どこに集中し、どこで手を抜くか - 野口悠紀雄『「超」英語独学法』-

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英語は道具のひとつにすぎません。優先順位をみずからきめます。ききとり訓練を重視します。

野口悠紀雄著『「超」英語独学法』(NHK出版新書)が英語の独学法(勉強法)について解説しています。時間をかけて勉強したのに英語が上達しない原因は やり方をまちがえていることであるとのべています。

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とくに強調したいのは、どこに集中し、どこで手を抜いたらよいかという判断だ。

われわれは限られた時間の中で、しかも外国語として英語を勉強するわけだから、英語を母国語とする人々と同じレベルまで英語をマスターすることはできない。

そこで、どこに集中し、どこで手を抜くのかが、重要なポイントになる。

たとえば学校の英語教師は、重要な点を強調することはできても、「ここは手を抜いてもよいです」とはなかなかいえないでしょう。しかしどこかに集中して勉強すれば、それ以外のところにかける時間はすくなくなり、重要でないところは誰でも手をぬかざるをえません。優先順位をきめる判断が必要です。そうではなく完璧主義におちいってすべてをきちんとやろうとするとかならずゆきづまります。

それでは何が重要なのか? 第一には、ネイティブスピーカーがはなす英語をくりかえしきくことです。

例えば、文章では I am going to と書いてあるものを、口語では、I’m gonna(アムゴナ) と言う。決して「アイ・アム・ゴーイング・トゥ」とは言わない。また、I want to というのは「アイ・ウォント・トゥ」ではなく、「アイワナ」と言う。これが聞き取れないと、英語を聞き取ることはできない。

英語は、単独では発音されない語末の子音が、直後に母音がある場合に発音される現象などがあり、言葉が連続してきこえます。単語が連続してしまい1語1語がわかれてきこえないので、日本人には、ネイティブスピーカーのはなす英語は速すぎてわからないと感じます。そこで「もっとゆっくりはなしてほしい」(つまり「1語1語をわけてはなしてほしい」)と要求したくなります。

しかし実は、ネイティブスピーカーは特別に速くはなしているわけではなく、普通の速さではなしているのであり、言葉が連続するのは英語の特徴であり、このことを認識して、通常はなされている速さの英語をつねにきくようにします。そこでは手抜きはゆるされず、時間をかけてじっくりとりくむ必要があります。

つぎに、「丸暗記法」をすすめています。

ひとまとまりの文章、つまり、意味がつながった文章群を覚えるのは、個々の単語を覚えるよりもはるかに楽だ。

英文を、単語に分解して日本語に翻訳するのではなく、そのしくみを理解して丸ごと暗記することを優先します。

まずは、テキストにでているキーフレーズを暗記します。20回を目安として、くりかえし声にだしてよんでおぼえます。つぎにキーセンテンス、そして もっとながい英文をおぼえます。どの段階までやるかは人によってことなっていてよく、時間がない人はキーフレーズをおぼえるところまででもよいでしょう。

人間の記憶は、関連のない単語を孤立しておぼえられるようにはできておらず、意味のあるひとまとまりの情報をおぼえるようにできています。ストーリーなどは容易に記憶できますが、英文を単語に分解し、単語帳をつけながら英単語を日本語におきかえておぼえようとしても結局うまくいきません。単語帳をすてる決断がいります。

さらに、英語を英語のまま理解することをすすめています。

日本人は、英語を単語に分解するだけでなく、日本語に翻訳して理解しようとする。これでは、英語を使えるようになるはずがない。

日本人は、英語教育の影響で、翻訳しなければという気持ちを無意識のうちにもちますが外国人と実際にはなすときには翻訳は必要なく、相手のいっていることがわかり、自分のメッセージがつたえられればいいのであって、英語は英語のまま理解すればよいです。

そもそも英語と日本語では言語の構造がことなり、1対1に対応させることはできず、うまく翻訳できないこともおおいです。

「どこで手を抜くか」、たいへん意味のある指摘です。手を抜くというとわるいことにようにおもい、とくに、教育現場ではおおいかくしているかもしれませんが、実際には必要なのであり、誰しも、あらゆることをすべて完全におこなうことはできず、何をするにしても優先順位をきめなければなりません。完璧主義におちいらないようにします。

たとえば中高生でしたら、そもそも、数学・理科・社会・国語など、英語以外の科目も勉強しなければならず、数学を重視する人もいるでしょうし、国語を重視する人もいるでしょう。英語に、どれくらい時間をかけられるかは人によってちがいます。

社会人でも、英語の専門家とはちがい一般の人々は、どのレベルまで英語をやるかは人によってことなります。旅行英語まででいいのか、ビジネス英語まで必要なのか。

わたしたち一般の者にとっては英語は道具のひとつにすぎず、英語学・英文学にとりくむのではありません。今日の言葉をつかえばわたしたちは英語のユーザーです。スマホのユーザーも、アプリのユーザーも、デジカメのユーザーも、あらゆる機能を習得する必要はなく、どこに集中し、どこで手を抜くかをかんがえているのであり、英語のユーザーも、それぞれの課題に応じて英語をつかっていけばよいです。教材も、その「マニュアル」としてすぐれ、実際に役だつものを選択します。

わたしの経験からも、とくに学習の初期段階では はなすことよりも きくことのほうが大事だといえ、ネイティブスピーカーの音声を内面にインプットすることにおおくの時間をさくことがもとめられます。しゃべるほうは何とかなり、ジェスチャーをまじえて単語をならべるだけでも、へたな発音でもつたわります。それよりも相手が何をいっているのかききとれないことがよくあり、したがってLとRの発音の区別など、厳密な発音練習は余裕ができたらやればよく、まずは、音声をくりかえしきくことに労力をかけたほうがよいでしょう。

また時制と数(数字)も重要事項です。時制と数をまちがうとおおきなミスコミュニケーションにすぐになります。とくに、複数の国々をわたりあるいていて通貨がかわるような場合に混乱が生じやすいです。一桁まちがえてトラブルになったことがわたしにも何回かありました。

あるいは仕事の英語は、自分の専門分野の専門用語をすべておぼえておけば何とかなります。むずかしい英文法はいりません。専門の学校や大学などにいるあいだにおぼえればよいでしょう。専門用語は、英語のそれが万国共通語に今日ではなっていて、どの国の人であっても英語の専門用語をつかいこなしており、自分の専門分野の会話をするのであれば相手が英語圏の人でなくても英語の専門用語が通じます。このように仕事では、日常用語よりも専門用語が重要です。

さらに、予期せぬ出来事にそなえて「サバイバル外国語」もみておいたほうがよいでしょう。わたしも、自分あるいは同行者が物をぬすまれてポリスにいったり、病気や怪我で病院にいったりして、状況や症状などを英語で説明しなければならず苦労したことが何回かありました。このときも、英語は道具であることを痛感しました。今となってはなつかしい思い出ですが。

このように、英語を勉強する課題・目的は人によってちがうのですから、どこに集中し、どこで手を抜くか、どれくらい時間をかけるか、みずからきめなければなりません。優先順位をはっきりさせなければなりません。英語を母語としない人は、ネイティブスピーカーのようにはどんなに努力してもなれませんし、なる必要もありません。そんなことよりも英語をつかって何をするのか? そのほうが大事です。

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▼ 参考文献
野口悠紀雄著『「超」英語独学法』NHK出版新書(Kindle版)、2021年

(冒頭写真:イングランド、ストラットフォード・アポン・エイボン、ヘンレイ・ストリート(Henley Street)、1999年 撮影)

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