脳の情報処理によって映像がうまれます。両眼をつかって奥行きをとらえます。さまざまな視点をもちます。
錯視研究の第一人者・杉原厚吉さんが錯視に関する映像を公開しています。
錯覚作品「Magnet Like Slopes」(明治大学MIMS・杉原厚吉作)
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錯覚作品「クローバーとハート」(明治大学MIMS・杉原厚吉作)
錯覚作品「Triply Ambiguous Object」(明治大学MIMS・杉原厚吉作)
3D Schröder Staircase
重力に逆らって坂道を上がる? 「錯覚すべり台」登場 新潟・八海山麓スキー場
錯視が常識をくつがえします。
錯視を起こすには、① 片方の目だけで見る、② カメラで撮影した映像を見る、③ 大きく作って遠くから見る、などが必要です。「両目の間隔は六〜七mなので、両眼立体視が利くのはせいぜい十mまで」と言われます。そのため、③ 大きく作って遠くから見る時、両目で見ても錯視が起きるのです。(中略)
錯視が起きる背景には、① 一枚の画像には奥行きの情報がない(数学的性質)、② 脳は直角を優先する傾向が強い(心理学的性質)の二つがあると分かりました。
杉原厚吉著「見ることの常識が通じない錯視研究の最前線」學士曾会報, 953(注1)
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日常生活でも錯視はおきます。注意してみても、本当の形をしったあとでもおこります。自覚がないだけです。たとえば香川県屋島の「お化け坂」もそうです。
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上り坂のあとに下り坂があってふたたび上り坂になるように感じますが実際はちがいます。脳は、急な方は上りで、ゆるやかな方は下りだと判断してしまいます。このような坂道錯視によりブレーキとアクセルをまちがえて交通事故がおこることがあります。
あるいはスポーツにおいても、錯視による誤審があることがすでによくしられています。
このように錯視は、脳の判断によっておこります。みるということ(視覚)には、目が光をうける段階(インプット)と情報を脳が処理して判断する段階(プロセシング)の2つの段階があり、錯視とは情報処理のエラーといってもよいでしょう。
たとえば片目でみると片目の情報しか処理されず錯視が容易におこります。写真撮影でも、レンズが普通は1本(1眼)であるため錯視がおこりやすくなります。「不思議なチーター“チタベロス”」をみてください。
「頭が3つ? 不思議なチーター“チタベロス” いつも仲良し」
(日テレNEWS, 2022.4.11)
これは合成写真ではありません。奥行きの情報がないために錯視がおこります。そもそも目に はいってきた光には奥行きの情報はなく、脳が、左右2つの目の視差を検出して奥行きを判断(想像)します。
このような錯視をふせぐために2眼カメラをわたしはしばしばつかいます(注2)。あるいは1眼カメラをつかうときでも、左足を軸足にして1枚、右足を軸足にして1枚撮影し、ステレオ写真(3D写真)にして錯視をふせぎます。あるいは現場にいってさまざまな視点から対象をみれば錯視をふせげます。背景や構造など、その場の全体もとらえるようにします。
錯視は往往におこり、時と場合によりさけられませんが、錯視がおこる仕組みをしることによってある程度ふせげるでしょう。またみたことをすべて信じず、情報をアウトプットするときに確認・検証をおこないます。固定観念やおもいこみもなくします。
情報処理のエラーとして錯視をとらえなおすと人間の情報処理の仕組みもわかってきます。光(電磁波の一部)を目がうけると電気信号にそれは変換され、神経をとおって信号が脳におくられ、それを脳が処理すると映像が生じます。わたしたちは目でみているとおもっていましたが、実は脳が像をつくりだしていたのであり、この過程でエラーがおこりえます。このような情報処理の仕組みは心のはたらきといいかえてもよく、わたしたち人間が認識している世界(宇宙)も心のはたらきの観点からとらえなおす必要があり、錯視は、このような現象をかんがえるための入口にもなります。
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▼ 注1
杉原厚吉著「見ることの常識が通じない錯視研究の最前線」學士曾会報, 953, pp.49-59, 2022年3月1日
▼ 注2:2眼(3D)カメラの例
FUJIFILM 3Dデジタルカメラ FinePix REAL 3D W3 F FX-3D W3S
▼ 参考文献
杉原厚吉著『新 錯視図鑑:脳がだまされる奇妙な世界を楽しむ・解き明かす・つくりだす』誠文堂新光社、2018年
▼ 関連書籍
杉原厚吉著『見て、知って、つくって! 錯視で遊ぼう: 脳がつくりだす不思議な知覚の世界』(子供の科学サイエンスブックスNEXT)誠文堂新光社, 2021年
杉原厚吉著『鏡のトリック立体キット 自分で作れる!錯覚アート』永岡書店, 2021年
杉原厚吉著『トリックアート図鑑 錯覚! 立体ペーパークラフト』 あかね書房, 2020年