判断し執行するという問題解決の実践をとおしてつかいわけつつ連係させます。
フローチャート(流れ図)
旅行や出張をするとき、職務や事業をすすめるとき、スケジュール手帳やカレンダーにこれからの予定を記入し、日程を管理しながら計画的に行動していくとおもいます。しかしその行為が長期間におよんだり、とても複雑だったり、チームや組織でおこなったりするような場合にはフローチャート(流れ図)をつくっておいたほうがよいでしょう。工程をあきらかにし手順を図式化しておけば物事がスムーズにすすみ、事後の検証もやりやすくなります。
図1は、ネパール西部・サリジャ村でかつておこなった「生活林づくり」計画のフローチャート(概略図)です。
基本的なフローチャートは訓練はとくにいらず誰でもすぐにつくれますが、本格的なフローチャートをつくるためには専門的な方法がいくつかあり、図1は、「パッケージ PERT」という技術をつかってつくりました。これは、川喜田二郎が、PERT(パート:Program Evaluation and Review Technique)を応用して考案したフローチャート作成法であり、PERT の「アロー型」と「イベント型」のうちのイベント型を改良したものです。細部の工程をきめる前の段階で大略の計画をたてる場合にとくに便利です。
このフローチャートではそれぞれの作業をラベルであらわし、ラベルには、手をくだすといったイメージが具体的にえがける内容、作業の単位を記入し、作業の流れはラベル間の矢印でしめします。KJ法図解をつくったときは、志(意味)の近さ(相似関係)でラベルをあつめましたが、フローチャートをつくるときは手順の近さでラベルをあつめ、それらを前後に順番にならべていきます。作業のひとまとまりは「島どり」をします。
このようなフローチャートをつくることはそれ自体がたのしい過程であり、できあがってくるとわくわくしてきて はやく行動したくなります。
図2は、説明のために図1を模式的にあらわしたものです。

- 「A→B」は、Aをまずおこない(Aがおわってから)つぎにBをおこないます。
- 「A→C」は、Aをまずおこない(Aがおわってから)つぎにCをおこないます。
- 「B→D」と「C」は同時並行でおこないます。
- 破線は、B1とC1を同時にすすめ、両方がおわってから、B2、C2 をおこなうことをしめします。
- 「E」は、「C」と「D」の両方がおわってからおこないます。
- 「E」と「F→G→H」は同時並行でおこないます。
- 「G1 ⇄ G2」は、G1 と G2 を同時並行的におこなう、あるいは(断続的に)双方をくりかえします。
- 「I」は、「E」と「H」の両方がおわってからおこないます。
図2は、図3のように表現してもよいです。

まず、どうしてもやらなければならないこと、それをおこなわないと次へはすすめないこと(順序がきまっている作業)をあきらかにし、そして、同時並行あるいは同時並行的にすすめられる作業に注目しチャートをつくります。各作業の開始日時・終了日時(かかる時間)・経費・人員などをそこに記入してもよいです。定量的に記入しておけば見積りも容易にできます。
最初から完璧をねらうのではなく、全体のおおきな流れをとらえて概略図をまずつくって、その後、臨機応変に細部図をつくっていきます。トップダウンの思考をはたらかせ、細部については修正し体制をととのえながら行動します。
フローチャートをつくっておくと仕事の状況が掌握でき、時間・労力・経費などが無駄なく効果的に投入でき、おわった作業(ラベル)に斜線をひいていくことによって進捗状況は一目瞭然となります。
またチーム・組織でおこなう場合は、適材適所で人材を配置でき役割分担・分業がすすみ、メンバーたちは、事業の全体像をよく理解したうえでどの部分をうけもっているのかをはっきりしることができ、自分の担当部分の細部図をつくることもできます。みずからのはたす役割・存在意義が仕事の全容をとおしてあきらかになり、志気があがります。全体像がわからず部分的な作業を命令されてやらされるのとは大違いです。
さらに、曖昧模糊としていた仕事のなかに作業的分節の何段階もの秩序、つまり階層構造があることもわかります。
結果として、事後の検証・評価も的確にでき、「予定よりもうまくいき、予想外の大成功をおさめた」、「予定どおりにすすんだ」、「失敗した」など、つぎの仕事にむけて教訓もえられやすくなります。
何を先にやるか
このように、フローチャートはKJ法図解とはおおきくことなります。たとえば国際協力事業をおこなう場合、まずは、状況把握、本質追求、ランクづけをおこない、問題の核心をあきらかにし、フィールド(現地・現場)の情勢を判断します。一方、問題を実際に解決するためには判断をふまえ構想をねり、具体的に解決策を実施します。行動します。判断のためにはKJ法図解が役だちますが、執行のためにはフローチャートが有用です。
フローチャートはKJ法とはちがい、トップダウン思考が有効であり、たとえば図1には、「スタッフが現地にはいり、関係者と協議する」というラベルがあり、これの細部図をつくると図4のようになります。

サリジャ村での国際協力事業は、サリジャ村の人々とネパールのNGOと日本のNGOが現地で協力してすすめますから、日本人スタッフはネパールに渡航しなければなりません。あるとき、「渡航日程を決めてしまって後で何かあったらどうしよう」といって、航空券の手配がなかなかできない日本人がいました。航空券は、たとえば1週間前にもうしこんでも手に はいらないことがおおく、2カ月まえとか1カ月前には手配しなければなりません。渡航ルートもいろいろあり直行便もありますが、仁川経由、香港経由、成都経由、バンコク経由、シンガポール経由、クアラルンプール経由などのなかから選択します。
KJ法の観点からは、航空券の手配とか、ルートの選択とか、飛行機の乗り方とかはどうでもよいことですが、フローチャートの観点からは、航空券は重要ではないから後回しにするということは決してゆるされません。事業開始の日程もくんだが、航空券を買っていなかったため日本のNGOはネパールに渡航できなかったというのでは話になりません。この点がKJ法とフローチャートのちがいです。おこなわないと次へはすすめないことがあったら、とにかくそれは先におこないます。
あるいは生徒が学校の教科の勉強をする場合、世界地誌でしたら、中国とアメリカを同時並行的に勉強することができますし、日本史でしたら、奈良時代と鎌倉時代を同時並行的に勉強してもよいでしょう。しかし英語や数学の場合は、1年生→2年生→3年生と順番に勉強していかなければなりません。
このように、物事をすすめる場合、順番にやらなければならない(完全時系列な)ことは何か、同時並行的にできることは何かを識別することはとても大事です。それによって効率も成果もちがってきます。とくに、順番にやらなければならないことは時間・労力がかかるため、そこをどう通りぬけていくかがおおきな課題になります。
わたしは、ネパールでの国際協力の経験から、「KJ法+フローチャート」の有効性に気がつき、KJ法研修コースでもフローチャートの実習をとりいれたらとても好評で、「KJ法は仕事でつかえる、実用的だ」という受講者の感想もえられ、KJ法の実務化を実現できました。フローチャートをつかえば、KJ法図解をいかしながら、やりたいこと・やるべきことをその日からすぐに実施できます。
類縁と縁起
以上のように、KJ法図解は判断の場面で、フローチャートは執行の場面で有用で、これらは対照的であり、KJ法図解とフローチャートは峻別されます。KJ法ではボトムアップ思考がはたらくのに対し、フローチャートではトップダウン思考がはたらき、原理がことなります。これらをごちゃごちゃにしているとゆきづまります。
またKJ法図解では相似関係に注目しますが、フローチャートでは因果関係が重要です。KJ法図解は、空間的な視点を重視し、空間をつかってラベルを処理して構造を表現しますが、フローチャートは時間的視点から、時間軸にそって時系列でラベルをならべ、機能を表現します。KJ法図解では思考の空間がひろがりますが、フローチャートでは時間軸がつらぬきます。空間的な相似関係と時間的な因果関係は、類縁と縁起といいかえてもよいでしょう(表1)。

人間行為の基本は「判断→執行」であり、判断をふまえて執行の段階へすすんだら、いつまでもかんがえているのではなく、とにかく行動することが重要です。体をうごかします。そのためには決断がいります。いったん決断したら後もどりはせず前進します。「判断→決断→執行」です。KJ法図解とフローチャートを峻別するということは、判断と執行を決断により区分することでもあります。
こうした観点からみると、人間には、KJ法図解が得意な人とフローチャートが得意な人がいるのは事実です。調査・研究・考察にたけた人がいれば、行動・実践・開発にたけた人もいます。学者タイプの人がいれば実務家タイプの人もいます。技術者がいれば経営者もいます。
しかし判断と執行をくりかえすのが人間行為ですから、KJ法図解とフローチャートの双方を問題解決の体系のなかでつかいわけつつも連係させたほうがよいです。KJ法図解をつくるとフローチャートがつくりやすくなり、フローチャートをつくるとKJ法図解をとらえなおすことができるのも事実であり、けっきょく、判断し執行するという問題解決を実践すればこれらを統一的につかうことができ、矛盾を消化し、矛盾をのりこえ、共鳴効果をうみだせます。KJ法とフローチャートは矛盾するようで矛盾しません。これは、異質の統合あるいは矛盾的自己同一といってもよいでしょう。
そもそも世界(宇宙)は、空間と時間、それらの統合あるいは矛盾的自己同一によってなりたっており(正確にいえばそのように人間は認識しているので)、類縁は空間を反映し、縁起は時間を反映します。世界(宇宙)は、もと一つのものから分化・生成・発展してきたとかんがえられており、それを前提にすると、さまざま物事のあいだに類縁がみとめられ、あらゆる現象に縁起がみとめられるのは当然のことであり、基本的には、世界(宇宙)の構造は類縁によってなりたち、歴史は、縁起によって成立するとかんがえられます。類縁と縁起は世界の存立原理あるいは法則であるとかんがえてもよいでしょう。
KJ法図解とフローチャートはそのような原理・法則の現れであり、これらの実践をとおして、現象の根本について認識をふかめていくこともできます。
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▼ 参考文献
加藤昭吉(著)『計画の科学 どこでも使える PERT・CPM』(ブルーバックス)、1965年、講談社
西田幾多郎(著)『絶対矛盾的自己同一』、2012年、青空文庫
川喜田二郎(著)『野外科学の思想と方法』(川喜田二郎著作集 第3巻)、1996年、中央公論社
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 第5巻)、1996年、中央公論社
田野倉達弘(著)『野外科学と実験科学 − 仮説法の展開 −』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『KJ法実践記 情報処理と問題解決』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『国際協力とKJ法 ネパール・ヒマラヤでの実践』、2024年、アマゾンKindle
(冒頭写真:ネパール、バクタプル郊外の山村、1998年2月21日、筆者撮影)








