都市国家から領域国家へ、時代の転換をみることができます。都市文明は領域文明に発展しました。独自の文明がかつてはありました。
特別展「古代メキシコ −マヤ、アステカ、テオティワカン−」が東京国立博物館で開催されています(注)。古代メキシコでは、前15世紀から、後16世紀のスペイン侵攻までの3千年以上にわたり、多様な環境に適応しながら独自の文明が花ひらきました。本展では、「マヤ」「アステカ」「テオティワカン」という代表的な3つの文明に焦点をあて、その奥ぶかさと魅力にせまります。
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第1展示室 古代メキシコへのいざない
第2展示室 テオティワカン 神々の都
第3展示室 マヤ 都市国家の興亡
第4展示室 アステカ テノチティトランの大神殿
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第1展示室 古代メキシコへのいざない
今から1万3000年以上前、シベリアからアメリカ大陸に狩猟採集民がはじめてわたってきました。彼らは大陸を南下し、メキシコに到達、変化にとんだ生態系に数千年かけて適応し、多様な動植物を食料とした定住生活をいとなむようになりました。農耕を基盤とした多数の民族集団が各地に形成されました。
そのひとつが、前1500年頃にメキシコ湾岸部におこった「オルメカ文明」です。
ほぼ同じ頃、メキシコ中央高原やオアハカ地域にも中核的な集落がうまれ、記念碑的な建造物を首長たちはきずき、天文学・暦法・文字が発達し、やがて都市が誕生します。「テオティワカン」「マヤ」「アステカ」はメキシコの古代文明の代表的な存在です。
第2展示室 テオティワカン 神々の都
前100年頃、メキシコ中央高原の海抜2300mほどの地におこったのがテオティワカン文明です。後550年頃までさかえ、約25kmの都市空間に、最大10万人ほどが住んでいたと推定されます。当時の人々が信じていた世界観にのっとって建物の配置がさだめられた一大宗教都市だったとされます。
中心地区には、「死者の大通り」を中心に、ピラミッドや儀礼場、宮殿などの建造物が整然とならびます。各地から人や物があつまる多民族国家の都であったことがわかってきました。死者の大通りやピラミッドの周辺には集合住宅が建設され、そのおおくは、石づくりであり、色あざやかな壁画でかざられていました。また土器や黒曜石製品や貝製品などの工房跡、他地域からの移民の住居区画などもみつかっています。さらに国家に従事する戦士の姿も垣間みられ、テオティワカンは、おおくの機能をもつ国際都市であったことがわかります。
第3展示室 マヤ 都市国家の興亡
1世紀頃、マヤ地域に、碑文や王墓をともなう王朝が成立し、その後、250年から950年にかけて、ピラミッドなどの公共建築・集団祭祀・精緻な暦を特徴とする都市文化が花ひらきました。
熱帯低地のマヤの都市では食物の長期保存ができず、権力による経済の統制や強力な軍隊の保有は困難でした。そのかわりに、建築活動や集団祭祀による共同体のむすびつきを雑持することが重要視されました。祭祀空間をきずき、暦にそって祭祀をとりおこなうことは王の主要な役割であり、そうした王の功積を顕彰する碑文の存在が王権のよりどころでした。
マヤ地域は政治的に統一されることはなく、交易や外交使節の往来などの友好的な交流、時には、戦争による覇権あらそいを通じて、群雄割拠するいくつもの都市国家が興亡をくりかえしました。
9世紀には、マヤ低地南部のおおくの都市が衰退し、マヤ文明の中心はユカタン半島北部にうつります。この地域に特徴的である、地下水系とつながる大地の陥没穴は「セノーテ」とよばれ、貴重な水源かつ信仰の対象として人身供犠(じんしんくぎ)をふくむ儀礼がおこなわれました。
10世紀頃には、チチェン・イツァが、マヤ地域で最大の都市になりました。住民の大半はマヤ人でしたが、トゥーラなど、メキシコ中央部をふくむメソアメリカ各地との交流をすすめ、「チャクモール」とよばれる像やドクロをおおくえがいた基壇など、各地の文化要素をとりいれたとみられます。
第4展示室 アステカ テノチティトランの大神殿
13世紀、メソアメリカ北部から、メシーカ人らナワトル語を母語とする人々がメキシコ中央高原に到来しました。
彼らは、アステカ王国を建国し、政治・経済的覇権をふるいました。首都テノチティトランの中心には大神殿テンプロ・マヨールが位置し、当時はすでに消滅していたテオティワカンの建築と絵画の様式を再現した2基の神殿にはさまれています。これには、アステカが、古典期の文明との間に神話上の関係をむすぶことで、偉大な文明の守護をえるとともに、世界の継承者としての正当性をしめす意図がありました。
テノチティトランは、1325年頃、テスココ湖にうかぶ島にメシーカ人がきずいた都であり、やがて、人口20万人以上の大都市へ成長しました。
メシーカ人は、近隣の都市と同盟をむすび、1430年頃には、アステカ王国としての体制をととのえます。征服により、現在のメキシコとグアテマラ国境までを版図とし、その広大な領域支配における貢納制が王国の基盤となりました。
しかし征服された都市民の不満がたかまるなか、スペイン人が到来すると、おおくの都市が自主独立をとりもどす好機ととらえてスペイン人に加担、1521年、首都が陥落し、アステカ王国は滅亡しました。
アステカの神々は、天上界の13層と地下界の9層にすみ、暦に応じて地上の万物や天体の動きを支配したといいます。神々はときに、多様な神格にわかれたり、融合して唯一の絶対神になったりすると信じられたため、様々な神を祀る神殿が造営されました。
豊富な神話を反映し宗教儀礼も多彩であり、テノチティトランの神殿では特殊なものから暦にもとづく定期的なものまで、神々の役割に応じた儀礼がとりおこなわれ、歌や踊り、折りや生贄をふくむ供物がささげられました。とくに人身供犠は、アステカの軍事拡張政策によってさらに正当化され昇華していきました。
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古代メキシコ(メソアメリカ)では、前1500年頃から都市が形成されはじめ、やがて、おおきく成長した都市は王が統治する都市国家になりました。その代表がメキシコ中央高原に誕生したテオティワカン(前100〜後550)です。一方、マヤ地域では、アグアダ・フェニックス(前1200〜前700)、パレンケ(200〜800)、トニナ(500~900)、チチェン・イツァ(700〜1100)、その他の都市国家がうまれました。マヤ王国というひとつの王国があったのではなく、いくつもの都市国家がマヤ地域各地に点在していました。
そしてさまざまな都市国家はさらに発展するとたがいに攻防をくりかえすようになり、やがて、ひとつの強大な都市国家がほかの都市国家を支配するようになります。こうして領域国家(領土国家)がうまれ、その代表がアステカ(1325〜1521)でした。
このように、〈都市→都市国家→群雄割拠→領域国家〉という歴史がありました。領域国家を中心とする文明を「領域文明」とよぶならば、文明は、都市文明からはじまり、領域文明へ発展したといってよいでしょう。都市文明と領域文明とでは基本的に規模がちがいます。
今回の特別展は、テオティワカン、マヤ、アステカに焦点をあてており、テオティワカンとマヤは都市文明の段階をしめし、アステカは領域文明の段階をしめし、ここに、歴史とともに文明史をよみとることができます。
〈都市文明→領域文明〉は普遍的な現象であり、モデル化でき、中国大陸・南アジア・中東・ヨーロッパなどでも成立します。グローバルな観点からメソアメリカをとらえなおすことも重要でしょう。
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▼ 参考文献
東京国立博物館・九州国立博物館・国立国際美術館・NHKプロモーション(編集)『特別展 古代メキシコ − マヤ、アステカ、テオティワカン』(展覧会図録)、2023年、NHK・NHKプロモーション・朝日新聞社
市川彰(著)『メソアメリカ文明ガイドブック』(シリーズ「古代文明を学ぶ」)、2023年7月20日、新泉社
※ 07「最初の都市ができるまで」、11「都市間の攻防」、13「アステカ王国の誕生」がとても参考になります。
『古代メキシコ 歴史紀行』(時空旅人)、2023年、三栄
パトリシア=ダニエルズ(著)『古代の都市 最新考古学で甦る社会』(ナショナルジオグラフィック別冊)、2022年5月14日、ショナルジオグラフィック社
※ 文明のはじまりをささえた世界各地の最初の都市の様子がわかります。
鈴木真大郎(著)『古代マヤ文明』(中公新書)、2020年12月25日、中央公論新社
『人類学大図鑑』(Newton 大図鑑シリーズ)、2022年10月20日、ニュートンプレス
▼ 注
特別展「古代メキシコ -マヤ、アステカ、テオティワカン」
会場:東京国立博物館・平成館
会期:2023年6月16日~9月3日
公式特設サイト
※ 写真撮影が許可されています。
▼ 巡回展
福岡会場:九州国立博物館、2023年10月3日~12月10日
大阪会場:国立国際美術館、2024年2月6日~5月6日