推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
26.自縛の紐  “AN EXERCISE IN FATALITY”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 マイロ=ジャナスが、オープンリールのテープの一部を切りとっている。

DVDチャプターリスト

(1)重たいごまかし (2)スニーカーが規則 (3)53歳の肉体 (4)レイシーって誰? (5)警部のハードワーク (6)「電話で調べたら?」 (7)マイロの経営感覚 (8)秘書の役割 (9)ビジネスのアドバイス (10)“30日で若返ります” (11)禁煙はやめた! (12)ダイヤル6901

犯行の動機

 マイロ=ジャナス健康クラブ社の社長・マイロ=ジャナス(犯人)は、不正をはたらき、トンネル会社をつかって巨額の金を外国へ送金し、私腹をこやしていた。同社のフランチャイズ・クラブのオーナーであるジーン=スタッフォード(被害者)はそのことに気がつき、さらに調査をすすめ、不正をあばいてやると言いだした。
 このままでは不正が公になってしまう。マイロは、ジーン=スタッフォード殺害の準備をはじめる。

コロンボはいつどこでピンときたか

 最初にマイロ邸をおとずれて、マイロの手首に火傷の跡があるのを見たとき。
 スタッフォードのオフィスにはコーヒーがこぼれた形跡があった。マイロの火傷とコーヒーとは関係があるのではないか。熱いコーヒーがこぼれたときマイロは火傷をしたのではないか。マイロがあやしい。

犯行を裏付ける事実

 スタッフォードは、出前の中華料理をオフィスでたっぷりたべていた(トレーニングの直前に腹一杯たべたのは変である)。トレーニング室の床にこげ茶色の靴の跡がある。こげ茶色の靴がスタッフォードのロッカーの中にあった(スタッフォードだけがこげ茶色の靴をはいていた)。床にあった靴の跡は、もみあうとか取っ組みあうとかしないとつかない跡である。
 マイロ邸の電話のランプが切れていた。
 マイロのオフィスでは、かかってきた電話は録音しており、スタッフォードの声もたくさん録音してあった。事件当日マイロ邸にかかってきた電話で、スタッフォードは「やあ、ジェシカ」といつもの調子で話しだした(電話に最初にでた秘書ジェシカは、事件当日はじめてマイロ邸に行ったのであり、ジェシカがでたのにびっくりしなかったのは変である)。スタッフォードからとされる電話は6902番にかかってきて、そのときは電話のライトはついていた。
 スタッフォードの首におちていたバーベルは240ポンドもあったが、彼は160ポンドしかあげたことはなかった(マイロは250あげられる)。ロッカーにあったスタッフォードの靴の紐はむすんだままだった(靴紐をむすんだまま靴をぬいだのは変だ)。
 マイロは、事件当日帰宅する前に「パサデナに行ったが店はしまっていた」と言ったが、当時店はしまっていなかった(アリバイは成立しない)。
 スタッフォード夫人は、警察に行ってマイロを詐欺で非難した。
 マイロのオフィスのテープをしらべたら、テープを切った跡がみつかった。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボは、マイロの秘書のデスクの上に左足をあげ、靴紐をむすんでみせる。
 左足の靴の紐を自分でむすぶときは、普通、最初の輪は親指の側にくる。しかし、他人に靴をはかせて、靴紐をむすんであげるときは、最初の輪は反対の小指側にくる。
 ロッカーにあったスタッフォード(被害者)の靴は、最初の輪は親指側にきている。しかし、死体がはいていた運動靴は最初の輪は小指側にある。つまり、スタッフォードの運動靴は他人がはかせたということが証明される。
 しかし、マイロは抵抗する。
「靴をはかせたのは僕だという証拠は何一つあがっていないじゃないか(But the fact remains that you can’t prove that I did it. It could have been anybody)」
 コロンボは最後のとどめをさす。
「あんたしかいないんだよ。自分でみとめてるでしょ(It could only be you! By your own admission, it had to be you!)」
 スタッフォードを第三者が最後に見たのは7時半で、そのとき彼は背広姿だった。しかし翌朝、死体が発見されたときには運動着を着ていた。その間誰も彼を見ていない。ところが、マイロひとりだけがスタッフォードが着替えたのを知っていた。それはマイロ自身が証言している。あの時間アリバイのあるはずのマイロが、なぜそのことを知っていたのか。
「完全なアリバイをつくろうとしたんだろうがね。その完全なアリバイが命取りでしたね(You tried to contrive the perfect alibi, sir. And it’s your perfect alibi that’s gonna hang you)」(コロンボ)

解説:手堅くせめる

 コロンボは、現場を最初に見たときに、これは事故ではなく他殺であるとかんがえ、それを前提にしてマイロ邸におもむいた。そこで、スタッフォードの死亡をつたえたうえで、マイロの表情や態度をよく観察し、彼の手首の火傷にも気がついた。
 次に、スタッフォード夫人宅をたずねる。
「ご主人が誰かともめてたってことはないんでしょうかね(I was wondering, do you know of anybody that your husband had problems with?)」(コロンボ)
「ありますとも。あたしともマイロとも両方もめどおしでしたわ(Yes. I mean, between Milo Janus and me, he didn’t have anything but problems)」(夫人)
「マイロさんとはどんなもめ事でした?(And what kind of a problem did he have with Mr. Janus?)」(コロンボ)
「ビジネスでしょ。事業のやり方に関しておこってましたわ(Business. I mean he was just very upset by the way business was going)」(夫人)
 夫人の話を聞いて、マイロが犯人であることをコロンボは確信する。
 そして、スタッフォードのメモにあったレイシーに電話をしたとき、留守番電話の応答をきく。このことが、スタッフォードがマイロ邸にかけたとされる電話が、実は、録音をつかったトリックであったことに気がつくきっかけになり、秘書ジェシカが電話を録音しているのを見つけたとき、マイロのトリックを完全に見破ることになる。
 さらに、スタッフォード夫人が入院した病院で、母親が子供の靴紐をむすんでいるのをみた瞬間、靴紐のむすび方のちがいに気がつき、このことが決定的証拠の発見へとつながっていく。
 最終場面では、くわしい解説つきの実演により犯人を確実におとしていく。「スタッフォードがはいていた運動靴の紐は他人がむすんだ」という事象は、「スタッフォードが運動着に着替えたことをマイロだけが知っていた」という前提にてらしあわせてみると、「マイロが、スタッフォードを着替えさせた」(スタッフォードを着替えさせたのはマイロ以外ありえない)という結論になる。つまり、犯人が自分でむすんだ靴紐が決定的な証拠となったという訳である。コロンボは、三段階の推理で犯人をおいこみ、見事にとどめをさした。
 このエピソードでは、コロンボが、くどいほどに手堅く犯人をせめていく様子がいきいきとえがかれていた。


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2005年12月25日発行
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