わかりやすい日本語を書く(21) – 題目をあらわす「は」-

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○○についてのべるとき「○○は」とします。「○○は」は題目をあらわします。問題意識が必要です。

今回は、助詞の原則「題目をあらわす『は』」(注1)の観点からつぎの例文を検証します。

例文101
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。(日本国憲法第十九条)

例文102
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。(日本国憲法第二十条)

例文103
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。(日本国憲法第六十七条)

例文104
厚労省は国内で2月17日から7月2日まで、ワクチン接種後に死亡が報告された事例が556人に達したことを明かした。(NEWSポストセブン, 2021.7.14)

例文105
巨人・桑田真澄投手チーフコーチがリニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」でマウンドで始球式を行った。(フルカウント, 2022.3.5)

例文101
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

構造化します。

例文101

例文101の「思想及び良心の自由は」のあとのテンは、「思想及び良心の自由は」を強調する効果がありますがなくてもかまいません。

  • 思想及び良心の自由はこれを侵してはならない。

この文は、「思想及び良心の自由」についてのべているのであり、このことを、「思想及び良心の自由」としめしています。「○○は」は、○○についてのべるときにつかえ、題目(話題・課題・提題といってもよい)をあらわします。

また「これを」は「思想及び良心の自由を」ということであり、省略することができます。

  • 思想及び良心の自由は侵してはならない。

省略してもまったく問題ありません。「思想及び良心の自由」の「は」には「思想及び良心の自由」の「を」が潜在しており、「は」は「を」を兼務することができ、したがって「○○を」を省略できます。

例文102
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。

構造化します。

この文は、「信教の自由」についてのべており、「信教の自由」がこの文の題目であり、それを、「信教の自由は」としめし、「○○は」は題目をあらわします。また「これを」は「信教の自由を」ということであり省略できます。

  • 信教の自由は、何人に対しても保障する。

「信教の自由」の「は」には、「信教の自由」の「を」が潜在しており、「は」は「を」を兼務することができ、したがって「○○を」を省略できます。

例文103
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。

構造化します。

この文は、「内閣総理大臣」についてのべており、それを、「内閣総理大臣は」としめし、「○○は」は題目をあらわします。また「これを」は「内閣総理大臣を」ということであり、直前のテンとともに省略できます。

  • 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名する。

「内閣総理大臣」の「は」には、「内閣総理大臣」の「を」が潜在しており、「は」は「を」を兼務することができ、したがって「○○を」を省略できます。

日本国憲法(注2)には、「○○は、・・・」という表現が非常におおくみられ、それは、とてもたくさんの題目(項目)についてのべているため、この条文は○○について、この条文は○○について・・・というように、○○についてのべることを明確にしめしたいからでしょう。それぞれの条文の題目を誤解をさけるために強調しています。

例文104
厚労省は国内で2月17日から7月2日まで、ワクチン接種後に死亡が報告された事例が556人に達したことを明かした。

構造化します。

悪文は構造もへんてこです。語順の原則「ながい修飾語ほど先に」にしたがって再構造化します。

例文104b
  • ワクチン接種後に国内で死亡が報告された事例が2月17日から7月2日まで556人に達したことを厚労省は明かした。

「厚労省は」を強調したいのであれば文頭にもってきて、テンの原則「逆順」によりテンをうちます。

  • 厚労省は、ワクチン接種後に国内で死亡が報告された事例が2月17日から7月2日まで556人に達したことを明かした。

この文は、「厚労省」についてのべるならばという心持ちで「厚労省は」としており、「厚労省」が題目です。「○○は」とすることによって題目をあらわすことができます。

例文105
巨人・桑田真澄投手チーフコーチがリニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」でマウンドで始球式を行った。

構造化します。

語順の原則にしたがって再構造化します。

  • リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチがマウンドで始球式を行った。

この文は「○○は」がない文であり、題目がなくても文がなりたちます。しかし題目を設定することもできます。

たとえば「リニューアルされた東京ドームの『ビジョン点灯式』」を題目にしたければ、「リニューアルされた東京ドームの『ビジョン点灯式』で」を「リニューアルされた東京ドームの『ビジョン点灯式』で」とします。

  • リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチがマウンドで始球式を行った。

「巨人・桑田真澄投手チーフコーチ」を題目にしたければ「巨人・桑田真澄投手チーフコーチ」を「巨人・桑田真澄投手チーフコーチ」とします。

  • リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチマウンドで始球式を行った。

あるいは、

  • 巨人・桑田真澄投手チーフコーチ、リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」でマウンドで始球式を行った。

「マウンド」を題目にしたければ「マウンドで」を「マウンドで」とします。

  • リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチがマウンドで始球式を行った。

あるいは、

  • マウンドで、リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチが始球式を行った。

「始球式」を題目にしたければ「始球式を」を「始球式」とします。

  • リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチがマウンドで始球式行った。

あるいは、

  • 始球式、リニューアルされた東京ドームの「ビジョン点灯式」で巨人・桑田真澄投手チーフコーチがマウンドで行った。

このように、題目にしたい語句があれば「○○は」とすることによってそれをあらわすことができます。そのためには、何についてのべるのかあらかじめはっきりさせなければなりません。

題目をはっきりさせるということは何についてのべるのか、その範囲をきめることであり、題目は、情報のひとまとまりの見出しとして機能するといってもよく、情報があふれかえる現代社会においてとても重要です。

題目のモデル
題目のモデル

題目がはっきりしている文は焦点がさだまっていてわかりやすくよみやすく、はっきりしない文は何をつたえたいのかわかりません。題目がはっきりしている人は思考が鮮明です。

題目をきめるためには問題意識が前提として必要であり、つねひごろから問題意識をとぎすましておくことが大事でしょう。

問題意識は、「しりたい」という素朴な気持ちからはじまります。たとえば、沖縄についてしりたい、古代ローマについてしりたい、猫についてしりたい、スパイスについてしりたい・・・など、しりたいという気持ちがうまれればそれについてしらべはじめるとおもいます。その行為が継続すれば問題意識がそだち、おのずと題目がさだまります。アウトプットへすすめます。

▼ 注1
日本語の作文法:日本語の原則
「○○は」によって題目をしめす - 学問の自由は保障する –
「は」と「が」をつかいわける - 川本茂雄『ことばとこころ』-
三上章 『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』をよむ
日本語法を理解する - 三上章『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』-

▼ 注2
日本国憲法

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▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

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