2022
01.01
宇宙を見る眼

3D 国立科学博物館「宇宙を見る眼」- 地動説・ケプラーの法則・万有引力の法則 –

地球, 情報処理

地動説の発想からすべてがはじまりました。仮説法・演繹法・帰納法がつかわれました。事実・前提・仮説をおさえることが重要です。

国立科学博物館・地球館の地下3階は「自然のしくみを探る」展示フロアであり、その「宇宙を探る」展示エリアの第1コーナーでは「宇宙を見る眼」と題して宇宙を観測してきた歴史を解説しています(注1)。

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「宇宙をみる眼」展示コーナー
「宇宙をみる眼」展示コーナー
ガリレオとニュートンの望遠鏡
ガリレオ(上)とニュートン(下)の望遠鏡(複製)
ニュートンの望遠鏡
ニュートンの望遠鏡(複製)
すばる望遠鏡
すばる望遠鏡(模型)
略年表
  • 1473 ニコラウス=コペルニクス、うまれる。
  • 1543 コペルニクス、『天体の回転について』を出版する(地動説を発表)。
  • 1564 ガリレオ=ガリレイ、うまれる。
  • 1571 ヨハネス=ケプラー、うまれる。
  • 1608 望遠鏡が発明される。
  • 1609 ガリレイ、自作の望遠鏡で天体を観測する。
  • 1609 ケプラー、『新天文学』を出版する(ケプラーの第1法則・第2法則を発表)。
  • 1610 ガリレイ、『星界からの報告』を出版する(あらたな観測により地動説を実証)。
  • 1611 ケプラー式屈折望遠鏡が考案される。
  • 1619 ケプラー、『世界の調和』を出版する(ケプラーの第3法則を発表)。
  • 1642 アイザック=ニュートン、うまれる。
  • 1668 ニュートンにより反射望遠鏡が製作される。
  • 1687 ニュートン、『プリンキピア(自然哲学の数学的原理)』を出版する(万有引力の法則などを発表、力学を体系化)。
年表

「ガリレオの望遠鏡」は、イタリアのフィレンツェ科学史博物館に保存されている、ガリレオ=ガリレイ(1564-1642)自作の2本の望遠鏡のうちの1本を現地で忠実に複製したものです。木製筒に金模様のはいった革張りで、倍率は約20倍、対物レンズは焦点距離980mmで有効口径16mmにしぼった凸レンズ、接眼レンズは焦点距離48mmの凹レンズであり、木星観測に使用され、1610年に出版された『星界の報告』に貢献したといわれます。

ガリレオ=ガリレイは近代科学の祖といわれ、1608年頃オランダで発明されたといわれる望遠鏡に興味をもち、みずからの工夫で60本以上の望遠鏡を生涯で製作し、月のクレーター、太陽の黒点と自転、木星の4大衛星などをつぎつぎに発見しました。

またヨハネス=ケプラー(1571-1630)が1611年に考案した屈折望遠鏡は、接岸レンズを凸レンズにしたものであり、この形式が今日ではひろく使用されています。

「ニュートンの望遠鏡」は、アイザック=ニュートン(1642-1727)が考案・製作し、英国王立協会に1671年に提出した反射望遠鏡を忠実に複製したものです。屈折望遠鏡では、天体の像をむすばせるための対物レンズとして凸レンズをつかうため、色収差(光の波長によって焦点の位置がことなるためにおこる像のゆがみ)をとりさることができないとかんがえ、凹面反射鏡を対物側にもちいました。1668年にはじめて製作したものは口径34mmのちいさなものでしたが、実際に使用できる世界最初の反射望遠鏡となりました。

ニュートンは、万有引力を発見したことでひろくしられ、数学・力学・光学・天文学などのおおくの分野で先駆的な理論的研究のみならず実験的研究をおこない、近代科学の土台をきずきました。

「すばる望遠鏡」は、世界でもっとも条件のよい観測地のひとつであるハワイ島マウナケア山頂に1991年から8年の歳月をかけて日本の国立天文台が建設した世界最大級の望遠鏡です。主鏡の口径は8.2mもあり、1枚鏡の望遠鏡としては世界最大であり、光をあつめるレンズや鏡の口径はおおきいほどくらい天体やとおくの天体を観測でき、またその構造もこまかくしらべることができます。


すばる望遠鏡の位置

古代の人々は、地は不動で天がうごいているとおもっておいました(天動説)。その仕組みとして、アリストテレス式の物理的モデル、プトレマイオス式の数学的モデル、両者の折衷モデルなどが考案されてきました。

しかし15世紀、コペルニクスが登場します。コペルニクスは、それまでの天文学に不満をもち、「宇宙の形態とその部分の確固たる均衡を発見することも結論することもできなかった」とのべ、従来の複雑なモデルは宇宙の実相をあらわしてはおらず、もっとすっきりした宇宙像がえがけるはずだとかんがえます。宇宙は調和しているという美意識がここにはあります。

こうして、天動説にかわり地動説を提唱します。

そして地動説は、それまでにえられていたすべての天文学的観測データで証明できるはずだとかんがえ、定量的に検証します。地動説にもとづいて計算をやりなおし確認します。

このようにして最終的に、太陽を中心として、地球をふくめた諸惑星がそのまわりをまわり、諸惑星は、水星-金星-地球-火星-木星-土星の順にならんでいるという、太陽中心のあたらしい宇宙モデルを提唱します。

地球が運動しているという可能性はコペルニクス以前にもかたられていましたが、仮説をたて、定量的に検証し、惑星軌道の並び順までも確定した太陽系モデルを提唱したのはコペルニクスが最初であり、ここに、宇宙観の歴史的な転換がおこります。

その後、ガリレイやケプラーがコペルニクスを支持し、コペルニクスの路線のうえにたってあたらしい天文学をうちたてていきます。

ケプラーは、膨大な観測データをもつ天文観測家・ティコ=ブラーエの弟子となり、コペルニクスの太陽系モデルをティコ=ブラーエのデータで検証します。ティコ=ブラーエのもとに検証のためのデータが唯一あることをケプラーはよくしっており、とくに、火星の軌道を集中的に解析し成果をあげ、最終的に、ケプラーの法則(第1、第2、第3)をみちびきます。

そしてニュートンが登場します。ニュートンは、ケプラーの第3法則などをつかって万有引力の法則をみいだします。この法則は、まず、天体の運行を説明するためにつくられましたが、その後、あらゆる現象をニュートン力学で説明できるようになり、近代科学の創設者とニュートンはいわれるようになります。

以上の天文学史を論理的に整理するとつぎのようになります。

コペルニクスは、それまでの天文学の現状をみて不満をもち、宇宙の調和(美意識)を前提にして地動説を提唱しました。

  • 事実:天文学の現状
  • 前提:宇宙の調和
  • 仮説:地動説

〈事実→前提→仮説〉とすすむ論理は仮説法といえます。

つぎに、宇宙の調和を前提とし、地動説がもしただしいとすると、天文学的観測データ(観測事実)でそれは証明できるはずであると推論し、検証しました。

  • 前提:宇宙の調和
  • 仮説:地動説
  • 事実:観測データ

〈前提→仮説→事実〉とすすむ論理(推論と検証)は演繹法です。なおデータとは、観測事実を数値などで記述したものです。

そして地動説と観測データ(事実)にもとづいて、普遍的に通用するあたらしい太陽系モデルを提唱しました。

  • 仮説:地動説
  • 事実:観測データ
  • 普遍:太陽系モデル

〈仮説→事実→普遍〉とすすむ論理は帰納法です。

仮説法・演繹法・帰納法を図示(モデル化)すると図1のようになります。

(1)仮説法、(2)演繹法、(3)帰納法
図1 (1)仮説法、(2)演繹法、(3)帰納法

仮説法・演繹法・帰納法はこの順序でつかうと効果があがり、これを、「3段階モデル」といいます(図2)。

3段階モデル
図2 3段階モデル

コペルニクス以前にも地動説をのべた学者はいましたが、彼のように仮説をたて、あらゆるデータで検証し、普遍的なモデルをあきらかにした、つまり科学的な手続きをふんで研究し、その結果を体系化したのはコペルニクスが最初だったのであり、コペルニクスが注目される理由がここにあります。このあと、根本的に発想をかえることによって物事の見方が180度かわり、物事のあたらしい局面をひらくことを「コペルニクス的転回」というようになります。

つぎにケプラーは、コペルニクスの太陽系モデルを、あらたな前提として、あらたなデータ(事実)でそれを検証し、さらに、普遍的に通用するケプラーの法則をみいだしました。太陽系モデルを、あらたなデータで検証する過程は演繹法(注2)、膨大なデータから普遍的な法則をあきらかにする過程は帰納法です。

そしてニュートンは、ケプラーの法則をあらたなデータで検証し、膨大なデータから万有引力の法則をみいだし、力学を体系化しました。ここでも、演繹法と帰納法がもちいられました。

こうして、コペルニクスのあたらしいモデルは、あらたな演繹法と帰納法をうみだしました。3段階モデルにおいて第3段階目までいたると、それが、より高次元の第1段階になります。コペルニクスの段階は、より高次元のケプラーの第1段階になり、ケプラーの段階は、より高次元のニュートンの第1段階になりました。3段階モデルは1回だけおこなわれるのではなく、循環的に何回もおこなわれ、しかも、仮説・事実・前提と、おなじところをグルグルまわっているのではなく、展開し発展します。これを、「3段階循環モデル」といいます(図3)。

図3 3段階循環モデル
  • 1:仮説法により、地動説を発想する。
  • 2:演繹法により、地動説を定量的に検証する。
  • 3:帰納法により、太陽系モデルをみいだす。
  • 2’:演繹法により、太陽系モデルを定量的に検証する。
  • 3’:帰納法により、ケプラーの法則をみいだす。
  • 2″:演繹法により、ケプラーの法則などを定量的に検証する。
  • 3″:帰納法により、万有引力をみいだす、力学を体系化する。

地動説からすべてがはじまりました。〈1→2→2’→2″〉のラインは事実レベルが重視され、〈1→3→3’→3″〉のラインは思考レベルが重視され、こうして研究がすすみました。

これで、コペルニクスからケプラーそしてニュートンへいたる(地動説からケプラーの法則・万有引力の法則そして力学大系へいたる)天文学史・科学史がすっきり整理され、わかりやすくなりました。

このような3段階循環モデルは科学研究にかぎらずあらゆる課題につかうことができます。事実・前提・仮説を区別しておさえることが重要です。

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▼ 参考文献
国立科学博物館編集『地球館ガイドブック』国立科学博物館、2016年
中山茂著『天の科学史』講談社、2011年
山本義隆著『世界の見方の転換1 天文学の復興と天地学の提唱』みすず書房、2014年
山本義隆著『世界の見方の転換2 地動説の提唱と宇宙論の相克』みすず書房、2014年
山本義隆著『世界の見方の転換3 世界の一元化と天文学の改革』みすず書房、2014年
上山春平著『上山春平著作集 第一巻 哲学の方法』法蔵館、1996年

※ 中山茂著『天の科学史』(講談社)は、一般の読者を対象にした天の科学研究史の入門書であり、平易な文章でわかりやすくかかれ、天動説と地動説など、天と地の探究がどのようにすすんできたのか基本的なことがよく理解できました。
※ 山本義隆著『世界の見方の転換』全3巻(みすず書房)は全1416ページにもおよぶ大著であり、天文の科学史と世界観の転換についてこれほど詳細に正確に記述した本はほかにはありません。とくに、第2巻『地動説の提唱と宇宙論の相克』の第5章「ニコラウス・コペルニクス -太陽系の体系化と世界の一元化-」と、第3巻『世界の一元化と天文学の改革』の第12章「ヨハネス・ケプラー -物理学的天文学の誕生-」がとても参考になりました。
※ 上山春平著『上山春平著作集 第一巻 哲学の方法』(法蔵館)は、アメリカの学者・チャールズ=S=パースの方法論にもとづいて、アブダクション(仮説法)・ディダクション(演繹法)・インダクション(帰納法)について詳述しています。わたしは、同著『弁証法の系譜』(未來社、こぶし書房)をかつてよんで探究や論理の基本的な方法を身につけました。この『弁証法の系譜』が、『上山春平著作集 第一巻 哲学の方法』に収録されています。

▼ 注1
国立科学博物館
地球館 地下3階「自然のしくみを探る」
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▼ 注2:演繹法の例
もし、コペルニクスの太陽系モデルがただしく、太陽のまわりを地球がまわっているとすると、地球から観測される恒星に「年周視差」が発見されるはずだと推論(予見)できます。年周視差とは、地球の公転によって恒星の方向が季節によりいくらかちがってみえるという現象です。そして19世紀に、観測技術が発達し、年周視差が実際に発見されました(観測事実として確認されました)。

  • 前提(普遍):太陽系モデル
  • 仮説:地動説
  • 事実:年周視差の発見

〈前提→仮説→事実〉とすすむ論理は演繹法であり、これにより前提と仮説の蓋然性がたかまります。年周視差は一例であり、このような演繹法(推論と検証)をくりかえすことにより証拠がふえ、前提と仮説はゆるぎないものになっていきます。