KJ法のコツ(32) − 記憶法とKJ法 −

情報処理

ファイルをつくります。ファイルにたくわえます。ファイルをつなぎます。

記憶法の歴史はとてもながく、ふるくは、古代ギリシャの詩人シモニデスが、宴会場の天井崩落事故がおこったときに、どこに誰がすわっていたかという座席の配置をおもいだすことで遺体を特定したことから、空間と情報をむすびつけて記憶する手法を確立しました。これが「場所法」のはじまりです。

また古代ギリシャの学者アリストテレスは、理解という現象は、すでにしっていることと類似な現象をおもいついたときに生じ、記憶という現象も、類似なものを結合することで生じるとかんがえました。

ヨーロッパの中世では、教会や城といった建物の構造をまずおぼえ、その空間イメージに、あらたにおぼえたい情報をむすびつけて記憶する方法がひろまりました。あるいは教会などにある壁画をまずおぼえ、その視覚イメージに、あらたな情報をむすびつけて記憶する方法が普及しました。とくに、ストーリーのある壁画をもつ建物が記憶のためにつかわれました。

東洋では、儀式でつかわれる道具の形や色分け、空間配置に情報をむすびつけておぼえる工夫がありました。密教のマンダラは、あらたな情報をむすびつけて記憶するための図像としても活用されました。

このように記憶法の基本は、空間イメージ・視覚イメージを最大限に活用するところにあり、このことは現代でもよくしられています。イメージをつかえば記憶は定着し保持されやすく、基本となるイメージを記憶しておけば、たとえ、部分的に記憶がうすらいだとしても、基本イメージの周辺をおもいだすことによってうすらいだ部分をひっぱりだしたり、想像でおぎなったりすることができます。連想したり類推したりすることもできます。

KJ法では、フィールドワークによってえられた情報をファイル化し(ファイルとは情報のひとまとまりのこと)、ラベル化し、「グループ編成」によってそれらを構造化し、図解にして表現します。それぞれのラベルは空間のなかに配置され、できあがった図解をおぼえておけば、個々のラベルそしてファイルの内容が容易におもいだせます。したがってKJ法は記憶法としても有用であり、歴史的な方法にたとえるならば、KJ法図解は「建物」あるいは「図像」であり、その各部分に、さまざまな情報がむすびついて位置づけられ記憶できるということになります。できあがった図解に、あらたにおぼえたい事柄をかきこんで、情報をさらにむすびつけて記憶し、知識をふやしていくこともできます。いったん図解ができあがればそれを根幹にして知識の枝葉をのばせます。

ラベルは、フィールドワークでえられたデータカードなどの一次ファイルの見出しですから、ラベルをみれば一次ファイルの本文がおもいだせ、さらに、フィールドでの体験をありありと想起することができます(図1)。たとえば旅行先でみたうつくしい風景、快適な体験をおもいだせます。追体験してください。爽快さや快感をともなう想起は記憶力を改善します。想起の快感をくりかえし味わってください。ラベルは過去への入口であり、記憶の倉庫へアクセスすることを容易にします。フィールドでの体験はKJ法と相まってその意味があきらかになり、意義がわかり、価値をたかめることができます。自分の役割を実現するために記憶を活用する道がひらけます。

ファイルのモデル
図1 ファイルのモデル

またこのような記憶は、フィールドで行動しておぼえたことであり、場所と時にむすびついているため わすれることはありません。体でおぼえたことはわすれないという能力を人間はもちます。フィールドでは、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・皮膚感覚・運動感覚など、感覚器官を総合的につかうため、つまり多重感覚を活用すると記憶が定着します。

そして「ラベルあつめ」では、ラベルの相似関係に注目し、類似するラベルをあつめてセットにします。KJ法では、どれとどれが似ているか、ととらえてグループ編成をしていきます。類似なものが結合することで記憶が生じるということはすでにしられた基本的なことであり、グループ編成によっておのずと記憶もすすみ、連想や類推もできるようになります。ひとつのことをおぼえると類似したことが学習しやすくなります。このようにKJ法は、類比法の技術化としてとらえなおすことができ、記憶法としても活用できます。

なお似ているということは、異なる(同じではない)けれども似ているということであって、似ていることをみとめるときには、同時に、異なることもみとめており、異なるものがあってこそ似ているものがわかり、似ているものがあってこそ異なるものが区別されるのですから、つまり類比と対比が同時におこなわれるのであり、類比法には対比もふくまれ、似ている物事を記憶するときにはそれらのなかにある異なる点にも気づき、似ている物事を区別して記憶することが大事です。

ところで記憶に関連してよくしられている法則に「マジカルナンバー」というものがあります。これは、人間の短期記憶において一度に保持できる情報の数は平均で7個、すくない人で5個、おおくても9個程度であるということです。これに関連して、チャンク化という方法があり、情報をグループ化し、意味のあるちいさな塊(チャンク)にすると記憶しやすくなります。たとえば「18387654331」は「183-8765-4331」とすると簡単におぼえられます。KJ法で、大量のラベルをグループ編成して島をつくるのはまさにチャンク化の作業であり、また最終の島の数を7前後とし、おおくても10とするのは、記憶法の観点からいっても理にかなっています。

またKJ法図解は、図解(構造)のなかにラベルがうめこまれており、イメージと言語がむすびつき調和しています。イメージに言語をむすびつけ、イメージに言語をうめこむことによって相乗効果がうまれ、記憶しやすくなります。たとえば外国語を習得するときも、テキストだけをつかって学習するよりも DVD などの映像教材をつかったほうがはるかに簡単に言葉を記憶でき、学習がすすみます。イメージと言語をむすびつける方法が創造性をたかめることもよくしられています。

大量の情報を目の前にしてすべてをおぼえられない場合は、強調された重要なところをおぼえるようにします。強調された情報は記憶によくのこります。印象をつよめるための強調の工夫が世の中でよくおこなわれています。たくさんのファイルがあつまったら、重要なものは色や形などで強調してそこを中心にしておぼえるとよいでしょう。KJ法図解では、「多段ピックアップ」によりランクのたかい島を赤で色どりして強調します。

以上のように、KJ法から記憶法をとらえなおすことができ、その要点は以下のとおりです。

  • フィールドの空間をイメージする。
  • フィールドの情報をファイル化する。
  • 類似ファイルをむすびつける。
  • グループ化(チャンク化)する。
  • マジカルナンバーは7±2である。
  • 全体構造のなかに個々のファイルを位置づける。
  • イメージと言語をむすびつける。
  • あらたにおぼえたい情報を構造にむすびつける(かきこむ)。
  • 重要なところは強調する。

一方、よくしられているように、記憶は、記銘・保持・想起の3つの段階からなります。これらを、人間主体の情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)と関連づけてモデル化すると図2のようになります。

記憶のモデル
図2 記憶のモデル

目でみたり耳できいたり肌で感じたりして(インプット)、かんがえたりイメージしたりし(プロセシング)、言葉などにしてアウトプットするのはいわゆる情報処理であり、ここでのプロセシングは、あさい心の領域(ワーキングエリア、顕在意識)でおこりますが、記憶の保持はふかい心の領域(記憶の倉庫、潜在意識)でおこります。記憶の保持とは、ふかい心の領域に情報をたくわえることであり、とくに長期記憶は心の奥の方に情報が格納されたものです。したがって記銘とは、感覚器官からインプットされた情報を、そのような ふかい心の領域にまでとどける働きであり、想起とは、ふかい領域から顕在意識に情報をひっぱりだしてくる働きです。インプットと記銘、想起とアウトプットは区別してとらえなければなりません。

記銘力をつよくするには、まず、興味のある物事を対象にします。最初の段階では目的よりも興味のほうが大事です。興味のあることはすぐにおぼえられますが、興味のないことはすぐにわすれます。そもそも何を知りたいのか、知りたいという自分自身の気持ちを大事にし、その気持ちをもちつづけるようにします。そうすれば問題意識がおのずとふかまり、テーマもきまります。「好きこそものの上手なれ」、目的意識をもつ以前の根本的な問題です。そしてすきな分野の知識の体系ができると、今度は、その体系を参考にして別な分野の体系を記憶することも容易になります。好奇心や興味・関心は記憶力を自然にたかめます。あまり興味のないことを記憶しなければならないときも、興味のあることに関連づけたり、どこかで将来やくだてようと前向きにかんがえたりし、動機づけをするようにします。

保持力をつよめるには図式を最大限に利用します。教科書や参考書などから、よく整理された見通しのよい図式をあつめておぼえておきます。図式がもつ情報の圧縮効果をつかいます。自分の専門分野については独自の図式をつくりだします。そのためにKJ法がつかえます。

想起力をつよめるためには、いったん記憶したことを はやめにおもいだし確認するようにします。状況を鮮明にイメージし再現します。現場でメモをとっておけば、それがきっかけとなって現場のことが容易におもいだせます。空間の状況をすみずみまで想起したり、時間の流れを順をおって想起します。そのためにもあらかじめしっかり記銘をしておきます。想起をくりかえすことによって短期記憶が長期記憶へ移行します。おもいだすことは記憶と記憶力を強化します。想起は、いつでもすぐにできる簡単な訓練ですがその効果はとてもおおきいです。快感をともなう想起はとくに効果絶大です。想起訓練をまずはおすすめします。

今日、AI の時代が到来し、従来の「詰め込み」は意味をなさなくなりました。試験勉強・受験勉強で くるしみながら知識を詰め込んだという人がおおいかもしれませんが、くるしんでいると記憶に対する嫌悪感が蓄積し、心の働きが衰退してしまいます。アタマという「箱」に知識を詰め込むといったイメージはすぐにすてたほうがよいです。

これからの時代は、アウトプットに記憶をいかに いかしていくかが課題になり、知識をただ詰め込むのではなく、記憶をただ維持しようとするのではなく、自分らしい主体的なアウトプットのために記憶をつかっていきます。ファイルをつくり、ファイルにたくわえ、ファイルをつなぐという方法を実践します。歴史的にみいだされてきた記憶の技術もそのためのさまざまな工夫でした。

人間も組織も、知識をえて現状を維持しようとするとうまくいかなくなるのであり、たえず変化し成長していかなければなりません。そのために記憶法が役だちます。それは、日々の生活をたのしくし、心を健康にし、創造性をたかめ、人生をゆたかにします。認知症の予防にもなります。

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▼ 参考文献

記憶力アップ
SRS記憶法
睡眠の教科書
KJ法
野外科学と実験科学
KJ法実践記

栗田昌裕(著)『絶対忘れない! 記憶力 超速アップ術』、2010年、日本文芸社
栗田昌裕(著)『栗田博士のSRS記憶法 潜在能力をぐんぐんひきだす』、1993年、ダイヤモンド社
『睡眠の教科書』(Newton別冊)、2019年、ニュートンプレス
川喜田二郎(著)『野外科学の思想と方法』(川喜田二郎著作集 第3巻)、1996年、中央公論社
川喜田二郎(著)『KJ法 渾沌をして語らしめる』(川喜田二郎著作集 第5巻)、1996年、中央公論社
田野倉達弘(著)『野外科学と実験科学 − 仮説法の展開 −』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『KJ法実践記 情報処理と問題解決』、2023年、アマゾンKindle
田野倉達弘(著)『国際協力とKJ法 ネパール・ヒマラヤでの実践』、2024年、アマゾンKindle

(冒頭写真:ネパール、バクタプル、トウマディ広場、1998年2月21日、筆者撮影)

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