わかりやすい日本語を書く(29) − 段落の原則 −

情報処理

ファイルの原理・原則をつかいます。類似な情報が結合します。たとえることによってメッセージをつたえます。

日本語の原則として、これまで、1. 語順の原則、2. テンの原則、3. 助詞の原則、4. カナと漢字の原則、5. 知的生産の原則についてのべてきました。これらの原則を理解し利用すれば、わかりやすい日本語を誰でも書くことができます。ただし長い文章を書くためには、6. 段落の原則、7. 階層の原則が必要です。

今回は、第6原則の「段落の原則」について説明します。

段落の原則

  • 物語法:時間的ながれのなかのひとつの場面を段落にする。
  • 類比法:類似した情報をひとまとまりにして段落にする。

物語法とは、旅行記や小説など出来事や経験を時系列で書く方法であり、類比法とは、説明文や報告書・論文など事柄の内容や意味を論理的にまとめて書く方法です。

どちらの方法でも、段落は、ひとまとまりになった表現の単位でなければならず、長くなったからといった物理的な長さで改行できるものではなく、1行で改行することもあるし、何ページにもわたって行をかえないこともあります。このような情報のひとまとまりを情報用語で「ファイル」といい、したがって段落はファイルになっていなければなりません、段落の原則はファイルの原則といってもよいです。

段落がファイルになっているかどうかを判断するためには、その段落に、たったひとつの見出しがつけられるかどうかをためしてみます。実際に書く必要はありません。ひとつの見出しがつくようでしたら段落として適切であり、2つ以上の見出しがつくようでしたら、それは2つ以上の段落にわけるべきです。逆に、複数の段落におなじ見出しがつくようでしたらそれらはひとつの段落に統合すべきです。

段落(ファイル)のモデル
段落(ファイル)のモデル

段落の原則のうち、「時間的ながれのなかのひとつの場面を段落にする」(物語法)については誰もが普通におこなっていることであり、とくに説明はいらないとおもいます。物語法では、因果関係がしばしば表現されます。

しかし「類似した情報をひとまとまりにして段落にする」(類比法)についてはしらない人がおおいのではないでしょうか。

古代ギリシャの学者アリストテレスは、「理解は、すでにしっていることと類似なことをおもいついたときに生じる」とかんがえ(注)、このかんがえは現代においても通用します。つまり、既知の情報に類似な情報が結合したときに「わかった」という現象が生じます。類比法による段落づくりではこの原理をつかいます。理解力のある人とは、すでにもっている情報にあらたな類似情報をつぎつぎにむすびつけていくことができる人です。

したがって内容・意味が似ている単文(情報)をあつめて(結合して)段落をつくるようにします。

このとき、似ているということは、異なる(同じではない)けれども似ているということであって、似ていることをみとめるときには、同時に、異なることもみとめており、異なるものがあってこそ似ているものがわかり、似ているものがあってこそ異なるものが区別されます。つまり類比と対比を同時におこなっているのであり、類比法には対比もふくまれます。

このようなことから、作文(アウトプット)では、例示とともに比喩がとても有用であるといえます。人間は、たとえることによってメッセージを相手につたえています。

以下に、類比法をつかった文章化の例をしめします。

類比法をつかった作文技法(1)- ウメサオタダオ展「はっけんカード」から –
類比法をつかった作文技法(2)- NHKラジオ英会話, 2018「おたよりコーナー」から –
類比法をつかった作文技法(3)- 内容をふかめる –
類比法をつかった作文技法(4)- NHKラジオ英会話, 2019「おたよりコーナー」から –
類比法をつかった作文技法(5)- NHKラジオ英会話, 2020「おたよりコーナー」から –

▼ 注
アリストテレス(著), 内山勝利・神崎繁・中畑正志(編), 今井知正・河谷淳・高橋久一郎(訳)『分析論前書・分析論後書』(新版 アリストテレス全集2), 2014年11月27日, 岩波書店

※ 古代ギリシャの学者・アリストテレス(紀元前384〜前322)は、アテナイ(アテネ)郊外にプラトンが創設した学園・アカデメイアにまなび、その後、マケドニアの王子 (のちのアレクサンドロス大王)の家庭教師も8年間つとめました。紀元前335年には、アテナイ郊外に学園・リュケイオンをひらき、自然学・技術・芸術・論理学など、あらゆることを弟子たちとともに研究し、万学の基礎をつくりました。

▼ 参考文献

本多勝一著『日本語の作文技術』
本多勝一集『日本語の作文技術』
比喩の辞典
類語国語辞典
日本語シソーラス

本多勝一(著)『【新版】日本語の作文技術』(朝日文庫), 2015年, 朝日新聞出版
本多勝一(著)『日本語の作文技術』(本多勝一集 19), 1996年, 朝日新聞出版
中村明(著)『比喩の辞典(もの・こと・ことばのイメージから引ける)』, 2023年, 東京堂出版
大野晋・浜西正人(著)『類語国語辞典』, 1985年, KADOKAWA
山口翼(編)『日本語シソーラス 類語検索辞典 第2版』, 2016年, 大修館書店

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(冒頭写真:六義園、2022年4月1日、筆者撮影)

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