ファイルを意識します。階層構造をつくります。部分と全体が共鳴します。
日本語の原則として、これまで、1. 語順の原則、2. テンの原則、3. 助詞の原則、4. カナと漢字の原則、5. 知的生産の原則、6.段落の原則についてのべてきました。最後の原則(第7原則)は階層の原則です。
階層の原則
- 段落、節、章というように階層的に情報をファイルする。
長い文章や単行本は、段落・節・章によって構成されます。これらを人体にたとえると、基節骨・中節骨・末節骨の3つの部分からなる指のそれぞれの部分は段落に相当し、部分の堺の関節が改行にあたります。3つの部分(段落)があつまってできた指は節に相当します。親指・人差し指・中指・薬指・小指・手のひら・手根(手首)があつまってできた手は章です。そして手・腕・胴・足・頭などがあつまってできた人体は長い文章や単行本にあたります。このように部分があつまって全体が構成されます。
ここで、それぞれの部分もそれらで構成される全体もともに情報のひとまとまり(意味のひとまとまり)になっているということが重要です。段落の原則の項で、段落は、表現の単位、情報のひとまとまりであるとのべましたが、節も情報のひとまとまり、章も情報のひとまとまり、単行本や報告書・論文の全体も情報のひとまとまりでなければなりません。
本は章からなり、章は節からなり、節は段落からなり、これらの情報のひとまとまりは情報用語で「ファイル」といい、すなわち部分も全体もともにファイルであり、全体ファイルのなかに、中ファイルがふくまれ、中ファイルのなかに小ファイルがふくまれ、階層構造(多重構造)をつくります。このような仕組みにより、部分と全体が共鳴し つよめあう効果がうまれます。

このような階層構造は、コンピューター・ファイルも同様です。またモデルとして、宇宙の構造やマンダラなども参考になります。
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さて、「わかりやすい日本語を書く」と題して30回にわたって連載してきました。日本語も、原理・原則は単純明快であり、それらを利用すれば、わかりやすい日本語が誰でも書けるようになります。
ただし、知的生産の原則(並列・直列・統合の原則)、段落の原則(ファイルの原則)、階層の原則については、具体的にどう実践したらよいか、もっとくわしい解説がいるかもしれません。そこで「KJ法」が役だちます。KJ法とは、ヒマラヤ探検家・民族地理学者の川喜田二郎が創始した発想と問題解決の方法であり、その技術をつかえば、長い文章が誰でも書けるようになります。技術とは、練習すれば誰でも習得できるものであり、特別な能力は必要ありません。
これで、連載「わかりやすい日本語を書く」は終了します。今後は、「KJ法のコツ」としてあらたな連載をはじめたいとおもいます。
▼ 参考文献
本多勝一(著)『【新版】日本語の作文技術』(朝日文庫), 2015年, 朝日新聞出版
本多勝一(著)『日本語の作文技術』(本多勝一集 19), 1996年, 朝日新聞出版
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 5), 1996年, 中央公論新社
川喜田二郎(著)『発想法 改版 創造性開発のために』(中公新書), 2017, 中央公論新社
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(冒頭写真:六義園、2022年4月28日、筆者撮影)