ネパールは世界最大の垂直構造をもつ国であり、低地から高地へむかって、亜熱帯から温帯・寒帯・氷雪帯までが分布し、その自然環境とそこにくらす人々の多様性は世界でもっとも大きい。この多様な世界をてっとりばやくみるには以下の8カ所へいくのがよい。この8カ所を順次おとずれることにより、ネパールの多様性のほぼ80パーセントをみることができる。さまざまな自然と人々にであってネパールの多様性をしることは地球の多様性を理解することにもつながってくる。
1. カトマンドゥ - ネワールの都市国家 -
カトマンドゥはネパール王国の首都である。みるべきものが非常に多いが都市国家ということを強調したい。人類の歴史において都市国家は、領土国家の時代をむかえる前の段階であり、文明発展の中間段階をしめす。
かつては、ユーラシア大陸の各地に都市国家が存在したが、それらのすべてがほろびて現在は遺跡になっているなかで、ここカトマンドゥは、都市国家の面影が今なお色濃くのこる世界で唯一の場所である。その意味で、カトマンドゥは人類の遺産であり、文明の歴史をかんがえるうえでさけてはとおれない地域である。
都市国家をみるためにはバクタプールをはずすことはできないが、もし時間がゆるすならパタンも是非おとずれてみたい。路地裏までそこをゆっくりとあるけば、まるで中世にタイムスリップしたようであり、しかもそこは観光地では決してなく、ネワールの人々が今なお実際にくらしている空間なのである。
2. 世界最高峰をめざして - エベレスト街道 -
ネパール・ヒマラヤといえば世界最高峰エベレスト(8848m)がおもいうかぶ。世界の登山家がエベレストをめざして命をかける。あるいは各国のトレッカーは、エベレストを眼前にあおぐカラパタール(5545m)をめざす。そのルートがエベレスト街道である。
エベレスト街道の玄関口はルクラ空港、そこまでは空路でいき、その後あるきはじめる。ナムチェバザールで高所適応をしたのち、タンボチェへ。ここまでくればエベレストの上部がよくみえる。体力のある人はさらにその先へ。
なお時間的余裕がない人は、ナムチェバザールの裏山シャンボチェまでのぼればエベレストがみえる。ロッジやホテルもあるので泊まるとよい。
3. チトワン国立公園 - 亜熱帯の自然 -
チトワン国立公園は、ネパールの南部低地タライにある自然保護区である。ネパールというと雪と氷の寒い世界だとおもわれがちだが、南部の低地は亜熱帯であり、とても暑い。
ここへは、首都カトマンドゥから直行のツーリストバスがでている。パッケージツアーなどもあるが、観光地であるのでホテルも多く、いきなり一人でいっても大丈夫である。
現地では、専門のガイドとともにカヌーにのり、ジャングルをあるく。またゾウにものれる。さまざまな鳥のほかにワニやサイをみることもできる。運がよければ、エレファント・センターで子ゾウにもあえる。天気がよければ、ヒマラヤ山脈の峰峰をはるかかなたにここからでものぞむことができる。ラプティ川にしずむ夕日はとてもうつくしい。
4. ルンビニ - シャカ生誕の地 -
ルンビニは、仏教の開祖シャカ生誕の地である。カトマンドゥからバイラワまでバスか飛行機でいき、そこからローカルバスかタクシーでいく。カトマンドゥからのツアーもある。高級ホテルもあるが、まちの安宿にとまれば周囲の素朴な雰囲気を味わうことができる。
シャカが誕生したといわれる寺院の発掘が近年おこなわれ、見学することができる。博物館や図書館もあり、たのめば、一般公開されていない資料も係りの人のつきそい解説つきでみせてもらうことができる。
ルンビニは現在、仏教の原点としてみなおされ、仏教の一大センターとして再開発がすすんでいる。各国の仏教寺がたちならび、宗派をこえて祈りがつづけられている。この地にたてば、古代インドの悠久の歴史と、ここから中国をへてとおく日本にまでつたわったシャカの教えの大きさにおもいをはせることができる。
5. タンセン - 山岳の衛星都市 -
タンセンは、カトマンドゥにすむネワール族がつくった衛星都市のひとつである。それは、カトマンドゥの都市国家をそのまま模したつくりになっており、衛星都市の中でタンセンはもっとも大きいまちであろう。
ここへは、カトマンドゥのニューバスパークからネパール人用の直行バスがでている。所要時間は約10時間。あるいはルンビニからいく場合は、まず、ちかくのバイラワまでバスでいき、そこから北のブトワールまでバスでいくと、そこからタンセンいきのローカルバスがでている。高級ホテルはないが、バスパークのちかくに安宿が何件もあり、予約がなくてもすぐにとまれる。
ここは、都市国家のミニチュアのような山岳の斜面に発達したまちであり、繁栄をほこったネワール族の歴史におもいをはせることができる。また温帯気候ですごしやすいネパールの山岳斜面にくらす人々の様子を直接みることができる。観光客がほとんどいないことも特別な異体験をあたえてくれる。すこしあるいて山の頂上までいけば、ポカラのむこうのアンナプルナヒマールのしろい峰々をみることもできる。
6. ポカラ - アジアの楽園 -
ポカラはリゾート地であり、マチャプチャレ(標高6993m)をシンボルとする風光明媚な観光地である。白銀のヒマラヤ山脈を目前にみることができる。
カトマンドゥから、ツーリストバスや飛行機が多数でている。タンセンに宿泊した場合は、早朝のポカラ行きのローカルバスにのる。所要時間は7~8時間。
一般的には、レークサイドに宿泊してゆったりとすごすのがよいが、是非、オールドバザールとニューバザールもみてみたい。ここポカラは、急速に開発されていくネパールの現実をおしえてくれる。時間があれば、サランコットやフェワ湖対岸のピークまでのぼり、絶景をたのしむとよい。
7. カリガンダキ川 - ヒマラヤの断面 -
カリガンダキ川は、ヒマラヤ山脈を南北にふかくきざみこむ大河である。ここをあるけばヒマラヤの断面をみることができる。その地層は、人間のスケールをはるかにこえて大きく褶曲している。
この川の流域にあるジョムソンへはポカラから飛行機がでている。ジョムソンには観光客用のロッジが多数ある。しかし時間があれば、ポカラからバスあるいはタクシーでベニまでいき、そこからトレッキングをするのがよい。流域にくらす民族は、下流から、チェットリ(インド系)、マガール、タカリー、チベット系民族へとうつりかわり、温帯のヒマラヤ中間山地から亜寒帯のチベット的世界への変化を味わうことができる。
ジョムソンから北側はチベット世界であり、それまでの緑ゆたかな世界から一変、荒涼とした世界がひろがっていく。ヒマラヤのふところ奥深くにはいっていく感じである。
8. ムクティナート - 天にもっともちかい聖地 -
ムクティナートは標高約3800m。ここまでいくには、ジョムソンからトレッキングをしなければならない。観光客用のロッジは多数ある。
ここはヒマラヤのふところ、奥座敷といった感じであり、神々の座ヒマラヤの神秘性を体験をすることがきる。ヒンドゥー教と仏教の寺院があり、両者が混在しているネパールの文化をここでもみることができる。とおくインドからも巡礼におとずれる人がたくさんいるという。氷河も比較的間近にみることができる。
*
上にしめした地域のうち、亜熱帯に属す地域は「チトワン国立公園」と「ルンビニ」である。温帯に属す地域は「カトマンドゥ」と「タンセン」「カリガンダキ川中流域」である。寒帯~雪氷帯に属す地域は「ムクティナート」である。
また「カリガンダキ川」では、温帯から寒帯そして雪氷帯へのうつりかわりをみることができる。比較的せまい範囲で、これだけのダイナミックな気候の変化を順次みられる地域はネパールをおいてほかにはない。
これらの地域では、これらの自然環境とともに、その自然環境に適応したそれぞれの民族、そして彼らのくらしぶりや文化をみることができる。地域ごとの独特なくらしぶりや文化は、それぞれの自然環境とそのなかにいる人間との相互作用によって形成されたこともよくわかる。
「文明の歴史」という観点では、カトマンドゥでは都市国家をみることができ、ルンビニではインド文明について考察をすることができる。
「宗教の観点」では、ルンビニでは仏教、カトマンドゥとムクティナートでは仏教とヒンドゥー教、そして両者が融合した姿をみることができる。カリガンダキ川では中流から上流にかけて、ヒンドゥー教からチベット仏教へのうつりかわりをみることができる。
「観光の観点」では、カトマンドゥとポカラでネパール観光の2つの目玉をみることができ、文化と自然という観光の2側面を体験することができる。