推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
13.ロンドンの傘 “DAGGER OF THE MIND”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ニコラウス=フレイムが、サー=ロジャー=ハビシャムの居間で『不思議の国のアリス』をひらいて机の上におく。

DVDチャプターリスト

(1)メイン・タイトル/役者夫婦の犯罪 (2)コロンボ、ロンドンに出張 (3)転落事故の矛盾点 (4)告別式での大芝居 (5)コロンボのロンドン観光 (6)切れたネックレス (7)間違えた傘 (8)傘はどこにいった? (9)ハビシャム男爵の蝋人形 (10)ゆすられた犯人 (11)ロンドンの傘 (12)エンド・クレジット

犯行の動機

 ロイヤル・コート・シアター(ロンドン)で、シェークスピアの『マクベス』のマクベス夫妻を演じる俳優のニコラウス=フレイム(共犯)と夫人リリー(共犯)は、元舞台プロデューサーのサー=ロジャー=ハビシャム(第1被害者)を色仕掛けで説得し、公演のための資金をださせていた。
 しかし、サー=ロジャーは自分が二人に利用されたことを知り、リリーの楽屋まできて、公演は中止し、ロンドンのどこの舞台にも、二度と立てないようにしてやると言いだす。
 これにおどろいたフレイムはサー=ロジャーともみあいになり、それを見たリリーがクリームの瓶を夢中でなげつける。瓶はサー=ロジャーの頭にあたり、彼は床にくずれおちる。
 サー=ロジャーは誰にも見られないで入ってきたと言っていた。フレイム夫妻の工作がはじまる。

コロンボはいつどこでピントきたか

 ふたたび、ロジャー邸に行ってロジャーの車をみて、直後にフレイム夫妻に会ったとき。
 サー=ロジャーの車には雨の跡があった。ロジャー邸付近では雨はふらなかったので、これは、昨夜彼がでかけていたことをしめしている。そのときたまたまフレイム夫妻もロジャー邸にきていて、二人は、サー=ロジャーに貸した非常に高価な『マクベス』が見つからないと言い、ロジャー邸からの本の盗難とサー=ロジャー殺害とをむすびつけようとした。
 しかし、車の事実と二人の話とはくいちがう。フレイム夫妻があやしい。

犯行を裏付けるデータ

 サー=ロジャー邸の2階の居間で『不思議の国のアリス』は背が上になるようにふせておいてあった(この本はとても高価な蔵書であるので、愛書家は、本がいたむこのような置き方はしないはずである)。
 サー=ロジャーは、居間に呼び出しベルがあるのにベルをならなさないで階下へおりた(用事があればベルをならせばいいのに妙だ)。階下に何をしに行ったのか不明である(ウィスキーは居間にあるし)。サー=ロジャーは部屋着ではなく外出着をきていた(読書をしていたのに変だ)。読書をしていたとされる居間にサー=ロジャーの眼鏡がなかった。眼鏡は、サー=ロジャーのポケットに入っていたがこわれていなかった(階段からおちたならこわれているはずである)。
 死体の検視の結果、サー=ロジャーは後頭部を殴打され脳出血があり、死んで少ししてから死体が移動されたことがわかった。
 事件当日、ロンドンでは雨がふっていた。フレイム夫妻(犯人)の会話はちぐはぐなところがまったくなく話があいすぎている(不自然である)。楽屋番のフェンウィックは傘をパブでぬすまれ、ぬすまれたパブにフレイムもいた。傘をたしかめにロジャー邸にコロンボが行ったとき、フレイムの車とすれちがった。
 サー=ロジャーの執事タナー(第2被害者)が死亡した(タナーは、フレイム夫妻が犯人であることを知ったにちがいない)。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 蝋人形館に、フレイム夫妻がよばれてやってくる。つづいてダーク部長ら、そしてコロンボがやってくる。蝋人形館の恐怖の部屋には、あらたに、マクベス夫妻とサー=ロジャーの蝋人形が展示されている。
 コロンボはフレイム夫妻に言う。
「あたしはタナーさんが殺したとはおもわないんです。ホシはお宅ですよ(I don’t think Mr.Tanner killed anybody, like the newspapers are saying… I think it was you) 」
 サー=ロジャーは、ほかの場所で殺されて自分の屋敷にうつされた。したがって、その晩いったいどこへでかけていたのか。誰に会っていたのか立証できれば、つじつまがすべて合うことになる。コロンボは、リリーの楽屋に行っていたとかんがえた。
 事件の晩は雨がふっていたので、サー=ロジャーは傘をさしていた。そして、リリーの楽屋に入り、傘はぬれているので、きちんと紐でまかないでたてかけた。一方であの晩、けんかでリリーのネックレスがきれて、真珠がとびちる出来事があった。とびちった真珠が、サー=ロジャーの傘の中に入っていたら、サー=ロジャーがフレイム夫妻に会っていたことを立証することになる。
「ジョーンズさん、傘ひらいてみてください(Mr. Jones, would you open the umbrella, sir?)」(コロンボ)
 すると、傘の中から真珠が一粒ころがりおちてくる。
 フレイムは、急にわらいだし正気をうしなう。リリーは事故だったのだと犯行をみとめる。
 しかし実は、その真珠は、コロンボが仕込んだものだったのである。

解説:周辺から核心へせまる

 このエピソードは、コロンボの海外出張という他にはないおもしろい状況設定である。
 コロンボは、ロンドン警視庁犯罪捜査局のダーク部長に案内されて、スコットランド・ヤードからロジャー邸にやってきた。ダーク部長の親戚のサー=ロジャーが死亡したというのである。
 コロンボは2階の居間で、『不思議の国のアリス』の初版本が粗末にあつかわれているのを見て、最初の素朴な疑問をもつ。執事のタナーに話を聞いてみると、ほかにもいくつかの矛盾点が存在する。サー=ロジャーは、居間からでて、階段をころがりおちたことになっているが、これは変だ。事故ではなく殺人ではないか。
 こうしてコロンボは、被害者の周辺部から、手がかりを次第にさぐっていくことになる。コロンボは客人・外部者であるため、捜査を直接リードすることはできず、あくまでも一歩さがった存在である。
 コロンボは、ロジャー邸での疑問から、サー=ロジャーの死体の検視を要請する。そして、それはやはり、事故ではなく殺人であったことを検証する。
 次に、ロジャー邸にふたたび行ってフレイム夫妻に会ったとき、彼らがあやしいとピンとくる。つまりフレイム夫妻が犯人ではないかという仮説をたてる。これを検証するために、ロイヤル・コート・シアターへ行って、フレイム夫妻から話をきく。この時点で二人が犯人にちがいないと確信する。真珠がおちていたのを見つけたのもこのときである。
 そして、楽屋番フェンウィックの傘がぬすまれたことを知ったとき、傘はフレイムがぬすんだにちがいないとかんがえた。すなわち、事件当日ロイヤル・コート・シアターにおいて、楽屋番フェンウィックがまちがえてサー=ロジャーの傘を持っていってしまったので、ロジャー邸にはフェンウィックの傘が運ばれてしまった。つまり傘が入れかわってしまった。フレイムはそのことに気がついて、証拠を隠滅しようとしたのではないか。これが次にたてた仮説である。
 そして、それを検証するために、コロンボはまずロジャー邸へ行き、そして蝋人形館へ行く。しかし、サー=ロジャーの遺品箱からでてきた傘はロジャーのものであり、傘が入れかわったという仮説は検証できなかった。コロンボは犯人に先回りされたことをさとる。
 コロンボは、執事タナーに、誰か先にロジャー邸にきた人はいなかったかとたずねたが、タナーはそのような人はいないとこたえる。タナーはこのとき真相に気がつき、フレイム夫妻をゆすることをおもいつく。そしてその後、タナーが死亡する。報道では死因は自殺とされているが、コロンボは、タナーはフレイム夫妻に殺されたにちがいないという仮説をたてる。
 コロンボは、フレイム夫妻が犯人であることを完全に確信したが、決め手が見つからない。
「何か一つあればいいんだが。あの晩サー=ロジャーがどこにいたか(All we needed was one little one, like to where Sir Roger was that one night….)」(コロンボ)
 そして、蝋人形展がはじまることを新聞で知り、傘と真珠のトリックをおもいつく。被害者の傘と真珠がむすびつくのはロイヤル・コート・シアターの楽屋でしかありえない。
 このようにして、コロンボは、素朴な疑問からはじまり、仮説形成と推論・検証をくりかえしながら、被害者の周辺部から事件の核心にせまっていった。今回のエピソードでは、コロンボが外部者という状況と相まって、周辺から核心に次第にせまっていくコロンボの手法が見事に光っていた。


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2005年12月25日発行
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