KJ法図解をみなおします。構想をねります。日本語の原則をつかいます。
今回の連載「KJ法のコツ」は、連載「わかりやすい日本語を書く」をふまえてはじまりました。そこでは、日本語の原則をつかった作文法(文章化)を実例をしめしながらくわしく解説し、単純明快な日本語の原則をつかえばわかりやすい日本語が誰でも書けることをしめしました。ただし日本語の原則のなかで、5. 知的生産の原則、6. 段落の原則、7. 階層の原則についてはある程度の訓練がいります。
そこでKJ法が役だちます。この方法をつかえば、多様な情報がどんなにたくさんあってもそれらを処理し、原則にしたがって文章化できます。ただし日記・旅行記・歴史・小説など、時系列で物事を順に書いていく方法(物語法)については誰もがよくやっていることであり、KJ法(類比法)をつかう必要はとくになく、説明はいらないとおもいます。以下では、KJ法による文章化の方法を解説します。
まず、KJ法図解(の島)をみなおし、どこから書きはじめ、どのように書きすすむか構想をねります。島につけたシンボルマークをわかりやすい順番にならべてみます。
ネパール西部、サリジャ村 − 状況把握 −
1. 住み分け、2. コミュニティ、3. 矛盾葛藤、4. 生活改善、5. 環境保全、6. 農牧業、7. 地場産業
つぎに、図解中の元ラベルに記入してある()内の番号からデータカードを検索します。()内はデータカードにつけた番号であり、データカードの見出しと本文は「KJ法のコツ(資料)」にしめしてあります。KJ法図解は検索図解としても有用であることをしってください。
1.「住み分け」では、No.47、48 のデータカード(の本文)をひっぱりだします。
47 サリジャ村は、ネパール西部、パルバット郡、ヒマラヤ中間山地(標高約2000m)に位置する。
サリジャ村は、ネパールの首都カトマンドゥから西北西へ直線距離にして約180kmのところに位置し、ネパール西部のパルバット郡に属し、アンナプルナ山麓に発達した、ネパールの典型的な風光明媚な山村である。ネパールは、北緯27度付近に位置しており、緯度は、日本だと奄美大島のあたり(気候帯は亜熱帯)であるが、サリジャ村は標高が約2000mのところにあるため気温がさがり、気候は温帯の範囲にはいる。
48 サリジャ村には、マガールとチェトリがおもにすんでいる。
サリジャ村の上部地帯には、マガールとよばれる先住民族系の人々が畑作と牧畜をいとなんでくらしている。サリジャ村内の下部地帯には、バフンあるいはチェットリとよばれる、インドから大昔に移住してきた人々の子孫が水田稲作と牧畜をいとなんでくらしている。きれいに両者は住み分けている。
データカードのこれらの本文を、KJ法図解中の島の表札もみながらつなげ、日本語の原則にしたがって、誰がよんでもわかるように文に手をいれます。必要があれば補足説明をしてもかまいませんが、あくまでも原文に忠実に自然に文章化をすすめ、内容の変更や大幅な修正は決してしてはならず、あらたにおもいついた仮説や意見などもここで文章にねじこむことはしません。それらは別にメモしておき、後述する「累積KJ法」で活用します。
1.「住み分け」の島はつぎのように文章化しました。
1. 住み分け
サリジャ村は、ネパールの首都カトマンドゥから西北西へ直線距離にして約180kmのところに位置し、ネパール西部・パルバット郡に属し、アンナプルナ山麓(斜面)に発達した、ネパールの風光明媚な典型的な山村である。ネパールの緯度は北緯27度付近、日本だと奄美大島のあたり(気候帯は亜熱帯)であるが、サリジャ村は標高が約2000mあるため気温がさがり、気候は温帯の範囲にはいり、とてもすごしやすい。
サリジャ村の上部地帯には、マガールとよばれる先住民族系の人々が畑作と牧畜をいとなんでくらし、一方、サリジャ村内の下部地帯には、バフンあるいはチェットリとよばれる、インドから大昔に移住してきた人々の子孫が水田稲作と牧畜をいとなんでくらしていて、両者は、きれいに住み分けている。
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つぎに、2.「コミュニティ」の島の文章化にすすみます。島をみなおし内容を確認します。おおきな島でありやや複雑なので、島のなかにある中ぐらいの3つの島に対して小見出しをつけながらすすめます。
2. コミュニティ
顔の見える世界、素朴な子供たち、結婚事情
「顔の見える世界」では、No.6、5、7、41 のデータカード(の本文)を、「素朴な子供たち」では、No.3、4、34、2 を、「結婚事情」では、No.38、46、28 をひっぱりだします。
顔の見える世界
6 村全員の顔と名前を誰もがしっている。
道ばたですれちがうとき、声をかけて近況を聞きあっている。村全員が顔見知りである。見たことが無い人がいればすぐにわかる。
5 他人の家の庭をことわりなくとおって村人たちは自分の家にかえる。
コピラさんやガンマヤさんとサリジャ村を歩くときは道ではなく、知り合い達の家の庭をずんずん踏み込んで近道をいく。通るときも断りを入れる必要は無い様子。通る方も通られる方も、「ご飯食べたの?」が挨拶になる。
7 家と家の前の空間、家畜小屋、洗い場、トイレが一本の動線でむすばれている。
食べたご飯のかすを家畜にやってから洗い場で食器をあらう。家畜達が、家の前のちょっとした広場をしょっちゅう歩いている。ヤギの赤ん坊は家の中に夜は入れている。鶏が畑を自由に歩きまわり、虫や植物を食べて糞をしている。
41 村内には、地区長・委員長・学校長がいるが、民間レベルの問題は村人同士で解決する。
村内には、委員会・学校の長がいる。ワード6のリーダーはアビル氏(42歳)、6〜7年前までは選挙で決めたが、現在は他薦により決定する。民間レベルの問題は、近くの人をよび、おたがいに助けあって解決する。誰かが死亡した時は2〜3日間その場におり、それからみんなで運ぶ。以前は13日間その場にいた。
素朴な子供たち
3 子供たちは裸足であそんでいる。
子供達は、土や石・草の上を裸足でかけずりまわっている。2月の寒さの中でも、家の敷地内では裸足で遊ぶのがあたりまえのようになっている。
4 子供たちはヤギを素手でつかまえてあそんでいる。
サリジャ村の子供達はヤギを追い回し、素手でつかむ。この村には、ゲーム機や人形はなく、生きたものを素手でつかんで子供達は遊んでいる。小さいながらも素手でつかむ方法を心得ている。
34 村の外の世界を子供たちはほとんどしらない。
持っていったお絵描き帳に絵を描いて遊ぶのを好むが、描く絵はいつも同じである。自分で描けるのは誰かに教わった蓮の花(サリジャ村で蓮の花を見た事は無い)。その他、誰かに教わった絵描き歌で習った人の絵など。見た事が「無い」。しきりにいろんな物を描いてとねだってくる。描くとその後、それに付け足したり、まねしたりしてそれを見て楽しそうに自分で描いていく。自分で描き出すにはヒントがいる様だ。
2 母がかつぐドコ(しょい籠)にあこがれて小さいサイズのドコをつねにしょっている少女がいる。
母のはたらく姿をみて、「私もそれをしょいたいから作って」とたのみ、ドコ(しょい籠)をしょっている少女がいた。3〜4歳程度なので非常に小さいサイズのドコを作ってもらったそうだ。学校にいくとき以外はどんな時でもそのドコを担いで歩いている。
結婚事情
38 結婚相手をみつけるお祭りが一大イベントになっている。
結婚に関する話題で男女ともに盛り上がる。男性は、出稼ぎに関する諸外国も話題になる。未婚女性は、ボーイフレンドの話題、既婚女性は、夫の収入や家庭が話題になる。祭開催期間の約5日間で他村から相手を見つけ、プロポーズまでする。祖父母の世代は、気に入った相手を見つけるとおんぶして逃げた。父母の世代は、親に結婚の許しを請うた。今の世代は、祭り(メラ)から連れ出す。マガール族は、ネパール全体に比べ、女性の方が強いとのことである。
46 結婚は、2人の気持ちが尊重されるようになった。
父の世代では、親の言った人と結婚しなくてはならなかったので本人の気持が無視されていた。今は、二人の気持が合ったら結婚というスタイルになり、男女の心が尊重されるようになったので大変よくなったと思う。
28 10代のうちに結婚する人と一生 結婚しない人とがいる。
サリジャ村には、「結婚はしない」という女性達がいるが、別の機会に話がでると「日本人を紹介して欲しい」といったりする。10代のうちに結婚するかもしくは「結婚そのものをしない」かになっている。自分の妹の結婚式を、「村のみんなには言ってないから、隠しておいてね」とも言っていた。
データカードのこれらの本文を島の表札もみながら原文に忠実に自然につなげ、誰がよんでもわかるように文に手をいれます。必要があれば補足説明をしてもかまいませんが内容の変更や大幅な修正は決してしてはならず、あらたにおもいついた仮説や意見などもここで文章にねじこむことはしません。それらは別にメモしておき、後述する「累積KJ法」で活用します。
2.「コミュニティ」の島はつぎのように文章化しました。
2. コミュニティ
顔の見える世界
サリジャ村では、道ばたで誰かとすれちがうときに声をかけて近況を聞きあっている。村全員が顔見知りであり、村全員の顔と名前を誰もがしっている。見たことが無い人がいればすぐにわかる。一緒に仕事をしているコピラさんやガンマヤさんと村内を歩くと、村の道ではない、知り合いの家の庭をずんずん踏み込んで近道をいく。通るときもことわりを入れる必要はなく、通る方も通られる方も「ご飯食べたの?」と挨拶する。
どこの家も家畜を飼育しており、住人は、食べたご飯の残りを家畜にやってから洗い場で食器をあらう。家畜たちは、家の前のちょっとした広場をいつも歩いている。ニワトリが自由に畑を歩きまわり、虫や植物を食べて糞をしている。ヤギの赤ん坊は夜になると家の中にいれる。家と家の前の空間、家畜小屋、洗い場、トイレが一本の動線でむすばれている。
村は、9つのワード(地区)にわかれていて、ワード6(第6地区)のリーダーのアビルさん(42歳)に話をきいた。村には、学校と各種委員会があり、学校長と委員長が大きな役割をになっている。委員長は、6〜7年前までは選挙で決めていたが現在は他薦により決定する。民間レベルの問題は、近くの人々をよんで、おたがいにたすけあって村人同士で解決する。村人が死亡したときは、以前は、13日間その場に安置していたが、現在は、2〜3日間その場に安置し、それからみんなで火葬場へはこぶように話しあって変更した。
素朴な子供たち
サリジャ村の子供達は、土や石・草のうえを裸足でかけずりまわっている。2月の寒さの中でも家の敷地内では裸足であそぶのがあたりまえのようになっている。またヤギをおいまわし、素手でつかむ。この村には、ゲーム機や人形はなく、生きたものを素手でつかんで子供達はあそんでいて、小さいながらも素手でつかむ方法を心得ている。
女の子たちは、はたらく母の姿をよくみてそだつ。「私もそれをしょいたいから作って」とたのみ、ドコ(しょい籠)をしょっている少女がいた。3〜4歳程度なのでとても小さいサイズのドコを作ってもらって、学校にいくとき以外はどんな時でもそのドコをかついで歩いている。
小さな子供たちは、もっているお絵描き帳に絵を描いてあそぶのをこのむが、描く絵はいつもおなじである。自分で描けるのは誰かに教わった蓮の花である(サリジャ村で蓮の花を見た事は無い)。その他、誰かに教わった絵描き歌で習った人の絵など、見たことがない絵が多い。外国人に接すると、いろんな物を描いてとしきりにねだってくる。描いてあげるとそれにつけたしたりまねしたりしてたのしそうに自分で描いていく。子供たちは、村の外の世界をほとんどしらないため自分で描きだすにはヒントがいるようだ。
結婚事情
サリジャ村をふくむ一帯には「メラ」とよばれる祭りが年に1回あり、結婚相手をみつける一大イベントになっている。祭り期間の約5日間で、自分の村以外の人のなかから相手を見つけ、プロポーズまでする。祖父母の世代は、気に入った相手を見つけるとおんぶして逃げた。父母の世代は、結婚の許しを親に請う必要があったが、今の世代は、自分の意志でつれだす。父の世代では、親のきめた人と結婚しなくてはならなかったので本人の気持が無視されていたが、今は、2人の気持が合ったら結婚というスタイルになり、男女の心が尊重されるようになったので大変よくなったと若い人たちはいう。ネパールの一般的な人々にくらべてマガールの人々(マガール民族)は男性よりも女性の方が強いとのことである。
結婚に関する話題になると男女ともに盛り上がる。男性では、出稼ぎに関する諸外国も話題になる。未婚女性では、ボーイフレンドの話題、既婚女性では、夫の収入や家庭が話題になる。
サリジャ村には、「結婚はしない」という女性たちもいる。10代のうちに結婚するか、もしくは一生結婚しないかのどちらかになっている。しかし別の機会に結婚が話題になると、「日本人を紹介して欲しい」といったりする。結婚したことをかくしている人もいる。ある人は、自分の妹の結婚式を、「村のみんなには言ってないから、隠しておいてね」といっていた。
以上みてきたように、サリジャ村には、伝統的な地域文化そして全人的なやりとりを基盤とするコミュニティがまだのこっているといってよいだろう。
まとめ
- KJ法図解をみなおします。
- シンボルマークをわかりやすい順にならべます。
- データカードを検索します(ひっぱりだします)。
- データカード(原文)に忠実に島の表札もみながら文章化します。
- 日本語の原則にしたがって誰がよんでもわかるように文に手をいれます。
- 必要があれば補足説明をします。
▼ 関連記事「KJ法のコツ」
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KJ法のコツ(2) − 見出しづくり −
KJ法のコツ(3) − ラベルづくりとラベルひろげ −
KJ法のコツ(資料)「データカードの見出しと本文」
KJ法のコツ(4) − ラベルと記憶 −
KJ法のコツ(5) − ラベルあつめ −
KJ法のコツ(6) − 相対的にとらえる −
KJ法のコツ(7) − 表札づくり −
KJ法のコツ(8) − ラベルひろげとラベルあつめ(2段目)−
KJ法のコツ(9) − 表札づくり(2段目)−
KJ法のコツ(10) − ラベルひろげとラベルあつめ(3段目)−
KJ法のコツ(11) − 表札づくり(3段目)−
KJ法のコツ(12) − ラベルひろげとラベルあつめ(4段目)−
KJ法のコツ(13) − 表札づくり「核融合法」−
KJ法のコツ(14) − グループ編成(5段目)−
KJ法のコツ(15) − グループ編成(6段目)−
KJ法のコツ(16) − グループ編成と情報処理 −
KJ法のコツ(17)− シンボルマーク −
KJ法のコツ(18) − 図解化(空間配置とインデックス図解)−
KJ法のコツ(19) − 図解化(細部図解 ①〜②)−
KJ法のコツ(20) − 図解化(細部図解 ③〜⑦)−
KJ法のコツ(21) − 図解化(全体図)−
KJ法のコツ(22) − 文章化 ① −
KJ法のコツ(23) − 文章化 ② −
KJ法のコツ(24) − 文章化 ③ −
KJ法のコツ(25) − 文章化(まとめ)−
KJ法のコツ(26) − 日本語の原則とKJ法 −
KJ法のコツ(27) − フィールドワークとKJ法 −
▼ 関連記事「日本語の作文法」
日本語の作文法 ー 原則をつかう ー
▼ 参考文献
川喜田二郎(著)『野外科学の思想と方法』(川喜田二郎著作集 第3巻)、1996年、中央公論社
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 第5巻)、1996年、中央公論社
田野倉達弘(著)『野外科学と実験科学 − 仮説法の展開 −』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『KJ法実践記 情報処理と問題解決』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『国際協力とKJ法 ネパール・ヒマラヤでの実践』、2024年、アマゾンKindle
(冒頭写真:ネパール、カトマンドゥ盆地、スワヤンブナート(寺院)の参道、1998年2月20日、筆者撮影)




