KJ法のコツ(30) − 本質追求 ③ 文章化 −

情報処理

構想をねります。自由奔放に仮説を展開します。全体観をもってフィールドをとらえなおします。

本質追求のKJ法図解をみながら、どこから書きはじめ、どのように書きすすむか構想をねります。状況把握とはちがい本質追求では自分が考えたことを書きます。あらたにおもいついたことを途中で挿入したり、補足説明したりしながら文章化してかまいません。文章化までおこなうとKJ法は完結します。

以下のように文章化しました。

ネパール西部、サリジャ村 − 本質追求 −

サリジャ村の位置

 サリジャ村は、ネパール西部のヒマラヤ中間山地の斜面に位置し、インド系のバフン・チェトリと先住民族系のマガールとが住み分けてくらしており、ひとつの行政区画のなかで住み分け・共存がみられるたいへん興味ぶかい村である。バフンとチェトリとは、とおい昔にインドから移住してきたヒンドゥー教徒たちであり、「パルバテ・ヒンドゥー(山地ヒンドゥー)」ともよばれ、「ジャート」とよばれるネパール独自のカースト制度において上位の階級に位置づけられ(その上位階級のなかではバフンが上、チェトリが下)、ネパールの政治的中心をしめる主流派の人々である。他方のマガールは、「山地ジャナジャーティ(山地民族)」とよばれ先住民族系に属する人々であり、ジャートの下位に位置づけられる。ネパールでは、カースト制度は法的には廃止されているが、社会的・慣習的には依然として残存しており、山地ヒンドゥーが山地民族の上位にくる差別がのこっている。
 サリジャ村では、標高約1900メートルを境に、村の上部ではトウモロコシ栽培がおこなわれ、村の下部では水稲栽培がおこなわれ、栽培作物の境界線が住み分けの境界線になっている。歴史的に、バフン・チェトリの主食は米であり、マガールの主食はトウモロコシである。マガールは、トウモロコシの粉をお湯でねった「ディロ」とよばれる料理をよくたべているが、今では米も買ってたべている。
 マガールとバフン・チェトリは、元々は、別々の集落をつくっくいたが行政区分上おなじ村に無理に統合された。しかし両者は今でも明瞭に住み分けていて、お互いにあまりかかわりあわないようにしているようで、政治的な活動や論争などはほとんどみられない。
 住み分けの仕組み・伝統は、ネパール全体でもみられる。ネパールでは、多様な民族が無秩序に混在するのではなく、国土のなかを空間的に住み分けることによって共存してきた。ネパールは多様性と住み分けの国であるといってよいだろう。
 ところが 1996年〜2006年に、ネパール共産党毛沢東主義派「マオイスト」とネパール政府軍のあいだで「人民戦争」とよばれる内戦がおこった。ネパールは、1990年に、立憲君主制を導入したものの、地方の貧困、カースト制度による差別、政治の腐敗に対する不満などが蓄積していたため、マオイストは農民革命をかかげ、王制をたおして共和国をつくろうとした。
 わたしは、フィールドワークと国際協力のために、サリジャ村の西側、カリガンダキ川よりも西の地域にもはいったことがあり、そこでは、マオイストが活発に活動していた。サリジャ村でも活動はあったが、より西側の地域にくらべればそれはよわく、マオイストからの影響はあまりなかった。マオイストの活動は、西へいくほど、首都カトマンドゥから はなれるほど活発だったようだ。
 山村僻地は、都市部とはちがい発展からとりのこされた地域であり、それゆえに、全人的なやりとりを基盤とする有機的なコミュニティと伝統的な地域文化がかいまみられ、人間味あふれる顔のみえる世界がまだ息づいていたという側面もあった。
 しかし最近、携帯電話やインターネットなど、最新式の文明の利器が急に普及しはじめた。日本などの先進国では、あたらしい技術が段階的に進歩・普及するのであるが、開発途上国では、何もなかったところにあたらしい技術がいきなり はいってくる。さまざまな外来文化が流入し、文化が多様化するにつれ、人生における選沢肢・選択方法もふえ、競争も激化する。伝統的な社会は崩壊し、一人一人のライフスタイルが激変しつつある。森林破壊やゴミ問題など、環境問題も深刻になっている。
 山村は、インフラがよわく、自然災害もおおく、近代的な生活は容易にはひろまらない。交通網など、都市部にくらべて社会基盤(インフラ) 整備が圧倒的におくれ、電力も不足している。土砂災害が多発しているがハザードマップなどが作製されておらず、防災・減災がまったく不十分である。農牧業の近代化もかなりおくれており、ネパールの農牧業は、自給自足から商業化への変革の段階にあるが、地方の山村部ではいまだに自給自足の農牧業である。識字率の低さも地域の発展の障害になっている。地理的なハンデが基本的にあり、インフラ・教育・産業がととのわず、近代化から山村はとりのこされているといえよう。
 近代化のもとでは山村部の人々は不利な競争をしいられる。ネパールの貧困は地方の山村において顕著であり、都市と山村の格差はいちじるしく拡大しつつある。ODA・NGOなど、国際援助がはいった地域と はいらなかった地域の格差も生じている。グローバル化する地域とそうでないローカルな地域の二重構造が頭著になったこともひびいている。カースト制とはことなる貧富の差、あらたな格差が急激に拡大しつつあることに注意しなければならない。
 現金収入をえるためにおおくの男性が外国へ出稼ぎにでる。マオイストによる人民戦争とそれにともなう政治的混乱や閉塞感も若者の出稼ぎに拍車をかけた。男性の若者は、国内にとどまることはかんがえずに出稼ぎのために外国へいくチャンスをだれもがうかがっている。近年は、湾岸諸国(カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、バーレーン、オマーン)へいくネパール人がおおい。非常におおくの家庭において外国からの送金が収入源になっている。外国からの仕送りによって生計をたてている。男性は、出稼ぎ労働者として転出し、女性と子供・高齢者がのこされるというのはネパールの全国的な現象である。村のリーダー(やリーダー的人物)も出稼ぎのためにいなくなってしまい、人材流出が村の発展をさまたげる。貧困であるがゆえに人身売買もおこなわれる。貧困と出稼ぎが常態化して伝統的な社会構造は崩壊しつつある。
 したがって現金収入を地元でえられるようにすることがとてもおおきな課題になってくる。サリジャ村ですすめられている手漉き紙事業と機織り事業といった地場産業も、慈善事業ではなく、現金収入がえられる経営としておこなわなければならない。
 以上のようにサリジャ村は、山岳地域の地理的ハンディキャップが元々あり、あらたな格差、人材の流出、社会の崩壊、ライフスタイルの激変など、いくつもの困難に直面している。
 社会身分制度(ジャート)はネパール全体の問題であるが、サリジャ村でその一端を直接みることができ、同時に、ことなる民族が空間を住み分けて共存する住み分け社会もみることができる。住み分けについては注目している人はあまりいないがとても重要な観点である。そして現在は、社会身分制度にかわるあらたな格差が生じており、都市と山村の格差がひどくなりつつあることを実感できる。
 わたしは、ネパールのフィールドワークを1997年に開始した。当時は、日本ではうしなわれてしまった古き良きものがネパールにはのこっていたが、今では、あのころのネパールはもう存在しない。近代化の潮流にまきこまれ、仕事の中心は出稼ぎになり、人々は、ライフスタイルを変えざるをえない。人材流出だけでなく、耕作地の放棄による土砂災害の増加、環境破壊もすすんでいる。かなりむずかしい状況になってきた。

以上のように、状況把握にくわえ本質追求をおこなうと理解がすすみ考察がふかまります。こうすると、事実と仮説、客観と主観をわけて記述することができます。ちまたには、どこまでが事実でどこからが意見なのか、どれがデータでどれが仮説なのかわからない文章がよくあります。ただしい判断をするためには事実と想像を区別しなければなりません。フェイクがあふれる現代ではとても重要なことです。

このようなことは、科学論文ではルール化されています。観察や実験によってえたデータを記載する章とそれらにもとづいて考察・議論をすすめる章とを厳密にわけてしめします。どこまでがデータでどこからが仮説・推論かを区別して書きます。

したがって〈状況把握→本質追求〉はごく自然なやり方です。事実をしめし状況を把握していれば、本質追求では自由奔放に仮説をのべ議論することができます。しかしもし、状況把握をおこなわないで仮説をのべたとすると、それは根拠のない考え事になり、ピンボケ・妄想になます。“KJ法もどき”をやって満足しているようではよいアイディアはうまれません。

このようにKJ法は、1回だけおこなっても効果がありますが、くりかえすことによってもっと効果があがります。このやり方を「累積KJ法」といいます。

また本質追求では、事実をふまえ、ネパールの概略・全体像を AI をつかってとらえなおしたうえで仮説を発想しました。この方法をつかえば、フィールドワークと AI をくみあわせることができ効果絶大です。全体のなかでそのフィールドをとらえなおすことができ、大局をみて急所にいどむことになり、問題解決にすすんでいけます。

さて、「KJ法のコツ」と題して30回にわたって連載し、KJ法に関して基本的なことを解説してきました。

KJ法にとりくむには、そのまえに、フィールドワークをおこなわなければなりません。フィールドワークでは、目的ではなくて知りたいという気持ちが大事です。フィールドにでかけて目や耳などから内面に情報(事実)をインプットしたら、それらを書きだし(データ化し)、意味のひとまとまりごとに見出しをつけます。見出しをつけることによってファイルができあがります。これらは一次ファイルであり、これが、フィールドワークとKJ法をむすびつけ、軸となり、フィールドワークとKJ法は車の両輪となって回転し展開していきます(車の両輪モデル)。

一次ファイルができたらそれらの見出しをラベル化し、グループ編成にはいります。グループ編成は、〈ラベルひろげ→ラベルあつめ→表札づくり〉であり、ラベルひろげでは、ひろがったラベルの全体を周辺視野もつかって大観します。全体観が大事です。ラベルあつめでは、因果関係ではなく相似関係(類似性)に注目して志の似ているラベルを並列的にあつめセットにします。直列的ではなく並列的に処理していくのがポイントです。表札づくりでは、あつまったラベルの内容を要約・圧縮して単文にしてつづります。言語をつかって多様な情報を一本に統合します。グループ編成では、〈大観→並列→統合〉という3拍子を意識するようにします。

グループ編成を的確につみかさねていくと、物事の核心にますますくいこんでいくことができます。この現象は、観念的ではなく抽象的であり、抽象度がたかまるほど具体的な物事(事実)の核心にせまる力がそなわってきて、フィールドの理解がふかまります。抽象的になるほど具体的なことには役だたないとかんがえる人がいますがそれは誤解です。

さらに、状況把握をふまえて本質追求もおこなうと、ますます抽象化しますが、一方で、具体性にももっとくいこんでいくことができ、これは、事実に根ざす抽象化であり、的確な抽象には、事実(具体性)を貫徹する力があるといえます(下図)。抽象性と具体性の矛盾的自己同一の力といってもよいでしょう。

貫徹する力

つづく図解化では、もっともすわりのよい配置をさがし、空間をつかって並列的にラベルを展開し、3次元の階層構造をつくりあげます。渾沌から秩序がうまれます。

そして文章化では、図解上の島に注目して段落をつくり、日本語の原則もつかって情報を文に統合してアウトプットします。

KJ法の基本は、〈グループ編成→図解化→文章化〉ということであり、ファイルをつくり類似性に着目するところにポイントがあります。KJ法は類比法の技術化です。

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日本語の作文法 ー 原則をつかう ー

▼ 参考文献

KJ法
野外科学と実験科学
KJ法実践記

川喜田二郎(著)『野外科学の思想と方法』(川喜田二郎著作集 第3巻)、1996年、中央公論社
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 第5巻)、1996年、中央公論社
田野倉達弘(著)『野外科学と実験科学 − 仮説法の展開 −』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『KJ法実践記 情報処理と問題解決』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『国際協力とKJ法 ネパール・ヒマラヤでの実践』、2024年、アマゾンKindle

リングノート テフレーヌ

冒頭写真:ネパール、バクタプル、クジャクの窓、1998年2月21日、筆者撮影)

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