わかりやすい日本語を書く(18) - テンの原則「ながい修飾語」-

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ながい修飾語が2つ以上あるときその境界にテンをうちます。必要最小限うちます。うってはならぬテンは誤解をうみます。

日本語のテンの第1原則は「ながい修飾語」(ながい修飾語が2つ以上あるときその境界にテンをうつ)です(注)。今回は、この原則をつかって下記の例文を検討します。

例文94
まずこれを意志に対する命令的性質を帯びた法則と解してみれば道徳法とか法律とかそのほか種々の実用的規則というものが最もこの定義に当てはまったものとなって来る。(『西田哲学選集 第二巻』燈影舎, 1998.3.25)

例文95
イギリスでは人類学を生物学的人類学、先史考古学、社会人類学に分け、社会人類学を文化人類学の一分野とみなさず、独立の学問と考え、文化人類学という名称は使わない傾向にある。(日本大百科全書(コトバンク))

例文94はテンのない文であり、テンがなくてもかまいませんが、わかりやすくするためにテンをうつこともできます。

  • まずこれを意志に対する命令的性質を帯びた法則と解してみれば、道徳法とか法律とかそのほか種々の実用的規則というものが、最もこの定義に当てはまったものとなって来る。

これが、ながい修飾語が2つ以上あるときその境界にテンをうつという原則です。

例文94に対して例文95は逆に、テンがおおすぎるのではないでしょうか。まず構造化します。

例文95a

語順の原則「ながい修飾語ほど先に」(注)にしたがって再構造化します。

例文95b

「生物学的人類学、先史考古学、社会人類学」は単語の並列なのでテンではなく中黒をつかったほうがよいです。

  • 文化人類学の一分野とみなさず独立の学問と社会人類学を考え生物学的人類学・先史考古学・社会人類学に人類学を分け文化人類学という名称はイギリスでは使わない傾向にある。

これではわかりにくいので、テンの原則「ながい修飾語」によってテンをうちます。

  • 文化人類学の一分野とみなさず独立の学問と社会人類学を考え、生物学的人類学・先史考古学・社会人類学に人類学を分け、文化人類学という名称はイギリスでは使わない傾向にある。

テンは、おおすぎるとわかりにくくなるので原則にしたがって必要最小限うつようにします。n 個のながい修飾語があるときは(n-1)個のテンが必要になります。重文の境目にうたれるテンもこの「ながい修飾語」の原則によります。

つぎの例文もよんでください。

  • 仕事でいつもいそがしいとてもせっかちな建設会社役員の一郎はトンネルのおおい線路を高速ではしる赤色と黄色の車両が連結した特急できのうの台風でおおきな被害をうけた県境にちかい県庁所在地の西京へいった。

テンの原則「ながい修飾語」をつかえばわかりやすくなります。

  • 仕事でいつもいそがしいとてもせっかちな建設会社役員の一郎は、トンネルのおおい線路を高速ではしる赤色と黄色の車両が連結した特急で、きのうの台風でおおきな被害をうけた県境にちかい県庁所在地の西京へいった。

もし、ながい修飾語がなければテンはいりません。

  • 建設会社役員の一郎は高速ではしる特急で県庁所在地の西京へいった。

しかし必要なところにテンをうたず必要のないところにテンをうつと意味がわからなくなります。うってはならぬテンは誤解をうみます。

  • 仕事でいつもいそがしいとてもせっかちな建設会社役員の一郎はトンネルのおおい線路を、高速ではしる赤色と黄色の車両が連結した特急できのうの台風でおおきな被害をうけた、県境にちかい県庁所在地の西京へいった。

語順の原則とともにテンの原則もとても重要です。

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▼ 注
日本語の作文法:日本語の原則

▼ 参考文献
三上章著『象は鼻が長い - 日本文法入門 -』くろしお出版、1960年
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年
本多勝一著『日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2015年
本多勝一著『実戦・日本語の作文技術(新版)』朝日新聞出版、2019年
川喜田二郎著『発想法(改版)』(中公新書)中央公論新社、2017年
梅棹忠夫著『知的財産の技術』(岩波新書)岩波書店、1969年
栗田昌裕著『「速く・わかりやすく」書く技術』(ベスト新書)ベストセラーズ、2005年

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