わかりやすい日本語を書く(25) − 題目と対照(3) −

情報処理

とりだして明示します。潜在する対照を意識します。「○○は+否定」のつかい方を習得します。

前回にひきつづき、題目と対照の効果について検証します。

例文116
1日は、沖縄は雲に覆われ、にわか雨の所がある。(NHK NEWS WEB, 2022.4.30)

例文117
(予報です。東日本です。)暑さが今日までです。(NHK ニュース7「お天気コーナー」, 2023.4.21)

例文118
記録媒体を処分する際、職員がデータの消去に立ち会うようにしていたが、今回は行わず、業者側に機器の処分方法を明確に指定していなかったという。(読売新聞オンライン, 2022.4.29)

例文119
相談者が上司の思うように動けないと、無視されるといったことが続いた。(弁護士ドットコム, 2024.12.3)

例文116
1日は、沖縄は雲に覆われ、にわか雨の所がある。

「1日は」は、「1日」についてのべるならばと題目を提示し、さらに「沖縄は・・・」とつづき、「沖縄は」は「沖縄」についてのべるならばということであり、「1日」にふくまれる ちいさな題目語とみなすこともできますが、対照の効果もうみだしています。すなわち沖縄は、「雲に覆われ、にわか雨の所があ」りますが、たとえば本州は晴れるでしょうとか、東北地方は快晴でしょうとかいうことを暗示させます。沖縄以外の地域についてのべなくても、潜在的な対照の効果が「○○は」によりうまれ、ほかの地域は沖縄とはちがうことをしめすことができます。

例文117
(予報です。東日本です。)暑さが今日までです。

違和感をおぼえ、「暑さ今日までです」のほうがただしいのではないかとおもう人がいるかもしれませんが、「暑さが今日まで(つづく)」という情報(予報)をつたえることはできています。

しかし「暑さ今日までです」とのべたらどうでしょうか?この場合は、

  • 暑さは今日までで平年並みにもどります。
  • 暑さは今日までで寒さはつづきます。
  • 暑さは今日までですが晴天はつづきます。
  • 暑さは今日までですが湿度はたかいままです。

など、「暑さ」の対照となる情報を潜在させることができます。「○○は」は、特定の言葉(情報)をとりだし話題を限定するので、その話題とそれ以外の情報を区別し、それらを対照させることができます。「○○は」とすることによって話題(題目)を明示するとともに対照を潜在させることができます。したがって対照をつたえたければ「○○が」ではなく「○○は」としなければなりません。

「○○が」と「○○は」のつかいわけはとても重要であり、日本語ができる人はまぎれもなくこれらをつかいわけています。感覚的にやっていてもうまくいきません。

例文118
記録媒体を処分する際、職員がデータの消去に立ち会うようにしていたが、今回は行わず、業者側に機器の処分方法を明確に指定していなかったという。

ここでは、「今回は行わず」に注目すると、いつもは(これまでは)行っていたが今回にかぎっては行わなかったということであり、「今回は」の「は」が大事です。「○○は」として話題(題目)をとりだして明示することによって話題を限定すると、それ以外の情報(この例文では「いつも」)と対照させることができます。対照となる言葉を書かなくてもそれを潜在的にしめすことができます。

例文119
相談者が上司の思うように動けないと、無視されるといったことが続いた。

この例文は、弁護士ドットコムからの引用であり、このサイトは、さまざまな相談を一般の人々からうけつけ、よせられた事例を紹介しながら解決策を提案しています。

例文119を、語順の原則「ながい修飾語」にしたがってなおすとつぎのようになります。テンがなくても文が成立します。

  • 上司の思うように動けないと相談者が無視されるといったことが続いた。

「相談者が」を強調したければ文頭にもってきて、テンの原則によりテンをうちます。

  • 相談者が、上司の思うように動けないと無視されるといったことが続いた。

例文119は、テンのうちかたが不適切でした。

弁護士ドットコムの記事によれば、この相談者は、事務職の正社員として会社にはいりまじめにはたらきましたが、直属の上司は威圧的な態度をとって指導せず、質問をしても「過去の控えを見て」というだけで回答せず、2年後に、「正社員から契約社員に変更したい」と会社から突然いわれました。相談者は、献身的にはたらいていたにもかかわらず、上司の意向にそっていなかったことを理由に無視され、契約社員にされそうになりました。

ここでは、相談者の仕事と上司の意向がくいちがっていたことが問題であり、両者の対照をあきらかにするためには、例文の「上司の思うように」のあとに「は」をいれます。

  • 相談者が、上司の思うように動けないと無視されるといったことが続いた。

こうすれば、まじめにはたらいていたが、上司の思うようには動けなかったということを明確にすることができます。「○○は」とすることによって対照となる情報を潜在させることができます。

このような「○○は+否定」はよくつかわれます。

  • 今日は太郎きません。
  • 今日は太郎きません。

「今日は太郎がきません」は、今日は太郎がこないという情報をただつたえているだけ(それ以上でも以下でもない)ですが、「今日は太郎きません」とのべると、太郎はこないが三郎はくるとか、太郎はこないが良子はくるとか、対照となる情報を潜在させることになります。

つぎも同様です。

  • 一郎は理科すきではありません。
  • 一郎は理科すきではありません。

「一郎は理科すきではありません」とのべれば、一郎は、ほかの科目(たとえば国語や社会など)はすきであることをしめせます。口語では「は」をつよく発音します。

つぎもみてください。

  • 花子のように太郎は英語がしゃべれない。

この例文では、花子も太郎もともに英語がしゃべれないのか、花子は英語がうまくしゃべれるのに対し、太郎は英語がうまくしゃべれないのか、わかりません。複数の解釈がなりたちます。

花子は、太郎よりもうまく英語がしゃべれる(太郎は、花子よりも英語がへたである)ことをのべるには「花子のように」のあとに「は」をいれます。

  • 花子のように太郎は英語がしゃべれない。

こうすれば、花子は英語がうまくしゃべれるが、太郎は、花子のようにはうまくしゃべれないことをしめせます。

以下も同様です。

  • 山野公園のように沿岸公園はひろくない。
  • 山野公園のように沿岸公園はひろくない。
  • 香港のようにバンコクは地下鉄が発達していない。
  • 香港のようにバンコクは地下鉄が発達していない。
  • 昨年のように雪がふらないでしょう。
  • 昨年のように雪がふらないでしょう。

このように、「は」をいれるかいれないかによって意味がちがったり、重大な誤解が生じたりします。「○○は」は話題をとりだし、話(情報)の範囲を限定する機能をもつため、おのずと対照がはたらき、具体的にそれを書かなくても情報を潜在させることができます。「○○は+否定」はつかい勝手がありますがつかい方には十分注意する必要があります。

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「○○は」によって題目をしめす - 学問の自由は保障する –
「は」と「が」をつかいわける - 川本茂雄『ことばとこころ』-
三上章 『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』をよむ
日本語法を理解する - 三上章『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』-

▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年(初版1976年)
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年(初版1994年)
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年(初版1967年)
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

象は鼻が長い

※ 三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』は、題目をあらわす「○○は」のつかいかたをくわしく解説し、「○○は」の「は」は、「が」「の」「に」「を」を兼務することをしめします。本書をよんで練習すれば、「○○は」と「○○が」のつかいわけができるようになります。

続・現代語法序説 - 主語廃止論 -

※ 三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』は、『象は鼻が長い』同様、「○○は」のつかいかたをくわしく解説しています。日本語は、すべての修飾成分が述部によって統括される述部中心の言語であり、述部以外はすべて、その「補足語」として機能します。したがって日本語には “主語” は存在しません。

日本語の作文技術

※ 本多勝一著『日本語の作文技術』は、「修飾の順序」「句読点のうちかた」「助詞の使い方」などの基本技術をくわしく解説しています。日本語も、非常に少数の簡単な原則でなりたっていることがわかり、本書をよめば誰でもすぐに、わかりやすい日本語が書けるようになります。

実戦・日本語の作文技術

※ 本多勝一著『実戦・日本語の作文技術』は、『日本語の作文技術』の続編であり、日本語の作文技術(原則)を復習し、ブラッシュアップするために役だちます。とくに、「読点の統辞論」が参考になります。『日本語の作文技術』は帰納的にのべられているのに対し、『実戦・日本語の作文技術』は演繹的にのべられています。

発想法(改版)

※ 川喜田二郎著『発想法(改版)』は、フィールドワーク・定性的データの統合・問題解決に役だつ「KJ法」の基礎を解説しています。取材をしたらすぐに文章を書かず、図解をつくってから文章化をすすめます。人間主体の情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の観点からいうと、取材法はインプットの、KJ法はアウトプットの方法であることに注目してください。

※ 梅棹忠夫著『知的生産の技術』は、知的生産の原理と技術についてくわしく解説しています。並列的な編集から直列的な表現へすすみ、情報を統合するという文章化の原理をまなんでください。具体的な技術として「こざね法」がつかえます。今日では、紙でできた道具はつかわずコンピューターをつかいますが、つかう道具はちがっても知的生産の本質は不変です。

※ 栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』は、「速く・うまく・わかりやすい」文章を書く「速書法」について解説しています。書くことにとどまらず知的能力をたかめます。「結果として速く書ける」ことを目指すのではなく、「速く書くことを追求する過程で、従来とは異なる意識の新しい領域を巻き込む」ことが重要です。

(冒頭写真:六義園、2022年4月1日、筆者撮影)

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