わかりやすい日本語を書く(28) − 知的生産の原則 −

情報処理

多様な情報を統合します。内面がととのいます。創造性をのばします。

日本語の原則の第5番目は「知的生産の原則」です。

知的生産の原則

  • 並列的な編集から直列的な表現へ。
  • 情報を統合する。

これらの原則に関連して、『知的生産の技術』の著者・梅棹忠夫がノートとカードについて論じています(注)。

ノートの欠点は、さきにのべたように、ページが固定されていて、かいた内容の順序が変更できない、ということである。ページを組みかえて、おなじ種類の記事をひとところにあつめることができないのだ。

すなわちノートは、情報が前から順番に記入され内容が固定されるため、それらを整理しなおしてあらたに文章化するためには不適当です。情報の保存には適していますが編集にはむいていません。

そこでうみだされたのが「京大型カード」とよばれるB6判のカードです。

カードの操作のなかで、いちばん重要なことは、組みかえ操作である。知識と知識とを、いろいろに組みかえてみる。あるいはならべかえてみる。そうするとしばしば、一見なんの関係もないようにみえるカードとカードのあいだに、おもいもかけない関連が存在することに気がつくのである。

操作ができるということがカードのおおきな特徴であり、カードを組みかえることによってあらたな発見がもたらされます。おなじ材料からでも、さらなる組みかえによってあらたな発見があり、それらもカード化できます。ノートに順番に書かれた知識は死蔵の状態におちいりがちですが、カードをつかえば情報を並列させることができ、編集作業がすすみます。

カードをつくるときは、1枚のカードには1つのことを書く、つまり1枚1項目にします。そのような情報のひとまとまり(情報の単位)を情報用語で「ファイル」といい、つまりカードはファイルでなければなりません。そしてカードの上覧には見出し(要約)を記入します。カードの見出しはファイルの表層構造、カードの本文はファイルの潜在構造になっていて、このような構造をつくっておくと情報処理がすすみます。またカードの右下隅には日付を記入します。つづきもののカードがおなじ項目で何枚かできた場合は一連番号をうちます。たとえば8枚つづきの3枚目なら、カードの右肩に3/8と記入します。

カードのモデル
カードのモデル
(情報のひとまとまりを
球でモデル化)

そしてカード(ファイル)がたくさんあつまってきたら、テーマにそって、気になるカードをひっぱりだし、それらをならべつらねて俯瞰し、内容が似ているカードは一緒にし、まとめます。そして論理的に筋がとおるとおもわれる順序にそれらをならべなおし、今度は、直列的に文章を書きおろしていきます。

こうして、並列的な編集から直列的な表現へすすみ、もともとはばらばらだった断片的情報がひとまとまりの意味のある文章として統合されます。書きだすことには情報の統合というおおきな効果があります。

雑然とした出来事や体験がひとまとまりの形になると心のなかも整理されます。内面もととのいます。記憶もひとまとまりになって、あとでおもいだすときにそのまとまりを容易におもいだせるようになります。

このように、文章化の過程では、並列・直列・統合の原理がはたらきます。知的生産の原則とは並列・直列・統合の原則といってもよいでしょう。

今日では、京大型カードはつかわなくなり、ポストイットやアプリをつかうようになりましたが、形にはとらわれずに、原理・原則を理解し活用してアウトプットをすすめ、みずからの主体性・創造性をのばしていくようにします。

▼ 注(参考文献)

梅棹忠夫『知的生産の技術』
梅棹忠夫著『知の技術』

梅棹忠夫(著)『知的生産の技術』(岩波新書), 1969年, 岩波書店
梅棹忠夫(著)『知の技術』(梅棹忠夫著作集 11), 1992年, 中央公論新社

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(冒頭写真:六義園、2022年4月1日、筆者撮影)

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