推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
10.黒のエチュード “ETUDE IN BLACK”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 アレックス=ベネディクトが、野外音楽堂ハリウッドボウルをぬけだし、自動車整備工場にしのびこむ。

DVDチャプターリスト

(1)メイン・タイトル/殺人準備 (2)偽装された自殺 (3)急ぎすぎた処理 (4)コロンボ登場 (5)アレックスへの疑惑 (6)コロンボの疑問点 (7)コロンボはカーマニア!? (8)コロンボ、ピアノの腕前 (9)トランペット奏者の告白 (10)小さな目撃者 (11)黒のエチュード (12)エンド・クレジット

犯行の動機

 交響楽団の指揮者アレックス=ベネディクト(犯人)とピアニスト・ジェニファー=ウェルズ(被害者)は愛人関係にあり、ジェニファーはアレックスに、彼の妻ジャニスと離婚するようにせまっていた。もし離婚しない場合には、今の愛人関係を公表するという。
 アレックスには妻ジャニスと義母リジー=フィールディングがおり、彼は、彼女らのおかげで巨額の財産を自由につかうことができ、また義母は、アレックスが指揮者をつとめる交響楽団の理事長でもあり、スキャンダルになればすぐに追放されてしまう。
 離婚など絶対にできない。アレックスはおいつめられる。

コロンボはいつどこでピントきたか

 ピアニストのジェニファー(被害者)の自宅で、アレックスに会ったとき。
 ジェニファーは、美人で才能があって実にめぐまれたわかい音楽家である。つきあっている人々も一流である。自殺なんてかんがえられない。コロンボは、背後には男がいるのではないかと想像する。
 そこへ交響楽団の指揮者アレックスがやってくる。彼は、花をおとしたと言って襟につけなおしている。これは妙だ。

犯行を裏付ける事実

 アレックス夫妻は豪邸にすんでいる(巨額の財産をもっている)。ジェニファーが飼っていたインコが死んでいた(どうしてにがさなかったのか)。ジェニファーの遺書の文字の位置がタイプの位置とあわない(紙は一旦とりだされてから、再度さしこまれた)。アレックスは、故障がないにもかかわらず車を修理にだしていた。アレックスの車の走行距離(メーター)が9マイルふえていた。自動車整備工場からジェニファーの家まで往復は9マイルである。交響楽団のトランペット奏者のポールは、3ヶ月前にジェニファーにふられた。ジェニファーにはあたらしい男ができていた。

コロンボはいかにして決着をつけたか

「あー、フランク、テープまわしてよ(Uh, Frenk, would you roll the tape?)」(コロンボ)
事件の晩のコンサートを録画したテープが、アレックスと妻ジャニスの前でまわりはじめる。演奏がおわりアレックスがアップでうつしだされる。テープをとめてよく見ると、アレックスは襟に、いつもつけている花をつけていない。コロンボは言う。
「現場で花ひろわれるの見ましたよ。ピアノの下におとしたそうで(I remember you picked up a flower at Miss Welles’ apartment, under the piano)」
 そして次に、事件後、アレックスがジェニファーの家からでてきたところを撮影したニュースフィルムをまわす。今度はアレックスの襟には花がついている。コロンボは言う。
「花を手にいれるとしたら、あのピアノの下からひろったときしかないんです。つまり前に来たときにおとしたやつです(Because the only place you could’ve gotten it was at Miss Welles’ apartment, when you picked it up at the piano. That means you had to have been there earlier)」
 しかしアレックスは抵抗する。
「僕はあのとき、コンサートがおわったあと、楽屋で別の花をつけて出たんだ(I simply went into my dressing room, pinned down my flower after the concert and left)」
 コロンボは、妻ジャニスにその通りだったかどうか質問する。ジャニスはこたえる。
「いいえ。おわったあとにはつけなかったわ。ほかのことなら、あなたのためにどんなことでもしたけれど、でも、これだけは(No. No, he didn’t put on a flower afterwards. I could’ve stood for anything, Alex. Anything in the world. But not murder)」
 のこされていた映像とジャニスの証言が、アレックスが、前に、ジェニファーの家にいたこと、つまり彼が犯人であることを証明した。アレックスは、犯行現場で襟から花をおとすという重大なミスをおかしたのだった。

解説:映像と証言をくみあわせる

 アレックスがジェニファーの家にやってきたとき、彼はコートをぬいで、花(カーネーション)を襟につけていた。
「何かありましたか?(Find something?)」(コロンボ)
「花をね、どうもコートをぬぐときにおとしたらしい(I dropped my flower, My coat must have knocked it off)」(アレックス)
「ピンがまがってますよ(Pin is bent)」(コロンボ)
 コロンボは、こうしてアレックスに注目しはじめる。
 そしてしばらく捜査をつづけたのち、犬の病院で、アレックスが出演しているテレビ番組を偶然みる。教育テレビでは土曜の朝にコンサートの再放送をやっているのだった。
「ビデオがあったんだ。利口じゃないねぇ、ビデオをわすれてた(So, it’s on tape. They’ve got it on tape. I never thought of that)」
 こうして最後の場面にいたったのである。
 この事件では、アレックスがジェニファーの家にきた前後の映像がのこされていたことが決定的なポイントとなった。このことに気がつくきっかけをもたらしたのは、コロンボが犬を飼いはじめたことである。コロンボは、愛犬を獣医のところにつれて行ったときに、偶然、アレックスの番組を見たのであった。コロンボの愛犬が登場したのはこのエピソードが最初であり、犬にはまだ名前がついていない。
 しかし一方で、妻ジャニスの証言も必要だった。
 ジャニスは、ジェニファーの電話番号を夫が記憶していたのを知ったとき「あれ?」と感じ、最初の疑念をもった。そして夫アレックスに、ジェニファーとの関係や、どうして自分と結婚したのかとたずねたりした。その後コロンボから、ジェニファーの愛人についてたずねられたりして疑念をさらにつよくした。そして最後には、決着をつけようと言い、結局、アレックスに口裏をあわせなかった。こうしてコロンボは、ジャニスの証言によって裏付けをとった。
 ジャニスは、夫アレックスが犯人ではないかと薄々感づいていたようだ。コロンボはジャニスの気持ちも読んでいた。コロンボは最後にジャニスにかたりかける。
「お察しします(I’m sorry, ma’am)」
 彼女は悲しくこたえる。
「ええ、ありがとう(Yes. So am I)」


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2005年12月25日発行
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