佐伯和彦著『ネパール全史』(明石書店, 2003年)をよむ

目 次

序論 ネパール史の背景と時代区分

序章 伝説と伝承王朝

第1章 古代期 -リッチャヴィ王朝時代-

前説
I ネーパーラ王国の成立
II 黄金時代の現出
III 王位争奪の激動期
IV 王統復帰の栄光と繁栄
V 爛熟の最後の輝き
VI リッチャヴィ時代の政治・社会・文化

第2章 中世期(I)中世前期 -デーヴァ王族時代から三大勢力分立時代まで-

I デーヴァ王族時代
II 三大勢力分立時代
 1 カサ王国(別称カス・マッラ王国)
 2 ティルフット王国(別称カルナータ王国)
 3 前期マッラ王朝時代(中央勢力)

第3章 中世期(II)中世後期

前説
I 三都マッラ王朝時代
 1 バクタプル(バドガウン)・マッラ王朝
 2 カトマンズ(カンティプル)・マッラ王朝
 3 パタン(ラリトプル)・マッラ王朝
II 三都マッラ王朝時代の政治・社会・文化
III 盆地外勢力の動向

第4章 近・現代期 -ゴルカ王朝時代-

前説
近代期
 I ネパール統一と国土拡大
 II 内政の混迷と王宮大虐殺事件
 III ラナ専制政治時代
現代期
 IV 王政復古からギャネンドラ国王即位まで

要 点

注目点

コメント

 本書は、ネパールの全史を詳細に解説した好著であり、本書により、ネパールの歴史の全貌をとらえることができる。

 ネパールの歴史は、(1)石器時代(2)古代〜中世、(3)近代の3期に大きく区分できる。(1)は有史以前、(2)は都市国家の時代、(3)は領土国家の時代である。

 ネパールの都市国家は、現在のカトマンズ盆地内において発展し、マッラ王朝時代に非常に繁栄した。そもそもネパールとは、現在のカトマンズ盆地をさす言葉であった。マッラ王朝崩壊後に、ゴルカ王朝の領土拡大により領土国家としてのネパールが成立した。

 この都市国家から領土国家への移行は、文明史的にみると、文明化の進行(亜文明から本格的な文明への移行)を意味する。都市国家から領土国家へという文明の発展形式はユーラシア大陸の各地で見られることであり、ネパールにおいてもそれを確認することができる。

 ネパール(カトマンズ盆地)には、現在でも、マッラ王朝時代の都市国家の面影が比較的よくのこっている。そのためここは、人類の歴史あるいは文明史を研究する上できわめて貴重な地域となっている。

 都市国家から領土国家へ、あるいは文明の発展という観点から本書を読みなおしてみると、ネパールの歴史のみならず、人類の歴史の本質がみえてくる。本書は、とるにたらない小国の歴史をしめしたものではない。この小国のなかに歴史のエッセンスが凝縮されているのであり、それを読みとることが重要である。その意味でも本書は貴重な一冊である。