2022
04.13
文春ギャラリー入口

アウトプットのために -「追悼 立花隆の書棚」展 –

情報処理

インプット:アウトプット = 100:1。場所で記憶します。情報を統合してアウトプットします。

2021年4月30日に逝去したジャーナリスト・評論家の立花隆さんを追悼し、「追悼 立花隆の書棚」展が文春ギャラリーで一周忌を前に開催されています(注1)。仕事場兼書庫であった通称「猫ビル(ネコビル)」(注2)、通称「三丁目」、立教大学研究室・屋根裏の10万冊をこえる書棚の写真をみながら、立花さんの圧倒的な「知」の世界にはいりこみます。

写真家の薈田(わいだ)純一さんは「全部撮る」を条件に立花さんから書棚の撮影をゆるされ、2010年から週に3~5回かよい、7222枚もの写真を1年半かけてとりました。3m×8mの巨大な書棚写真がみどころであり、また1m×2.5mサイズの書棚写真や生原稿や立花さん愛用の品々も公開しています。

ステレオ写真は交差法で立体視ができます。
立体視のやりかたはこちらです

会場内
会場内
直筆原稿と愛用の品々
直筆原稿と愛用の品々
愛用のスーツケース
愛用のスーツケース

あたらしいことにとりくもうとおもったら本をまずみるとおもいます。そのとき立花さんは、「インプット100に対してアウトプット1」だといいます。たとえば1冊の本をかこうとおもったら最低100冊の本をよみます。ひとつのアウトプットの背後にはその100倍以上の取材・努力があり、膨大な情報が一本に統合されてアウトプットになります。

このようなことをくりかえしているうちに膨大な本があつまりました。仕事場兼書庫は3ヵ所あり、なかでも「猫ビル(ネコビル)」は、地下2階、地上3階+屋上、本をつりあげるクレーンもある「本の砦」です。これだけ膨大な本をどうやって整理していたのだろうか? 立花さんは「本をおいた場所で記憶していた」そうです。たとえば「あの本は、猫ビル3階の南側の書棚にある」というように。したがって「本をうごかして整理しないように」と秘書にいっていました。これは空間記憶法の実践例のひとつです。

同様なことは図書館で誰でもできます。ちかくの図書館にいって館内をブラブラして気にいった本があったら、それがおいてある場所(位置)を記憶します。まずは10冊ぐらい記憶するとよいでしょう。場所をつかえばいつでもすぐにおもいだせます。図書館でつかわれている日本十進分類法にとらわれる必要はありません。

空間記憶法は、無意識のうちに誰もがやっていることですが自覚しておこなうことが大事です。そうすれば本とはかぎらずあらゆる物・情報の記憶が容易になり、「あ、そういえば!」といったおもいつき・ひらめきもうまれやすくなります。

立花さんの書棚の写真を実際にみていくとおもしろそうな本がたくさんみつかります。たとえば「三丁目」の「中央机周り」のランプのそばの書棚をみていたら『見る』という本が興味をひきました。

書棚の例
書棚の例

そのまわりには、『読むということ』『ヒトはなぜ絵を描くのか』『視覚と記憶の情報処理』『もうひとつの視覚』『視覚のメカニズム』『眼と神経』『脳と視覚』『目が人を変える』『心は遺伝子の論理で決まるのか』『脳のなかの幽霊、ふたたび』『ブレイン・ルール』『意識する心』『なぜ記憶が消えるのか』『脳と心』『社会的脳』『読み 脳と心の情報処理』『脳科学と芸術』『視覚の文法』『生命とはなにか』『性の起源』『ヒトはいかにして人となったか』『人間はどこまでチンパンジーか?』・・・、というように、どんどん世界がひろがります。興味がわいてきます。今回の「書棚展(写真展)」と 立花隆著・薈田純一写真『立花隆の書棚』(中央公論新社)(注3)は参考文献集として役だちます。類書をさぐるために最適です。興味をひく本をみつたらその周辺にどんな本があるか、空間的なひろがりとして本がとらえられます。類推がはたらき、発想の場としてもつかえます。同様なことは図書館でもできます。日本十進分類法などの既存の分類法にとらわれる必要はありません。

そもそも立花さんに注目するようになったのはわたしも『田中角栄研究』(注4)からでした。しかしそのきっかけは地球科学者・竹内均の推薦文でした。

私はかつて、文藝春秋社発行の「諸君」という雑誌の書評欄で、この立花隆の「田中角栄研究」をりっぱな科学書であるとして推薦したことがある。(中略)

「田中角栄研究」の材料となったデータは、すべて公開のデータである。立花さんや、そのスタッフのだれかが、どこかの倉庫へしのびこんで盗み出してきたといったものではない。(中略)立花さんは、こういうデータの各々を年表にまとめ、それを横につなげてみて、そこから「田中角栄が怪しい」という推理をし、それをたんねんに跡付けたのである。

こういう方法はまったく科学的なものであり、また一つ一つの仕事は、たいへん地味な作業である。

竹内均著『私の知的鍛錬法 きれっぱしからの発想』徳間書店、1980年(注5)

立花さんは、公開データをたくさんあつめ、内面にインプットし、仮説をたて、推論し、検証しました。まさに科学的方法であり正攻法であり王道です。これは、竹内均がとくに指摘したように、大陸移動説を提唱し体系化したアルフレッド=ウェゲナーの方法とおなじであり、地球科学の方法であり、科学の方法です。アイザック=ニュートン、チャールズ=ダーウィン、アンリ=ポアンカレなどをみてもあきらかです。

このように、膨大なインプットからアウトプットをみちびくところに情報の統合がみられます。立花さんは、大量インプット、空間記憶法、統合出力のながれが重要であることをわたしたちにおしえてくれています。ちいさくとも密度のたかい展覧会でした。

▼ 関連記事
記憶の方法としくみ -『睡眠の教科書』(ニュートン別冊)-
図書館で情報処理 - 俊也結城『認知症予防におすすめ図書館利用術』-
書店の中で記憶する -空間記憶法-
書店のなかをあるきながら人類の知の体系と自分の分野をとらえなおす
建物をつかって記憶する - 空間記憶法 –
国立科学博物館・地球館を概観する - 自然との共存をめざして –
構造イメージのなかにファイルを配置する - サンシャイン水族館(7)-
記憶し判断し、直観とひらめきをえる -『脳力のしくみ』(ニュートン別冊)-
虚空蔵菩薩像を中核にして空間記憶法を実践する -「日本国宝展」- 

▼ 注1
追悼 立花隆の書棚展
場所:文春ギャラリー
会期:2022年4月11日~4月15日
※ 撮影が許可されています。
日本を代表するジャーナリスト 立花隆の一周忌を偲ぶ「追悼 立花隆の書棚展」が開催!(文春オンライン)

▼ 注2:猫ビル

▼ 注3
立花隆著・薈田純一写真『立花隆の書棚』 中央公論新社、2013年

▼ 注4
立花隆著『田中角栄研究全記録(上)』(講談社文庫)、講談社、1982年
立花隆著『田中角栄研究全記録(下)』(講談社文庫)、講談社、1982年
文藝春秋特別編集『「知の巨人」 立花隆のすべて』(文春ムック)‎文藝春秋、2021年

▼ 注5
竹内均著『私の知的鍛錬法 きれっぱしからの発想』徳間書店、1980年