火成作用・熱水作用・変成作用などによって原石(鉱物)がうまれます。人間が加工してジュエリーになります。文化的な価値がうまれます。
特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」が国立科学博物館で開催されています(注)。多種多様な宝石と、それらをつかった豪華絢爛なジュエリーを科学的・文化的な切り口から展示・解説しています。
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第1展示室 原石の誕生
第2展示室 原石から宝石へ
第3展示室 宝石の特性と多様性
第4展示室 ジュエリーの技巧
第5展示室 宝石の極み
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宝石の原石は、高温高圧下にある地下ふかいところで形成された鉱物であり、それらがふくまれる岩石「母岩」をしらべることによって原石ができる過程がわかります。母岩は、火成岩・熱水脈・ペグマタイト・変成岩におおきくわけられます。
ダイヤモンドやペリドット・サンストーンなどは火成岩を母岩とし、火成岩はマグマがひえてかたまった岩石であり、火成岩からみつかる原石は、地下にできた高温のマグマ(800〜1200℃)がかたまる過程で結晶化します。マグマの成分や結晶化するふかさなどにより多種多様な原石がうまれます。
ダイヤモンドの原石は、キンバーライトという特殊な火成岩からみつかります。高温高圧でなければ生成できないためおおくのダイヤモンドは、マントルの約150kmよりもふかいところでうまれ、マグマによって地表付近にはこばれるとかんがえられます。
アメシストやロッククリスタル(水晶)・オパール・マラカイトなどは熱水脈(または熱水鉱脈)からみつかる代表的な原石です。熱水脈(または熱水鉱脈)は、地下ふかくに存在する100℃をこえる高温の水(熱水)が岩盤の割れ目などをとおって上昇した跡であり、熱水にとけこんでいた物質が温度・圧力の低下とともにさまざまな鉱物となって隙間に沈殿・充填します。
トパーズやトルマリン・アクアマリンなどはペグマタイトからみつかることがあり、ペグマタイトとは、おおくの揮発性成分(水やガス)をともなうマグマがかたまった特殊な火成岩です。マグマの冷却がすすんでも最後までかたまらずにのこった「マグマの残りかす(500〜800℃)」では、揮発性成分が濃集して粘性が低下していたり分離して気泡になったりして元素が移動(拡散)しやすくなり、おおきな結晶ができやすくなります。揮発性成分としてフッ素やホウ素がおおくふくまれるとトパーズやトルマリンなどの原石ができます。
ルビーやエメラルド・ひすい・ガーネットのような濃い色の原石は変成岩からみつかる原石の代表です。変成岩は、プレート運動により地下ふかくにはこばれたり、高温のマグマに接触したりして既存の岩石が熱や圧力で再結晶してできた岩石です。地下深部の岩石中でゆっくり再結晶化がおこり、隙間がないためおおきな結晶ができることは滅多にありません。
このようにしてできた鉱物は、地表に露出した原石に人間が気がつくことで発見され、その後、地下の鉱床を探査し採算性を計算してから、採掘の形態(露天掘りや坑道堀など)がきめられます。よい原石がえられれば、成形と研磨の工程、すなわち「カット」によって宝石になります。カットのできばえが、原石の品質におとらないほど宝石の価値を左右し、宝石の特性をひきだし、良質部分だけをのこすようにカットし磨きをかけることで宝石の価値がたかまります。
カットのスタイルには、多数の研磨面(ファセット)でかこまれた多面体にしあげる「ファセットカット」と、ファセットをつけないタイプの2つに大別され、ファセットカットは、石のなかにはいった光をファセットで反射させることで最大限にかがやかせる方法であり、透明度がたかい原石に一般的に適用されます。これに対して、ファセットをつけないカットは、半透明から不透明な原石の色や艶をいかしたり、光の筋をうきたたせたりするのに適しています。
ファセットカットのなかでも、無色透明なダイヤモンドの輝きときらめきを最大限にひきだすためにデザインされたのが「ラウンドブリリアントカット」です。ダイヤモンドの屈折率を考慮し、上面からはいったすべての光が内部で反射して上にもどってくるように設計された58面のファセットから構成されます。ダイヤモンドは、当初は、カットや研磨のないまま珍重されましたが、14世紀頃には、ダイヤモンド粉末でみがく技術が発展し、17世紀なかばから18世紀はじめにかけてブリリアントカットの原型が発明されておおくの人々魅了するようになります。現在も、原石をスキャンしてカットの仕上がりをシミュレーションしたり、レーザーをつかってカットしたりするなど、研磨技術の進歩がつづいています。
宝石の輝きは光の反射によるものであり、透明な板ガラスとおなじように、透明な宝石のファセットに対して斜めにさしこむ光は反射します。ダイヤモンドは屈折率がたかいため反射がおおくなります。おおくの宝石が無色にかがやく七色にきらめいてみえるのはプリズムにように光が七色に分解されるからであり、この現象を「光の分散」とよび、光の波長によって屈折率がわずかにちがうことが原因です。分散の程度は透過する物質によってことなり、ダイヤモンドは光の分散がおおきいため、透過した光はあざやかな七色の光にわかれてきらめき、それは「ファイア」ともよばれます。
カットされた「ルース(みがいた石)」は貴金属でできた「ベゼル(台座)」におさめることで「ジュエリー(宝飾品)」となります。ベゼルには、宝石をひきたてる役割とともに強度や耐久性・耐食性などももとめられ、ゴールドやプラチナなどが素材としてつかわれ、ルースを固定する技法(セッティング)にも工夫がこらされ、芸術的なデザインと融合することで宝石の価値がたかまります。
古代の人々は、願いや祈りのような宗教的な意味合いをもたせ、お守りや魔除けとして宝石をつかいました。その後、国家の時代になると、王侯貴族の権威の象徴として、ジュエリーはなくてはならないものになりました。
たとえばコロンビア産エメラルドは、ナポレオン帝政期からロマン主義時代を通じてたかいステータスをほこり、中東やインドの富豪がきそって破格の高値をつけるほどの希少品であり、その威風と優美で周囲を圧しました。
「ダイヤモンドのコルサージュ・オーナメント」(1879年頃)は、オーストリア・ハプスブルク家とスペイン・ブルボン家の豪華絢爛の宮廷趣味が融合した希有な伝承品であり、近代宝飾ではありえないおおきさと品質をほこる宮廷宝飾として史的価値を有します。オーストリア大公の家門にうまれ、スペイン国王アルフォンソ12世の王妃となったマリア=クリスティナ(のちに女王)が国家の威信の象徴として着用しました。
「ヴィクトリアン・ダイヤモンドのリヴィエール・ネックレスとブレスレット」(1890年頃)は、グラデーションで中央から配した34個のダイヤモンドは計130カラット(1カラット=0.2グラム)、ブレスレットに配した16個のダイヤモンドは計32カラット、総162カラットという威容をほこります。「リヴィエール」とはフランス語で「川」を意味し、ダイヤモンドの壮麗な輝きがながれるようにつらなり、旧来のローズカットにかわるブリリアントカットにより輝度が増幅されたことから、ほかの意匠を凌駕してネックレスの王座に君臨することになり、英国王室の戴冠式や日本の皇室の婚儀といった重要な儀式にもちいられます。
以上のように、鉱物にみがきをかけ、ジュエリーにしたてることによってあらたな価値がうまれ、それを身につけることによって権威を象徴したり、特別な日にアクセントをつけたりすることができます。
このようなジュエリーは人間がつくりだしたものですが原材料は天然素材であり自然がつくったものです。したがってそれは自然と人間の「合作」とかんがえたほうがよいでしょう。
ここで、人間が原石を採取することはインプット、加工することはプロセシング、ジュエリーをつくりだすことはアウトプットといいかえることもでき、こうして宝石の輝きはアウトプットとなり、メッセージを他者へつたえます。アウトプットをすることによって、単なる美の追求にとどまらず、社会的な意味と価値がうまれます。したがってプロセシングでは、素材をみがいて潜在的な輝きを増幅させるという過程がとても重要です。このようなことをくりかえすことで宝石の文化が発展しました。
今回の特別展では、原石(鉱物)とジュエリーを対比させてみることができ、自然環境と人間の合作という観点から文化をとらえなおすことができました。このような仮説をたてると、ジュエリー以外にも合作はいたるところにあることがわかります。料理もそうです。道具もそうです。技術もそうです。実は、あらゆるものが合作でした。
これを機に、合作の方法をあらためてみなおし、自然と共生し、あらたな文化を創造していきたいものです。
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▼ 注
特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」
会場:国立科学博物館(地球館 地下1階 特別展示室)
会期:2022年2月19日~ 6月19日
特設サイト
※ 名古屋会場
会場:名古屋市科学館(理工館地下2階イベントホール)
会期:2022年7月9日~ 9月19日
▼ 参考文献
宮脇律郎・門馬綱一・西本昌司・諏訪恭一監修・執筆『特別展 宝石 地球がうみだすキセキ』(図録)、TBS・読売新聞社発行、2022年4月3日
諏訪久子著・宮脇律郎監修『宝石のひみつ図鑑 地球のキセキ、大研究!』世界文化社、2022年
諏訪恭一著・中村淳写真『指輪が語る宝石歴史図鑑』世界文化社、2022年
宮脇律郎・諏訪恭一・門馬綱一・西本昌司著『起源がわかる 宝石大全』ナツメ社、2022年
諏訪恭一著『価値がわかる 宝石図鑑』ナツメ社、2015年