであり、あらたなつぎの仮説の検証にすすんでいけます。かんがえられる仮説についてひとつひとつ検証していくことが必要なのであって、失敗は悲観すべき内容ではなく、ただしい仮説に到達するための手段です。失敗と成功という概念も、このような論理展開の文脈のなかでかんがえなおさなければなりません。

なお民族地理学者・KJ法創始者の川喜田二郎は、KJ法の基礎概念として、「野外科学」「書斎科学」「実験科学」とそれらをくみあわせた「W型問題解決モデル」を提唱し、これらはやや難解ですが、ここでのべた仮説法・演繹法・帰納法が野外科学・書斎科学・実験科学の原型であり、3段階モデルがW型問題解決モデルのエッセンスであり、仮説法・演繹法・帰納法がわかれば、野外科学・書斎科学・実験科学のちがいもよくわかり、問題解決もおのずとすすみます。

▼ 関連記事
事実レベルと思考レベル - 3段階モデル –
3段階モデルと情報処理
新型コロナウイルスの感染拡大と〈仮説法→演繹法→帰納法〉
論理の3段階モデル - 新型コロナウイルスの感染拡大 –
那須サファリパーク事故・ヒューマンエラー説
大陸移動説と3段階モデル - ウェゲナー『大陸と海洋の起源』-
3D 国立科学博物館「宇宙を見る眼」- 地動説・ケプラーの法則・万有引力の法則 –

▼ 参考文献
川喜田二郎著『発想法』(中公新書)中央公論新社、2017年(初版1967年)
竹内均・上山春平『第三世代の学問 地球学の提唱』(中公新書)中央公論社、1977年
上山春平著『上山春平著作集第一巻 哲学の方法』法蔵館、1996年

そのままインプットする -「配置の言葉」(NHK ラジオ英会話, 2022.03)-

語順感覚を身につけます。インプット・プロセシング・アウトプットを自覚します。世界がひろがります。

NHK ラジオ英会話、今月は、比較表現をしあげ、最後に、今年度のしめくくりとして「配置の言葉」を確認します。

LESSON 221 比較 ⑨:指定表現+比較級

Windsor Castle is much older than Buckingham Palace.

指定表現を比較級にくわえる練習です。指定表現の位置は、「指定ルール(指定は前に置く)」にしたがい比較級の前です。

LESSON 222 比較 ⑩:比較はバランスを大切に(比較級)

It’s faster to draw it on a computer than to use real watercolor paints.

比較可能なものをバランスよくくらべることが大事です。

LESSON 223 比較 ⑪:比較対象に節(比較級)

Nolan is a lot smarter than he seems.

比較対象に節をつかう練習です。

LESSON 224 比較 ⑫:最上級の基礎

I’d say she’s the most talented artist in our family.

最上級も、ほかの比較表現同様、通常の形容詞・副詞とおなじ場所でつかいます。

LESSON 226 比較 ⑬:最上級と範囲の意識

It was the most moving film I’ve ever seen.

最上級(最も~)にはしばしば「範囲」がしめされます。

LESSON 227 比較 ⑭:指定表現+最上級

This is by far the best office software I’ve ever used.

「指定ルール」にしたがって「by far」を「the best」の前において強調します。

LESSON 228 比較 ⑮:最上級を使った頻用フレーズ

At best he’s an entertaining writer, and at worst he’s just a dreamer.

「at best」と「at worst」の対比を意識します。

LESSON 229 比較 ⑯: as ~ as … を用いたフレーズ 1

OK, keep calm. I’ll get there as fast as I can.

「as ~ as … can」がひとまとまりの表現として感じられるまで練習します。

LESSON 231 比較 ⑰: as ~ as … を用いたフレーズ 2

You’re as lovely as ever.

「ever」は「at any time(どの時点をとっても)」ということであり、そこから、「いつもと同じように」となります。

LESSON 232 比較 ⑱:比較級を用いたフレーズ 1

Your English is getting better and better.

変化が途切れなく、どんどんつづいていきます。

LESSON 233 比較 ⑲:比較級を用いたフレーズ 2

The Earth is no more than a little planet.

「no」には、つよい感情「全然そうではない」がやどっており、「~にすぎません(= only)」となります。

LESSON 234 比較 ⑳:比較級を用いたフレーズ 3

You’re no more a philosopher than my cat!

あきらかに論外なモノをひきあいにだし、「全然違いますよ」と、つよい否定の意識でいいます。

LESSON 236 英語は「配置の言葉」①:動詞 -ing 形

Sneezing man?

「sneezing」が「man」の前にあり、これは、「指定ルール」によりうしろの表現の種類を指定する位置です。ただの「男」ではなく「くしゃみ男」。

LESSON 237 英語は「配置の言葉」②:過去分詞

We were able to recover most of the stolen things.

過去分詞「stolen」が「things」の前におかれ、「指定ルール」によって「盗品」となります。

LESSON 238 英語は「配置の言葉」③: to 不定詞

I want to eat my ramen slowly.

「to 不定詞」が目的語の位置にあります。位置によって機能が決まります。

LESSON 239 英語は「配置の言葉」④:そろそろ英語、話せます!

He heard the news that Roxy went to the UK to study.

「the news」の内容を節が説明し「ロキシーがイギリスに留学した──というニュース」となります。「説明ルール」の典型例です。

英語は配置の言葉、文中の配置(場所)によって語句の働きがきまります。したがって配置(語順)がわかれば、そこに語句をほうりこむだけで英文がすぐにできあがります。簡単です。

その原則をしめしたのが「基本文型」(5つのパターン)であり、修飾の語順ルール、「指定ルール」「説明ルール」です。

基本文型
  • 自動型(I jog.)
  • 説明型(John is a student.)
  • 他動型(I like Mary.)
  • 授与型(I gave Mary a present.)
  • 目的語説明型(We call him Jimmy.)
修飾の語順
  • 指定ルール:前に置いた修飾語句は後ろを指定する
  • 説明ルール:後ろに置いた修飾語句は前を説明する

けっきょくこれだけのことであり、原則はとても単純です。この語順感覚を身につければ英語の学習は一気に加速します。

しかし英文和訳(英文読解)を基本として、日本語の語順で英文を理解することをくりかえしているといつまでたっても語順感覚が身につきません。なぜなら英語の語順の原則と日本語の語順の原則とはまったくことなるからです。英語にも日本語にも語順の原則がそれぞれにあり、それらはことなることに気がつかねばなりません。原則とは、現象の根本にある単純明快な原理あるいは法則といってもよいでしょう。

2021年度のラジオ英会話は、「なぜ日本人は英語を話せないのか?」という問いからはじまりました。そのこたえは英語の語順の練習をしていなかったということです。しかしラジオ英会話をくりかえしきいていれば語順感覚がおのずと身につき、英語がはなせるようになります。

感覚とは、耳や目などから、情報(音声や文字など)を内面にインプットする心(ハート)の働きであり、インプットの段階では、英語の語順をそのままうけいれる必要があり、日本語はかんがえないほうがよいです。英語をインプットしながら日本語訳を同時にかんがえることはインプットをさまたげます。英文をよみながら(みながら)日本語に英語をおきかえているとインプットがうまくできません。インプットをするときにはインプットに徹したほうがよく、入れるときには入れる、ちょっとした決断がいります。これは、英語にかぎらずあらゆるインプットに通じる教訓です。

一方、英語をはなす(声にだしていう)とは情報を外面にアウトプットすることであり、メッセージを相手につたえることです。そしてインプットとアウトプットのあいだには、理解・イメージング・記憶など、プロセシングがあり、とくに記憶は睡眠によってすすみます。

このような〈インプット→プロセシング→アウトプット〉は 心(ハート)の働きといいかえてもよいでしょう。インプット・プロセシング・アウトプットのそれぞれを自覚し意識すれば情報処理がすすみ効果があがります。ハートの仕組みを理解しハートをはたらかせることは、番組のキャッチフレーズ「ハートでつかめ!英語の極意」にも通じるとおもいます。

わたしも、おおくの日本人(とくに比較的ご年配の方々)が英会話ができない現実に国際協力などをとおしてつきあたり、日本の英語教育には問題があるとかねてからおもっていましたが、ラジオ英会話を受講して問題の核心がわかりました。それは、おそわるほうだけでなくおしえるほうもインプットの仕組みをしらず、インプットがうまくできていなかったということです。英語の語順感覚の習得をさまたげていたのは日本語であり、既知の知識や記憶・固定観念があらたなインプットを阻害します。したがってインプットをするときには、どのような分野でも、その情報をそのままうけいれ、受け身になってすなおに情報をとりこむ姿勢が必要です。このようにみるとやはり、わかい人のほうがインプットが得意です。あたらしいことをまなべます。

大西泰斗先生らが指導するラジオ英会話でいっていることは簡単なことのようですが、実は、あらゆる情報処理・教育・練習・訓練に通じる核心をついています。普遍性があります。普遍性があるので、ここでまなんだことはほかの分野にも応用できます。

ラジオ英会話は来年度も、大西先生らが指導するそうです。イメージ訓練が今度はできます。この講座を基点にして世界がさらにひろがるでしょう。

▼ 関連記事(2021年度 NHK ラジオ英会話)
説明ルールと指定ルール -「なぜ日本人は英語を話せないのか?」(NHK ラジオ英会話, 2021.04)-
配置でポン! -「基本文型で意志は伝わる」(NHK ラジオ英会話, 2021.05)-
学習を加速する -「位置がわかれば拡張は簡単」(NHK ラジオ英会話, 2021.06)-
単純さに気がつく -「『説明ルール』で英語を英語として使いこなす」(NHK ラジオ英会話, 2021.07)-
例外はありません -「名詞の説明」(NHK ラジオ英会話, 2021.08)-
うしろを指定する -「指定ルール」(NHK ラジオ英会話, 2021.09)-
心をはたらかせる -「助動詞の征服」(NHK ラジオ英会話, 2021.10)-
距離感をイメージする -「時表現を極める ①」(NHK ラジオ英会話, 2021.11)-
モデルをつかう -「時表現を極める ②」(NHK ラジオ英会話, 2021.12)-
心がうごく -「配置の転換」(NHK ラジオ英会話, 2022.01)-
配置の原則をつかう -「受動態・比較」(NHK ラジオ英会話, 2022.02)-
そのままインプットする -「配置の言葉」(NHK ラジオ英会話, 2022.03)-

イメージと言葉をむすびつける - NHK ラジオ英会話テキスト 2021 –
ファイルのしくみ -「大西泰斗の英会話☆定番レシピ」(NHK Eテレ)-

▼ 関連記事(2018年度 NHK ラジオ英会話)
ハートでつかめ! 英語の極意(NHK ラジオ英会話)
状況をおもいうかべて言う - NHK ラジオ英会話 –
英語の基本文型と語順ルール - NHK ラジオ英会話(4-5月)-
時表現を完成させる - NHK ラジオ英会話(6月)-
助動詞をつかいこなす - NHK ラジオ英会話(7月)-
修飾の語順を身につける - NHK ラジオ英会話(8月)-
否定と比較 - NHK ラジオ英会話(9月)-
to 不定詞 と 動詞 -ing 形 - NHK ラジオ英会話(10月)-
過去分詞・受動態・節 - NHK ラジオ英会話(11月)-
倒置・疑問文 - NHK ラジオ英会話(12月)-
関係詞節による修飾 - NHK ラジオ英会話(1月)-
仮定法と it - NHK ラジオ英会話(2月)-
英語のリズムを身につけよう -「文法力と語順の成熟」(NHK ラジオ英会話 3月)-

▼ 参考文献
『NHK ラジオ英会話』(2022年3月号テキスト)NHK 出版、2022年

▼ 関連教材

(冒頭写真:イングランド、ロンドン、バッキンガム宮殿(Buckingham Palace)、1999年 撮影)

わかりやすい日本語を書く(21) – 題目をあらわす「は」-

○○についてのべるとき「○○は」とします。「○○は」は題目をあらわします。問題意識が必要です。

今回は、助詞の原則「題目をあらわす『は』」(注1)の観点からつぎの例文を検証します。

例文101
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。(日本国憲法第十九条)

例文102
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。(日本国憲法第二十条)

例文103
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。(日本国憲法第六十七条)

例文104
厚労省は国内で2月17日から7月2日まで、ワクチン接種後に死亡が報告された事例が556人に達したことを明かした。(NEWSポストセブン, 2021.7.14)

例文105
巨人・桑田真澄投手チーフコーチがリニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」でマウンドで始球式を行った。(フルカウント, 2022.3.5)

例文101
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

構造化します。

例文101

例文101の「思想及び良心の自由は」のあとのテンは、「思想及び良心の自由は」を強調する効果がありますがなくてもかまいません。

  • 思想及び良心の自由はこれを侵してはならない。

この文は、「思想及び良心の自由」についてのべているのであり、このことを、「思想及び良心の自由」としめしています。「○○は」は、○○についてのべるときにつかえ、題目(話題・課題・提題といってもよい)をあらわします。

また「これを」は「思想及び良心の自由を」ということであり、省略することができます。

  • 思想及び良心の自由は侵してはならない。

省略してもまったく問題ありません。「思想及び良心の自由」の「は」には「思想及び良心の自由」の「を」が潜在しており、「は」は「を」を兼務することができ、したがって「○○を」を省略できます。

例文102
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。

構造化します。

この文は、「信教の自由」についてのべており、「信教の自由」がこの文の題目であり、それを、「信教の自由は」としめし、「○○は」は題目をあらわします。また「これを」は「信教の自由を」ということであり省略できます。

  • 信教の自由は、何人に対しても保障する。

「信教の自由」の「は」には、「信教の自由」の「を」が潜在しており、「は」は「を」を兼務することができ、したがって「○○を」を省略できます。

例文103
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。

構造化します。

この文は、「内閣総理大臣」についてのべており、それを、「内閣総理大臣は」としめし、「○○は」は題目をあらわします。また「これを」は「内閣総理大臣を」ということであり、直前のテンとともに省略できます。

  • 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名する。

「内閣総理大臣」の「は」には、「内閣総理大臣」の「を」が潜在しており、「は」は「を」を兼務することができ、したがって「○○を」を省略できます。

日本国憲法(注2)には、「○○は、・・・」という表現が非常におおくみられ、それは、とてもたくさんの題目(項目)についてのべているため、この条文は○○について、この条文は○○について・・・というように、○○についてのべることを明確にしめしたいからでしょう。それぞれの条文の題目を誤解をさけるために強調しています。

例文104
厚労省は国内で2月17日から7月2日まで、ワクチン接種後に死亡が報告された事例が556人に達したことを明かした。

構造化します。

悪文は構造もへんてこです。語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。

例文104b
  • ワクチン接種後に国内で死亡が報告された事例が2月17日から7月2日まで556人に達したことを厚労省は明かした。

「厚労省は」を強調したいのであれば文頭にもってきて、テンの原則「逆順」によりテンをうちます。

  • 厚労省は、ワクチン接種後に国内で死亡が報告された事例が2月17日から7月2日まで556人に達したことを明かした。

この文は、「厚労省」についてのべるならばという心持ちで「厚労省は」としており、「厚労省」が題目です。「○○は」とすることによって題目をあらわすことができます。

例文105
巨人・桑田真澄投手チーフコーチがリニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」でマウンドで始球式を行った。

構造化します。

語順の原則にしたがって再構造化します。

  • リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチがマウンドで始球式を行った。

この文は「○○は」がない文であり、題目がなくても文がなりたちます。しかし題目を設定することもできます。

たとえば「リニューアルされた東京ドームの『ビジョン点灯式』」を題目にしたければ、「リニューアルされた東京ドームの『ビジョン点灯式』で」を「リニューアルされた東京ドームの『ビジョン点灯式』で」とします。

  • リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチがマウンドで始球式を行った。

「巨人・桑田真澄投手チーフコーチ」を題目にしたければ「巨人・桑田真澄投手チーフコーチ」を「巨人・桑田真澄投手チーフコーチ」とします。

  • リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチマウンドで始球式を行った。

あるいは、

  • 巨人・桑田真澄投手チーフコーチ、リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」でマウンドで始球式を行った。

「マウンド」を題目にしたければ「マウンドで」を「マウンドで」とします。

  • リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチがマウンドで始球式を行った。

あるいは、

  • マウンドで、リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチが始球式を行った。

「始球式」を題目にしたければ「始球式を」を「始球式」とします。

  • リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチがマウンドで始球式行った。

あるいは、

  • 始球式、リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチがマウンドで行った。

このように、題目にしたい語句があれば「○○は」とすることによってそれをあらわすことができます。そのためには、何についてのべるのかあらかじめはっきりさせなければなりません。

題目をはっきりさせるということは何についてのべるのか、その範囲をきめることであり、題目は、情報のひとまとまりの見出しとして機能するといってもよく、情報があふれかえる現代社会においてとても重要です。

題目のモデル
題目のモデル

題目がはっきりしている文は焦点がさだまっていてわかりやすくよみやすく、はっきりしない文は何をつたえたいのかわかりません。題目がはっきりしている人は思考が鮮明です。

題目をきめるためには問題意識が前提として必要であり、つねひごろから問題意識をとぎすましておくことが大事でしょう。

問題意識は、「しりたい」という素朴な気持ちからはじまります。たとえば、沖縄についてしりたい、古代ローマについてしりたい、猫についてしりたい、スパイスについてしりたい・・・など、しりたいという気持ちがうまれればそれについてしらべはじめるとおもいます。その行為が継続すれば問題意識がそだち、おのずと題目がさだまります。アウトプットへすすめます。

▼ 注1
日本語の作文法:日本語の原則
「○○は」によって題目をしめす - 学問の自由は保障する –
「は」と「が」をつかいわける - 川本茂雄『ことばとこころ』-
三上章 『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』をよむ
日本語法を理解する - 三上章『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』-

▼ 注2
日本国憲法

▼ 関連記事
わかりやすい日本語を書く(16) - プロセシング→アウトプット –
わかりやすい日本語を書く(17) - ながい修飾語ほど先に –
わかりやすい日本語を書く(18) - テンの原則「ながい修飾語」-
わかりやすい日本語を書く(19) - テンの原則「逆順」-
わかりやすい日本語を書く(20) - 思想のテン –
わかりやすい日本語を書く(21) - 題目をあらわす「は」-
わかりやすい日本語を書く(22) - 特定の語句に焦点をあてる –
わかりやすい日本語を書く(23) - 題目と対照(1)-

▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

指定避難場所の悲劇 - 証言記録 東日本大震災「宮城県気仙沼・杉ノ下高台の戒め」(NHK DVD)-

たくさんの避難者が津波でながされました。防災マップ(想定)がかえって被害をおおきくしました。自然には飛躍があることを前提にして行動しなければなりません。

たくさんの避難者が津波でながされました。防災マップ(想定)がかえって被害をおおきくしました。自然には飛躍があることを前提にして行動しなければなりません。

NHK DVD「証言記録 東日本大震災『宮城県気仙沼 〜杉ノ下高台の戒め〜』」(2014年8月31日にNHKで放送)は宮城県気仙沼・杉ノ下高台における津波被害について報告しています(注)。


杉ノ下高台の位置

宮城県気仙沼市階上(はしかみ)地区は三方を海でかこまれ、明治時代の津波でも集落が全滅する被害をうけました。住民は、おそろしい津波をかたりつぎ、高台への避難訓練をくりかえし、行政も、避難場所の整備にとくに力をそそいでいました。

しかし2011年3月11日、津波は、避難場所に指定されていた杉ノ下高台(標高13mの丘)におそいかかり、およそ60人が犠牲になりました。行政は、慎重に検討をかさねたうえで避難場所を指定したつもりでしたが、どんな盲点があったのでしょうか?

あの日。

揺れがおさまってから、これまでの避難訓練どおり杉ノ下高台に住民たちは避難します。それからおよそ20分後、午後3時20分、大津波がせまります。

あっちの方から何だか、帯状のようなシルバーでもないそんな色のが最初フワッとなったと思ったけど、家が、ごろごろひっくり返って来るし、ばりばりばりばりっていってこのへん来たんです。見ていてあらららって、そしてここにいた人も、
「ああ、ばあちゃん、家ながされる」
「明治の津波ってこんなんだったんだべかな」
あらららって、ここで見ていたんです。(津波が)あっちの方さ行くやって。それで終わりだと思っていたわけなの。

そうしているうちに、家の中さ入って、奥の部屋から出てきて、玄関のところ見たら、そこから波が上がってきたの。あれれれ、ザバザバと上がってきたから、はだしのまま、裏から逃げたんです。こっちだのこっちだのから波がいっぱい来たの。何だべ、何だべだと思っているうちに勢いに巻かれて、いろいろな がれきの下敷きになったんだね。死ぬんじゃないかなって。死ぬってこんなのかと。そしてもがきながら出てきたんです。

ツバキの木にすがって女の人2人 泣いてんの。
「お父さんもお母さんも妹も流された」
あたりを見たっけ何もないんだもの、この辺り、全部ひっくり返って。ここにあった小屋から蔵から何もないの。流されてしまって。あんなにあったのにどこさ流されたと思って。とにかく驚いてしまって。

寒くて、寒くて。まさか、まさかっていう感じ。こんなところまでくるとは、誰もが思っていると思います。本当に。

ここ(杉ノ下高台)なら大丈夫だと思って連れてきたのね。それは私一番よく知ってんの。ここなら大丈夫だって、何でそんなに思ったんだか不思議で分かんないんですけど。明治の津波でも大丈夫だったていうのが一番悪かったって。そうでなければみんな逃げたのかな。どうなんだろうね。時間はあったんですよね。20分から30分くらいは。逃げようと思えば逃げられたはずなのに。私も、逃げようと思わないし。(杉ノ下の住人・三浦祝子さんの証言)

避難場所に指定されていた杉ノ下高台をおそった津波は13mを楽々こえる高さです。午後3時28分に高台は完全に水没、高台に避難した人々のおおくが引き波で沖合にながされます。杉ノ下高台にのこったのはツバキの木と電波塔だけです。集落全体の犠牲者数は人口のおよそ3割、93人にのぼります。

杉ノ下高台に、おおくの人々が避難したのは、行政(気仙沼市)が指定した避難場所だったからです。行政がつくった防災マップには、津波におそわれる危険があるエリアと安全とされる避難先がしめされていました。

私たちがやってきたのは、防災の中でも初動段階のですね、とにかく避難する、逃げる、命を守るっていうのを9割方 力をいれてやってきました。住民の方と一緒にですね、防災とは何だろうっていうのを、(当時、2004年より前に)もう一度、考え直さなければならないのではないか、というふうに思いました。住民の人と一緒の考え方(防災マップ)を作っていく必要があるなと。(気仙沼市危機管理課長(当時)佐藤健一さんの証言)

老人とかね、そういった不自由な方は、なおさら海の近くにいる方なんかはね、とにかく近くの人は声がけして、一緒に避難できたらいいんじゃないかということは話していたんですけどね。

説明会の時に、こういうの(防災マップ)を渡されましたね。私たちの地区は、一応、ここ(杉ノ下高台)しか高台がないもので、一応、向こうも高台にはなっているんですけどね、結構とおいんですよね。(杉ノ下の住人・佐藤信行さんの証言)

防災マップをつくるとき研究者(専門家)からアドバイスをもらいました。記録がのこっているかぎりでは明治29年の三陸津波が最大規模でした。これとおなじ場合の津波のシミュレーション(模擬実験)でも杉ノ下高台は水没しないという結果でした。

我々、過去の地震津波、明治・昭和・チリだけではなくて今後想定される、考えられる想定宮城県沖、連動タイプとかもさまざま検討させていただいていたのですけども、そこ(杉ノ下高台)を超えるような津波規模というのはなかったんですね。あの高台(杉ノ下高台)なんですけれども、あそこに行くまでは民宿とか家がたくさんあってですね、結構きつい坂を上がっていって、標高10m以上だったと思うんですけど、かなり周辺から見ても高い場所であったと。あの地域というのは、杉ノ下(高台)は安全な場所であったということになります。(東北大学災害科学国際研究所 所長・今村文彦さんの証言)

この高台は、やっぱり残りますよっていうか、高台として機能しますよ。

本来の避難所だったりっていうのは非常に遠いんですね。あそこの高台(杉ノ下高台)は明治三陸(津波)においても被害がなかった高台です。シミュレーション(模擬実験)されたものでも、もちろん安全な高台にはなっております。最終的に一時避難高台というような形でですね、市の私たちの方が指定して、過去においても安全だということをやっていった。(気仙沼市危機管理課長(当時)佐藤健一さんの証言)

こうして2004年、防災マップが完成し、想定される津波の高さは8mであり、標高13mの杉ノ下高台には到達しない(杉ノ下高台は安全であるという)予測になりました。

震災前の浸水想定(橙色〜黄色のエリア)
(NHK スペシャル「MEGAQUAKE」)

しかし、3月11日。

実際の浸水域(青色のエリア)
(NHK スペシャル「MEGAQUAKE」)

あそこはですね津波高8mという形(想定)。何とか、あそこは低い津波が来ていてくれないだろうか。間に合って逃げていてくれないだろうかという思いでしたですね。

あの地域全体としては、3分の1くらいに近い人たちが、地区人口として亡くなっているわけですね、30%。3%から5%という市内から見ますと非常に高い数字です。地区別で見ていくと、おそらく杉の下地区、あの地域が一番、被災率が高いです。

一番、意識も高かった。しかしながら、あそこで一番被害が大きかったというのはですね、示していた数字が、逆に作用してしまったかもしれないっていう思いでしたですね。例えば(津波高)8mという数字がですね、それ以上の津波は来ないのだという思いにつながってしまったのではないだろうかと。逆に、安心情報になってしまった可能性がありますよね。それを作ってしまったという思いはありますね。(気仙沼市危機管理課長(当時)佐藤健一さんの証言)

あまりにもね、犠牲になった方の数が多いしね、本当に、津波が来るまで結構 時間があったのに、ここ(杉ノ下高台)で津波を待ってしまったって言うかね、そういった悔しさを、無念を、何とか少しでも供養できたらいいかなと思って。

この命をですね、93名の命を、むだにしてほしくないなと私は思っています。(杉ノ下の住人・佐藤信行さんの証言)

震災直後は、本当に大変申し訳ない反省の念ばかりで、自分として何が出来るのかなと思っておりましたが、住民の方何人かから、やはり、当時のことは無駄ではなかったと、足りなかったんだというようなお言葉をいただいて、その中でまた我々も、足りないところで出来ることはたくさんあるだろうと、それをぜひやりたいというのが今の気持ちになります。(東北大学災害科学国際研究所 所長・今村文彦さんの証言)

戒め。

結果として、多くの人が亡くなってしまったという結果がありますから、現実的にですね、そういう意味では、どうだったのかという疑問は私も分からない部分があります。やったことはやった。お互いに、いろいろなことは進めたし行ったと思います。住民の方も一生懸命やりました。私たちも一生懸命やったつもりです。それがただし、結果としては現れていないわけですね。多くの人が亡くなってしまった。それは何なのか。やっぱり、それはきちっと、これからの防災という意味合いではですね、知る必要があるのかなと思います。

防災もですね、科学的なものが必要だというふうに私は思っていました。しかしながら、よく考えると、心のどこかにはあったんですけども、たかだか100年くらいのいろんなデータをもってですね、人間が少し分かったつもりになっていたということ自体がですね、ちょっと違うんだろうと。もう少し謙虚になって、自然というものはよく分からないと、分からない中で分かっている範囲はここなんだということでですね、どうしたらいいんだっていうことをもう一度考え直す、そういうような姿勢が一つ必要なんじゃないかと思いますね。(気仙沼市危機管理課長(当時)佐藤健一さんの証言)

杉ノ下高台
津波襲来後
(撮影:アジア航測)

この悲劇を繰り返すな
大地が揺れたらすぐ逃げろ
より遠くへ・・・より高台へ・・・
(杉ノ下地区・慰霊碑)

以上のようにして杉ノ下高台の悲劇はおこりました。

気仙沼市は、住民とともに防災に関する意識をたかめ、防災のなかでもとくに初動段階の避難、とにかくにげて命をまもることに力をいれ、住民と一緒になって防災マップを作製しました。

その過程で、津波工学の専門家の指導もあおぎました。専門家は、明治・昭和・チリ地震などの過去の地震津波だけでなく今後想定されるあらゆる地震津波を検討し、コンピューターをつかったシミュレーション(模擬実験)をおこない、おこりえる津波は最高8mであり、杉ノ下高台(標高13m)をこえることはないと想定しました。記録がのこっているかぎりでの最大規模の津波(明治29年の三陸津波)と同規模の津波でも杉ノ下高台は水没しないという結果をしめしました。

こうして気仙沼市は、津波浸水エリアと避難場所をしめした防災マップを作製し、避難場所として杉ノ下高台を指定しました。そして住民とともに避難訓練をくりかえしました。

ところが、東日本大震災の津波は杉ノ下高台を楽々とのりこえてしまいました。ほとんどすべての「避難者」がながされました。

住民たちは、「ここなら大丈夫だ」とおもっていました。津波がくるまでに時間が結構あったのに津波がくるのを杉ノ下高台でまってしまいました。「もっと遠くに逃げる時間はあったのに」、という悔しさ・無念を誰もが感じています。

NHK DVD『証言記録 東日本大震災:宮城県気仙沼・杉ノ下高台の戒め』は、気仙沼市の担当者、津波工学の専門家、気仙沼市階上地区の住民の三者の証言を現地の映像とともに記録しており、貴重な教訓を後世へのこしています。

気仙沼市は、防災の初動段階の重要性に はやくから気づき、住民と一緒になって防災マップをつくり、防災計画を立案しました。住民の命をまもるために第一に何をすればよいか、真剣にかんがえ、とりくみました。住民の意識もたかまりました。しかし津波の高さの想定についてはまちがいました。結果として、避難場所の選択・指定をあやまりました。

津波の高さの想定は、専門家の計算結果をうのみにしたのだとおもわれますし、当時としてはそうせざるをえなかったとかんがえられます。大震災前は、専門家は、自治体と住民を指導する立場にあり、専門家がしめした想定を自治体と住民は信じざるをえませんでした。

しかし津波工学の専門家は、地質学のデータをまったくつかえていませんでした。堆積物にのこされている津波の痕跡を調査し、津波の浸水域や高さを理解することはしていませんでした。そもそもフィールドワークができていませんでした。フィールドワークをやっていないという点では、「地震予知ができる」とホラをふいていた地震学者にも似ています(注2)。フィールドワークをやらず、計算だけをしている人には要注意です。足腰がよわく、フィールドをしりません。これからは、専門家の話を信じる必要はまったくなく、へりくだる必要もありません。もし、専門家の話をきくなら、フィールドワークをしている人の話をきいたほうがよいでしょう。

住民たちは、防災マップ(想定)にしたがって指定された避難場所に避難し、「ここなら大丈夫だ」とおもい、時間があったにもかかわらず、より遠くへ、より高台へは避難しませんでした。しかし3月11日の津波浸水域の地図をみれば、杉ノ下高台にとどまらずに北西にあと1.5kmにげていたら たすかっていたことがわかります(たすかった人が実際にいます)。

防災マップをみた人は、「あっちはアウト」「ここはセーフ」などと地域を区分し、災害の上限をイメージしてしまい、それ以上のことに対処できなくなります。被災が想定される区域に はいっていなければ安心してしまい、当然のことながら避難しません。防災マップは「安心情報」を住民にあたえます。

杉ノ下高台のこのような悲劇の事実をしり、防災マップつまり想定を前提とすると、専門家と自治体による事前情報がかえって犠牲者をふやしてしまったのではないかという仮説がたてられます。

  • 事実:悲劇の事実。
  • 前提:想定。
  • 仮説:専門家と自治体による事前情報がかえって犠牲者をふやしてしまったのではないか。

自治体も住民も一生懸命やっていましたが、そもそも前提がまちがっていました。たかだか過去100年ぐらいのデータでわかったつもりになっていました。もっと謙虚になって、自然というものはよくわからないと認識し、人間の想像を絶する自然現象、人知をこえた現象がおこりえることをしらなければなりません。つまり、自然には飛躍があるということを前提にして思考し、対策をたて訓練をする必要があります。

前提は、防災計画や避難場所の選択、避難訓練のやり方など、あらゆる仕事・行動の枠組みをきめます。物事をすすめるときにはかならず前提が存在し、その前提の枠組みのなかで物事はすすみ、一方で、その枠組みをこえたところ(枠組みの外)には思考がおよびません。

杉ノ下では、専門家の想定(津波高の最高は8m)を前提とし、そして地理的・地形的条件から杉ノ下高台(標高13m)が避難場所として適切であるという仮説をたて、ここに住民が避難すればたすかるだろうと予想していました。

  • 前提:想定。
  • 仮説:避難場所として杉ノ下高台が適切である。
  • 予想:住民はたすかるだろう。

実際の現象が、予想どおりになれば(事実として確認されれば)、仮説はただしかったことになり、予想どおりにならなければ(事実として確認できなければ)、仮説はまちがっていたことになり、今回の場合は、仮説はまちがっていたことがあきらかになりました(仮説は反証されました)。

どうしてまちがったのか? そもそも前提がまちがっていました。専門家の想定を前提にしたことがあやまりでした(注3)。今回の悲劇からまなべることは、想定ではなく、自然には飛躍があるということを前提にして物事をすすめなければならないということです。

専門家も、失敗したのですから、これまでのやり方をつづけるのではなく路線を変更し、フィールドワークを徹底的に実践し、自然には飛躍があることを前提にして仮説をたてなおさなければなりません。「足りなかった」のではなく、前提と論理がそもそもまちがっていたのであり、基本的なかんがえ方をあらためねばなりません。計算をしているだけでは失敗をくりかえします。東北大学の災害科学国際研究所と地震・噴火予知研究観測センターも減災実践所に改組したほうがよいでしょう。

このような観点からは、「津波てんでんこ」と「避難三原則」がとても参考になります(注4)。地震と津波のときは、想定にとらわれず、ひとりひとりがみずから主体的にてんでんばらばらに率先避難者になります。家族の誰もがにげていると信じ、家にはもどりません。最善をつくし、より遠くへ、より高台へにげます。

絶対に安全ということはありません。自然に対して謙虚になり、自然には飛躍があるという前提のもとで行動します。

より遠くへ、より高台へ。

▼ 注1
DVD「証言記録 東日本大震災 第32回『宮城県気仙沼 〜杉ノ下高台の戒め〜』」NHK エンタープライズ発行・発売、2015年

▼ 注2:地震予知はできない
どこにいても大地震にそなえる -「幻の地震“予知” 日本を揺るがした大論争」(NHK「フランケンシュタインの誘惑」)-

▼ 注3:指定避難場所で被害・犠牲者がでた例
東日本大震災において指定避難場所で被害・犠牲者がでた例は、岩手県陸前高田市(38ヵ所の避難所)、宮城県南三陸町(34ヵ所の避難所・避難場所)、宮城県東松島市(野蒜小学校体育館)など、ほかにもいくつもあり、とくに陸前高田市では、「市が指定した一次避難所 67 か所のうち 38 か所が被災し、一次避難所で犠牲になった人が推計 303 人から 411 人 おり、特に市民会館や市民体育館に避難した市民や市職員の多くが犠牲」になりました(陸前高田市『陸前高田市東日本大震災検証報告書』平成26年7月)。いずれも、前提(すなわち津波高・浸水域の想定)がまちがっていたために避難場所の選択・指定をあやまりました。「安全とされていた一次避難所でこのように多数の犠牲者が生じたことは、痛恨の極みである」(陸前高田市・同報告書)。

▼ 注4:「津波てんでんこ」と「避難三原則」
想定やマニュアルにとられず、より安全な場所にすぐに避難する -『釜石の奇跡 どんな防災教育が子どもの“いのち”を救えるのか?』(1)-
「津波てんでんこ」と 避難三原則を実践する -『釜石の奇跡 どんな防災教育が子どもの“いのち”を救えるのか?』(2)-
東日本大震災の教訓をいかして自分の命は自分でまもる -『釜石の奇跡 どんな防災教育が子どもの“いのち”を救えるのか?』(3)-
危ないと感じたら自分の判断ですぐに逃げる - 山村武彦著『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている』-
津波の危険を感じたら「率先避難者」にみずからなる -『3.11が教えてくれた防災の本(2) 津波』-
主体性が必要な時代への転換がはじまった -「釜石の奇跡」と「大川の悲劇」をふまえて –

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自然には「飛躍」があることを知ってそなえる

配置の原則をつかう -「受動態・比較」(NHK ラジオ英会話, 2022.02)-

受動態も単なる be 動詞文です。比較表現は形容詞・副詞が変化した形です。根幹から枝葉がのびます。

受動態も単なる be 動詞文です。比較表現は形容詞・副詞が変化した形です。根幹から枝葉がのびます。

NHK ラジオ英会話、今月は、受動態と比較にとりくんでいます。表現の幅をひろげます。

LESSON 201 受動態 ①:受動態は be 動詞文

The movie was spoiled by the ending.

be 動詞は「=(イコール)」であり単なるつなぎにすぎず、受動態も、「We are happy.」という be 動詞文とおなじです。「~される」の意味を過去分詞がうけもちます。

LESSON 202 受動態 ②:受動態の疑問文・否定文

When was this shop opened?

When の後ろに be 動詞を使った疑問形をならべましょう。

LESSON 203 受動態 ③:受動態で使われる前置詞

An alien spacecraft has been spotted in orbit around Mars.

前置詞は by にかぎられず、状況に応じて適切な前置詞をえらんでください。いつもどおりイメージをおもいうかべます。

LESSON 204 受動態 ④:感情を表す動詞

The fans weren’t satisfied with the concert.

感情をあらす動詞のおおくは、主語の感情をあらわすときは過去分詞つまり受動態の形をとります。感情をあらす動詞はほぼ他動型でつかわれる動詞(他動詞)だからです。

LESSON 206 受動態 ⑤:授与型の受動態

I was offered the job, but I turned it down.

直接、受動態をつくれるようにしてください。ネイティブスピーカーは「対応する能動態の文」などおもいうかべません。

LESSON 207 受動態 ⑥:目的語説明型の受動態 1

It was called “Very-Berry Good.”

この文は call の作る目的語説明型に対応する受動態です。

LESSON 208 受動態 ⑦:目的語説明型の受動態 2

She said she was told to break up with me.

目的語説明型に対応する受動態のレッスンのつづきです。

LESSON 209 受動態 ⑧:「直接」が求められる受動態

Your new book is expected to become a bestseller!

「be 動詞+過去分詞+ to 〜」は思考系・伝達系の動詞がとる一般的な形です。ひとつのパターンです。

LESSON 211 比較 ①:比較表現のバリエーション

This software is as efficient as our current office software.

「as efficient as」となってもつかい方は単体の efficient とおなじであり、「This software is efficient.」とおなじように気楽につくってください。

LESSON 212 比較 ②: as 〜 as … の使い方

They are as good as fine Belgian chocolates.

「They are good.」と同じ気軽さでつくってください。

LESSON 213 比較 ③: as 〜 as … を否定する

I’m not as talkative as him.

この文は「私≠彼」とのべているのではなく、「私は話し好きのレベルが彼に至っていない」、つまり兄のほうが話し好きであるとのべています。

LESSON 214 比較 ④:指定表現+ as 〜 as …

This dress is twice as expensive as the same one I saw online.

twice で as 〜 as … を指定する意識で練習します。

LESSON 216 比較 ⑤: as 〜 as … の比較内容を豊かに

Mom is as good at cooking as you are.

as 〜 as … の間において比較内容を表すのは形容詞や副詞1語だけではありません。複数語でもよいです。

LESSON 217 比較 ⑥:比較はバランスを大切に

Our piano at home isn’t as big as yours.

比較表現で大切なのはバランスです。比較可能なモノを比較します。

LESSON 218 比較 ⑦:比較対象に節

It’s not as hard as it seems.

比較の対象に節を用いる練習です。この文では seems の後ろの空所が hard と呼応して「それがそう見えるほど(hard ではない)」となっています。

LESSON 219 比較 ⑧:比較級

Can you ride more slowly, please?

「Can you ride slowly?」とおなじ気軽さでつくります。

受動態は「単なる be 動詞文」であり、比較表現は「形容詞・副詞が変化した形」にすぎません。英文内の単語の配置(語順)がわかっていれば受動態も比較表現も簡単につかいこなすことができ、特別な操作はいりません。

また単語の配置によって、「指定ルール」と「説明ルール」がはたらくこともおなじです。たとえば「as 〜 as …」においても、「=(イコール)」のイメージをもつ as に「指定ルール」と「説明ルール」がはたらきます。

They are as good as fine Belgian chocolates.

最初の「as」は、「同じくらいおいしい」と「good」のレベルを指定しています。一方、うしろの「as fine Belgian chocolates」は「= fine Belgian chocolates」と、何と同じくらいおいしいのかを説明しています。これら指定ルールと説明ルールにより、「高級なベルギー製チョコレートと同じくらいおいしい」となります。

このように、受動態も比較表現も特別視する必要はまったくなく、英語の根幹である配置の原則と指定ルール・説明ルールをつかえばよいだけのことであり、これまでに身につけた方法を応用すればよく、それだけで表現の幅がおのずとひろがります。

けっきょく、表現の幅をひろげるとは基本を応用することであり、基本形を変化させることです。それは根幹から枝葉がのびていくイメージであり、根幹ができていれば枝葉は一気に成長し花もさきます。このような樹木の成長をイメージすることが大事であり、イメージできれば根幹は成長し、枝葉の成長は加速し、さらに根幹が成長しますが、イメージできなければ苦労がつづきます。学習とは、時間をかければ効果があがるというわけではかならずしもなく、学習を加速できるかどうかにかかっています。大西泰斗先生らが指導するラジオ英会話は、根幹をそだて枝葉をのばす学習法を具体的・実践的におしえてくれます。こうした「樹木法」は、英語とはかぎらず、あらゆる分野の学習に応用することができます。

▼ 関連記事(2021年度 NHK ラジオ英会話)
説明ルールと指定ルール -「なぜ日本人は英語を話せないのか?」(NHK ラジオ英会話, 2021.04)-
配置でポン! -「基本文型で意志は伝わる」(NHK ラジオ英会話, 2021.05)-
学習を加速する -「位置がわかれば拡張は簡単」(NHK ラジオ英会話, 2021.06)-
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心をはたらかせる -「助動詞の征服」(NHK ラジオ英会話, 2021.10)-
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モデルをつかう -「時表現を極める ②」(NHK ラジオ英会話, 2021.12)-
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配置の原則をつかう -「受動態・比較」(NHK ラジオ英会話, 2022.02)-
そのままインプットする -「配置の言葉」(NHK ラジオ英会話, 2022.03)-

イメージと言葉をむすびつける - NHK ラジオ英会話テキスト 2021 –
ファイルのしくみ -「大西泰斗の英会話☆定番レシピ」(NHK Eテレ)-

▼ 関連記事(2018年度 NHK ラジオ英会話)
ハートでつかめ! 英語の極意(NHK ラジオ英会話)
状況をおもいうかべて言う - NHK ラジオ英会話 –
英語の基本文型と語順ルール - NHK ラジオ英会話(4-5月)-
時表現を完成させる - NHK ラジオ英会話(6月)-
助動詞をつかいこなす - NHK ラジオ英会話(7月)-
修飾の語順を身につける - NHK ラジオ英会話(8月)-
否定と比較 - NHK ラジオ英会話(9月)-
to 不定詞 と 動詞 -ing 形 - NHK ラジオ英会話(10月)-
過去分詞・受動態・節 - NHK ラジオ英会話(11月)-
倒置・疑問文 - NHK ラジオ英会話(12月)-
関係詞節による修飾 - NHK ラジオ英会話(1月)-
仮定法と it - NHK ラジオ英会話(2月)-
英語のリズムを身につけよう -「文法力と語順の成熟」(NHK ラジオ英会話 3月)-

▼ 参考文献
『NHK ラジオ英会話』(2022年2月号テキスト)NHK 出版、2022年

▼ 関連教材

(冒頭写真:イングランド、ロンドン、セント・ジェームズ・パーク(St James’s Park)、1999年 撮影)

わかりやすい日本語を書く(20) - 思想のテン –

思想の最小単位をしめします。固有のリズムがうまれます。著者の文体が完成します。

思想の最小単位をしめします。固有のリズムがうまれます。著者の文体が完成します。

今回は、「思想の最小単位としての自由なテン(思想のテン)」(注1)の観点からつぎの例文を検討します。

例文100
わたしの人生論は、人生いかに生きるべきかを論じたものではない、といった。しかし、わたしに実践的関心がいささかもなかったといえば、それはうそになる。(中略)その結論といえるかどうかわかなないが、この本のなかでくりかえしあらわれてくる基調音というのは、目的体系からの離脱ということであり、無目的の自己放出ということである。これだけのことをかがり糸として、この本の、一見無関係ともみえる各章がつづりあわされているのである。

梅棹忠夫著『わたしの生きがい論 -人生に目的があるか-』講談社、1985年(注2)

わかりやすい文ですが、語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがって書きなおしてみます。

例文100a
人生いかに生きるべきかをわたしの人生論は論じたものではないといった。しかし実践的関心がいささかもわたしになかったといえばそれはうそになる。その結論といえるかどうかわかなないがこの本のなかでくりかえしあらわれてくる基調音というのは目的体系からの離脱ということであり無目的の自己放出ということである。一見無関係ともみえるこの本の各章がこれだけのことをかがり糸としてつづりあわされているのである。

原文にしたがって語句の配置をかえ、テンの原則「ながい修飾語」と「逆順」にしたがってテンをうちます。

例文100b
わたしの人生論は、人生いかに生きるべきかを論じたものではないといった。しかしわたしに、実践的関心がいささかもなかったといえばそれはうそになる。その結論といえるかどうかわかなないが、この本のなかでくりかえしあらわれてくる基調音というのは目的体系からの離脱ということであり、無目的の自己放出ということである。これだけのことをかがり糸としてこの本の、一見無関係ともみえる各章がつづりあわされているのである。

原文をよむと、テンの原則にしたがって適切にテンがうたれていることがわかりますがそれだけでなく、「人生いかに生きるべきかを論じたものではない、といった」や「わたしに実践的関心がいささかもなかったといえば、それはうそになる」など、テンの原則によらないテンもあります。

これが、「思想の最小単位としての自由なテン(思想のテン)」(注1)であり、強調や含みなど、ある意味をもたせて特別にうつテンです。

たとえば例文100abと原文をくらべてみれば、例文100aも100bも構文上はまったく問題ありませんが、原文のほうが、著者のメッセージがよりよくつたわってきます。またテンでかるく間(ま)をとってよめばわかるように、原文には、他人がもはや手をくわえられない域に達した著者固有のリズムがうまれています。

こうして思想のテンは、著者独自の文体をつくりだし完成させます。

ただし思想のテンは自由なテンとはいえうちすぎれば効果はなくなり、かえってわかりにくくなります。かんがえぬいたうえで本当に必要なところのみにうつようにします。

さて、「わかりやすい日本語を書く」と題して本ブログにおいてのべ100の例文をこれまで検討してきました。語順の原則・テンの原則・題目語・助詞などに関する日本語の原則を仮説とし、100の例文をつかって検証した結果、例外は1件もみつからず仮説の蓋然性が非常にたかまりました。原則が確立すれば、あとはそれを自在につかっていくことができます。原則は法則といってもよく、あらゆる現象の根本に法則があり、法則はつかえるものです。

わたしは、本多勝一著『日本語の作文技術』を学生のときによんで本多さんの作文技術をすぐにつかいはじめました。「長い修飾語ほど先に」「長い修飾語が2つ以上あるときにその境界にテンをうつ」「原則の逆に語順がなったときにテンをうつ」「題目を表すハ」など、むずかしいことは何もなくすぐにはじめられました。正直、日本語の作文技術(日本語の原則)がとても単純だったことにとてもおどろきました。

しかしその後、まともな日本語が書けない大学教授や日本語は非論理的だというインテリにであったり、日本語習得に苦労している外国人をみかけたり、あるいは他者の報告文などを添削したりしていて、シンプルな原則が日本語に存在することにおおくの人々が気づいていないことがわかりました。そこで折にふれてまたブログで日本語の原則を紹介するようにしました。日本語も、英語などと同様に原則は簡単であり、原則がわかれば、わかりやすい日本語が誰でもすぐに書けるようになります。外国人が日本語を習得するときも原則をつかえば学習が一気に加速します。逆に、その時その場で添削してもらっているだけだとなかなか上達しません。

作文は、人間主体の情報処理におけるアウトプットの手段としてとても重要です。アウトプットはプロセシングの結果であり、内面の表現です。梅棹忠夫流に「自己放出」といってもよいでしょう。アウトプットはその人の心の状態をあらわし、言葉がととのっている人は心もととのっており、言葉がみだれている人は心もみだれています。言葉をとおして、アウトプットの重要性をあらためてとらえなおし、情報処理をすすめ、心ゆたかな人生をおくりたいものです。

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わかりやすい日本語を書く(練習1)
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わかりやすい日本語を書く(練習11)
わかりやすい日本語を書く(練習12)
わかりやすい日本語を書く(練習13)
わかりやすい日本語を書く(練習14)
わかりやすい日本語を書く(練習15)

わかりやすい日本語を書く(16) - プロセシング→アウトプット –
わかりやすい日本語を書く(17) - ながい修飾語ほど先に –
わかりやすい日本語を書く(18) - テンの原則「ながい修飾語」-
わかりやすい日本語を書く(19) - テンの原則「逆順」-
わかりやすい日本語を書く(20) - 思想のテン –
わかりやすい日本語を書く(21) - 題目をあらわす「は」-
わかりやすい日本語を書く(22) - 特定の語句に焦点をあてる –
わかりやすい日本語を書く(23) - 題目と対照(1)-

日本語の作文法:日本語の原則

▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

※ 三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』は、題目をあらわす「○○は」のつかいかたをくわしく解説し、「○○は」の「は」は、「が」「の」「に」「を」を兼務することをしめします。本書をよんで練習すれば、「○○は」と「○○が」のつかいわけができるようになります。

※ 三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』は、『象は鼻が長い』同様、「○○は」のつかいかたをくわしく解説しています。日本語は、すべての修飾成分が述語によって統括される述語中心の言語であり、述語以外はすべて、その補足語として機能することがわかります。したがって日本語には “主語” は存在しません。

※ 本多勝一著『日本語の作文技術』は、「修飾の順序」「句読点のうちかた」「助詞の使い方」などの基本技術をくわしく解説しています。日本語も、非常に少数の簡単な原則でなりたっていることがわかり、本書をよめば誰でもすぐに、わかりやすい日本語が書けるようになります。

※ 本多勝一著『実戦・日本語の作文技術』は、『日本語の作文技術』の続編であり、日本語の作文技術(原則)を復習し、ブラッシュアップするために役だちます。とくに、「読点の統辞論」が参考になります。『日本語の作文技術』は帰納的にのべられているのに対し、『実戦・日本語の作文技術』は演繹的にのべられています。

※ 川喜田二郎著『発想法(改版)』は、定性的データの統合・問題解決・創造性開発に役だつ「KJ法」の基礎を解説しています。取材をしたら、すぐに文章を書かず、図解をつくってから文章化をすすめます。人間主体の情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の観点からいうと、KJ法はアウトプットの方法であることに注目してください。

※ 梅棹忠夫著『知的生産の技術』は、知的生産の原理と技術についてくわしく解説しています。並列的な編集から直列的な表現へすすみ、情報を統合するという文章化の原理をまなんでください。具体的な技術として「こざね法」がつかえます。今日では、つかう道具はちがっていますが知的生産の本質は不変です。

※ 栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』は、「速く・うまく・わかりやすい」文章を書く「速書法」について解説しています。書くことにとどまらず知的能力をたかめます。「結果として速く書ける」ことを目指すのではなく、「速く書くことを追求する過程で、従来とは異なる意識の新しい領域を巻き込む」ことが重要です。

▼ 参考文献の関連記事
三上章 『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』をよむ
日本語法を理解する - 三上章『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』-
本多勝一著『日本語の作文技術』をつかいこなす - まとめ –
語順とテンの原則 - 本多勝一『実戦・日本語の作文技術』-
課題をアウトプットする - 点メモ花火(1)-
「こざね法」でかんがえをまとめる - 梅棹忠夫著『知的生産の技術』をとらえなおす(9)-
散歩をして書きだす - 栗田昌裕『「速く・わかりやすく」書く技術』-

▼ 注1
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年(旧版は1982年)
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年(旧版は1994年)
本多勝一著『本多勝一集 第19巻 日本語の作文技術』朝日新聞社、1996年

▼ 注2
梅棹忠夫著『わたしの生きがい論 -人生に目的があるか-』講談社、1985年
梅棹忠夫著『梅棹忠夫著作集 12 人生と学問』中央公論新社、1991年

点メモと文章化 - 段階的アウトプット –

みたりきいたりしたら点メモをとります。点メモをみて想起し文章化します。段階的なアウトプットが発想をうながします。

みたり きいたりしたら点メモをとります。点メモをみて想起し文章化します。段階的なアウトプットが発想をうながします。

日々の生活のなかであるいは旅先などで、みたり きいたり味わったりしたことをメモすることがよくあるとおもいます。大事なことは記録にのこしておいたほうがよいでしょう。情報の取捨選択がこのときおこります。

メモのとりかたとしては、重要なことについて手みじかにキーワードだけをならべる方法があります。時間をかけずに時系列に点々と単語をしるしていき、これを「点メモ」といいます。

電車のなかで駅のホームで現地・現場で、いそがしいときや移動中はすべてをきちんと書いている時間はありません。時間がとれません。大事なことのみをとりあえず点メモします。あるいは取材などで他者の話をきいているとき、この方法でしたら、こちらがメモをとっているあいだに相手が話を中断しなくてよく、話の腰をおることがありません。また であるいているときに、ちゃんとした文で記録をとろうとすると周囲への注意がうすれ人にぶつかったり危険なことがありますが、点メモなら一瞬でサッとできるので安全です。

情報を取捨選択し要点のみを記録することは、ものごとの大局・本質をぱっとみて判断する力、つまり直観力をたかめる訓練にもなります。

図1 点メモ

そして帰宅したら あるいは時間があるときに記録した点メモをみなおして、点メモをしたときの状況を想起し、今度は、ちゃんとした文章で書きだします。時系列の点メモがあれば、点メモと点メモのあいだのできごとも容易におもいだせ、点メモをふくらませる要領で文章化をすすめることができます。

文章化
図2 文章化

このように、点メモそして文章化は、その場の記録と恒久的な記録をつかいわけるやりかたであり、段階的に情報をアウトプットしていく方法です。ここで、点メモにしろ文章化にしろ、書くことは、人間主体の情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)におけるアウトプットであることに着目してください。点メモはもっとも初歩的な簡単なアウトプットであり、〈点メモ→文章化〉は、情報処理を段階的にすすめていく方法といってもよいでしょう。

現代は情報があふれかえっており、必要のない情報やまちがった情報(ゴミ)もたくさんあり、おおすぎる情報はものごとの見通しを往々にわるくし、判断をあやまらせます。もとめるべきはたくさんの情報ではなく、的確で簡潔な情報であり、シャープな みじかい点メモは情報を整理し見通しをよくします。点メモができる人は思考も鮮明です。

また文章化のときに、多数の点メモをみていると、過去にさかのぼってあるいは未来にむかって大事なことをつぎつぎにおもいつくことがおおく、点メモは発想をうながし、仮説をたてることにつながり、仮説がたつと検証・論理へ展開できます。

とくに、旅行にでかけて点メモをし、宿で(あるいは帰宅して)体験を文章化することをおすすめします。旅行は、時間とお金をかけるので普段とはちがい意識がたかまり、また旅先では心が自由になり、心がひらいた開放系の情報処理がすすみます。旅やフィールドワークは情報処理の訓練に最適です。

わかりやすい日本語を書く(19) - テンの原則「逆順」-

前提として、本来の語順をしっている必要があります。強調など、特別な意図があるときに語順をくずします。内面が外面にあらわれます。

前提として、本来の語順をしっている必要があります。強調など、特別な意図があるときに語順をくずします。内面が外面にあらわれます。

今回は、テンの原則「逆順」(原則の逆に語順がなったときにテンをうつ、注)をつかって以下の例文を検討します。

例文96
発明は改造する、人類を。(アイニッサ・ラミレズ著, 安部恵子訳, 柏書房, 2021年)

例文97
政府は4度目の緊急事態宣言を受けて、酒の販売事業者の経営が困難になる恐れがあるとして、都道府県が支払う支援金の上乗せ額を拡充する。(ABEMA TIMES, 2021.7.14)

例文98
約1時間前から警視庁の刑事と名乗る男が、空き巣に入って偽札に交換した犯人を捕まえたなどと女性宅に電話していた。(朝日新聞デジタル, 2021.12.6)

例文99
昨季までは右肘手術明けで打者に専念した2019年の425打席がキャリア最多だった。(Full-Count, 2021.8.27)

例文96
発明は改造する、人類を。

例文96は本の題名であり、日本語の本来の語順であらわすならば「発明は人類を改造する」ですが、「発明は改造する」が前に配置され、逆順になっています。この場合、「発明は改造する人類を」とすると意味がわからなくなるため、「発明は改造する」のあとにテンをうち「発明は改造する、人類を」とします。これは、テンの原則2-2「原則の逆に語順がなったときにテンをうつ」(逆順の原則)によります。

この本の訳者は、「発明は改造する」ことをとくに強調したかったため本来の語順をくずしたとかんがえられ、このような倒置には特別な意図があり、その心のうごきをくみとることが大事です。

例文97
政府は4度目の緊急事態宣言を受けて、酒の販売事業者の経営が困難になる恐れがあるとして、都道府県が支払う支援金の上乗せ額を拡充する。

「政府」が、「4度目の緊急事態宣言」を受けたかのように一瞬よめてしまいますがそうではなく、「酒の販売事業者の経営」が、「4度目の緊急事態宣言」を受けて「困難になる恐れがある」ということではないでしょうか。

構造化します。

97a

語順の原則「ながい修飾語ほど先に」(注)にしたがって再構造化します。

97b
  • 4度目の緊急事態宣言を受けて酒の販売事業者の経営が困難になる恐れがあるとして都道府県が支払う支援金の上乗せ額を政府は拡充する。

テンがなくても文はなりたちます。

もし、「政府は」を強調したければ文頭にもってきます。この場合、テンの原則「逆順」によりテンをうちます。

  • 政府は、4度目の緊急事態宣言を受けて酒の販売事業者の経営が困難になる恐れがあるとして都道府県が支払う支援金の上乗せ額を拡充する。

「政府は」のあとのテン(逆順のテン)はなくてはならないテンです。一方、「4度目の緊急事態宣言を受けて」のあとのテンと、「酒の販売事業者の経営が困難になる恐れがあるとして」のあとのテンは不要です。誤解をさけるために必要なテンはうち、不要なテンはうたないようにします。

例文98
約1時間前から警視庁の刑事と名乗る男が、空き巣に入って偽札に交換した犯人を捕まえたなどと女性宅に電話していた。

「約1時間前」から「警視庁の刑事と名乗る」と一瞬よめてしまいますが、「約1時間前」から「電話していた」ということではないでしょうか。

構造化します。

98a

語順の原則にしたがって再構造化します。

98b
  • 空き巣に入って偽札に交換した犯人を捕まえたなどと警視庁の刑事と名乗る男が約1時間前から女性宅に電話していた。

もし、「約1時間前から」を強調したければ文頭にもってきて、テンの原則「逆順」によりテンをうちます。

  • 約1時間前から、空き巣に入って偽札に交換した犯人を捕まえたなどと警視庁の刑事と名乗る男が女性宅に電話していた。

「警視庁の刑事と名乗る男が」も強調したいなら文頭にもってきます。

  • 警視庁の刑事と名乗る男が約1時間前から、空き巣に入って偽札に交換した犯人を捕まえたなどと女性宅に電話していた。

この場合は、語順の原則にしたがっているため「警視庁の刑事と名乗る男が」のあとにテンはいりません。

例文99
昨季までは右肘手術明けで打者に専念した2019年の425打席がキャリア最多だった。

わかりにくい文です。構造化します。

語順の原則にしたがって再構造化します。

99b
  • 右肘手術明けで打者に専念した2019年の425打席が昨季まではキャリア最多だった。

ただしい語順にするだけでわかりやすくなります。語順が適切であればテンはいらず、テンをうてばわかりやすくなるというわけではありません。しかしもし、「昨季までは」を強調したければ文頭にもってきて逆順のテンをうちます。

  • 昨季までは、右肘手術明けで打者に専念した2019年の425打席がキャリア最多だった。

そこにおもいをこめたいときに語順を逆順にします。

以上のように、語順が逆順になったときにテンをうちます。単純な原則ですが本来の語順を前提としてしっている必要があります。日本語の語順の原則はつぎのとおりです(注)。

  1. 述部(動詞・形容詞・形容動詞)が最後にくる。
  2. 形容する詞句が先にくる(修飾辞が被修飾辞の前にくる)。
  3. ながい修飾語ほど先に。
  4. 句を先に。

それぞれの場合について検証します。

1. 述部(動詞・形容詞・形容動詞)が最後にくる

  • 桜がさいた。

これを逆順にすると・・・

  • さいた桜が。

これではわからないので、テンの原則「逆順」にしたがってテンをうちます。

  • さいた、桜が。

この種の表現はときどきみかけます。

  • 御嶽海です、優勝力士は。
  • 2月です、第6波のピークは。
  • 愛しています、あなたを。
2. 形容する詞句が先にくる(修飾辞が被修飾辞の前にくる)

  • おいしそうなケーキ。

これを逆順にすると・・・

  • ケーキおいしそうな。

これではわからないのでテンをうちます。

  • ケーキ、おいしそうな。

この種の表現もときどきみかけます。

  • 子供たち、うれしそうな。
  • 富士山、うつくしい。
  • あの花、紫色の。
3. ながい修飾語ほど先に

  • 北アルプス黒部源流をしりつくした登山家がたてた山小屋でさっきとったばかりの山菜を太郎はたべた。

この例文は、語順の原則にしたがっているので問題ありません。しかし「太郎は」を強調して冒頭にもってくるとわかりにくくなります。

  • 太郎は北アルプス黒部源流をしりつくした登山家がたてた山小屋でさっきとったばかりの山菜をたべた。

そこでテンの原則「逆順」によりテンをうちます。

  • 太郎は、北アルプス黒部源流をしりつくした登山家がたてた山小屋でさっきとったばかりの山菜をたべた。

同様に・・・

  • さっきとったばかりの山菜を、北アルプス黒部源流をしりつくした登山家がたてた山小屋で太郎はたべた。

つぎの例文はどうでしょうか。

  • 八ヶ岳山麓の牧場でそだった動物たちを三郎はおくりだした。

「三郎は」を冒頭にもってくると・・・

  • 三郎は八ヶ岳山麓の牧場でそだった動物たちをおくりだした。

わかりにくいためテンが必要です。

  • 三郎は、八ヶ岳山麓の牧場でそだった動物たちをおくりだした。

しかし「三郎」に、「九州から移住してきたとても優秀な山岳ガイドの」という修飾語をつけてながくすればテンはいりません。

  • 九州から移住してきたとても優秀な山岳ガイドの三郎は八ヶ岳山麓の牧場でそだった動物たちをおくりだした。

語句の長短関係に注目しなければならず、「○○は」のあとにテンをうつという原則はありません。

4. 句を先に

  • 筑波鉄道で通勤している国立高速通信研究所のとてもすぐれた技師が来社するという。

この例文は、語順の原則「句を先に」の原則にしたがっており問題ありません。しかし「国立高速通信研究所のとてもすぐれた」を強調するために冒頭にもってくると・・・

  • 国立高速通信研究所のとてもすぐれた筑波鉄道で通勤している技師が来社するという。

誤解が生じるため、テンの原則「逆順」にしたがってテンをうちます。

  • 国立高速通信研究所のとてもすぐれた、筑波鉄道で通勤している技師が来社するという。

以上のように、本来の語順をしっていれば逆順をつかうことができ、その場合テンをうちます。

しかしそもそも、そこで語順を逆にする意味があるのかどうかをよくかんがえたほうがよいです。逆順が必要な場面なのか? ほとんどの場合は本来の語順でまにあうのであり、逆順は、特定の語句を強調したいときや感情が高揚したときなど、特別な場合につかえばよく、つかいすぎると効果がうすれ、かえってわかりにくくなります。テンは、本当に必要なところにうち、また不要なテンはうってはなりません。

文においてテンはとても目立つので、テンのうちかたをみれば文の良し悪し、その人の作文力がすぐにわかりますが、テンのうちかたにむずかしいことは何もなく、訓練もいりません。原則を理解すればよいだけのことです。

▼ 関連記事
わかりやすい日本語を書く(16) - プロセシング→アウトプット –
わかりやすい日本語を書く(17) - ながい修飾語ほど先に –
わかりやすい日本語を書く(18) - テンの原則「ながい修飾語」-
わかりやすい日本語を書く(19) - テンの原則「逆順」-
わかりやすい日本語を書く(20) - 思想のテン –
わかりやすい日本語を書く(21) - 題目をあらわす「は」-
わかりやすい日本語を書く(22) - 特定の語句に焦点をあてる –
わかりやすい日本語を書く(23) - 題目と対照(1)-

▼ 注
日本語の作文法:日本語の原則

▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

心がうごく -「配置の転換」(NHK ラジオ英会話, 2022.01)-

前提として、本来の語順をしっている必要があります。おおきく心がうごいたときに倒置表現をします。内面が外面にあらわれます。

前提として、本来の語順をしっている必要があります。おおきく心がうごいたときに倒置表現をします。内面が外面にあらわれます。

NHK ラジオ英会話、今月は、特別な意図があるときに語句の配置をかえることをまなんでいます。前置き・疑問文・感嘆文など、さまざまな配置転換の例を練習しています。

LESSON 181 焦点を当てる前置き

Last night, I had a big fight with my girlfriend.

いちばん文中で目立つ文頭に前置きすることによって「last night」に焦点をあてます。前にだしたことがわかるように、そのあとに発音上の休止をかるくおきます。

LESSON 182 対比のための前置き

On social media, she’s very outspoken, but in person, she’s quiet and shy.

本来文末にあるはずの「on social media」、「in person」を文頭におくことによって対比の効果があたえられます。対比が明瞭になるテクニックです。

LESSON 183 主語―助動詞倒置 ①:So do I.

I love their music. — So do I.

助動詞要素を主語の前にだした「主語―助動詞倒置」の形です。この形は疑問文専用の形ではなく、感情の高揚をあらわす一般的な形です。

LESSON 184 主語―助動詞倒置 ②:否定的語句の前置き

Never have I seen a spaceship like this!

「have」が主語の前におかれた「主語―助動詞倒置」です。「Never」と強調し、その高揚を倒置でささえながら文を展開します。「×)Never I have 〜」ではバランスがわるいです。

LESSON 186 疑問文基礎

Are you hungry?

疑問文を口にするときには「教えて・知りたい」と感情がうごき、倒置がおこります。

LESSON 187 否定疑問文

Don’t you like it?

否定疑問文は、主語の前におかれた助動詞要素(助動詞・do〈 does、 did〉・be 動詞など)に not をつけるだけです。

LESSON 188 wh 疑問文 ①:基礎

What did you do in Japan?

wh 疑問文には、注意すべきポイントが3つあります。情報の欠けた部分(空所)をもつこと。wh 語を文頭におくこと。wh 語のうしろには、通常(主語を尋ねる場合などのほかは)疑問形がつかわれること。

LESSON 189 wh 疑問文 ②: wh 疑問文に慣れよう

So, how do you like India?

感想を相手にたずねる定番表現です。

LESSON 191 wh 疑問文 ③:主語を尋ねる疑問文

What made you scream?

主語の位置に what をポンとおくだけです。

LESSON 192 wh 疑問文 ④:大きな wh 語

Which song do you like the most?

wh 疑問文でもちいられる wh 語は、ほかの単語をともなって「大きな wh 語」を構成することができます。

LESSON 193 wh 疑問文 ⑤: wh 語を使った聞き返し

Sorry, what did you say?

相手にききかえすときには上昇調にします。もういちど相手に発言をうながす気持ちをこめます。

LESSON 194 wh 疑問文 ⑥:ハイレベル wh 疑問文

Who do you think is behind all this?

この文には who がターゲットとする空所があるはずであり、空所は、「think に後続する節」の主語であり、「is」の前です。

LESSON 196 ちょこっと疑問

You remembered to bring the curry roux, right?

文末に、「, right?」をあげ調子でくわえるだけで立派な疑問文となります。

LESSON 197 付加疑問文

So, she doesn’t want to go out with you anymore, does she?

もととなる文と肯定・否定とをいれかえます。

LESSON 198 あいづち疑問文

I can give you a ride to the airport. — Oh, can you?

「へぇ、そうなんですか?」などと、あいづちを打つときにつかいます。

LESSON 199 感嘆文

What a cool office you have!

感動のポイントに焦点をあてるために、wh 語をつけることによって文頭にだします。

ある語句に焦点をあてたいとき、あることを強調したいときは、いちばん目立つ文頭にそれを配置します。倒置します。2つの語句を明瞭に対比するときも倒置が有効です。

また自分の感情が高揚したときは「主語ー助動詞倒置」をつかいます。よくしられた疑問文も「主語ー助動詞倒置」の一例です。「しりたい」→「おしえて」という気持ちが生じたときは感情がうごき、倒置がおこります。

また おどろき・よろこび・かなしみなど、とくにつよく感情がうごいたとき、感動したときは、そのポイントに焦点をあてるために、wh 語をつけて文頭にそれを配置します(感嘆文)。

こうした倒置が自在にできるようになるためには、前提として、英語本来の語順(語句の配置)をしっている必要があります。本来の語順をしっていてこそ倒置ができます。ラジオ英会話の本年度の4月から12月までの内容が重要です。

このように、焦点をあてたり強調したりしたいとき、感情が高揚したり感動したりしたとき、つまり、おおきく心がうごいたときに倒置がおこるのであり、普段とはちがう心のうごきがあったときに語順がくずれます。人間は普段は、平常心で生活しているとおもいますが、ときに、おおきく心をゆさぶられ、その動揺がおのずと言葉にあらわれます。内面でのプロセシングのゆらぎが外面へアウトプットされます。

倒置で表現されるということは通常とはことなる特別な意図があるということであり、倒置表現によってはっきり意図を相手につたえることができ、他方、倒置表現から相手の意図をただしくくみとることができるでしょう。

このような倒置(逆順)は、英語とはかぎらず何語でもできます。もちろん日本語でも。心がうごいたときに倒置することはあらゆる言語に共通する原理・原則です。

▼ 関連記事(2021年度 NHK ラジオ英会話)
説明ルールと指定ルール -「なぜ日本人は英語を話せないのか?」(NHK ラジオ英会話, 2021.04)-
配置でポン! -「基本文型で意志は伝わる」(NHK ラジオ英会話, 2021.05)-
学習を加速する -「位置がわかれば拡張は簡単」(NHK ラジオ英会話, 2021.06)-
単純さに気がつく -「『説明ルール』で英語を英語として使いこなす」(NHK ラジオ英会話, 2021.07)-
例外はありません -「名詞の説明」(NHK ラジオ英会話, 2021.08)-
うしろを指定する -「指定ルール」(NHK ラジオ英会話, 2021.09)-
心をはたらかせる -「助動詞の征服」(NHK ラジオ英会話, 2021.10)-
距離感をイメージする -「時表現を極める ①」(NHK ラジオ英会話, 2021.11)-
モデルをつかう -「時表現を極める ②」(NHK ラジオ英会話, 2021.12)-
心がうごく -「配置の転換」(NHK ラジオ英会話, 2022.01)-
配置の原則をつかう -「受動態・比較」(NHK ラジオ英会話, 2022.02)-
そのままインプットする -「配置の言葉」(NHK ラジオ英会話, 2022.03)-

イメージと言葉をむすびつける - NHK ラジオ英会話テキスト 2021 –
ファイルのしくみ -「大西泰斗の英会話☆定番レシピ」(NHK Eテレ)-

▼ 関連記事(2018年度 NHK ラジオ英会話)
ハートでつかめ! 英語の極意(NHK ラジオ英会話)
状況をおもいうかべて言う - NHK ラジオ英会話 –
英語の基本文型と語順ルール - NHK ラジオ英会話(4-5月)-
時表現を完成させる - NHK ラジオ英会話(6月)-
助動詞をつかいこなす - NHK ラジオ英会話(7月)-
修飾の語順を身につける - NHK ラジオ英会話(8月)-
否定と比較 - NHK ラジオ英会話(9月)-
to 不定詞 と 動詞 -ing 形 - NHK ラジオ英会話(10月)-
過去分詞・受動態・節 - NHK ラジオ英会話(11月)-
倒置・疑問文 - NHK ラジオ英会話(12月)-
関係詞節による修飾 - NHK ラジオ英会話(1月)-
仮定法と it - NHK ラジオ英会話(2月)-
英語のリズムを身につけよう -「文法力と語順の成熟」(NHK ラジオ英会話 3月)-

▼ 参考文献
『NHK ラジオ英会話』(2022年1月号テキスト)NHK 出版、2022年

▼ 関連教材

(冒頭写真:イングランド、ロンドン、ウェストミンスター宮殿(Palace of Westminster)、1999年 撮影)

わかりやすい日本語を書く(18) - テンの原則「ながい修飾語」-

ながい修飾語が2つ以上あるときその境界にテンをうちます。必要最小限うちます。うってはならぬテンは誤解をうみます。

ながい修飾語が2つ以上あるときその境界にテンをうちます。必要最小限うちます。うってはならぬテンは誤解をうみます。

日本語のテンの第1原則は「ながい修飾語」(ながい修飾語が2つ以上あるときその境界にテンをうつ)です(注)。今回は、この原則をつかって下記の例文を検討します。

例文94
まずこれを意志に対する命令的性質を帯びた法則と解してみれば道徳法とか法律とかそのほか種々の実用的規則というものが最もこの定義に当てはまったものとなって来る。(『西田哲学選集 第二巻』燈影舎, 1998.3.25)

例文95
イギリスでは人類学を生物学的人類学、先史考古学、社会人類学に分け、社会人類学を文化人類学の一分野とみなさず、独立の学問と考え、文化人類学という名称は使わない傾向にある。(日本大百科全書(コトバンク))

例文94はテンのない文であり、テンがなくてもかまいませんが、わかりやすくするためにテンをうつこともできます。

  • まずこれを意志に対する命令的性質を帯びた法則と解してみれば、道徳法とか法律とかそのほか種々の実用的規則というものが、最もこの定義に当てはまったものとなって来る。

これが、ながい修飾語が2つ以上あるときその境界にテンをうつという原則です。

例文94に対して例文95は逆に、テンがおおすぎるのではないでしょうか。まず構造化します。

例文95a

語順の原則「ながい修飾語ほど先に」(注)にしたがって再構造化します。

例文95b

「生物学的人類学、先史考古学、社会人類学」は単語の並列なのでテンではなく中黒をつかったほうがよいです。

  • 文化人類学の一分野とみなさず独立の学問と社会人類学を考え生物学的人類学・先史考古学・社会人類学に人類学を分け文化人類学という名称はイギリスでは使わない傾向にある。

これではわかりにくいので、テンの原則「ながい修飾語」によってテンをうちます。

  • 文化人類学の一分野とみなさず独立の学問と社会人類学を考え、生物学的人類学・先史考古学・社会人類学に人類学を分け、文化人類学という名称はイギリスでは使わない傾向にある。

テンは、おおすぎるとわかりにくくなるので原則にしたがって必要最小限うつようにします。n 個のながい修飾語があるときは(n-1)個のテンが必要になります。重文の境目にうたれるテンもこの「ながい修飾語」の原則によります。

つぎの例文もよんでください。

  • 仕事でいつもいそがしいとてもせっかちな建設会社役員の一郎はトンネルのおおい線路を高速ではしる赤色と黄色の車両が連結した特急できのうの台風でおおきな被害をうけた県境にちかい県庁所在地の西京へいった。

テンの原則「ながい修飾語」をつかえばわかりやすくなります。

  • 仕事でいつもいそがしいとてもせっかちな建設会社役員の一郎は、トンネルのおおい線路を高速ではしる赤色と黄色の車両が連結した特急で、きのうの台風でおおきな被害をうけた県境にちかい県庁所在地の西京へいった。

もし、ながい修飾語がなければテンはいりません。

  • 建設会社役員の一郎は高速ではしる特急で県庁所在地の西京へいった。

しかし必要なところにテンをうたず必要のないところにテンをうつと意味がわからなくなります。うってはならぬテンは誤解をうみます。

  • 仕事でいつもいそがしいとてもせっかちな建設会社役員の一郎はトンネルのおおい線路を、高速ではしる赤色と黄色の車両が連結した特急できのうの台風でおおきな被害をうけた、県境にちかい県庁所在地の西京へいった。

語順の原則とともにテンの原則もとても重要です。

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わかりやすい日本語を書く(20) - 思想のテン –
わかりやすい日本語を書く(21) - 題目をあらわす「は」-
わかりやすい日本語を書く(22) - 特定の語句に焦点をあてる –
わかりやすい日本語を書く(23) - 題目と対照(1)-

▼ 注
日本語の作文法:日本語の原則

▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

モデルをつかう -「時表現を極める ②」(NHK ラジオ英会話, 2021.12)-

時表現(時制)はまちがってはなりません。イメージをつかみます。モデルをつかうとつかい勝手がよくなります。

時表現(時制)はまちがってはなりません。イメージをつかみます。モデルをつかうとつかい勝手がよくなります。

NHK ラジオ英会話、今月は、過去完了形・未来完了形・未来表現・仮定法・動詞原形を用いる形を練習しています。とくに仮定法についてじっくりとりくんでいます。

LESSON 161 過去完了形(had+過去分詞)

By the time you came back from lunch, Arnold had already left.

過去完了形は過去の時点を意識します。

LESSON 162 未来完了形(will have + 過去分詞)

I’ll have finished by around four o’clock.

未来の時点を will で見通し、そして「そのときまでに」出来事がおこっていることを意識します。

LESSON 163 助動詞+完了形

I must have left it in the clubroom.

must(ちがいない)とおもった時点までに、have 以降の出来事がおこったということをしめします。「(過去に)部室に置いてきた(にちがいない)」と現在確信しています。

LESSON 164 未来表現 ①: be going to

I’m going to check out the new stationery shop.

状況が to 以下の事態にむけて進行中という「流れの中」のイメージです。

LESSON 166 未来表現 ②: will

We’ll make it in time.

will は「見通す」イメージを持つ助動詞であり、未来の出来事をあらわすことが頻繁にあります。原因が目に見える「be going to」とは区別しましょう。

LESSON 167 未来表現 ③:現在進行形・現在形の未来

Are they having another concert?

現在進行形が未来の予定をあらわします。

LESSON 168 仮定法 ①:仮定法の心理

I wish I had another friend.

「もうひとり友達がいればいいのに」という現在の内容に過去形 had がつかわれています。仮定法の作り方は「時表現を過去方向にひとつずらす」ことであり、この操作の理由は「距離感」にあります。仮定法の意味は「現実離れ」であり、それを形の上で表現するために本来の時表現から「離して」います。

LESSON 169 仮定法 ②:仮定法の be 動詞

I wish you were here with me.

「現実離れ」をしめすために過去方向に時表現をひとつずらし were とします(注)。

LESSON 171 仮定法 ③:過去の事柄に対する仮定法

I wish I hadn’t said such a stupid thing to her.

過去の事柄について述べているのに過去完了形がつかわれるのは「距離をとる」意識があるからであり、本来の過去形から距離をとった過去完了形で「現実離れ」をあらわします。

LESSON 172 仮定法 ④: if 節を使った仮定法 1

If he stopped complaining, our team would work more efficiently.

「現実離れ」(反事実)をあらわすときには「時表現を過去方向にひとつずらす」という仮定法の基本はいつもおなじです。むすびの節では、「〜となるでしょうねぇ」とひかえめに「ホンワカ」むすぶのが定石です。

LESSON 173 仮定法 ⑤: if 節を使った仮定法 2

If you had asked me, I would have helped you.

過去の事柄で、「現実離れ」(反事実)をあらわすために過去から距離をとる過去完了形をつかいます。過去についての仮定法も「ありえない・ホンワカ」というリズムになります。

LESSON 174 仮定法⑥: if 節を使った仮定法 3

If you had followed my advice, you wouldn’t be in trouble now.

if 節の中は、過去の事柄に対する反事実ですから過去完了形、むすびは、今の状況に思いをはせるため助動詞の過去形 would/could/might をつかいます。

LESSON 176 仮定法 ⑦:織り込まれた条件

Without your support, I couldn’t have gotten the student loan.

「Without your support」は単に「あなたの助けなし」ということであり、ここに、条件のニュアンスをうみだすのは「couldn’t have」です。

LESSON 177 仮定法 ⑧:仮定法を用いたさまざまな表現

If only Arnold Sylvester were here.

「if only」は仮定法とむすびつき、「~であったらいいのに」と、かなわぬ願望や残念におもう気持ちを感情ゆたかにあらわします。

LESSON 178 仮定法 ⑨:文脈を受ける仮定法・助動詞の過去形

I would start by making some pencil sketches of the scenes.

相談に対して、「私なら~するでしょう」とうけています。ポイントは助動詞の過去形です。

LESSON 179 動詞原形を用いる形

I propose the money be spent on new computers for the library.

文全体は propose の内容を the money 以下の節(従属節)が説明するリポート文です。この節の中で、be 動詞の原形 be がつかわれています。「願望・提案・要求」などを表す動詞に後続する節では、動詞は、原形あるいは「should+動詞(原形)」となります。

過去完了形は、過去のある時点から視線がさらに過去にさかのぼるときにつかい、過去の時点をつねに意識します。

未来完了形は、現在完了形の「今に迫ってくる」を、未来の時点に平行移動した「未来のある時点までに」をしめす形であり、未来の時点を will で見通し、そして「そのときまでに」出来事がおこっていることを意識します。

未来表現では、「be going to」のイメージは「流れの中」であり、「will」のイメージは「見通す」であり、これらは区別しなければならず、「be going to」と「will」の変換練習はやめたほうがよいです。

仮定法は、「時表現を過去方向にひとつずらす」ことによって表現でき、「現実離れ」(反事実)の意味は「距離感」(距離をとること)からうまれます(図)。

距離感をイメージ
図 距離感のモデル
(テキスト LESSON 168 の図を簡略化)

動詞原形を用いる形においては、動詞が原形になるのは「実現していない」からであり、命令文でもおなじです。命令文も、その内容は実現していませんので現在形はつかえません。

以上のように、日本語訳ではなくイメージをつかむことを心がけると学習が加速します。日本語訳はちがってもイメージはおなじという例がたくさんあり、イメージがえがければ、日本語訳を暗記しているよりもはるかに理解がすすみます。

たとえば仮定法は、距離感をイメージする(とおくをながめる)ことによってつかえるようになります。仮定法にかぎらず、距離感があるとき(距離をとるとき)には過去形をつかい、これによって、丁寧な言い方や控えめな言い方やすぎさったことも表現(アウトプット)できます。

イメージを厳選し抽象化したものはモデルといってもよいでしょう。ラジオ英会話のテキストには、実際につかえるすぐれたモデルがいくつも掲載されていてたいへん参考になります。モデルを身につければ英語のつかい勝手が格段によくなり、言語にも、一貫したルールがあることもわかります。

先月と今月のレッスンでは時表現にじっくりとりくみ、とても中身のこい訓練になりました。英語にかぎらず何語でも、時表現(時制)は絶対にまちがわないほうがよいです。わたしも、外国人の友人からかつて注意されました。時制をまちがえるとすぐに誤解が生じます。言葉には、多少まちがっても通じる部分とまちがうとミスコミニケーションがかならず生じる部分とがあります(もうひとつ絶対にまちがってはいけないのは数値(数字)です)。

おおくの人々にとっての言語は、“勉強” するというよりもいかにつかいこなすかが課題になるとおもいます。ラジオ英会話をモデルにしてくりかえし練習していくとよいでしょう。

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うしろを指定する -「指定ルール」(NHK ラジオ英会話, 2021.09)-
心をはたらかせる -「助動詞の征服」(NHK ラジオ英会話, 2021.10)-
距離感をイメージする -「時表現を極める ①」(NHK ラジオ英会話, 2021.11)-
モデルをつかう -「時表現を極める ②」(NHK ラジオ英会話, 2021.12)-
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配置の原則をつかう -「受動態・比較」(NHK ラジオ英会話, 2022.02)-
そのままインプットする -「配置の言葉」(NHK ラジオ英会話, 2022.03)-

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to 不定詞 と 動詞 -ing 形 - NHK ラジオ英会話(10月)-
過去分詞・受動態・節 - NHK ラジオ英会話(11月)-
倒置・疑問文 - NHK ラジオ英会話(12月)-
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仮定法と it - NHK ラジオ英会話(2月)-
英語のリズムを身につけよう -「文法力と語順の成熟」(NHK ラジオ英会話 3月)-

▼ 参考文献
『NHK ラジオ英会話』(2021年12月号テキスト)NHK 出版、2021年

▼ CD
NHK CD ラジオ英会話 2021年12月号

▼ 関連教材

注)
be 動詞をつかった仮定法では、単数主語でも be 動詞は were とするのが通例でしたが、これは、仮定法が特別な形をもっていたときのなごりであり、現在では、「単数主語 + was」も多用されます。「時表現を過去方向にひとつずらす」という仮定法のルールがここにもはたらいています。
I wish I were a bird. = I wish I was a bird.
I wish my boyfriend were less shy. = I wish my boyfriend was less shy.

(冒頭写真:イングランド、ロンドン、テムズ川(River Thames)、1999年 撮影)

わかりやすい日本語を書く(17) - ながい修飾語ほど先に –

語順の原則があります。ながい修飾語ほど先に配置します。わかりやすく誤解のない文が誰でもすぐに書けます。

語順には原則があります。ながい修飾語ほど先に配置します。わかりやすく誤解のない文が誰でもすぐに書けます。

日本語の語順には、「ながい修飾語ほど先に」という原則があります(注)。今回は、この原則にしたがって以下の例文を修正してみます。

例文91
私は2軍監督で経験を積んだことも良かったと見ている。(Yahoo!ニュース オリジナル THE PAGE, 2021.12.1)

例文92
選手はこのあと亡命の受け入れを表明したポーランドに向けて出国することになっています。(NHK NEWS WEB, 2021.8.4)

例文93
平成24年の総裁選では岸田氏が幹事長だった石原氏の推薦人を務めた経緯もある。(産経新聞, 2021.9.14)

例文91
私は2軍監督で経験を積んだことも良かったと見ている。

「2軍監督で経験を積んだ」のは「私」であるかのようによめてしまいますが実際には高津監督です。例文91 を構造化すると下図のようになります。

例文91a

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化すると下図のようになります。

例文91b

文章化するとつぎのようになります。

  • 2軍監督で経験を積んだことも良かったと私は見ている。

ながい修飾語を先に配置するだけでわかりやすく誤解のない文になります。

例文92
選手はこのあと亡命の受け入れを表明したポーランドに向けて出国することになっています。

「選手」が「亡命の受け入れを表明した」のかのように一瞬よめてしまいますが「表明した」のはポーランドです。

構造化します。

例文92b

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。

例文92b
  • 亡命の受け入れを表明したポーランドに向けてこのあと選手は出国することになっています。

例文92 は、原則の語順とはまったく逆の語順だったためにわかりにくい文になりました。

例文93
平成24年の総裁選では岸田氏が幹事長だった石原氏の推薦人を務めた経緯もある。

構造化します。

例文93a

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。

93b
  • 幹事長だった石原氏の推薦人を平成24年の総裁選では岸田氏が務めた経緯もある。

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがってならびかえるだけでわかりやすい文になります。

わかりやすい日本語を書くうえで語順はとても重要です。語順がおかしいと相手に意志がうまくつたわりません。

語順の原則のうち「1-1. 述部(動詞・形容詞・形容動詞)が最後にくる」と「1-2. 形容する詞句が先にくる(修飾辞が被修飾辞の前にくる)」についてはとくに説明は要しないとおもいますが、しばしば問題になるのが「1-3. ながい修飾語ほど先に」です。上記の例をみればあきらかなようにこの原則をつかわないとわかりにくい文になります。

つぎの例もみてください。

  • 社交的な太郎に英語とフランス語が得意な光子をアメリカに留学したことがある国際機関スタッフの花子がひきあわせました。

ながい修飾語ほど先にします。

  • アメリカに留学したことがある国際機関スタッフの花子が英語とフランス語が得意な光子を社交的な太郎にひきあわせました。

わかりやすくなりました。つぎの例もよんでください。

  • 私は電気自動車の開発を急速にすすめローランスロイズ社のようにわが国の経済を発展させる自動車メーカーも買収されないようにすべきだと考えます。

ながい修飾語ほど先にします。

  • わが国の経済を発展させる自動車メーカーも電気自動車の開発を急速にすすめローランスロイズ社のように買収されないようにすべきだと私は考えます。

「ながい修飾語ほど先に」の原則をつかえばわかりやすく誤解のない文が書けます。「私は」(あるいは彼は、彼女は、太郎は)を “主語” だから文頭におかなければいけないとおもっている人がいますがそれは誤解であり、英文法を日本文に無理にあてはめて失敗した典型例です。英語と日本語では文法がことなり、それぞれの言語にそれぞれに原則があり、英語のほうが日本語よりもすぐれているということもありません。

たとえば「私」を、「国立国際経済研究所で半世紀にわたって数理モデルで世界経済を研究してきた」と修飾するとつぎのようになります。

  • 国立国際経済研究所で半世紀にわたって数理モデルで世界経済を研究してきた私はわが国の経済を発展させる自動車メーカーも電気自動車の開発を急速にすすめローランスロイズ社のように買収されないようにすべきだと考えます。

「ながい修飾語ほど先に」の原則はむずかしいことは何もなく、字数をかぞえればよいだけのことであり誰でも簡単にすぐにできます。

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わかりやすい日本語を書く(20) - 思想のテン –
わかりやすい日本語を書く(21) - 題目をあらわす「は」-
わかりやすい日本語を書く(22) - 特定の語句に焦点をあてる –
わかりやすい日本語を書く(23) - 題目と対照(1)-

▼ 注
日本語の作文法:日本語の原則

▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

距離感をイメージする -「時表現を極める ①」(NHK ラジオ英会話, 2021.11)-

指定ルールが前提です。空間的なひろがりのなかでイメージします。次元をあげれば学習が加速します。

指定ルールにもとづいて練習します。空間的なひろがりのなかでイメージします。次元をあげれば学習が加速します。

今月の NHK ラジオ英会話は「時表現」を練習しています。「指定ルール」をつかいます。

LESSON 141 過去形 ①:時表現の定位置

It started to rain when we were about to sing our last song.

「指定ルール:指定は前に置く」によって「時」は「前置き」です。「遠いあのとき」をおもいうかべながら「It started to rain」といいます。

LESSON 142 過去形 ②:過去形のイメージ展開1──丁寧

Could you please sign here in my notebook?

生々しい要望から距離をとる感覚で過去形をつかいます。

LESSON 143 過去形 ③:過去形のイメージ展開2──控えめ

I might go to karaoke with her.

過去形の持つ距離感「遠く離れた」により助動詞の過去形は「控えめ」を表現します。現在形のもつ意味から「退き・引いた」感触がこのつかいかたをうみだします。

LESSON 144 現在形 ①:広く・一般的な内容

I’m a digital solutions manager.

現在形のイメージは「身の回り」です。「身の回り」は、「広く・一般的に成り立つ」 をうみだします。

LESSON 146 現在形 ②:現在の思考は現在形で

I think you’re doing a fantastic job.

「身の回り」の感覚は、「現在の思考・感情・知識は現在形で」につながります。

LESSON 147 現在形 ③:宣言・実演

I apologize for not keeping my promise.

話し手の周りで出来事が形づくられることから現在形が選択されます。

LESSON 148 現在形 ④:未来の出来事を前提とするなら現在形

I’ll let you know as soon as I get more information.

そうした状況がおこっていることを「前提」としており、おこっているのが前提なら、現在おこっていることをしめす現在形の使用は自然なことです。

LESSON 149 進行形 ①:進行形の基礎

I’m living in Japan on a work visa.

「比較的短期間続く行為の描写」です。

LESSON 151 進行形 ②:注意すべき進行形

He was sneezing non-stop.

進行形は「比較的短期間続く行為の描写」であり、ここでは、瞬間的な動作が一定期間くりかえされ、つづきます。

LESSON 152 進行形 ③:進行形は外から眺める

Look, I’m apologizing.

進行形は、現在形とはことなり、現在おこっていることを客観的に描写します。

LESSON 153 進行形 ④:進行形は躍動的な行為

I was having a meeting at that time.

会議をするという行為がおこなわれているため進行形となっています。進行形にできるか否かは行為と感じられるかどうか。

LESSON 154 現在完了形 ①:間近に起こった出来事(完了用法)

Look. It’s stopped raining.

この形のイメージは「(今に)迫ってくる」です。過去に属する事柄を「今・現在」にひきつけてかたります。

LESSON 156 現在完了形 ②:過去から現在に至る視線(継続用法)

My spare room has been empty for three weeks.

視線が、過去から現在にむかって移動し、 empty の状態が現在までつづいています。

LESSON 157 現在完了形 ③:過去を今の経験としてとらえる(経験用法)

I’ve traveled all over the world.

過去の出来事を現在にひきつけてかたります。「(今に)迫ってくる」イメージです。

LESSON 158 現在完了形 ④:過去の出来事がもたらす現在(結果用法)

I’ve turned off the water, so it’s OK now.

「水を止めました」という過去の出来事を描写するだけではなく、「水を止めた、その結果、現在水が止まっている」までを意味にふくみます。「(今に)迫ってくる」イメージです。

LESSON 159 現在完了進行形(ずっと~している)

She’s been reading comic books all afternoon.

「(今に)迫ってくる」と、生き生きとした行為の描写である「進行形」とのハイブリッドです。「行為が今に至るまで続く=ずっと~している」となります。

「指定ルール」(指定は前に置く)にもとづいて練習をすすめます。

「遠いあのとき」をおもいうかべながら過去形をつかいます。過去形は、「遠く離れた」という距離感をもつ表現であり、距離感のイメージから「丁寧」ないいかたや「控えめ」ないいかたもうまれます。それに対して現在形は、「身の回り」をイメージし、「現在の思考・感情・知識」、「話し手の周りの出来事」、「前提」などは現在形でいいます。また進行形は「比較的短期間続く行為の描写」であり、現在形とはことなります。現在完了形は、「今に迫ってくる」イメージであり、過去に属する事柄を「今・現在」にひきつけてかたります。

このように、イメージをつかえば、過去形・現在形・現在進行形・現在完了形がこんなに簡単に理解できます。これだけのことです。形式にとらわれずにイメージすることが大事です。

時は、〈過去→現在→未来〉というように1次元でながれるものですが、これをイメージするときには空間をつかい、3次元空間のなかで出来事や対象をおもいうかべることになります。

遠くをイメージしたときには過去形をつかい、はるかかなたは遠い過去に相当し、身の回りをイメージしたときは現在形をつかい、身の回りは現在に相当し、比較的短期間つづく行為をイメージし描写するときには進行形をつかい、遠くから手元にせまってくるイメージでは現在完了形をつかいます。

イメージすることはとても簡単な練習ですが、実は、たいへん奥ぶかい内容をふくんでおり、空間をイメージすることは言語学習にかぎらずあらゆる学習につかえる普遍的な方法です。空間記憶法もその一例です。ラジオ英会話はその方法を実践的にしめしてくれます。

時(過去→現在→未来)や言葉をつかってかんがえるのは1次元ですがイメージ空間は3次元のひろがりであり、1次元から3次元に次元をあげるだけでとくに努力をしなくても情報処理が一気に加速します。そのうえで努力もすればさらに加速するでしょう。

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距離感をイメージする -「時表現を極める ①」(NHK ラジオ英会話, 2021.11)-
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心がうごく -「配置の転換」(NHK ラジオ英会話, 2022.01)-
配置の原則をつかう -「受動態・比較」(NHK ラジオ英会話, 2022.02)-
そのままインプットする -「配置の言葉」(NHK ラジオ英会話, 2022.03)-

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否定と比較 - NHK ラジオ英会話(9月)-
to 不定詞 と 動詞 -ing 形 - NHK ラジオ英会話(10月)-
過去分詞・受動態・節 - NHK ラジオ英会話(11月)-
倒置・疑問文 - NHK ラジオ英会話(12月)-
関係詞節による修飾 - NHK ラジオ英会話(1月)-
仮定法と it - NHK ラジオ英会話(2月)-
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▼ 参考文献
『NHK ラジオ英会話』(2021年11月号テキスト)NHK 出版、2021年

▼ 関連教材

(冒頭写真:イングランド、ロンドン、コヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウス(Royal Opera House)、1999年 撮影)

心をはたらかせる -「助動詞の征服」(NHK ラジオ英会話, 2021.10)-

助動詞は、心の働きをあらわします。〈プロセシング→アウトプット〉訓練をします。情報の流れが加速します。

助動詞は、心の働きをあらわします。〈プロセシング→アウトプット〉訓練をします。情報の流れが加速します。

NHK ラジオ英会話、今月は、助動詞を練習しています。助動詞の位置も「指定ルール」できまります。

LESSON 121 助動詞学習で最も大切なこと

She may get disappointed.

「指定ルール」により助動詞がこの位置におかれます。

LESSON 122 助動詞 may の推量

He may or may not be ill.

may は「推量(~かもしれない)」をあらわし、おおよそ50%の可能性しかありません。may のイメージは「開かれたドア」であり、「閉ざされていない」程度の可能性をしめします。

LESSON 123 助動詞 may の許可

You may use a dictionary during the test.

may があらわすのは「上から下」への許可です。

LESSON 124 助動詞 must の義務

You must use a pen when you fill out this form.

must のイメージは「高い圧力」です。

LESSON 126 助動詞 must の強い確信

There must be some mistake.

「ちがいない」は、どうしてもそうならざるをえないという結論への「高い圧力」からうまれます。そう考えざるをえないという「高い圧力」の感覚とともに練習します。

LESSON 127 助動詞 will の予測

If you go there today, you’ll feel much better tomorrow.

will のイメージは「見通す」です。トンネルの出口の先の情景がありありと見えているという感触です。

LESSON 128 助動詞 will の意志

I’ll give you a hand.

「見通す」は「意志(~するよ)」もうみます。未来に目をやり、「~するよ」という感触です。

LESSON 129 助動詞 can の「できる」

She can swim like a fish.

can のイメージは「潜在」です。秘めた力を見抜く感触をともないます。

LESSON 131 助動詞 can の許可

Don’t worry, you can use this guitar.

can の「潜在」というイメージは「許可」につながります。「許可」といっても、 may のような「権威あるものが下す許可」ではありません。

LESSON 132 助動詞 can の潜在的性質

It can be noisy here at times.

「潜在」から、「潜在的性質:~しうる・~することがある」がうまれます。

LESSON 133 助動詞 should のアドバイス

You shouldn’t jump to conclusions.

should のイメージは「進むべき道」であり、そこから、「アドバイス」がうまれます。「must のマイルドバージョン」です。

LESSON 134 助動詞 should の確信

Don’t worry, it should arrive any minute.

「進むべき道」は、must の「~にちがいない(確信)」のマイルドバージョン、「~のはず」というつかい方をうみだします。

LESSON 136 助動詞類 have to

I have to hand in this report first thing tomorrow morning.

must があくまで主観的な「しなくちゃだめだよ」であるのに対し、 have to には客観的な必要性が感じられます。

LESSON 137 助動詞類 be going to

Hurry, you’re going to be late for your piano lesson!

be going to の「流れの中」を意識しながら練習します。

LESSON 138 助動詞類 had better、used to

We had better clean up the kitchen before Mom gets back.

had better は切迫感あふれる表現です。

LESSON 139 助動詞は重ねて使えない

I should be able to get there by five.

人間は、2つの心理を同時にもつことができないため、助動詞をかさねてつかうことはできません。

「指定ルール」(指定は前に置く)は助動詞の位置にも作用します。may・must・will・can・should など、 助動詞は「心理を表す」表現であり、動詞句の内容が事実そのものではなく、心理内の話なのだと指定します。指定ルールのこのような語順を習得することがとても大切であり、語順とは意識の順番であり、意識とは心の働きです。心の働きは心理といってもよいでしょう。

したがって心の働きがそのまま語順になり言葉としてあらわせるように練習します。そうではなく、日本語の語順でかんがえ英語にあてはめようとすると混乱し、ストレスが蓄積します。

人間がおこなう情報処理(人間主体の情報処理)の観点からいうと、心の働きとはプロセシング、言葉でいいあらわすことはアウトプットです。プロセシングからアウトプットへスムーズに移行する方法のほうがストレスがなく自然であり、情報がながれます。語順のことなる日本語に英語をあてはめようとしたり、心のはたらきがそもそもなかったりすれば情報はながれず、アウトプットもうまくできないのは当然のことです。言葉とは、言葉になる前に心のなかに生じたこと(プロセシング)を、言葉にしてあらわしたものです(アウトプット)。

このような、心をはたらかせてアウトプットするというやり方は、文法書を徹底的によみこんで練習問題にとりくむといったやり方ではなく、どこでも気楽に簡単にできる練習法です。

英語とはかぎらず何語でも、勉強しはじめて半年〜1年で日常会話が普通にできるようになる人と10年たっても日常会話もできない人がいるのは練習法がちがうからです。従来の「日本人式」勉強法で教科書などをよみながら苦労してくるしんでいるとなかなか進歩しません。〈プロセシング→アウトプット〉訓練をしたほうがよいでしょう。

なお今月の番組で、もとになるイメージが助動詞にもあり、may は「開かれたドア」、must は「高い圧力」、will は「見通す」、can は「潜在」、should は「進むべき道」というそれぞれのイメージがわかりました。イメージもおもいうかべれば心がはたらき、アウトプットへおのずとすすめます。情報の流れが加速します。

▼ 関連記事
助動詞をつかいこなす - NHK ラジオ英会話(2018年7月)-

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イメージと言葉をむすびつける - NHK ラジオ英会話テキスト 2021 –

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to 不定詞 と 動詞 -ing 形 - NHK ラジオ英会話(10月)-
過去分詞・受動態・節 - NHK ラジオ英会話(11月)-
倒置・疑問文 - NHK ラジオ英会話(12月)-
関係詞節による修飾 - NHK ラジオ英会話(1月)-
仮定法と it - NHK ラジオ英会話(2月)-
英語のリズムを身につけよう -「文法力と語順の成熟」(NHK ラジオ英会話 3月)-

▼ 参考文献
『NHK ラジオ英会話』(2021年10月号テキスト)NHK 出版、2021年

▼ CD
NHK CD ラジオ英会話 2021年10月号

▼ 関連教材

(冒頭写真:イングランド、ロンドン上空、1999年 撮影)

わかりやすい日本語を書く(16) - プロセシング→アウトプット –

自分がわかるのはプロセシングです。メッセージをつたえるのはアウトプットです。相手にとってわかりやすい文を書きます。

自分がわかるのはプロセシングです。メッセージをつたえるのはアウトプットです。相手にとってわかりやすい文を書きます。

日本語の原則(注)にしたがって以下の例文を今回は修正してみます。

例文86
特別展「和食」(2020年3月〜6月)、特別展「大地のハンター展」(当初の期間 2020年7月〜11月)の期間中に、以前から友の会に入会されていた方には、特別展の補填分として会員期間中に中止・延期となった特別展の回数分、本来の会員期間の終了後に直近で開催される特別展の招待券を差し上げます。(国立科学博物館, 2021.5.31)

例文87
梅雨前線は1日朝に伊豆諸島(東京都)の北部で積乱雲が連続発生する「線状降水帯」をもたらし、気象庁が局地的に激しい雨が降り続けるとして「顕著な大雨に関する情報」を発表していた。(毎日新聞, 2021.7.3)

例文88
県では安否のわかっていない人について心当たりのある人は熱海市役所災害対策本部0557-86-6443に連絡してほしいと呼びかけていて、情報の収集と安否の確認を急ぎたいとしています。(NHK NEWS WEB, 2021.7.6)

例文89
政府はコロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも、首相の号令の下、自治体や職域で作業の加速を促しながら、供給が追い付かず各地で停止を招く失態を演じた。(JIJI.COM, 2021.7.8)

例文90
首相が雇用契約を結ばない個人事業主を指す「フリーランス」と取り違えたという見方が広がっている。(朝日新聞デジタル, 2021.7.10)

例文86
特別展「和食」(2020年3月〜6月)、特別展「大地のハンター展」(当初の期間 2020年7月〜11月)の期間中に、以前から友の会に入会されていた方には、特別展の補填分として会員期間中に中止・延期となった特別展の回数分、本来の会員期間の終了後に直近で開催される特別展の招待券を差し上げます。

やっかいな文です。構造化します。

例文86

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。

例文86b

「特別展「和食」(2020年3月〜6月)」の直後のテン、そして「会員期間中に中止・延期となった特別展の回数分」の直後のテンは不適切であり、「と」におきかえます。

  • 特別展「和食」(2020年3月〜6月)と特別展「大地のハンター展」(当初の期間 2020年7月〜11月) の期間中に以前から友の会に入会されていた方には会員期間中に中止・延期となった特別展の回数分と本来の会員期間の終了後に直近で開催される特別展の招待券を特別展の補填分として差し上げます。

不適切なテンを「と」にかえ、語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがっただけでわかりやすくなりました。さらにわかりやすくするためにテンの原則「2-1. ながい修飾語が2つ以上あるときにその境界にテンをうつ」にしたがってテンをうちます。

  • 特別展「和食」(2020年3月〜6月)と特別展「大地のハンター展」(当初の期間 2020年7月〜11月)の期間中に以前から友の会に入会されていた方には、会員期間中に中止・延期となった特別展の回数分と本来の会員期間の終了後に直近で開催される特別展の招待券を、特別展の補填分として差し上げます。

語順の原則「ながい修飾語ほど先に」とテンの原則「ながい修飾語」をつかうだけでわかりやすくなります。例文86を書いた人は自分ではわかっていたのでしょうが、他者にうまくつたえることができませんでした。人間主体の情報処理の観点からいうと、みずからが理解するのはプロセシング、メッセージを他者につたえるのはアウトプットであり、情報処理の場面・段階がことなります。プロセシング訓練とともにアウトプット訓練も重要です。

そこで日本語の原則が役立ちます。語順の原則「ながい修飾語ほど先に」は、修飾語の文字数をただ単にかぞえて、字数のおおい修飾語を前にもってくればよいだけのことです。とても簡単なことであり誰でもすぐにできます。そしてさらにわかりやすくするためにテンの原則をつかいます。注意点はテンをうちすぎないようにすることです。

例文87
梅雨前線は1日朝に伊豆諸島(東京都)の北部で積乱雲が連続発生する「線状降水帯」をもたらし、気象庁が局地的に激しい雨が降り続けるとして「顕著な大雨に関する情報」を発表していた。

構造化します。

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。

  • 伊豆諸島(東京都)の北部で1日朝に積乱雲が連続発生する「線状降水帯」を梅雨前線はもたらし激しい雨が局地的に降り続けるとして「顕著な大雨に関する情報」を気象庁が発表していた。

さらにわかりやすくするためにテンの原則「2-1. ながい修飾語」にしたがってテンをうちます。

  • 伊豆諸島(東京都)の北部で1日朝に積乱雲が連続発生する「線状降水帯」を梅雨前線はもたらし、激しい雨が局地的に降り続けるとして「顕著な大雨に関する情報」を気象庁が発表していた。

「○○は」とすると、「○○についてのべる」という心もちで題目(話題・課題・主題)をしめすことができます。例文87の題目は「梅雨前線」であり、「梅雨前線は」が題目語です。題目語をとくに強調したいときは先頭にもってきて、その場合は、テンの原則「2-2. 逆順:原則の逆に語順がなったときにテンをうつ」にしたがってテンをうちます。

  • 梅雨前線は、伊豆諸島(東京都)の北部で1日朝に積乱雲が連続発生する「線状降水帯」をもたらし、激しい雨が局地的に降り続けるとして「顕著な大雨に関する情報」を気象庁が発表していた。

例文87は、語順とテンの原則はできていませんでしたが、「○○は」と「○○が」のつかいわけはできていました。係助詞「は」と格助詞「が」はつかいわけなければなりませんが、“主語” という概念にとらわれているとつかいわけられず、例文87には “主語” がたくさんあるといった誤解が生じてしまいます。

例文88
県では安否のわかっていない人について心当たりのある人は熱海市役所災害対策本部0557-86-6443に連絡してほしいと呼びかけていて、情報の収集と安否の確認を急ぎたいとしています。

構造化します。

語順の原則にしたがって再構造化します。

  • 安否のわかっていない人について心当たりのある人は熱海市役所災害対策本部0557-86-6443に連絡してほしいと呼びかけていて情報の収集と安否の確認を県では急ぎたいとしています。

例文88では「県では」が文頭にきており、もし、「県では」(題目語)を強調したければ文頭にもってくればよいですが、この例のような緊急時には、「熱海市役所災害対策本部0557-86-6443に」のほうが重要であり、強調したいこと、重要なことを先にのべたほうがよいでしょう。語順が逆順になった場合にはテンをうちます。

  • 熱海市役所災害対策本部0557-86-6443に、安否のわかっていない人について心当たりのある人は連絡してほしいと呼びかけていて情報の収集と安否の確認を県では急ぎたいとしています。

この例からわかるように、「○○は」(題目語)だから文頭におくということではなく、強調したいこと重要なことを先にのべます。何をつたえたいのか? メッセージをはっきりさせることが大事です。

例文89
政府はコロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも、首相の号令の下、自治体や職域で作業の加速を促しながら、供給が追い付かず各地で停止を招く失態を演じた。

構造化します。

語順の原則にしたがって再構造化します。

  • 首相の号令の下自治体や職域で作業の加速を促しながらコロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも供給が追い付かず各地で停止を招く失態を政府は演じた。

「首相の号令の下自治体や職域で」のところにおいて「下自治体」は漢字がつづいてわかりにくいため、「4. 漢字とカナの原則」(漢字とカナを併用して視覚的にわかりやすくする)にしたがい「下」を「もと」にかえます。

  • 首相の号令のもと自治体や職域で作業の加速を促しながらコロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも供給が追い付かず各地で停止を招く失態を政府は演じた。

漢字がつづいてわかりにくいからといってテンをうってはいけません。テンの原則にあくまでもしたがいます。そもそも例文89はテンがおおすぎます。テンがなくても文がなりたちます。

ただし題目語「政府は」を強調したければ文頭にもってきて、またテンの原則「2-1. ながい修飾語」を適用すると、

  • 政府は、首相の号令のもと自治体や職域で作業の加速を促しながら、コロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも供給が追い付かず各地で停止を招く失態を政演じた。

しかし実際には、「コロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも」のほうが「政府は」よりも重要なのではないでしょうか。

  • コロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも、首相の号令のもと自治体や職域で作業の加速を促しながら、供給が追い付かず各地で停止を招く失態を政府は演じた。

こちらのほうがメッセージがつたわります。

例文90
首相が雇用契約を結ばない個人事業主を指す「フリーランス」と取り違えたという見方が広がっている。

「首相が雇用契約を結ばない」とまずよんでしまい、全文をよみおわってから「首相が取り違えた」のかとわかります。構造化します。

語順の原則にしたがって再構造化します。

  • 雇用契約を結ばない個人事業主を指す「フリーランス」と首相が取り違えたという見方が広がっている。

しかしこれでは、「フリーランスと(および)首相が取り違えた」ともよめてしまうので、例文90のように「首相が」を文頭にもってきたほうがようでしょう。その場合は、テンの原則「2-2. 逆順」によりテンをうちます。

  • 首相が、雇用契約を結ばない個人事業主を指す「フリーランス」と取り違えたという見方が広がっている。

この「逆順」のテンは絶対に必要です。テンがないとストレスが読み手に生じます。

日本語についてある評論家がつぎのようにのべました。

「百合子は三男を愛している。」という文において、「愛している」ことが重要なのに文の最後で述べなければなりません。ここに日本語の弱点があります。もどかしいです。英語でしたら、”Yuriko loves Mitsuo.” と表現できます。日本人の柔軟さとも関係しているのかもしれませんが、日本語では、重要なことを先に述べることはできません。はっきり言うことができません。物事を遠回しにいう習慣や曖昧さがみられます。

しかし「愛している」ことが重要で強調したければつぎのようにすればよいです。

  • 愛している、百合子は三男を。

あるいは

  • 百合子は愛している、三男を。

「三男を」を強調したければつぎのようにします。

  • 三男を、百合子は愛している。

いずれの場合も、語順が、原則の逆順になったためにテンをうちます。

日本語にかぎらず、ネパール語でもヒンディー語でもドイツ語でも英米語でも、それぞれの言語に語順の原則がありますが、強調など、何らかの意図がある場合には原則の逆順にすることが可能です。その場合、誤解をさけるためにテン(コンマ)をうちます。英米語ではたとえば分詞構文もそうです(注2)。「逆順のテン(コンマ)」は、実は、世界の言語に通じる普遍的な原則であり、これをつかえばどうにでものべることができます。ただし前提として、本来の語順をしっている必要があります。

本ブログでもしめしているとおり、語順とテンの原則はむずかしいことは何もなく、誰でも簡単にすぐに修得できます。

このような原則・技術を身につければアウトプットは容易になり、むしろつぎに、何についてのべるのか、何を強調するのかといったアウトプット以前のプロセシングが重要になります。題目(主題)をきめなければなりません。

何語であっても、曖昧にのべようとおもったら曖昧にのべることができ、はっきりのべようとおもったらはっきりのべることができ、論理的にのべようとおもったら論理的にのべることができ、重要だとおもったら先にのべることができます。うまくいえないのは言語のせいではなく、プロセシングがすすんでいないためだということになります。言葉の問題ではなく心の問題です。そもそも何をつたえたいのか?つたえたいことを明確にしていく努力がもとめられます。

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▼ 注1
日本語の作文法:日本語の原則

▼ 注2:分詞構文について
単純さに気がつく -「『説明ルール』で英語を英語として使いこなす」(NHK ラジオ英会話, 2021.07)-