推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
22.第三の終章  “PUBLISH OR PERISH”
目 次
トップ
まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ライリー=グリンリーフの車が、バックで老夫婦の車にぶつかる。

DVDチャプターリスト

(1)爆弾マニア (2)ベストセラー作家 (3)二つの顔 (4)アリバイは留置場で (5)警部の執筆計画 (6)“サイゴンへ60マイル” (7)新作の中身 (8)盗作? (9)ドアは開いていた

犯行の動機

 ベストセラー作家のアラン=マロリー(第1被害者)は、現在は、グリンリーフ社と契約中であるが、3週間後の契約切れを機に、ニール社とあらたな契約をむすぶことにしていた。
 しかし、グリンリーフ社の社長ライリー=グリンリーフ(主犯)は、新作の出版権を他社にわたす気など毛頭ない。それにくわえ、グリンリーフ社はマロリーに100万ドルの保険をかけていた。
 グリンリーフは、元兵隊のエディ=ケーン(共犯・第2被害者)に、マロリー殺害を依頼する。

コロンボはいつどこでピンときたか

 グリンリーフ邸で、保険会社から電話があり、グリンリーフのアリバイが成立したとおもわれたとき。
 グリンリーフは、「彼ら」が連絡してくれてよかったと言ったが、先方が何人であったかは わからないはずである。どうして先方が複数だとわかったのだろうか。
 また、この直前に、マロリーの新作がベトナム戦争に関するものであるとグリンリーフは知っていた。新作の内容は誰も知らないはずである。
 グリンリーフがあやしい。

犯行を裏付ける事実

 グリンリーフとマロリーは犬猿の仲だった。犯行現場の部屋の鍵がとりかえられていたことは、グリンリーフにしか話していない。死亡したエディ=ケーンは犯行現場の部屋の合い鍵をもっていた。エディの新作の原稿は、まるでマロリーが口述したような文体だった。グリンリーフは、原稿サービス社のウォルパートからマロリーの原稿を手にいれていた。

コロンボはいかにして決着をつけたか

「ウォルパートさん! やっぱり反応がありましたね(Mr. Walpert? I thought that name might mean something)」
 コロンボがこうよびかけると、かえりかけたグリンリーフは立ちどまり、ふりかえる。
 コロンボは、マロリーの口述をタイプしていた原稿サービス社のウォルパートをよびだし、彼が、マロリーの原稿をコピーしてグリンリーフにひそかに提供していたことを証言させる。つまりグリンリーフは、マロリーの新作の内容を以前から知りえていたのであり、エディ=ケーンが書いたとされる原稿は、グリンリーフがねつ造することが可能だったのである。
 コロンボはつづける。
「この梗概はね、9ヵ月前、エディ=ケーンが書いたんだとあんた言われた。この結末じゃ、主人公は仲間を救出して修道院へ入る。言いたかないんですがねぇ、エディ=ケーンがこの結末をおもいつくはずはないんです(In this synopsis that you gave me which you claim Eddie Kane wrote nine months ago the hero saves his men and he goes off to live in a monastery. I hate to tell you this, ser, but… there is no way that Eddie Kane could have had that idea)」
 9ヵ月前にエディ=ケーンが書いたとされるその原稿の結末には、主人公は修道院に入ると記されていたが、この結末は、エージェントのアイリーンの提案で変更されたものであった。
「だから9ヵ月も前にエディ=ケーンがこの結末を、梗概に書けるはずがない。先週変更したばかりなんですから(And for the life of me I cannot figure out how Eddie Kane could have written an ending nine months ago that was only invented last week)」
 つまり、エディ=ケーンが9ヵ月前にこの原稿を書いて、グリンリーフにわたすことは不可能だったのであり、この原稿と、さらに、エディ=ケーンがマロリー殺害をくわだて、グリンリーフに罪をきせようとしたとするシナリオは、グリンリーフがでっちあげたものであることが証明された。

解説:推理の達人・コロンボ

 犯行現場におちていた鍵はドアには合わなかった。現場にのこされていたテープにはブラインドがゆれる音が録音されていた。マロリーは、エアコンがこわれていたため、窓とドアをあけて風通しをよくしていた。これらの事実から、「ドアは最初からあいていたので、犯人は、鍵をつかわずに部屋に入ることができたが、わざと鍵をおとしてたちさった」という第一の仮説がたつ。
 そして、グリンリーフ邸でのグリンリーフの発言から、「グリンリーフが主犯であり、別に実行犯がいる」という第二の仮説がたつ。
 コロンボは、犯行現場のドアの鍵が、事件解決の「鍵」になるとかんがえ、すぐに、現場のドアの鍵をあたらしいものにつけかえ、「あたらしい鍵をもっていた人物こそ犯人だ」と言って、グリンリーフに罠を仕掛ける。つまり、グリンリーフが犯人だとすれば、グリンリーフはあたらしい鍵をつくり、それを実行犯がもっていたように見せかけるはずであるという推論をする。
 その結果、エディ=ケーン(実行犯)のキーホルダーからあたらしい鍵が見つかり、グリンリーフが仕掛けに反応したことがしめされる。つまり、コロンボの推論の正しさが実証される。
 しかし、エディ=ケーンが書いたとグリンリーフがいう原稿のからくりがわからない。行きづまっていたら、エージェントのアイリーンがヒントをくれた。
「ねえ、その梗概ですけどね、マロリーさんが口述したような文体ね(You know, that synopsis. It’s as though Alan dictated it himself)」
 この言葉により、「グリンリーフは、マロリーの口述原稿を読んで、エディ=ケーンの原稿をねつ造した」という第三の仮説がみちびかれる。もしそうだとしたら、口述原稿をひそかに提供していた人物がいるはずであると推論できる。そして、コロンボはその人物をつきとめるとともに、原稿に存在する矛盾点を発見した。
 このエピソードは、マロリー殺しのストーリーに、みずからをおとしいれようとした人物がいたように見せかけたグリンリーフのトリックがからみあって、様々な情報が交錯し、非常に複雑な話の展開になっている。
 グリンリーフの側から見ると、二つのことが想定外だった。一つは、犯行現場のドアがあいていた(鍵は必要なかった)ことであり、もう一つは、原稿の結末が先週変更されていたことである。これらはいずれも、グリンリーフが予測できなかったことである。完璧な犯罪はありえず、どこかにかならず落とし穴が存在する。コロンボはそこを見逃さなかった。
 コロンボは、たくさんの事実からいくつかの仮説をたて、さらに仮説をくみたてて、複雑にからみあった情報を整理し、真相をあきらかにしていった。その過程では推論をくりかえし、犯人を罠にかけることもしている。
 事件を最終的に解決するきっかけとなったアイリーンの言葉を聞いた直後の場面で、コロンボは空中を指差しながらかんがえている。コロンボは空間を利用し、様々な情報をイメージ化しながら推理をすすめ、すべてを見通してしまう。コロンボはまさに「推理の達人」である。


tanokura.net
2005年12月25日発行
Copyright © 2005 TANOKURA Tatuhiro, all rights reserved.