「味覚 - 食を “味わう” メカニズム -」(milsil 2021 No.6)

舌はセンサー、脳はプロセッサーです。味は脳で生じます。情報処理を自覚します。

舌はセンサー、脳はプロセッサーです。味は脳で生じます。情報処理を自覚します。

国立科学博物館の情報誌『milsil』2021年 No.6 が味覚を特集しています。

ヒトを含む哺乳動物では、舌に存在する味蕾(みらい)が味覚受容器官(センサー)として働き、食べ物に含まれる化学物質を感知します。(中略)

次に、味細胞から出た味の情報は電気信号となって神経へと伝達されて脳へと入っていきます。(中略)

近年の神経科学の技術革新により、味細胞から出たそれぞれの味の情報は、脳内の味覚伝導路で互いに交わることなく味覚野まで到達するということが明らかになってきました。

神経科学の近年の進歩により味を感じる仕組みがくわしくわかってきました。口のなかにはいってきた食べ物(化学物質)の刺激は、舌の表面にならぶ「味蕾(みらい)」とよばれる器官で受容され、電気的な信号に変換され、神経系によって電気信号が脳につたわり、脳が味を認識します。つまり味は脳で感じています(味は脳がつくりだします)。味蕾はセンサー、脳はプロセッサーといってもよいでしょう。

味蕾は、花の蕾(つぼみ)のような形をしているのでこうよばれ、舌の先端と側面と奥の部分に分布しており、大人では5000〜7500個ほどあり、一つ一つの味蕾は50〜100個の「味細胞(みさいぼう)」で構成され、基本五味のいずれかをそれぞれの味細胞が感知します。基本五味とは、甘味・うま味・苦味・塩味・酸味であり、甘味は砂糖などの糖質、うま味は肉類や野菜にふくまれるアミノ酸や核酸などの栄養素の存在をしめし、塩味は食塩である塩化ナトリウムの味、酸味は酢やレモンなど酸性度を決める水素イオンの味です。また苦味はさまざまな物質に対して感じられ、毒素の検知におもに関与します。なお うま味は日本人が発見した味であり、出汁(だし)にふくまれるグルタミン酸というアミノ酸のおいしさから名づけられ、世界的にも「umami」とよばれます。

味細胞からでた味の情報は電気信号となって神経へ伝達され脳へはいります。電気信号は、脳内の味覚伝導路でたがいにまじわることなく味覚野まで到達するということが近年あきらかになってきました。つまり脳には、たとえば甘味情報だけをつたえる神経の配線(甘味神経)や苦味情報だけつたえる神経の配線(苦味神経)が存在し、味蕾から大脳皮質味覚野まで一直線に信号が到達します。味覚情報のこうした脳内での流れは「ラベルドライン(標識された線という意味)」とよばれます。

味覚情報はさらに、「扁桃体(へんとうたい)」とよばれる感情をつくりだす脳の領域におくられ、甘味のおいしさや苦味のまずさがつくられ、味覚に対する価値判断がうまれます。

このように、舌はセンサーであり、脳はプロセッサーであり、インプットとプロセシングがおこっており、味とは絶対的なものではなく、人間独特の情報処理の結果として生じたものです。食べ物(物質)そのものに味がついているわけではなく、さまざまな情報を味として認識しているにすぎません。

物質を受容して生じる感覚としては嗅覚も同様です。嗅覚も、低分子化合物を受容して生じる感覚ですが、味覚は、ppm(100万分率)以上の高濃度で感じるのに対し、嗅覚は、ppb(10億分率)や ppt(1兆分率)といったごく低濃度で生じるという特徴があります。

あるいは視覚や聴覚も同様であり、光(電磁波)に色がついているわけではなく、空気振動に音(音色)がついているわけではなく、情報処理が脳でおこって色や音が生じます。

こうして、わたしたち人間は感覚をつかって環境を認識していますが、その環境は絶対的なものではなく、人間独特の情報処理の結果として生じています。すなわち基本的に人間は情報処理をする存在であるといえます。このことに気がつくことはとても大事なことであり、情報処理を自覚するだけでもこれまで以上に物事がすすみます。

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▼ 参考文献
『milsil』2021年 No.6、国立科学博物館(味覚 - 食を “味わう” メカニズム -)

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