推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
28.祝砲の挽歌  “BY DAWN’S EARLY LIGHT”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ラムフォード大佐が、校庭の中央にある砲台の上にすえられた大砲の砲身にボロ布をおしこむ。

DVDチャプターリスト

(1)開校記念日の準備 (2)祝砲は撃たれた (3)学長は厳しい・・・ (4)砲の掃除当番 (5)“標的はあなただ!” (6)警部入校す (7)弾薬はC4 (8)無断外出 (9)“我々の仕事は似ている” (10)奇妙な改装案 (11)リンゴ酒捜索 (12)特定の時間、特定の場所

犯行の動機

 ヘインズ陸軍幼年学校の創設者の孫で現理事長のウィリアム=ヘインズ(被害者)は、同校の校長ライル=C=ラムフォード大佐(犯人)に対し、新学年から、この幼年学校は共学の短大に変えることにしたと言いはなつ。戦争がおわり、生徒があつまらなくなったためである。
 このままでは、伝統ある陸軍幼年学校が共学の短大に変えられてしまう。これは絶対に阻止しなければならない。ラムフォードは、陸軍幼年学校をまもるためにヘインズ殺害の計画を実行する。

コロンボはいつどこでピンときたか

 ヘインズ陸軍幼年学校の食堂で、ラムフォードが、札つきの生徒スプリンガーに大砲の掃除を命じたことを、ラムフォード自身の口から聞いたとき。
 ラムフォードは、朝、掃除用のボロ布が砲身にのこされていたことをみとめたときは、大砲の掃除当番の生徒の名前はおぼえてないと言い、コロンボを校長室までつれてきて当番リストをしらべた。しかし実際にはおぼえていたのである。ラムフォードは、おぼえてはいたがはっきり断定できなかったのだと言いつくろった。
 これは妙だ。ラムフォードがあやしい。

犯行を裏付ける事実

 砲身に、清掃用のボロ布が入っていた。事件当日にかぎって大砲の音が遠く(ウエストレイク)までとどいていた(大砲が破裂した)。祝砲の弾にこめられていた火薬はゼリグナイトC4とよばれる強力な火薬だった(事故ではなく殺人である)。
 死んだヘインズは、開校記念日の式典の主催者をみずからかってでた(みずから祝砲をうつことになっていた)。
 ラムフォードは、スプリンガーに、彼が殺人罪で逮捕される可能性が高まってきたことをつげ、学校と自分が味方であることを信じておけとつけくわえた。スプリンガーは、大砲掃除はおこなっておらず、大砲に細工することは不可能だった。兵器庫の鍵をもっていたのはスプリンガーとその日の発射当番であり、ラムフォードはマスターキーをもっていた。
 体育館の改修工事用の図面には女子便所が記載されていた(陸軍幼年学校を共学の学校に変える計画が進行中だった)。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 朝6時20分、ラムフォードはよびだされて、校庭の砲台ちかくまでやってくる。そして兵舎の2階の窓に、リンゴ酒の瓶がつるされているのを発見する。実はラムフォードは、前にも一度それを見ている。このことから、事件の朝、彼が砲台の所にいた、つまり大砲に細工をしたということをコロンボは証明してみせた。
 生徒たちによると、リンゴ酒の瓶を窓につるしたのは、土曜日つまり事件前日の晩が最初であった。そして翌日つまり事件当日の早朝6時25分、起床ラッパがなる直前に瓶はしまわれていた。当日の夜明けは6時15分であり、それ以前には瓶を見ることはできない。また、窓につるされたリンゴ酒の瓶は砲台とそのごくちかくからしか見ることはできない。
 これらのことから、ラムフォードは、6時15分から6時25分までのわずか10分間に砲台の所にいて、そこからリンゴ酒の瓶を目撃したということになる。リンゴ酒の瓶の目撃者がすなわち犯人であったのである。

解説:時間と場所を特定する

 ラムフォードは、生徒の宿舎でリンゴ酒の捜索をはじめる。しかし見つからなかった。実はコロンボがかくしもっていたのである。コロンボは生徒たちに言う。
「君たちにたのみがあるんだ。リンゴ酒に関すること全部はなしてくれないか。関係者、場所、時間もね(I do want you to do me a favor. I want to know all there is to know about the cider. Who? Where? And when?)」
 コロンボは、リンゴ酒が、関係者と場所と時間を特定するポイントになるにちがいないと読んでいた。生徒たちは、リンゴ酒の瓶を、すぐに見つかるような場所やすぐに見つかるような時間帯には絶対につるさないはずである。言いかえれば、絶対に見つからない特定の場所と特定の時間を選択していたはずである。したがってそれを目撃できたのも、普通ではない特定の場所と時間にかぎられるはずである。
 コロンボはラムフォードをおいつめる。
「あなたは、その特定の時間に見ただけではありません。その時あなたは、ある特定の場所に立ってたんです(Not only did you see it at that specific time, Colonel, but you had to be standing in one specific place)」(コロンボ)
「みごとな調査だ(You’ve done a very nice job)」(ラムフォード)
 コロンボは、リンゴ酒の瓶に着目して、犯人が存在した特定の時間と場所を見事にしぼりこんでいった。犯人はその一点すなわち犯行現場を特定され、そこにしばりつけられ、もうどこにもにげることはできない。犯行現場とは、時間と空間の場のなかのある特定の一点であり、そこは事件解決の急所である。
 そして、その一点に立ってみるとすべてを一気に見通すことができる。その一点にすべてが圧縮されている。これは、鳥瞰とはちがうやり方で全体を見通す方法であると言ってもよい。
 このようにこのエピソードでは、コロンボが、時間と空間の一点を決定し、事件を見事に収束させていく様子がシャープにえがきだされていた。


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2005年12月25日発行
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