モデルをつかう -「時表現を極める ②」(NHK ラジオ英会話, 2021.12)-

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時表現(時制)はまちがってはなりません。イメージをつかみます。モデルをつかうとつかい勝手がよくなります。

NHK ラジオ英会話、今月は、過去完了形・未来完了形・未来表現・仮定法・動詞原形を用いる形を練習しています。とくに仮定法についてじっくりとりくんでいます。

LESSON 161 過去完了形(had+過去分詞)

By the time you came back from lunch, Arnold had already left.

過去完了形は過去の時点を意識します。

LESSON 162 未来完了形(will have + 過去分詞)

I’ll have finished by around four o’clock.

未来の時点を will で見通し、そして「そのときまでに」出来事がおこっていることを意識します。

LESSON 163 助動詞+完了形

I must have left it in the clubroom.

must(ちがいない)とおもった時点までに、have 以降の出来事がおこったということをしめします。「(過去に)部室に置いてきた(にちがいない)」と現在確信しています。

LESSON 164 未来表現 ①: be going to

I’m going to check out the new stationery shop.

状況が to 以下の事態にむけて進行中という「流れの中」のイメージです。

LESSON 166 未来表現 ②: will

We’ll make it in time.

will は「見通す」イメージを持つ助動詞であり、未来の出来事をあらわすことが頻繁にあります。原因が目に見える「be going to」とは区別しましょう。

LESSON 167 未来表現 ③:現在進行形・現在形の未来

Are they having another concert?

現在進行形が未来の予定をあらわします。

LESSON 168 仮定法 ①:仮定法の心理

I wish I had another friend.

「もうひとり友達がいればいいのに」という現在の内容に過去形 had がつかわれています。仮定法の作り方は「時表現を過去方向にひとつずらす」ことであり、この操作の理由は「距離感」にあります。仮定法の意味は「現実離れ」であり、それを形の上で表現するために本来の時表現から「離して」います。

LESSON 169 仮定法 ②:仮定法の be 動詞

I wish you were here with me.

「現実離れ」をしめすために過去方向に時表現をひとつずらし were とします(注)。

LESSON 171 仮定法 ③:過去の事柄に対する仮定法

I wish I hadn’t said such a stupid thing to her.

過去の事柄について述べているのに過去完了形がつかわれるのは「距離をとる」意識があるからであり、本来の過去形から距離をとった過去完了形で「現実離れ」をあらわします。

LESSON 172 仮定法 ④: if 節を使った仮定法 1

If he stopped complaining, our team would work more efficiently.

「現実離れ」(反事実)をあらわすときには「時表現を過去方向にひとつずらす」という仮定法の基本はいつもおなじです。むすびの節では、「〜となるでしょうねぇ」とひかえめに「ホンワカ」むすぶのが定石です。

LESSON 173 仮定法 ⑤: if 節を使った仮定法 2

If you had asked me, I would have helped you.

過去の事柄で、「現実離れ」(反事実)をあらわすために過去から距離をとる過去完了形をつかいます。過去についての仮定法も「ありえない・ホンワカ」というリズムになります。

LESSON 174 仮定法⑥: if 節を使った仮定法 3

If you had followed my advice, you wouldn’t be in trouble now.

if 節の中は、過去の事柄に対する反事実ですから過去完了形、むすびは、今の状況に思いをはせるため助動詞の過去形 would/could/might をつかいます。

LESSON 176 仮定法 ⑦:織り込まれた条件

Without your support, I couldn’t have gotten the student loan.

「Without your support」は単に「あなたの助けなし」ということであり、ここに、条件のニュアンスをうみだすのは「couldn’t have」です。

LESSON 177 仮定法 ⑧:仮定法を用いたさまざまな表現

If only Arnold Sylvester were here.

「if only」は仮定法とむすびつき、「~であったらいいのに」と、かなわぬ願望や残念におもう気持ちを感情ゆたかにあらわします。

LESSON 178 仮定法 ⑨:文脈を受ける仮定法・助動詞の過去形

I would start by making some pencil sketches of the scenes.

相談に対して、「私なら~するでしょう」とうけています。ポイントは助動詞の過去形です。

LESSON 179 動詞原形を用いる形

I propose the money be spent on new computers for the library.

文全体は propose の内容を the money 以下の節(従属節)が説明するリポート文です。この節の中で、be 動詞の原形 be がつかわれています。「願望・提案・要求」などを表す動詞に後続する節では、動詞は、原形あるいは「should+動詞(原形)」となります。

過去完了形は、過去のある時点から視線がさらに過去にさかのぼるときにつかい、過去の時点をつねに意識します。

未来完了形は、現在完了形の「今に迫ってくる」を、未来の時点に平行移動した「未来のある時点までに」をしめす形であり、未来の時点を will で見通し、そして「そのときまでに」出来事がおこっていることを意識します。

未来表現では、「be going to」のイメージは「流れの中」であり、「will」のイメージは「見通す」であり、これらは区別しなければならず、「be going to」と「will」の変換練習はやめたほうがよいです。

仮定法は、「時表現を過去方向にひとつずらす」ことによって表現でき、「現実離れ」(反事実)の意味は「距離感」(距離をとること)からうまれます(図)。

距離感をイメージ
図 距離感のモデル
(テキスト LESSON 168 の図を簡略化)

動詞原形を用いる形においては、動詞が原形になるのは「実現していない」からであり、命令文でもおなじです。命令文も、その内容は実現していませんので現在形はつかえません。

以上のように、日本語訳ではなくイメージをつかむことを心がけると学習が加速します。日本語訳はちがってもイメージはおなじという例がたくさんあり、イメージがえがければ、日本語訳を暗記しているよりもはるかに理解がすすみます。

たとえば仮定法は、距離感をイメージする(とおくをながめる)ことによってつかえるようになります。仮定法にかぎらず、距離感があるとき(距離をとるとき)には過去形をつかい、これによって、丁寧な言い方や控えめな言い方やすぎさったことも表現(アウトプット)できます。

イメージを厳選し抽象化したものはモデルといってもよいでしょう。ラジオ英会話のテキストには、実際につかえるすぐれたモデルがいくつも掲載されていてたいへん参考になります。モデルを身につければ英語のつかい勝手が格段によくなり、言語にも、一貫したルールがあることもわかります。

先月と今月のレッスンでは時表現にじっくりとりくみ、とても中身のこい訓練になりました。英語にかぎらず何語でも、時表現(時制)は絶対にまちがわないほうがよいです。わたしも、外国人の友人からかつて注意されました。時制をまちがえるとすぐに誤解が生じます。言葉には、多少まちがっても通じる部分とまちがうとミスコミニケーションがかならず生じる部分とがあります(もうひとつ絶対にまちがってはいけないのは数値(数字)です)。

おおくの人々にとっての言語は、“勉強” するというよりもいかにつかいこなすかが課題になるとおもいます。ラジオ英会話をモデルにしてくりかえし練習していくとよいでしょう。

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▼ 参考文献
『NHK ラジオ英会話』(2021年12月号テキスト)NHK 出版、2021年

▼ CD
NHK CD ラジオ英会話 2021年12月号

▼ 関連教材

注)
be 動詞をつかった仮定法では、単数主語でも be 動詞は were とするのが通例でしたが、これは、仮定法が特別な形をもっていたときのなごりであり、現在では、「単数主語 + was」も多用されます。「時表現を過去方向にひとつずらす」という仮定法のルールがここにもはたらいています。
I wish I were a bird. = I wish I was a bird.
I wish my boyfriend were less shy. = I wish my boyfriend was less shy.

(冒頭写真:イングランド、ロンドン、テムズ川(River Thames)、1999年、筆者撮影)

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