話題の範囲をきめます。「○○は」と「○○が」をつかいわけます。示唆します。
前回にひきつづき、題目と対照の効果について検証します。
例文113
東京・渋谷の東急百貨店本店は31日で閉店する。(中略)隣接する「Bunkamura」はどうなるのか。(朝日新聞デジタル, 2023.1.31)例文114
ソーシャルメディアでは、彼女はずいぶん率直な物言いをしますが、実際に会うと、もの静かで、内気なのです。(NHK ラジオ英会話, 2022年1月号テキスト)例文115
来春の改正では箱根登山鉄道へ直通し箱根湯本へアクセスする「はこね」を減便する一方、朝の新宿方面への通勤特急「モーニングウェイ」と小田急線内小田原までの「さがみ」を増発する。(J-CASTニュース, 2021.12.26)
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例文113
東京・渋谷の東急百貨店本店は31日で閉店する。(中略)隣接する「Bunkamura」はどうなるのか。
適切な日本語です。「○○は」とすることによって題目と対照をしめしています。「東急百貨店本店」についてまずのべ、そして題目(話題)を転換して、「Bunkamura」についてのべます。話題を転換するときには「○○は・・・」としなければならず、そうすれば対照も明瞭にしめせます。
しかし「○○が」とすると違和感が生じます。
- 東京・渋谷の東急百貨店本店が31日で閉店する。(中略)隣接する「Bunkamura」がどうなるのか。
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例文114
ソーシャルメディアでは、彼女はずいぶん率直な物言いをしますが、実際に会うと、もの静かで、内気なのです。
語順の原則「ながい修飾語」にしたがってなおします。
- ソーシャルメディアではずいぶん率直な物言いを彼女はしますが実際に会うともの静かで内気なのです。
テンがなくても文はなりたちますが、この文では、「ソーシャルメディアでは」と「実際に会うと」の対照が問題になっているので、それを強調するためにあえてテンをうちます。
- ソーシャルメディアでは、ずいぶん率直な物言いを彼女はしますが、実際に会うと、もの静かで内気なのです。
さらに、「○○は」をつかうと対照を明瞭にしめせます。「実際に会うと」を「面と向かっては」にかえます。
- ソーシャルメディアでは、ずいぶん率直な物言いを彼女はしますが、面と向かっては、もの静かで内気なのです。
こうすれば、「ソーシャルメディアでは・・・」と「面と向かっては・・・」の対照をはっきり表現できます。
なお英語でも対照を明瞭にしめせます。
- On social media, she’s very outspoken, but in person, she’s quiet and shy.
本来は文末にある「on social media」と「in person」を文頭におくことによって対照の効果がうまれます。対照を明瞭にするテクニックです。
このように、日本語にも英語にも対照を明瞭に表現するテクニックがありますが、そのやり方はまったくことなります。日本語の原則と英語の原則はちがい、英語の原則は日本語にはあてはまりません。日本語の「○○は」は、英語でいうところの “主語” とはことなり、日本語には “主語” はありません。
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例文115
来春の改正では箱根登山鉄道へ直通し箱根湯本へアクセスする「はこね」を減便する一方、朝の新宿方面への通勤特急「モーニングウェイ」と小田急線内小田原までの「さがみ」を増発する。
テンの原則「逆順」にしたがって、「来春の改正では」のあとにテンをうちます。
- 来春の改正では、箱根登山鉄道へ直通し箱根湯本へアクセスする「はこね」を減便する一方、朝の新宿方面への通勤特急「モーニングウェイ」と小田急線内小田原までの「さがみ」を増発する。
このニュースでは、「はこね」と「モーニングウェイ」「さがみ」との対照(減便と増発の対照)が重要であり、それを明瞭にしめすためには「○○を」を「○○は」にします。格助詞「を」は係助詞「は」に変更することができ、係助詞「は」は格助詞「を」を兼務することができます。
- 来春の改正では、箱根登山鉄道へ直通し箱根湯本へアクセスする「はこね」は減便する一方、朝の新宿方面への通勤特急「モーニングウェイ」と小田急線内小田原までの「さがみ」は増発する。
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このように、複数の「○○は」が文のなかにあってもよく、たとえば3つあった場合は、大きな題目のなかで2つの内容を対照させることができます。
つぎの例もみてください。
- A. シベリアは面積がひろくて人口がすくない。
- B. シベリアは面積はひろくて人口はすくない。
構文上は、A でも B でもかまいませんが、B のほうが、面積と人口の対照をあらわしていてわかりやすいです。
- C. 中国は面積がひろくて人口がおおい。
- D. 中国は面積はひろくて人口はおおい。
構文上は、A でも B でもかまいませんが、B は、面積と人口の対照がしめされ違和感があります。対照が必要ない場合は「○○が」とします。あるいは「中国は面積がひろくて人口もおおい」としたほうがよいかもしれません、
- E. 太郎は新聞をよむが雑誌をよまない。
- F. 太郎は新聞はよむが雑誌はよまない。
F のほうがよいのはあきらかです。
- G. 花子はマンガをよむ。
- H. 花子はマンガはよむ。
構文上は、G でも H でもかまいませんが、H の場合は、「花子はマンガはよむが、新聞や雑誌や本はよまない」ということを暗にしめしています。「マンガは」の「は」は対照の「は」であり、これは、(無意識のうちに)日常的に誰もがつかっている表現法です。「○○は」は話題をしめし、話の範囲を限定する機能をもつため、このような示唆(ほのめかし)をすることもできます。
以下も同様です。
- I. 彼の料理は、カレーライスはおいしい。(ほかの料理はまずいがカレーライスだけはおいしい。)
- J. 一郎は今日は来ない。(昨日は来たが今日は来ない。あるいは、今日は来ないが明日は来る。)
- K. 大阪は明日は晴れるだろう。(雨は今日までだろう。)
- L. 理科はできる。(ほかの科目はだめだが理科だけはできる。)
I の場合は、「カレーライスは」を「カレーライスが」とすると、カレーライス以外の料理に関する情報はつたわりません。ほかはまずいというメッセージはつたわりません。L の場合は、「理科は」を「理科が」にすると理科以外の科目に関する情報はつたわりません。
会話では、「カレーライスは」「今日は」「明日は」「理科は」の部分をほかよりもつよくいう(発音する)ことによって対照をほのめかすことができ、メッセージをつたえられます。しかし書き言葉では、省略して示唆するこのような表現は誤解をまねくことがあるので注意が必要です。とくに、「○○は」と「○○が」のつかいわけができないと誤解が生じます。
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三上章 『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』をよむ
日本語法を理解する - 三上章『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』-
▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年
(冒頭写真:六義園)