わかりやすい日本語を書く(17) - ながい修飾語ほど先に –

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語順には原則があります。ながい修飾語ほど先に配置します。わかりやすく誤解のない文が誰でもすぐに書けます。

日本語の語順には、「ながい修飾語ほど先に」という原則があります(注)。今回は、この原則にしたがって以下の例文を修正してみます。

例文91
私は2軍監督で経験を積んだことも良かったと見ている。(Yahoo!ニュース オリジナル THE PAGE, 2021.12.1)

例文92
選手はこのあと亡命の受け入れを表明したポーランドに向けて出国することになっています。(NHK NEWS WEB, 2021.8.4)

例文93
平成24年の総裁選では岸田氏が幹事長だった石原氏の推薦人を務めた経緯もある。(産経新聞, 2021.9.14)

例文91
私は2軍監督で経験を積んだことも良かったと見ている。

「2軍監督で経験を積んだ」のは「私」であるかのようによめてしまいますが実際には高津監督です。例文91 を構造化すると下図のようになります。

例文91a

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化すると下図のようになります。

例文91b

文章化するとつぎのようになります。

  • 2軍監督で経験を積んだことも良かったと私は見ている。

ながい修飾語を先に配置するだけでわかりやすく誤解のない文になります。

例文92
選手はこのあと亡命の受け入れを表明したポーランドに向けて出国することになっています。

「選手」が「亡命の受け入れを表明した」のかのように一瞬よめてしまいますが「表明した」のはポーランドです。

構造化します。

例文92b

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。

例文92b
  • 亡命の受け入れを表明したポーランドに向けてこのあと選手は出国することになっています。

例文92 は、原則の語順とはまったく逆の語順だったためにわかりにくい文になりました。

例文93
平成24年の総裁選では岸田氏が幹事長だった石原氏の推薦人を務めた経緯もある。

構造化します。

例文93a

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。

93b
  • 幹事長だった石原氏の推薦人を平成24年の総裁選では岸田氏が務めた経緯もある。

語順の原則「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがってならびかえるだけでわかりやすい文になります。

わかりやすい日本語を書くうえで語順はとても重要です。語順がおかしいと相手に意志がうまくつたわりません。

語順の原則のうち「1-1. 述部(動詞・形容詞・形容動詞)が最後にくる」と「1-2. 形容する詞句が先にくる(修飾辞が被修飾辞の前にくる)」についてはとくに説明は要しないとおもいますが、しばしば問題になるのが「1-3. ながい修飾語ほど先に」です。上記の例をみればあきらかなようにこの原則をつかわないとわかりにくい文になります。

つぎの例もみてください。

  • 社交的な太郎に英語とフランス語が得意な光子をアメリカに留学したことがある国際機関スタッフの花子がひきあわせました。

ながい修飾語ほど先にします。

  • アメリカに留学したことがある国際機関スタッフの花子が英語とフランス語が得意な光子を社交的な太郎にひきあわせました。

わかりやすくなりました。つぎの例もよんでください。

  • 私は電気自動車の開発を急速にすすめローランスロイズ社のようにわが国の経済を発展させる自動車メーカーも買収されないようにすべきだと考えます。

ながい修飾語ほど先にします。

  • わが国の経済を発展させる自動車メーカーも電気自動車の開発を急速にすすめローランスロイズ社のように買収されないようにすべきだと私は考えます。

「ながい修飾語ほど先に」の原則をつかえばわかりやすく誤解のない文が書けます。「私は」(あるいは彼は、彼女は、太郎は)を “主語” だから文頭におかなければいけないとおもっている人がいますがそれは誤解であり、英文法を日本文に無理にあてはめて失敗した典型例です。英語と日本語では文法がことなり、それぞれの言語にそれぞれに原則があり、英語のほうが日本語よりもすぐれているということもありません。

たとえば「私」を、「国立国際経済研究所で半世紀にわたって数理モデルで世界経済を研究してきた」と修飾するとつぎのようになります。

  • 国立国際経済研究所で半世紀にわたって数理モデルで世界経済を研究してきた私はわが国の経済を発展させる自動車メーカーも電気自動車の開発を急速にすすめローランスロイズ社のように買収されないようにすべきだと考えます。

「ながい修飾語ほど先に」の原則はむずかしいことは何もなく、字数をかぞえればよいだけのことであり誰でも簡単にすぐにできます。

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▼ 注
⭐️日本語の作文法:日本語の原則

▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年(初版1976年)
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年(初版1994年)
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年(初版1967年)
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

象は鼻が長い

※ 三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』は、題目をあらわす「○○は」のつかいかたをくわしく解説し、「○○は」の「は」は、「が」「の」「に」「を」を兼務することをしめします。本書をよんで練習すれば、「○○は」と「○○が」のつかいわけができるようになります。

続・現代語法序説 - 主語廃止論 -

※ 三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』は、『象は鼻が長い』同様、「○○は」のつかいかたをくわしく解説しています。日本語は、すべての修飾成分が述部によって統括される述部中心の言語であり、述部以外はすべて、その「補足語」として機能します。したがって日本語には “主語” は存在しません。

日本語の作文技術

※ 本多勝一著『日本語の作文技術』は、「修飾の順序」「句読点のうちかた」「助詞の使い方」などの基本技術をくわしく解説しています。日本語も、非常に少数の簡単な原則でなりたっていることがわかり、本書をよめば誰でもすぐに、わかりやすい日本語が書けるようになります。

実戦・日本語の作文技術

※ 本多勝一著『実戦・日本語の作文技術』は、『日本語の作文技術』の続編であり、日本語の作文技術(原則)を復習し、ブラッシュアップするために役だちます。とくに、「読点の統辞論」が参考になります。『日本語の作文技術』は帰納的にのべられているのに対し、『実戦・日本語の作文技術』は演繹的にのべられています。

発想法(改版)

※ 川喜田二郎著『発想法(改版)』は、フィールドワーク・定性的データの統合・問題解決に役だつ「KJ法」の基礎を解説しています。取材をしたらすぐに文章を書かず、図解をつくってから文章化をすすめます。人間主体の情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の観点からいうと、取材法はインプットの、KJ法はアウトプットの方法であることに注目してください。

※ 梅棹忠夫著『知的生産の技術』は、知的生産の原理と技術についてくわしく解説しています。並列的な編集から直列的な表現へすすみ、情報を統合するという文章化の原理をまなんでください。具体的な技術として「こざね法」がつかえます。今日では、紙でできた道具はつかわずコンピューターをつかいますが、つかう道具はちがっても知的生産の本質は不変です。

※ 栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』は、「速く・うまく・わかりやすい」文章を書く「速書法」について解説しています。書くことにとどまらず知的能力をたかめます。「結果として速く書ける」ことを目指すのではなく、「速く書くことを追求する過程で、従来とは異なる意識の新しい領域を巻き込む」ことが重要です。

(冒頭写真:六義園、筆者撮影)

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