推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
24.白鳥の歌  “SWAN SONG”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 トミー=ブラウンがパラシュートでおりてくる。

DVDチャプターリスト

(1)“私は光を見た” (2)夜の殺人飛行 (3)航空カバンの灰 (4)警部とスーパースター (5)魔法瓶は何のため? (6)空軍での体験 (7)大佐の証言 (8)“パイロットは生きている” (9)白のナイロン生地 (10)カバンの中身 (11)種はまいた・・・ (12)レンタカーのキー

犯行の動機

 カントリー&ウェスタンの人気歌手トミー=ブラウン(犯人)は、妻エドナ(被害者)に弱みをにぎられていたため、エドナが信仰する宗教団体「魂の十字軍」の礼拝堂建設のために、コンサートの収益金を全額寄付しなければならなかった。
 このままでは、自分がかせいだお金を自由につかえないばかりか、エドナに一生支配されつづけなければならない。
 トミーは、妻エドナの殺害計画を実行にうつす。

コロンボはいつどこでピントきたか

 空軍のオフィスで、トミーがかつて空軍で、パラシュートの整備をしていたことを知ったとき。
 トミーは、自分でパラシュートをつくることが可能だった。彼は、パラシュートをつかって小型飛行機から脱出し、飛行機を墜落させたにちがいない。コロンボは、トミーの犯行を確信する。

犯行を裏付ける事実

 小型飛行機のシートベルトは、後部座席のものはしまっていたが、トミー(パイロット)のものははずしてあった。航空鞄の中が空だった(地図や航空図などの燃えかす(灰)が見つからない)。トミーのギターはバスでおくられていた(ギターは無事だった)。
 飛行機につみこんだ魔法瓶が見つからない。ロスの天候は悪化する予報がでていたので1時間はやく出発すればよかったのに、仮眠してから飛行した。妻の死亡後トミーは礼拝堂建設を中止した。死亡したエドナらは睡眠薬をのんでいた。
 「魂の十字軍」の工場からローブ用の布が45平方ヤードなくなっていた(その布でパラシュートをつくった)。トミーがつくったとおもわれる大きさのパラシュート(小さめのパラシュート)は航空鞄にぴったりおさまる。
 トミーは、あたらしい編曲を1週間も前に依頼していた。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 トミー(犯人)が、飛行機の墜落現場のちかくにかくしたパラシュートを回収してもどってきた。その瞬間、車のヘッドライトが光る。コロンボはまちぶせをしていたのである。
 コロンボは、飛行機からおちた魔法瓶を草の根をわけてでもさがしだすとトミーに言い、彼に、かくしたパラシュートをとりに行かせるように種をまいた。しかしトミーは、全国ツアーのためにサンフランシスコへととびたってしまう。
 やりそこなったとおもっていたが、一緒にいた警察官が電話をかける。その瞬間、電話箱の鍵が目に入った。トミーはレンタカーの鍵をもって行った。鍵をか えさなかったのは、ひきかえしてきて車をつかうためだ。こうしてコロンボは、先回りをして、まちかまえていたという訳である。

解説:疑問が仮説に成長する

 コロンボは、最初に、小型飛行機の墜落現場を観察したとき、シートベルトや航空鞄の状況から、事故にしては妙だとおもった。しかしこの時は、トミーの犯行による殺人事件であるという確信はまだもっていない。この段階では、仮説というよりも疑問をもった。
 その後コロンボは、ひとつひとつ疑問にとりくんでいく。犯人に疑問をぶつけると、犯人はもっともらしい答えを次々にかえしてくる。
 そして、パラシュートをつかったトリックに気がつく。パイロットだけが生きのこったのは変だとおもった最初の疑問が、ここで明確な仮説に成長した。
 一旦、仮説が採択されると、次は、犯人をいかに逮捕するか、その構想をねらなければならない。
「しかしそれにしても、あの山の中からさがしだすのは大変な仕事ですな。なにせひろいから。どこから手をつけます?(Well, there’d still be an awful lot of mountain to search for anything hidden or buried. A lot of mountain. Who could find it?)」
と航空機事故調査の責任者パングボーンがたずねると、コロンボはこたえる。
「かくした本人から(The guy that hid it)」
 こうして、「魔法瓶の罠」を仕掛けたのである。コロンボは、できもしない計画は決してたてない。もっとも効率よく犯人を逮捕する計画をねる。コロンボはアイデアマンである。
 このように、このエピソードでは、素朴な疑問がしだいに仮説に成長し、パラシュートのトリックがあばかれていく様子が見事にえがかれている。
 最後に犯人は、レンタカーのトリックを仕掛けてくるが、コロンボは、持ち前の観察眼とひらめきで事件を解決してしまう。私たちは「そういうことだったのか」と後から納得する。これも、疑問を仮説に成長させたそれまでの捜査のつみかさねがあったからこその解決である。ひらめきには土台が必要である。
 そして最後にコロンボはかたりかける。
「あたしが逮捕しなくても、いずれ自首されたでしょう(Sooner or later you would have confessed even if I hadn’t caught you)」
 トミーはこたえる。
「ああ、君の言うとおりなんだ。こうなって何か肩の荷がおりた気がする(Yeah. You’re right, Lieutenant, I would have. Because it was getting to me and I’m glad it’s over)」
 コロンボの仮説は犯人の心の奥にまでくいこんでいた。


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2005年12月25日発行
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