ことばの仕組みと進化 − 特別展「しゃべるヒト」(国立民族学博物館)−

文明

単語と文法でなりたちます。生物の進化を反映しています。文字の発明が文明の発展に役だちました。

特別展「しゃべるヒト ~ことばの不思議を科学する~」が国立民族学博物館で開催されています(注1)。意味をつたえる方法やことばを発する身体のしくみ、ことばの身につけかた、人類の進化などについて多角的に解説しています。

第1展示室(1) 言語ってなに?

しゃべるヒト、第1展示室
第1展示室

いわゆる言語(音声言語)には、おなじ言語から分岐したことがわかるものがあり、それらは語族としてまとめられ、代表的なものとして以下があります。

  • インド・ヨーロッパ語族
  • 日琉語族
  • シナ・チベット語族
  • オーストロネシア語族
  • アフロアジア語族
  • ニジェール・コンゴ語族

手話言語は、世界で400種以上あり、たとえば以下のような語族があります。

  • フランス手話語族
  • ドイツ手話語族
  • イギリス・オーストラリア・ニュージーランド手話語族
  • アラブ手話語族
  • 日本手話語族
  • スウェーデン手話語族

プログラミング言語は、コンピューターにヒトが動作を指示するために定型化された言語(規則)であり、現在つかわれているものとして250以上あります。

絵文字・ピクトグラムは、意味の伝達につかわれる視覚的な記号であり、絵文字は SNS などで、ピクトグラムは街中でみかけます。

文字は、音声言語をかきとるツールであり、意味を形にする表意(表語)文字と音を形にする表音文字があります。

エスペラントは、人工語のひとつであり、ヒトが識別可能で有限な音声をベースとする語彙をもち、規則的な明快な文法をつかってメッセージを生成する機能は自然言語におとりません。

パントマイムは、身体や表情で表現する演劇の一形態であり、わかりやすい動作をつかって状況を設定しストーリーを展開していくことで、いわゆる言語をつかわずに意味をつたえます。

手指日本語は、日本語をそのまま視覚表現におきかえたものであり、日本手話の単語や、日本語を発音するときの口の形をつかって表現します。

動物の「言語」としては、たとえばチンパンジーは手全体をつかって「指さし」をします。

テナガザルの仲間は、夫婦・母子のあいだで「歌」をかわし、夫婦と子の核家族でくらします。種ごとに旋律などがちがい、歌遺伝子の存在が示唆されます。

ハンドウイルカの仲間は、自分をしめす「名前」のような音であるシグネチャーホイッスルをだしあいながら、群れがばらばらにならないようにします。

シジュウカラは、さまざまな情報を鳴き声によってつたえあい、たとえば「ジャージャー」ときこえる声でヘビの接近をしらせたり、2種類の鳴き声をきまった語順にくみあわせて天敵(モズなど)をおいはらうための集団行動をうながしたりします。

オカメインコは、ほかのオウムやインコと同様に発生模倣(発生学習)能力をもち、音楽のメロディを模倣してうたうこともでき、パターンを共有する能力は、たがいに協調関係であることの確認に役だっているのかもしれません。

日本手話の1〜10
日本手話の1〜10

第1展示室(2) コトバのしくみ

言語は、音声や視覚など、物理的なシグナルをくみあわせた「形」からなりたっていて、おなじ言語をつかう人たちはその「形」のあやつりかたを共有することで意味を共有することができ、すなわちおなじ言語をつかえば意味がつたわります。

たとえば日本語で、「i-n-u」という音の連続が動物の「犬」という意味をもつように、言語では、「形」のひとつひとつに意味がむすびついており、「形」と意味をむすびつけることで「語」ができます。このような「語」をたくさん共有することで言語をつかった伝達が可能になります。

どんな「形」でどの意味があらわされるかは言語によってことなり、ひとつひとつの意味の範囲も言語によってことなります。したがってあたらしい言語を習得するときにはたくさんの単語をおぼえなければなりません。

いくつもの「語」をならべて文をつくるときにはならべ方の規則(ルール)にしたがいます。言語によって規則もことなるため、あたらしい言語を習得するときにはおぼえなければなりません。

しかしこまったことに、文は、文字どおりの意味とはことなる意味をつたえることがあります。つぎの例をみてください。

Aさん「釣りに行かない?」
Bさん「今日は暑いよ!」

この会話でBさんは、「今日はいかないよ」という意味の返事をしました。

Cさん「窓はあけておく?」
Dさん「蚊がはいってくるよ」

この会話でDさんは「窓をしめて!」ということをつたえました。

このように、表面的なことばの意味だけで文を解釈すると相手の意図が理解できないことがよくあり、ことばの背後にある本当の意味をつかまなければなりません。

実際の会話では、共通の言語をはなしていてもしらない語がでてくることがよくあり、おたがいに質問をして内容を確認しながら はなしつづけます。わからない語をそのままにしていると会話はなりたちません。

第2展示室 コトバを発する身体のしくみ

コトバを発するしくみ

ヒトは、横隔膜をさげることにより肺をふくらませ口から空気を肺にとりこむ一方、それを解放して空気を口からだし、この呼吸の際にではいりする空気をつかって音声言語を発音します。

声帯は、左右両側にある2枚のひだからなり、肺からでる気流の圧力で振動して音がでます。音程や音色は、喉のおおきさや筋肉、肺の気流量によってかわります。

舌は、音声言語における重要な器官のひとつであり、こまかなコントロールにより音を調整し、前後左右に舌先をうごかしたり、部分的に厚みをかえることで母音や子音を生成します。このようなうごきは7種類の舌筋線維走行が複雑にくみあわさることで可能になります。

音は、喉や舌・唇などをとおるときにこまかく調整されて最終的な言語音になり、同時に、顔の表情や身体のうごきがくわわって非常におおくの情報を相手につたえます。

横隔壁と肺の実験装置
横隔膜と肺の実験装置
(横隔膜をさげると肺がふくらみます)
母音発生装置
母音発音実験装置
(日本語の母音を発音することができます)

コトバと脳

ことばをつかいこなすためには、ことばを発したり うけたりする器官とともに複雑な情報をあやつる認知能力がいります。わたしたちが耳や目で相手のことばをうけると、その情報は脳へおくられ認知され、適切なことばをその場でえらんで口から発します。つまり、情報のインプット、プロセシング、アウトプットがおこります。

話をきいたり文章をよんだりするときには、つぎにどんなことばがくるかをそれまでの文脈から予測しながら理解しています。そのため、それまでの文脈と関連がないことばにであうと脳の反応がおそくなり、それまでの文脈と関連があることばがくると脳の反応が速くなります。脳の活動をはかると、文脈とあわないことばを処理するときにくらべて、文脈とあうことばを処理するときのほうが処理の負荷がちいさい(処理がはやい)ことがわかります。単語と文脈は部分と全体の関係といってもよく、双方が調和しつよめあう表現をすると意味が相手によくつたわります。

脳は、さまざまな特徴を並列して処理することで臨機応変かつ柔軟に意味を認識します。動物名を文字でみてカテゴリー判断をする実験により、並列的な意味処理が脳でおこっていることがわかり、並列処理は直列処理にくらべて効率がよいです。

また文字は、しっている単語であれば、それをよもうと意識しなくても、それを目にしたとたん認識の処理が自動的に脳でおこります。音読や黙読をしなくても目でみただけでわかるので速読(高速大量処理)が可能です。

あるいは色に関する単語では、単語の意味が文字の色とことなる場合は、おなじ色である場合とくらべて処理がおくれます。単語の意味情報と文字の色情報が同時に処理されるときにたがいに干渉が生じるためです。したがって干渉ではなく共鳴がおこる表現を工夫したほうが相手によくつたわります。

青い空 白壁 芝生 青信号
イチゴ 太陽

人類の進化

第2展示室(人類の進化)
第2展示室(人類の進化)

わたしたちの祖先は、どのような経緯で「しゃべるヒト」になったのでしょうか?発掘された化石や石器などを分析することで ことばをあやつる能力の進化が推測できます。

野生チンパンジーが使用した道具
野生チンパンジーが使用した道具

アウストラロピテクス属(猿人、400-100万年前、アフリカ)は、ヒトと類人猿の両方の特徴をそなえていました。樹上生活をしていましたが直立二足歩行もできました。脳の容量は400〜500ccであり、現生人類の3分の1程度です。生後の成長が速かったため学習や社会性の増進は不十分だったとかんがえられます。

オルドワン石器(約200万年前)
オルドワン石器(約200万年前)

ホモ・エレクトゥス(原人、189-11万年前、アフリカ〜ユーラシア大陸・アジア)は、長距離の二足方向ができ、生息範囲をひろげました。火を使用するようになり、炉は、暖をとり、捕食者をしりぞけるのみならず、食物を調理しわかちあうなど、コミュニケーションの場でもあったとかんがえられます。脳の容量は750〜1000ccであり、顔の面積に対して脳頭蓋がおおきく、100万年以上かけておおきく脳が進化したことがわかります。唇から喉のながさにくらべて、喉から声帯のながさがみじかいため、だせる声の種類がかぎられました。現代人の幼児やチンパンジーにちかい形状です。「握り斧(ハンドアックス)」をつかっており、これは、先端をとがらせた規格的な形態をしていて、完成形を予測したうえで緻密な打撃で形をととのえていったことがわかります。手をつかいこなし、複雑な道具のつくりかたを学習し、伝達することができたとかんがえられます。

ホモ・エレクトゥスの道具(握り斧、約100万年前?)
ホモ・エレクトゥスの道具(握り斧、約100万年前?)

ネアンデルタール人(旧人、40-4万年前、ヨーロッパ)は、現在のヒトにちかい絶滅した人類です。大型の中顔面、かたむいた頬骨、巨大な鼻をもち、みじかくふとい体幹は寒冷地への適応とかんがえられます。岩陰にすみ、大型獣を狩り、毛皮などで体をつつみ、装身具も使用し、死者を丁寧に埋葬するなど、象徴的な思考と行動もできました。脳の容量は1200〜1700ccであり、ときには現生人類をうわまわるサイズでした。唇から喉のながさは現代人とくらべるとややながく、舌がおおきいことから母音については、現代人と同様の発音能力があったと推測できます。ネアンデルタール人がつくったとかんがえられるムステリアン石器をみると、石核を、定型的な剝片(はくへん)にして槍先などに加工し、石の刃と木の柄をくみあわせて槍としてつかっていたことがわかります。

ムステリアン石器(約8万年前?)
ムステリアン石器(約8万年前?)

ホモ・サピエンス(新人、30万年前-現在、全世界)は、アフリカで誕生し、世界各地にひろがりました。脳の容量は1200〜1650ccです。ほかの人類種と同様に狩猟・採集を生業としていましたが、行動を進化させ、氷河期をいきのこりました。地域をこえて資源を交換するなど、広範囲にわたるネットワークを構築し、儀式や芸術など、象徴的な表現・行為もさかんにおこないます。たくさんの定型的剝片を石核からつくる効率的な技術を発達させ、剝片は、槍先・錐・彫器など、用途にあわせてしあげ、さらに、石器をつかって骨を加工し、釣り針や銛・縫い針などもつくります。弓矢や投槍器など、いくつかの道具をくみあわせてあたらしい道具もつくりだしました。「つ」の字状の舌をそなえた口腔構造をもっていて複雑な調音をすることができ、これを駆使して音声言語を発音します。直立した上体と両腕・両手を顔の表情にあわせてうごかしコミュニケーションにも活用します。

ホモ・サピエンスの石器と骨角器
ホモ・サピエンスの石器と骨角器
ホモ・サピエンス舌の模型(さわって感触をたしかめられる)
ホモ・サピエンスの舌の模型
(会場でさわることができます)
(交差法で立体視ができます)

以上みてきたように、意味やメッセージをつたえるためには、音声言語やプログラミング言語・手話・パントマイム・文字・絵文字・エスペラントなどがありますが、ヒト(ホモ・サピエンス)にとって音声言語と文字がもっとも重要であり、これらがあってこそ文明の発展が可能になりました。

音声言語は、肺からでる気流で声帯を振動させて発音します。ヒトは、横隔膜を意識的に上下させて、肺にではいりする空気を(呼吸を)コントロールすることができ、声帯で生じた音を、喉や口をとおるときにこまかく調整して音声言語にします。

言語は、単語だけをしめすこともありますが単語をならべた文から通常はなりたっていて、単語のならべ方には原則(文法)があり、単語をおぼえ、原則をしればどんな言語でも理解し つかうことができます。合理的です。しかし表面的なことばだけでは相手の意図が理解できないことがあり、文脈などから、ことばの背後にある本当の意味をつかむ努力をしなければなりません。情報は、表層構造と潜在構造からなりたっていて、言語は情報の表層構造にすぎません。

言語を理解し つかいこなすためには身体機能だけでなく認知能力が大事です。わたしたちは、相手のことばを耳や目でうけ、その情報を脳が認知し、そしてみずからのことばをのべます。つまり、情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の流れのなかで言語は認識され つかわれます。インプットでは、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚など、情報が全体的にはいってきますが、アウトプットするときには、情報を言語に一本に統合してあらわします。統合出力により情報の共鳴がおこれば相手につたわりやすくなります。

脳は、さまざまな要素を並列して処理することで臨機応変かつ柔軟に意味を認識します。話をきいたり文章をよんだりするとき、みずからの体験・記憶と照合し、文脈から真意をくみとることを無意識のうちにしています。効率的な並列処理が脳でおこります。

また文字の発明は文明の発展におおいに貢献しました。文字をもつ生物はヒトだけです。文字により、膨大な情報を蓄積し保存し伝達できるようになり、歴史の記述が可能になりました。またしっている文字であれば、それをよもうと意識しなくても目にしたとたん認識の処理が自動的に脳でおこり、音読や黙読をしなくても目でみただけでわかるので速読ができます。言語は、音の回路(聴覚系)で本来は処理されていましたが、文字の発明により、光の回路(視覚系)で処理できるようになり、ここに速読法の原理があります。訓練すれば誰でもできます。

それでは音声言語はいつからつかわれるようになったのでしょうか?それをさぐるためには人類の進化に注目しなければなりません。

人類の脳の容量の進化はつぎのとおりです。

  • アウストラロピテクス属(猿人):400〜500cc
  • ホモ・エレクトゥス(原人):750〜1000cc
  • ネアンデルタール人(旧人):1200〜1700cc
  • ホモ・サピエンス(新人):1200〜1650cc

石器の進歩はつぎのとおりです。精巧なものへの進歩は手・指の進化を如実にものがたっています。

  • ホモ・エレクトゥス(原人):先端をとがらせた規格的な形態。完成形を予測したうえで緻密な打撃で形をととのえていた。
  • ネアンデルタール人(旧人):定型的な剝片(はくへん)にして槍先などに加工し、石の刃と木の柄をくみあわせて槍としてつかっていた。
  • ホモ・サピエンス(新人):たくさんの定型的剝片を石核からつくる効率的な技術を発達させ、剝片は、槍先・錐・彫器など、用途にあわせてしあげ、さらに、石器をつかって骨を加工し、釣り針や銛・縫い針などもつくった。弓矢や投槍器など、いくつかの道具をくみあわせてあたらしい道具もつくりだした。

生物進化論によると、手の元は魚類のヒレであり、両生類、爬虫類、哺乳類へと進化すると、ヒレは、陸上をはう(移動する)ための道具、つまり手足に進化しました。そして樹上生活をする霊長類があらわれ、木にのぼり枝などをつかむようになったとき手のひらと親指の進化がおこりました。そして人類が出現し、樹上から陸上に下り、直立二足歩行をし、手が自由になり、指が進化しました。

このような、脳や石器のデータ(データとは事実を記載したもの)をふまえ、人類の進化を前提とすると、脳や手・指の進化とともに言語の発生・進化もおこったのではないかという仮説がたてられます(注2)。

  • 事実:脳や石器のデータ。
  • 前提:人類の進化。
  • 仮説:脳や手・指の進化とともに言語の発生・進化もおこったのではないだろうか。

もしそうだとすると、人類進化の過程で、音声言語をうみだす基礎となる肺や横隔膜・喉・舌なども進化しただろうとかんがえられ、いいかえると、人類以前の生物にはこれらはみとめられず、つまり音声言語はなかったはずです(注3)。

  • 前提:人類の進化。
  • 仮説:脳や手・指の進化とともに言語の発生・進化もおこったのではないだろうか。
  • 予見:人類の進化の過程で、言語をうみだす基礎となる肺や横隔膜・喉・舌なども進化しただろう(人類以前の生物にはこれらはみとめられず、音声言語はなかっただろう)。

このことを検証するために展示解説と参考文献をあらためてみなおします。

まず、基本的に肺が重要です。進化論によると、魚類にはもともと肺はなくエラ呼吸をしていましたが、肺魚があらわれ、空気を腹部にたくわえられるようになり、その袋の入口に、水道の蛇口(あるいはピンチコック)にあたるものができました。両生類、爬虫類へ進化する過程で、袋のその入口に軟骨ができ、筋肉が進化しました。肺の進化は、海から陸へ進出するための必須条件でした。そして哺乳類があらわれると腹と胸をわける横隔膜ができ、それを上下させることで呼吸が確実に強力にできるようになりました。さらに樹上で生活する霊長類があらわれると、手をつかって木から木へぶらさがって移動する際に、肺にいれた空気をこらえられるようにする構造が喉にできました。従来は脳幹による呼吸の自動制御だけだったのが、大脳による意図的な呼吸の制御ができるようになり、呼吸は、無意識のうちにおこなうだけでなく、みずからの意志でつよめたりよわめたり こらえたりできるようになりました。こうして肺にいれた空気を自由に制御できるようになり、声帯を自由に振動させられるようになりました。

そして人類が出現し、直立二足歩行により、咽頭(鼻腔・口腔の下部から食道の上端にかけての管)が進化し、喉がながくなることで、振動した空気を喉にひびかせて、母音や子音などのさまざまな声をだすことができるようになりました。

あらためて特別展会場の展示をみなおすと、ホモ・エレクトス(約160万年前)では、唇から喉にくらべて喉から声帯のながさがみじかくチンパンジーにちかい形状であったため、声はだせましたがだせる声の種類はかぎられていたとかんがえられます。

ホモ・ハイデルベルゲンシス(約35万年前)になると、唇から喉と、喉から声帯のながさがほぼおなじになり、のどの奥の形をより自由にかえられるようになります。

ネアンデルタール人(約4万5千年前)は、ホモ・サピエンスとくらべると、唇から喉のながさがややながいですが舌がおおきいことから、母音については、ホモ・サピエンスと同様の発音能力があったと推測できます。

ホモ・サピエンスでは、「つ」の字状の舌をそなえた口腔構造が発達し、音声言語を発音できるようになります。

以上のように、肺や横隔膜・喉・口・舌などの進化をとらえることによって音声言語の発生と進化をかなり想像することができます。ネアンデルタール人(旧人)も音声言語をある程度はつかえましたが、本格的な高度な音声言語がつかえるようになったのはホモ・サピエンス(新人)からであり、このような脳や指・言語の進化が、知性の進化をもたらしたといえます。

また霊長類は、2つの目が顔面にならんでいて両目の視差を検出して立体空間(3D構造)を認知でき、樹上生活とともに立体視ができるようになりました。立体視は、森林の立体空間内を自由に移動するために必要な能力だったのであり、これにより、情報のインプット能力がいちじるしく向上、こうした目の進化も知性の進化のために重要でした。

言語や知性の進化のためには、肺、手足、横隔膜、目、直立二足歩行、指、喉、声帯、口、舌などの進化が必要だったのであり、これらは、魚類、肺魚、両生類、爬虫類、哺乳類、霊長類、人類、ヒト(ホモ・サピエンス)という生物のながい進化の歴史を反映しています。言語をつかうというあたりまえの行為のなかに生物の進化をみることができるのであり、これは、進化論のあらたな視点といってもよいでしょう。

そしてヒトは文字を発明し、それまでの聴覚系ではなく視覚系で言語を処理できるようになり、したがって速読法が普及するのは進化の必然であり、知性は進化しつづけます。知性が進化するということは、感覚器官からインプットされた情報を、心のなかで認識し判断し、直観し思考し、あたらしいものをアウトプットする能力が向上するということであり、こうして巨大な文明をヒトは構築してきました。言語は、文明を操作する重要な道具としてこれからも改善され進化していくでしょう。

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▼ 参考文献
テルモ=ピエバニ・バレリー=ゼトゥン著『人類史マップ サピエンス誕生・危機・拡散の全記録』日経ナショナルジオグラフィック社、2021年
篠田 謙一著『人類の起源 - 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」-』(中公新書)、中央公論新社、2022年
栗田昌裕著『「栗田式」超呼吸法 − 息を変えれば自分が変わる −』廣済堂出版、1994年
栗田昌裕著『頭の回路が変わる1冊10分の速読法』ロングセラーズ、2012年

▼ 注1
特別展「しゃべるヒト ~ことばの不思議を科学する~」
会場:国立民族学博物館 特別展示館
会期:2022年9月1日~11月23日
※ 一部をのぞき写真撮影が許可されています。
特設サイト

▼ 注2
事実→前提→仮説とすすむ論理は仮説法です。

▼ 注3
前提→仮説→予見とすすむ論理は演繹法です。予見の結果がただしければ(事実として確認されれば)仮説の蓋然性がたかまります。

▼ 関連書籍

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