『全地球史アトラス』(YouTube)をみる - 全球的な観点 –

地球

地球と生命の進化の全容がわかります。これまでの定説をくつがえすあたらしい仮説が提案されます。最終段階に人類ははいりました。

東京工業大学・地球生命研究所の丸山茂徳教授らの研究グループは、生命誕生の場、生命の起源、地球と生命の進化に関して、これまでの定説をくつがえすあらたな仮説を提案しました。動画『全地球史アトラス』はそれらを簡潔に紹介しており、これをみれば、地球と生命の進化の全容が比較的短時間でわかります。

  1. 地球誕生
  2. プレートテクトニクス
  3. 原始生命誕生
  4. 生命進化の第1ステージ
  5. 生命進化の第2ステージ
  6. 生命進化の第3ステージ
  7. 生命大進化の夜明け前
  8. カンブリア紀の生命大進化
  9. 古生代
  10. 中生代から人類の誕生まで
  11. 人類代〜人類誕生と文明の構築
  12. 地球の未来

とくにおもしろいのは、「3. 原始生命誕生」「8. カンブリア紀の生命大進化」「12. 地球の未来」です。

「3. 原始生命誕生」では、「原初大陸にはウランが大量にふくまれていて、エネルギー源としてウラン鉱床が生命の誕生を支えた」という大胆な仮説が提案されます。

原始地球の地表でははげしい間欠泉がふきだしており、生命の源となる物質はこの間欠泉の内部でつくられたとかんがえられます。この生命誕生の場の間欠泉を駆動したのは、ウラン鉱床と間欠泉がくみあわさった「自然原子炉間欠泉」です。自然原子炉とは、核分裂反応が自然界で自律的におこるウラン鉱床であり、約20億年前までは地球に存在していたことがわかっており、核分裂反応とは、原子核が分裂してよりかるい元素を2つ以上つくる反応です。自然原子炉間欠泉の内部では、簡単なものから複雑なものまで多種多様な生命構成物質が生産され、生命誕生にむけた化学進化がすすみました。

これまでの研究から、生命誕生の場に必要な条件を抽出するとつぎのようになります。

  • エネルギー源
  • 栄養塩の供給
  • 還元ガスの濃集
  • 乾湿サイクル
  • Naの少ない水
  • 毒性のない湖水環境
  • 多様で動的な環境
  • 周期性のある環境

これら9つの条件がすべてみたされるのは自然原子炉間欠泉のみです。

合成された有機分子は、酸化的な地表の環境と還元的な間欠泉内部を循環することによってより複雑な分子へと進化し、「触媒活性を持つタンパク質様原始物質」のなかから分子構造を編集する能力をもった「酵素様原始物質」が出現し、それらがまじりあうことで、「リボザイムの原型」ともいえる「原始RNA」に進化、さらに、自己複製能力をもったリボザイムがうみだされました。リボザイムは、生命の配列を複製する重責をにない、生命をうみだす原動力となりました。

そしてすべての生命の出発点となる「第一次生命体」は、地下の自然原子炉からえられるエネルギーを元にして「外部共生体」として生存しました。外部共生体は、細胞ひとつだけではいきることができず、まわりの環境やその他の細胞とのエネルギー・物質循環系の一部として共存することによってしか いきることができない生命体であり、核はもたず、直径数十〜数百マイクロメートルのちいさな存在でした。

こうして、41億年前に、原始生命体が誕生しました。

そして「8. カンブリア紀の生命大進化」では、後生動物(原生動物以外のすべての動物)の35の門をうみだした生命大進化の過程がしめされます。現在の生物の体系はカンブリア紀(5億4100万年前〜4億8500万年前)に出現しました。

5億8000万年前〜5億5000万年前にかけて(カンブリア紀の直前に)、「エディアカラ動植物群」とよばれるあらたな動物や植物が海のなかで一斉に出現しました。

当時は、超大陸「ロディニア」がありましたが、それは、東西2つの大陸に分裂しようとしており、そのような大陸分裂場では、放射性元素にとむマグマ「HiRマグマ(ハイアールマグマ、Highly Radiogenic magma)」が噴出して生命のゲノムが傷つくため、突然変異により新種の誕生がうながされ、生命の系統樹におおきな分岐ができます。これを「茎進化」とよびます(図1)。

超大陸「ロディニア」は分裂をつづけて5〜10個ぐらいのちいさな大陸ができ、それらの小大陸では、それぞれの環境下で固有の進化がすすむため、もともとはおなじ種だった生物に多様性がうまれます。これを「孤立進化」といいます。

その後、分裂した小大陸はふたたびあつまりはじめ、衝突・融合し、約5億4000万年前ごろまでに南極点を中心にした超大陸「ゴンドワナ」を形成します。そのような大陸衝突の場では、生物の交雑(遺伝子がことなる生物による繁殖)がおこります。各大陸上で孤立進化してきた生物たちの交雑がすすみ、さまざまなバリエーションの生物へと進化します。これを「冠進化」とよびます(図2)。

図1 茎進化のモデル(注, p.101)
図1 茎進化のモデル(注, p.101)
図2 冠進化のモデル(注, p.103)
図2 冠進化のモデル(注, p.103)

しかしその後、ふたたび地球は極寒期へむかい、「バイコヌール小氷河期」が到来し、エディアカラ動植物群は絶滅します。ところがそれによって、あらたな生命大進化がおこります。大量絶滅は大進化をもたらします。

大陸衝突によって表層環境は多様化し、大洋からきりはなされた「閉鎖的な海」も形成され、陸地からながれこむ川によって硝酸をふくむ大量の栄養塩がはこばれてゆたかな海がうまれ、信じられないほどの大進化がそこでおこりました。「カンブリア爆発」とこれをよびます。

たとえば、アノマロカリスは、約5億2500万年前から約5億500万年前まで生息していたとされ、体長は最大約1mにおよび、カンブリア紀の生物としては最大であり、複眼をもち、発達した2本の触手で獲物をつかまえてたべていたとかんがえられます。そのほかにも、ビカイヤ、ハルキゲニア、オパビニア、三葉虫など、じつに多様な生物が出現しました。

そして「12. 地球の未来」では、「30億人難民時代」や「人類滅亡」、「人工生命体の進化」、「地球消失」といった未来予測がしめされます。

現在、世界の人口は猛烈ないきおいで増加しており、2050年までに30億人も増加し、これにより、莫大な数の国際難民がうまれるとともに、食糧不足・化石燃料激減・環境汚染などが深刻化、異常気象や寒冷化などがこれらに拍車をかけ、これからの30年間は、人類史上最大の苦難の時代となることが予測できます(図3)。

人口増加と化石燃料の枯渇
図3 人口増加と化石燃料の枯渇(注, p.168)

これに対して人類(正確にはヒト、ホモ・サピエンス)は技術革新をくりかえし、文明の力によって難題をのりこえようとします。なかでも、「AI ロボット」(人工知能ロボット)は人類の活動を補佐し、宇宙探査もすすめるもっとも重要な技術です。そしてちかい将来、自己複製が可能な AI ロボット「人工生命体」が開発され、それは、人類の能力の限界をこえて進化し、銀河にまで進出します。

こうして、生物としての人類の役割は終焉をむかえます。人類滅亡です。

2億年後、アジアを中心に、アフリカ大陸・アメリカ大陸・オーストラリア大陸などがあつまり、超大陸「アメイジア」が誕生します。それにともない、太平洋は消滅し、大山脈がそこに出現します。

4億年後、「C4 植物」が死滅します。C4 植物とは、サトウキビやトウモロコシなどを代表とする、光合成能率のたかい特有の反応経路をもつ植物です。超大陸アメイジアの出現によって大陸の面積が増加すると、よりおおくの植物が大気中の CO2 をとりこみ、地中に埋没させるようになり、大気中の CO2 がいちじるしく減少し、C4 植物は死滅します。

10億年後、「プレートテクトニクス」が停止します。冷却していく惑星の必然的な現象です。火山活動や造山運動がなくなり、大地は風化・侵食される一方になり、低温のプレートが地球内部の「核」に落下しなくなって「外核」の冷却力が低下し、地球磁場が消滅します。地球は、「太陽風」にさらされ無防備になり、大気はなくなり、海洋成分は宇宙へ散逸していきます。この時点までに、かろうじて地表に生息していた大型多細胞生物は絶滅します。

15億年後、海洋が急激に減少し消滅します。どうにか海中でいきていた生物も絶滅します。地球生命の全滅です。また太陽が膨張するにつれて地表の温度は500℃に達します。

45億年後、地球が存在する「天の川銀河」に「アンドロメダ銀河」が衝突します。

80億年後、膨張する太陽に地球はのみこまれ、地球は消滅します。

『全地球史アトラス』は、地球と生命の進化の全容を約1時間でおしえてくれるたいへんすぐれた動画です。このような動画は、こまぎれで時間をかけてゆっくりみていくよりも、フルストーリーを一気にみてしまったほうが全体像が容易につかめます。高速インプットは全容把握に直結します。速読法がいい例です。とくに、仮説法と帰納法にとりくむときには高速インプットが有効です。そしてここぞという興味がわいた部分については、今度は、時間をかけてじっくりしらべるとよいでしょう。そのときには演繹法がつかえます。

『全地球史アトラス』の特徴は、従来の生命科学と地球科学を融合させているところにあります。これまでは、生命科学者は地球科学に関する理解が不十分で、地球科学者は生命科学に関する理解が不十分であったために、生命と地球の進化についてかたよった見方しかできていませんでした。生物か環境か、どちらか一方をつっついているだけで自然の本質がわかりませんでした。

しかし丸山茂徳さんらの研究グループは、全球的観点にたって、生物と環境を一体のものとしてとらえ、〈生物-環境〉系という体系(誕生と進化の場)を追究し、「全球学」ともいうべきあたらしい学問を創造しました。『全地球史アトラス』とそのガイドブック『地球と生命の誕生と進化』(注)は、このようなあたらしい学問の出発点となるすぐれた教材です。

「全地球史」は、生命誕生場に必要な「9つの条件」をしめすとともに、「自然原子炉間欠泉」が生命誕生場であったというかつてない大胆な仮説を提案しました。

そもそも生命とは何かというと、つぎの3つの要素をもつものが生物であると定義されています。

  • 膜(自己と外界の境界)
  • 代謝
  • 自己複製

すなわち生物と外界を膜によって区別し、寝ているあいだでも体内の化学反応を代謝によって維持し、子供をつくって子孫に命をうけつぐのが生命です。これらの3つの要素は、大型動物や植物だけでなく最初の生命も同様にもっていたのであり、41億年にもわたってとぎれることなく今日のヒトまで連綿とつながっています。

丸山さんらによると、原始生命誕生は、自然原子炉間欠泉の地下ではじまりました。ウラン鉱床がエネルギーを供給すると水と反応し、生命の材料となるさまざまな分子ができはじめます。地下では還元、地上では酸化の場を提供し、潮の満ち引きによる乾湿サイクルなども分子の合成に不可欠な条件でした。やがて脂肪酸があつまって生命をつつむ膜となり、触媒活性をもつタンパク質様原始物質がつくられ、生命を記述する分子「原子RNA」が「酵素様原始物質」とまじりあい、自己複製機能をもつ「リボザイム」に進化し、生命の配列を複製する力を分子は身につけました。そしてこれらが脂質の膜にとりこまれ原始生命体がうまれ、これが、その後のすべての生命の出発点となりました。

そして生命の進化は、宇宙に原因をもつ地球環境の変動や大陸の離合集散と密接にむすびついていることもあきらかにしました。地球環境の変動による大量絶滅がおこったあとに大進化がおこります。大陸の分裂場(リフト帯)では「茎進化」が、大陸の衝突場では「冠進化」がおこります。

この仮説(モデル)は、なぜ、アフリカ大地溝帯(グレートリフトバレー)で人類は誕生し進化したのかというこれまでの疑問にも解答をあたえます。人類学的な調査・研究により、人類は、世界各地で進化したのではなく、アフリカ大地溝帯を中心にして進化し、その後、世界へ拡散したことがしられていましたが、どうしてアフリカだったのか、わかりませんでした。他方、地球科学的な調査・研究により、アフリカ大地溝帯は大陸の分裂場であることがしられていました。したがってそこは茎進化がおこった場だったのであり、このように、〈生物-環境〉系という体系あるいは場を理解することが疑問の解決につながります。

そしてこのようにして進化した人類は、ヒト(ホモ・サピエンス)になって大繁栄しましたが、今日、人口がふえすぎてこまっています。むこう30年間はもっとも苦難の時代となるでしょう。利己的な性格がわざわいして紛争もはげしくなるでしょう。それでも何とか、第三次世界大戦をおこさないように努力しなければなりません。

しかしふえすぎた人口も2050年ごろを堺に減少に転じます。人口がへれば、食糧問題・資源エネルギー問題・環境問題などが徐々に解決されていきます。

一方で、AI ロボットの開発が急速にすすみます。人手不足は、AI ロボットがおぎないます。従来はヒトがおこなっていたほとんどの仕事を AI ロボットがおこないます。

そして AI ロボットは、自己複製機能を身につけ、人工生命体へ進化します。人工生命体はヒトがうみだすものですがヒトの能力をそれがうわまわるのは時間の問題であり、するとヒトと人工生命体とはどのような関係になるのでしょうか? 「親」を「子」がのりこえて「老いて子に従え」となるのでしょうか? あるいは親が子に支配されたり追放されたりして「悪い子をうんだ」ということになるのでしょうか? けっきょく、親は必要なくなるのでしょうか? いずれにしても、人工生命体の時代になるでしょう。わたしは、人工生命体はつくるべきでないとかんがえますが機械文明の進歩をとめることはもはや誰にもできません。

このように全地球史を展望すると、「原始生命体→人類→人工生命体」という大局的な生命の大進化と地球の大変動がうかびあがります。生命大進化と地球大変動からみると、わたしたちヒトは、人類進化の最終段階にきていることがわかります。それどころか従来の生命全体が進化の最終段階にきています。単なる仮説としてこれをしりぞけることはできません。最後のとき、争いをやめ心ゆたかにすごそうではありませんか。 

▼ 関連記事
大進化がおこる -『地球のあゆみ えほん 46億年のれきし』-

3D 生命の星・地球博物館(1)「地球を考える」
3D 生命の星・地球博物館(2-1)「生命を考える」
3D 生命の星・地球博物館(2-2)「生物をはぐくむ仕組み」
地球史を旅する -『地球全史 写真が語る46億年の奇跡』岩波書店(1)-
地球全史のなかでそれぞれの出来事をとらえる -『地球全史 写真が語る46億年の奇跡』岩波書店(2)-
3D「ゴンドワナ - 岩石が語る大陸の衝突と分裂 -」(生命の星・地球博物館)
大陸移動説と3段階モデル - ウェゲナー『大陸と海洋の起源』-
地球環境の変動と生物の進化をみる - 国立科学博物館・地球館 地下2階 –
3D 東北大学 自然史標本館
3D 地質標本館 - 安定と変動 –
環境変動に適応する -「全球凍結」(Newton 2017.6号)-
生命誕生の謎をさぐる - 『生命誕生の謎』(Newton Kindle版)-
進化における生命の大躍進をみる - 特別展「生命大躍進」(1)-
生命進化の物語がはじまる - 特別展「生命大躍進」(2)-
眼をつかって情報をとりこむ - 特別展「生命大躍進」(3)-
空白領域に進出する - 特別展「生命大躍進」(4)-
眼と手をつかいこなす - 特別展「生命大躍進」(5)-
段階的に発展する - 特別展「生命大躍進」(6)-
イメージでとらえ、言葉をつかって確認する - 松井孝典(文)・柏木佐和子(絵)『親子で読もう 地球の歴史』-
地球と生物の宿命をしる -「輝く星々の一生」(Newton 2018.1号)-
今西錦司『生物の世界』をよむ

▼ 注:参考文献
丸山茂徳著『地球と生命の誕生と進化』(GEOペディア)、清水書院、2020年6月5日
※『全地球史アトラス』のガイドブックであり、YouTube の内容をさらにふかく理解することができます。

地球と生命の誕生と進化

アーカイブ

TOP
CLOSE