推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
29.歌声の消えた海  “TROUBLED WATERS”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 豪華客船シーパレス号がメキシコへむかって航海をつづける。

DVDチャプターリスト

(1)船上で消えたカミさん (2)アリバイに最適の場所 (3)鑑識なしの捜査 (4)“犯人は船内にいる” (5)硝煙反応 (6)領収書 (7)指紋のとり方 (8)なぜ海に捨てない? (9)脈拍と血圧 (10)亜硝酸アミルのカプセル (11)警部の衣替え (12)“私の指紋だ”

犯行の動機

 大手中古車ディーラーの社長ヘイドン=ダンジガー(犯人)は、豪華客船専属バンドの歌手ロザンナ=ウエルズ(被害者)と愛人関係にあったが、ロザンナは、ダンジガー夫人に関係をばらすとダンジガーを脅迫し、金を要求していた。金は、メキシコにつくまでに は支払うと言うダンジガーだが、すでに、ロザンナ殺害の計画を着々とすすめていた。

コロンボはいつどこでピントきたか

 船の医務室で、病室の戸口の床に羽毛がおちているのを発見したとき。
 コロンボは船酔いの薬をもらうために医務室へ行き、看護婦に言われて椅子にすわった。そのとき、となりの病室の戸口に妙な物がおちていることに気がつく。羽毛である。病室では普通、アレルギー患者に配慮して羽毛の布団や枕はつかわないはずである。一方で、殺されたロザンナの部屋にも羽毛がおちていた。
 犯人はここにいる、とコロンボは直観する。
 そして病室に入ってみると、昼間出会ったダンジガーがベッドの上で雑誌を読んでいた。

犯行を裏付ける事実

 殺人容疑のかかったロイド=ハリントンの部屋から、ラスベガスで拳銃を購入した領収書が見つかったが、もし彼が犯人なら領収書は処分していたはずである(領収書がのこされていたのは不自然である。犯人が、ロイドをはめるためにおいたにちがいない)。
 ダンジガーは、前にもこのシーパレス号にのったことがあったため、ロザンナの休憩時刻とそのとき彼女は自分の部屋にもどることを知っていた。ダンジガーは、カーチスクリッパーというキーを複製する装置をあつかえるので、キーの製造会社とマスターキーのコード番号さえわかれば、マスターキーをつくることができた。ダンジガーがいた医務室からロザンナの部屋まで、乗務員専用の階段をつかって移動することが可能であった。
 凶器の拳銃は見つかったが、犯行時につかった手袋は見つからない(ロイドが犯人だとすると説明がつかない)。医務室の手袋が1組なくなっている。
 ダンジガー夫人は、もし夫が自分をうらぎったらお払い箱にすると言っている。ダンジガーは先週の金曜と土曜日にラスベガスに行っていた(拳銃を購入したにちがいない)。
 心臓発作をひきおこすことができる亜硝酸アミンのカプセルが、プールの濾過器のネットの中から見つかった(ダンジガーはニセの心臓発作をひきおこし た)。事件当日の夜11時半に、ダンジガーの脈と血圧が急にあがった記録がある(ダンジガーはロザンナの部屋から階段をかけあがってきたにちがいない)。

コロンボはいかにして決着をつけたか

「あたし、ほかのものをさがしているんです(It’s just that I’m after something else)」
  コロンボは、ダンジガーをよびだして、あらたに発見されたゴム手袋の内側に指紋がついていることをしめす。
「この指紋の主がロザンナを撃ち殺したんです。ダンジガーさん、あなたの右手の人差し指をこの粉につけてくだされば、それでこの事件、完全に解決するとおもいますがね(Now whoever’s print that is, that person shot and killed Rosanna Wells. Mr. Danziger, would you please the index finger of your right hand in that graphite, and I think maybe we can wrap this whole thing up very quickly)」
「私の指紋だよ(That is my print )」
 ダンジガーは自白においこまれた。
 コロンボは、犯行につかわれた手袋には硝煙反応がついているはずであり、それが発見されれば事件は一件落着するとダンジガーに言った。こう言えば、ダンジガーは細工をするはずであるとコロンボは読んでいたのである。
 ダンジガーは、医務室からふたたび手袋をぬすみだし、その手袋をつかって拳銃を1発うって手袋に硝煙反応をつけ、それを消火用ホースの間にかくして発見されるようにしておいた。ダンジガーはコロンボの罠に完全にはまってしまったのである。

解説:すべてを見通す眼力

「どうしてわかっんだ(How did you find out?)」(ダンジガー)
「この羽なんです(This feather, sir)」(コロンボ)
 コロンボは、ポケットから羽毛をとりだしてみせる。コロンボは、犯人が客室で枕越しに銃をうったとき、羽毛が体のどこかについて、病室までもどってきたときに戸口でおちたということを、羽毛を発見したときに見抜いたのである。コロンボの眼力は非常に強力だった。あとは、犯人をいかにおいつめるかの問題であった。
 コロンボの眼力の第一は観察力である。実によく周囲を見ていることにいつもおどろかされる。目が大変よく、小さな物でも決して見落とさない。
 そして、コロンボの第二の眼力は事件を見通す力である。ほかのエピソードでも感じることであるが、コロンボの眼力はゆたかな知識や教養にささえられている。今回も、たった一つの小さな羽毛を見落とさなかっただけでなく、羽毛は病室ではつかわないという知識を元々もっていた。コロンボは、物事に関する情報を瞬時におもいうかべることができ、その背後にあるメッセージを見事に読みとっている。そして、犯人の行動を心の中で想像し、瞬間的に物事の本質をとらえ、事件の本質を見通してしまうのである。
 コロンボの第一の眼力は「肉体の眼」の力、第二の眼力は「心の眼」の力と言ってもよい。このようにこのエピソードでは、コロンボの強力な眼力が事件を解決する様子がとてもよくあらわれている。


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2005年12月25日発行
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