わかりやすい日本語を書く(16) - プロセシング→アウトプット –

情報処理

自分がわかるのはプロセシングです。メッセージをつたえるのはアウトプットです。相手にとってわかりやすい文を書きます。

日本語の原則(注)にしたがって以下の例文を今回は修正してみます。

例文86
特別展「和食」(2020年3月〜6月)、特別展「大地のハンター展」(当初の期間 2020年7月〜11月)の期間中に、以前から友の会に入会されていた方には、特別展の補填分として会員期間中に中止・延期となった特別展の回数分、本来の会員期間の終了後に直近で開催される特別展の招待券を差し上げます。(国立科学博物館, 2021.5.31)

例文87
梅雨前線は1日朝に伊豆諸島(東京都)の北部で積乱雲が連続発生する「線状降水帯」をもたらし、気象庁が局地的に激しい雨が降り続けるとして「顕著な大雨に関する情報」を発表していた。(毎日新聞, 2021.7.3)

例文88
県では安否のわかっていない人について心当たりのある人は熱海市役所災害対策本部0557-86-6443に連絡してほしいと呼びかけていて、情報の収集と安否の確認を急ぎたいとしています。(NHK NEWS WEB, 2021.7.6)

例文89
政府はコロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも、首相の号令の下、自治体や職域で作業の加速を促しながら、供給が追い付かず各地で停止を招く失態を演じた。(JIJI.COM, 2021.7.8)

例文90
首相が雇用契約を結ばない個人事業主を指す「フリーランス」と取り違えたという見方が広がっている。(朝日新聞デジタル, 2021.7.10)

例文86
特別展「和食」(2020年3月〜6月)、特別展「大地のハンター展」(当初の期間 2020年7月〜11月)の期間中に、以前から友の会に入会されていた方には、特別展の補填分として会員期間中に中止・延期となった特別展の回数分、本来の会員期間の終了後に直近で開催される特別展の招待券を差し上げます。

やっかいな文です。構造化します。

例文86

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。

例文86b

「特別展「和食」(2020年3月〜6月)」の直後のテン、そして「会員期間中に中止・延期となった特別展の回数分」の直後のテンは不適切であり、「と」におきかえます。

  • 特別展「和食」(2020年3月〜6月)と特別展「大地のハンター展」(当初の期間 2020年7月〜11月) の期間中に以前から友の会に入会されていた方には会員期間中に中止・延期となった特別展の回数分と本来の会員期間の終了後に直近で開催される特別展の招待券を特別展の補填分として差し上げます。

不適切なテンを「と」にかえ、語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがっただけでわかりやすくなりました。さらにわかりやすくするためにテンの原則「2-1. ながい修飾語が2つ以上あるときにその境界にテンをうつ」にしたがってテンをうちます。

  • 特別展「和食」(2020年3月〜6月)と特別展「大地のハンター展」(当初の期間 2020年7月〜11月)の期間中に以前から友の会に入会されていた方には、会員期間中に中止・延期となった特別展の回数分と本来の会員期間の終了後に直近で開催される特別展の招待券を、特別展の補填分として差し上げます。

語順の原則「ながい修飾語ほど先に」とテンの原則「ながい修飾語」をつかうだけでわかりやすくなります。例文86を書いた人は自分ではわかっていたのでしょうが、他者にうまくつたえることができませんでした。人間主体の情報処理の観点からいうと、みずからが理解するのはプロセシング、メッセージを他者につたえるのはアウトプットであり、情報処理の場面・段階がことなります。プロセシング訓練とともにアウトプット訓練も重要です。

そこで日本語の原則が役立ちます。語順の原則「ながい修飾語ほど先に」は、修飾語の文字数をただ単にかぞえて、字数のおおい修飾語を前にもってくればよいだけのことです。とても簡単なことであり誰でもすぐにできます。そしてさらにわかりやすくするためにテンの原則をつかいます。注意点はテンをうちすぎないようにすることです。

例文87
梅雨前線は1日朝に伊豆諸島(東京都)の北部で積乱雲が連続発生する「線状降水帯」をもたらし、気象庁が局地的に激しい雨が降り続けるとして「顕著な大雨に関する情報」を発表していた。

構造化します。

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。

  • 伊豆諸島(東京都)の北部で1日朝に積乱雲が連続発生する「線状降水帯」を梅雨前線はもたらし激しい雨が局地的に降り続けるとして「顕著な大雨に関する情報」を気象庁が発表していた。

さらにわかりやすくするためにテンの原則「2-1. ながい修飾語」にしたがってテンをうちます。

  • 伊豆諸島(東京都)の北部で1日朝に積乱雲が連続発生する「線状降水帯」を梅雨前線はもたらし、激しい雨が局地的に降り続けるとして「顕著な大雨に関する情報」を気象庁が発表していた。

「○○は」とすると、「○○についてのべる」という心もちで題目(話題・課題・主題)をしめすことができます。例文87の題目は「梅雨前線」であり、「梅雨前線は」が題目語です。題目語をとくに強調したいときは先頭にもってきて、その場合は、テンの原則「2-2. 逆順:原則の逆に語順がなったときにテンをうつ」にしたがってテンをうちます。

  • 梅雨前線は、伊豆諸島(東京都)の北部で1日朝に積乱雲が連続発生する「線状降水帯」をもたらし、激しい雨が局地的に降り続けるとして「顕著な大雨に関する情報」を気象庁が発表していた。

例文87は、語順とテンの原則はできていませんでしたが、「○○は」と「○○が」のつかいわけはできていました。係助詞「は」と格助詞「が」はつかいわけなければなりませんが、“主語” という概念にとらわれているとつかいわけられず、例文87には “主語” がたくさんあるといった誤解が生じてしまいます。

例文88
県では安否のわかっていない人について心当たりのある人は熱海市役所災害対策本部0557-86-6443に連絡してほしいと呼びかけていて、情報の収集と安否の確認を急ぎたいとしています。

構造化します。

語順の原則にしたがって再構造化します。

  • 安否のわかっていない人について心当たりのある人は熱海市役所災害対策本部0557-86-6443に連絡してほしいと呼びかけていて情報の収集と安否の確認を県では急ぎたいとしています。

例文88では「県では」が文頭にきており、もし、「県では」(題目語)を強調したければ文頭にもってくればよいですが、この例のような緊急時には、「熱海市役所災害対策本部0557-86-6443に」のほうが重要であり、強調したいこと、重要なことを先にのべたほうがよいでしょう。語順が逆順になった場合にはテンをうちます。

  • 熱海市役所災害対策本部0557-86-6443に、安否のわかっていない人について心当たりのある人は連絡してほしいと呼びかけていて情報の収集と安否の確認を県では急ぎたいとしています。

この例からわかるように、「○○は」(題目語)だから文頭におくということではなく、強調したいこと重要なことを先にのべます。何をつたえたいのか? メッセージをはっきりさせることが大事です。

例文89
政府はコロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも、首相の号令の下、自治体や職域で作業の加速を促しながら、供給が追い付かず各地で停止を招く失態を演じた。

構造化します。

語順の原則にしたがって再構造化します。

  • 首相の号令の下自治体や職域で作業の加速を促しながらコロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも供給が追い付かず各地で停止を招く失態を政府は演じた。

「首相の号令の下自治体や職域で」のところにおいて「下自治体」は漢字がつづいてわかりにくいため、「4. 漢字とカナの原則」(漢字とカナを併用して視覚的にわかりやすくする)にしたがい「下」を「もと」にかえます。

  • 首相の号令のもと自治体や職域で作業の加速を促しながらコロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも供給が追い付かず各地で停止を招く失態を政府は演じた。

漢字がつづいてわかりにくいからといってテンをうってはいけません。テンの原則にあくまでもしたがいます。そもそも例文89はテンがおおすぎます。テンがなくても文がなりたちます。

ただし題目語「政府は」を強調したければ文頭にもってきて、またテンの原則「2-1. ながい修飾語」を適用すると、

  • 政府は、首相の号令のもと自治体や職域で作業の加速を促しながら、コロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも供給が追い付かず各地で停止を招く失態を政演じた。

しかし実際には、「コロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも」のほうが「政府は」よりも重要なのではないでしょうか。

  • コロナ対策の柱と位置付けるワクチン接種でも、首相の号令のもと自治体や職域で作業の加速を促しながら、供給が追い付かず各地で停止を招く失態を政府は演じた。

こちらのほうがメッセージがつたわります。

例文90
首相が雇用契約を結ばない個人事業主を指す「フリーランス」と取り違えたという見方が広がっている。

「首相が雇用契約を結ばない」とまずよんでしまい、全文をよみおわってから「首相が取り違えた」のかとわかります。構造化します。

語順の原則にしたがって再構造化します。

  • 雇用契約を結ばない個人事業主を指す「フリーランス」と首相が取り違えたという見方が広がっている。

しかしこれでは、「フリーランスと(および)首相が取り違えた」ともよめてしまうので、例文90のように「首相が」を文頭にもってきたほうがようでしょう。その場合は、テンの原則「2-2. 逆順」によりテンをうちます。

  • 首相が、雇用契約を結ばない個人事業主を指す「フリーランス」と取り違えたという見方が広がっている。

この「逆順」のテンは絶対に必要です。テンがないとストレスが読み手に生じます。

日本語についてある評論家がつぎのようにのべました。

「百合子は三男を愛している。」という文において、「愛している」ことが重要なのに文の最後で述べなければなりません。ここに日本語の弱点があります。もどかしいです。英語でしたら、”Yuriko loves Mitsuo.” と表現できます。日本人の柔軟さとも関係しているのかもしれませんが、日本語では、重要なことを先に述べることはできません。はっきり言うことができません。物事を遠回しにいう習慣や曖昧さがみられます。

しかし「愛している」ことが重要で強調したければつぎのようにすればよいです。

  • 愛している、百合子は三男を。

あるいは

  • 百合子は愛している、三男を。

「三男を」を強調したければつぎのようにします。

  • 三男を、百合子は愛している。

いずれの場合も、語順が、原則の逆順になったためにテンをうちます。

日本語にかぎらず、ネパール語でもヒンディー語でもドイツ語でも英米語でも、それぞれの言語に語順の原則がありますが、強調など、何らかの意図がある場合には原則の逆順にすることが可能です。その場合、誤解をさけるためにテン(コンマ)をうちます。英米語ではたとえば分詞構文もそうです(注2)。「逆順のテン(コンマ)」は、実は、世界の言語に通じる普遍的な原則であり、これをつかえばどうにでものべることができます。ただし前提として、本来の語順をしっている必要があります。

本ブログでもしめしているとおり、語順とテンの原則はむずかしいことは何もなく、誰でも簡単にすぐに修得できます。

このような原則・技術を身につければアウトプットは容易になり、むしろつぎに、何についてのべるのか、何を強調するのかといったアウトプット以前のプロセシングが重要になります。題目(主題)をきめなければなりません。

何語であっても、曖昧にのべようとおもったら曖昧にのべることができ、はっきりのべようとおもったらはっきりのべることができ、論理的にのべようとおもったら論理的にのべることができ、重要だとおもったら先にのべることができます。うまくいえないのは言語のせいではなく、プロセシングがすすんでいないためだということになります。言葉の問題ではなく心の問題です。そもそも何をつたえたいのか?つたえたいことを明確にしていく努力がもとめられます。

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▼ 注1
⭐️日本語の作文法:日本語の原則

▼ 注2:分詞構文について
単純さに気がつく -「『説明ルール』で英語を英語として使いこなす」(NHK ラジオ英会話, 2021.07)-

▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年(初版1976年)
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年(初版1994年)
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年(初版1967年)
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

象は鼻が長い

※ 三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』は、題目をあらわす「○○は」のつかいかたをくわしく解説し、「○○は」の「は」は、「が」「の」「に」「を」を兼務することをしめします。本書をよんで練習すれば、「○○は」と「○○が」のつかいわけができるようになります。

続・現代語法序説 - 主語廃止論 -

※ 三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』は、『象は鼻が長い』同様、「○○は」のつかいかたをくわしく解説しています。日本語は、すべての修飾成分が述部によって統括される述部中心の言語であり、述部以外はすべて、その「補足語」として機能します。したがって日本語には “主語” は存在しません。

日本語の作文技術

※ 本多勝一著『日本語の作文技術』は、「修飾の順序」「句読点のうちかた」「助詞の使い方」などの基本技術をくわしく解説しています。日本語も、非常に少数の簡単な原則でなりたっていることがわかり、本書をよめば誰でもすぐに、わかりやすい日本語が書けるようになります。

実戦・日本語の作文技術

※ 本多勝一著『実戦・日本語の作文技術』は、『日本語の作文技術』の続編であり、日本語の作文技術(原則)を復習し、ブラッシュアップするために役だちます。とくに、「読点の統辞論」が参考になります。『日本語の作文技術』は帰納的にのべられているのに対し、『実戦・日本語の作文技術』は演繹的にのべられています。

発想法(改版)

※ 川喜田二郎著『発想法(改版)』は、フィールドワーク・定性的データの統合・問題解決に役だつ「KJ法」の基礎を解説しています。取材をしたらすぐに文章を書かず、図解をつくってから文章化をすすめます。人間主体の情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の観点からいうと、取材法はインプットの、KJ法はアウトプットの方法であることに注目してください。

※ 梅棹忠夫著『知的生産の技術』は、知的生産の原理と技術についてくわしく解説しています。並列的な編集から直列的な表現へすすみ、情報を統合するという文章化の原理をまなんでください。具体的な技術として「こざね法」がつかえます。今日では、紙でできた道具はつかわずコンピューターをつかいますが、つかう道具はちがっても知的生産の本質は不変です。

※ 栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』は、「速く・うまく・わかりやすい」文章を書く「速書法」について解説しています。書くことにとどまらず知的能力をたかめます。「結果として速く書ける」ことを目指すのではなく、「速く書くことを追求する過程で、従来とは異なる意識の新しい領域を巻き込む」ことが重要です。

(冒頭写真:六義園、筆者撮影)

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