大観します。並列処理します。統合します。
人間主体の情報処理
今回は、「グループ編成」(ラベルひろげ→ラベルあつめ→表札づくり)と人間主体の情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)についてかんがえてみたいとおもいます。
人間は誰でも、目や耳などの感覚器官から内面(心の中)へ情報をとりいれ(インプット)、イメージしたり記憶したり認識したり考えたりしたら(プロセシング)、それらの結果を言語にして外面へはきだしています(アウトプット)。
情報処理というと、コンピューターがおこなうものだとおもっている人がいますが、そもそも人間が情報処理をする存在であり、コンピューターは人間をまねて発達してきました。人間の情報処理は、コンピューターのそれと区別するために「人間主体の情報処理」とよんでおきます。コンピューターは、それを補助する手段として有用です。
グループ編成の「ラベルひろげ」では、ひろげられたラベルを大観しました。つまり、たくさんのラベルからなる かたまりを目からインプットしました。「ラベルあつめ」では、並列させたラベルの中から相似なラベルを認識しました。認識は内面でのできごとであり、プロセシングの過程です。「表札づくり」は、相似なラベルを統合し圧縮し、言語化してアウトプットしました。このように、ラベルひろげではインプットが、ラベルあつめではプロセシングが、表札づくりではアウトプットが重視されました。
ラベルひろげ
ラベルひろげにおける大観は、中心視野だけでなく周辺視野もつかってできるだけ視野をひろくし、全体を丸ごと一気にインプットします。たとえば旅先で、風景をながめたときのことをおもいだしてください。風景を、切れ目のない1枚の「絵」としてみたとおもいます。大局的にとらえたとおもいます。
このようにみると、たくさんのラベルが、渾沌としたひとかたまりとしてとらえられ、渾沌は、渾沌のままインプットすればよく、それは未分化の状態であり、それが何を意味するのかこの段階ではわからなくてかまいません。
KJ法をすでに実践している人でもこの大観をおろそかにしている人がおおいですが、このような見方をすることがまずは大事であり、これが、その後の作業の出発点あるいは基盤になり、また直観にも通じます。
ラベルあつめ
ラベルあつめでは、全体をふまえたうえで、今度は、ラベルを1枚1枚よんでいきます。全体をみて部分をみると今まで以上に全体がみえてきます。認識がふかまり、全体観も強化されます。
ラベルあつめでは、3次元空間のなかでラベルを並列的に処理していきます。立体空間をイメージしながらすすめることが大事です。ラベルは、ファイル(情報のひとまとまり)の表層構造であり、ラベルの下には情報の本体が潜在しており、空間の中にファイルが並列していることがイメージできます。
並列ということは直列ではないということです。箇条書きは直列ですがラベルをひろげるのは並列です。コンピューターは、複数の CPU(中央演算装置)を搭載することによって並列処理をして性能をたかめています。あるいは何か問題が発生し解決策をかんがえるとき、1人でかんがえつづけるのは直列的ですが、複数の人々が、議論をしながらさまざまな意見を同時並行的にだしあって かんがえていくのは並列的なすすめ方です。並列には、情報処理の効率を格段にあげる効果があります。
そして並列のほうが圧倒的に相似に気がつきやすいです。相似に気がつく能力は本源的に誰もがもっているものであり、特殊な能力ではありません。ただし全体観をベースにしていないと相対的な見方ができず、うまくいきません。
表札づくり
表札づくりでは、複数のラベルを統合し言語化してアウトプットします。そもそも言語には、情報を統合する力があり、表札づくりは、作文のための基礎的な練習にもなります。
情報は、あれもこれも何でもアウトプットすればよいというものではなく、多様な情報を統合し要約し、わかりやすく簡潔にあらわしたほうが相手につたわりやすいです。
三拍子がそろう
以上のように、ラベルあつめでは大観が、ラベルひろげでは並列が、表札づくりでは統合がそれぞれ重視され、このような三拍子がそろえば情報処理がいちじるしくすすみます。情報処理の本質に気がついてください。

KJ法というと、情報を統合する方法だとおもっている人がいますが、統合だけでなく、大観と並列にも注目しなければなりません。たとえ、KJ法をつかわなかったとしても、大観・並列・統合を意識するだけで情報処理の速度があがります。大観・並列・統合を心がければ日々の生活がかわります。
まとめ
- 人間主体の情報処理をすすめます。
- 大観します。
- 並列処理します。
- 統合し言語で表現します。
- 情報処理速度があがります。
▼ 関連記事「KJ法のコツ」
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KJ法のコツ(2) − 見出しづくり −
KJ法のコツ(3) − ラベルづくりとラベルひろげ −
KJ法のコツ(4) − ラベルと記憶 −
KJ法のコツ(5) − ラベルあつめ −
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KJ法のコツ(7) − 表札づくり −
KJ法のコツ(8) − ラベルひろげとラベルあつめ(2段目)−
KJ法のコツ(9) − 表札づくり(2段目)−
KJ法のコツ(10) − ラベルひろげとラベルあつめ(3段目)−
KJ法のコツ(11) − 表札づくり(3段目)−
KJ法のコツ(12) − ラベルひろげとラベルあつめ(4段目)−
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KJ法のコツ(14) − グループ編成(5段目)−
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▼ 関連記事「日本語の作文法」
日本語の作文法 ー 原則をつかう ー
▼ 参考文献
川喜田二郎(著)『野外科学の思想と方法』(川喜田二郎著作集 第3巻)、1996年、中央公論社
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 第5巻)、1996年、中央公論社
田野倉達弘(著)『野外科学と実験科学 − 仮説法の展開 −』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『KJ法実践記 情報処理と問題解決』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『国際協力とKJ法 ネパール・ヒマラヤでの実践』、2024年、アマゾンKindle
(冒頭写真:ネパール、カトマンドゥ盆地、パタン、旧王宮広場、1997年12月11日、筆者撮影)