-ネパール・パウダル村- |
![]() ネパール王国、パウダル村付近の遠景 >>>拡大 |
<目 次> 1.方法 -「住民の声による地域診断システム」- 2.KJ法図解の内容 - 住民の声 - 3.衆目評価法の結果 - 住民が評価した重要な項目 - 4.結論 - 住民参画の方法・技術が必要である -
>>>ネパール王国の位置 >>>パウダル村の位置
2003年8月29日 発行 |
解 説
1.方法 - 「住民の声による地域診断システム」- ネパール王国の西部山岳地域に位置するパウダル村では、(特定非営利活動法人)ヒマラヤ保全協会が国際協力活動を長年おこなってきており、現在は、マイクロファイナンスを活用したチーズ製造販売のプロジェクトがすすめられている。 地域を活性化する事業をすすめるためには、外部の人がその地域に入って一方的に調査・指導するだけでは不十分である。地域住民が事業に主体的に参画し、テーマをめぐる問題意識と情報を当事者間で共有し、みなで共にかんがえながら意識を向上させていかなければならない。つまり、住民参画型の問題解決の実践が必要である。 2001年11月11〜12日、ネパール・パウダル村において、そのための具体的な方法として「KJ法」を活用した「住民の声による地域診断システム」を実施した。テーマは「パウダル村の未来 -マイクロファイナンスとチーズ工場-」である。 参加者は、パウダル村の「マイクロファイナンス・チーズ委員会」のメンバーを中心にしたのべ29人であり、Aチーム16人(男性10人、女性6人)、Bチーム13人(男性8人、女性5人)の2チームにわかれて、私のリードのもとで、ヒマラヤ保全協会の現地スタッフのウム=バードル=プンさんにも協力してもらいながら作業をおこなった。言語はネパール語をつかった。 今回もちいた「住民の声による地域診断システム」という方法は、「パルス討論」→「KJ法」→「衆目評価法」という方法である。 「パルス討論」とはグループでおこなう討論集会であり、今回は約2時間にわたっておこない、住民が情報や意見をだしあった。 その議論の結果を「KJ法」をもちいて図解としてまとめ、「住民の声」の全体像を掌握した。 そして「衆目評価法」とは、参加者に、テーマをめぐって重要だとおもうKJ法図解上の項目に点数を投票してもらい、問題を解決するための重要なポイントをあきらかにする方法である。その結果は、Aランク・Bランク・Cランクに区分され、Aランクが、村人によりもっとも重要であると判断された項目である。ついでBランク、Cランクとなっている。これにより村人の意識の重心がどこにあるかが明確になった。最後には全体発表会をおこない、情報を共有し、テーマに関する意識を当事者間でさらにふかめた。 なお、地域活性化のための事業では、この「住民の声による地域診断システム」にくわえ「聞き取り調査」をおこなうのがよい。聞き取り調査では、地域内のあちこちをまわり住民から様々な話をきき、取材者が記録をとる。そして、「住民の声による地域診断システム」と「聞き取り調査」の両者の結果を総合して考察をおこなう。このような三段がまえの実践方法が地域事業では非常に有効である。
2.KJ法図解の内容 - 住民の声 - Aチーム Aチームが作成したKJ法図解の内容を翻訳・文章化すると次のようになる。 (1)農家への融資がもっと必要である。 (2)牛の数をふやし、牛乳の質をあげる。 (3)牛の健康維持のために獣医が必要である。 (4)レネットとカルチャーをどのようにして購入するか。 (5)チーズ製造に電力をつかう。 (6)チーズの低温貯蔵庫が必要である。 (7)学校教育に支障がでている。 (8)マーケッティングが必要である。 (9)製造過程における損失を明確にする。
Bチーム Bチームが作成したKJ法図解の内容を文章化すると次のようになる。 (1)農家へのマイクロファイナンスの額をふやさなければならない。 (2)牛乳の生産量をふやさなければならない。 (3)獣医による農家へのトレーニングが必要である。 (4)代替エネルギーが必要である。 (5)あたらしい低温貯蔵庫とチーズ工場建設の補助金が必要である。 (6)マーケット拡大が必要である。 (7)村の収入をふやす。
3.衆目評価法の結果 - 住民が評価した重要な項目 - 作成したKJ法図解に対して、衆目評価法を実施し、問題を解決する上で重要だと判断される項目をあきらかにした。衆目評価法は、AチームとBチームの参加者全員でそれぞれの図解に対しておこない、これにより、村人の意識と問題の核心が明確になった。 Aチームの図解についての結果 (1)Aランク (2)Bランク (3)Cランク
Bチームの図解についての結果 (1)Aランク (2)Bランク (3)Cランク
4.結論 - 住民参画の方法・技術が必要である - AチームとBチームの結果を総合すると、パウダル村の人々は、第一に、チーズの低温貯蔵庫が必要だとかんがえており、第二に、乳牛を購入するために農家への融資を必要としている。それらのためには補助金が必要であるとのことである。一方で、乳牛の育成に大変こまっており、獣医による家畜の治療と、獣医による農家のためのトレーニングをもとめている。これは、乳牛を今まで飼育したことがないため飼育がうまくいかず、せっかく購入した牛が死んでしまうなどのケースがでてきているからである。さらに、マーケット拡大にも、学校の先生の多大な労力を必要とするなど問題が多い。 「住民の声による地域診断システム」の今回の実践は、住民みずからがかんがえ結論をだしたところに大きな意味があり、ここに住民が主体になった地域づくりの可能性をみることができる。そして今回の実践により、参画の方法はネパール山村部においても十分実施可能であり、有効であることが実証された。 住民参画や住民主体による地域の活性化は重要だと誰もがわかっていても、それをすすめる具体的な方法・技術がないためになかなかうまくいかず、かけ声だおれにおわってしまうケースが多いのが実情であが、パウダル村の成果はひとつの実例として意味のあるものである。 ところで、パウダル村では、チーズ工場からでる排水による環境破壊の問題などもある。このような専門的な事柄については、チーズ製造や環境保全の専門家・技術者の指導が必要である。住民やその地域にくわしい人と、事業をすすめる上で必要な分野の「専門家」との共同作業・協力も今後すすめていかなければならない。 |
|