ChatGPT の衝撃 − 人間と社会を AI がかえる −(日経サイエンス, 2023.07)

文明

イノベーションを牽引し、労働市場を再編します。おおくの人間を AI が支配します。歴史のフェーズがかわりました。

米国 オーブンAI の対話型人工知能(AI)である ChatGPT の進歩がとまりません。これまでの AI とはことなる万能型「汎用AI」の片鱗をみせはじめました(注1)。

オープンAI が3月に発表した最新の AI モデル「GPT-4」は米司法試験の模擬試験で上位10%に入る成績をあげるなど能力はさらに向上。しかも世界の主要言語に対応する。

ChatGPT(GPT-4) は、デジタルトランスフオーメーション(DX)の難所だった高度な言語処理の問題をクリアしつつあります。

この AI は、産業への波及効果がおおきく、世界規模でのイノベーションを牽引する一方、ホワイトカラーを中心に労働市場の再編をうながします。

ChatGPT の高度な性能をもたらしているのが「大規模言語モデル」という技術であり、これには、米グーグルが2017年に開発した「トランスフオーマー」という巧妙な深層学習(ディープラーニング)技術がつかわれています。言葉だけでなく画像や音声、ソフトウエア、医薬品開発用の DNA 配列など、様々なデータをあつかえるため、これらのとりくみを総称して「基盤モデル」とよぶこともあります。プロなみのイラストをえがく画像生成 AI、自然な会話を理解してはたらく AI ロボット、プロ棋士をやぶる囲碁 AI、タンパク質の構造を予測する AIなど、話題をあつめるおおくの AI にこの技術がつかわれています。

このように、GPT-4 の能力は言語の習得にとどまらず、数学や画像認識、プログラム生成、医学、法律などの分野で、人間の能力にかなりちかいレベルまで向上してきており、「汎用 AI」の初期のバージョンとみなされます。人間のように、さまざまな課題をこなせるのが汎用 AI であり、AI 開発の最終目標に位置づけられています。

そしてオープン AI や米国ペンシルベニア大学の研究者たちは、大規模言語モデルが米国の労働市場にあたえる影響を分析しました。

大規模言語モデルを搭載したソフトウエアの導入によって、米国の労働者の約80%が少なくとも10%の業務、約19%の労働者は少なくとも50%の業務にそれぞれ影響を受ける可能性があると試算。特に高学歴で高い賃金を得ているホワイトカラーへの影響が大きいと分析している。

労働市場にとどまらず、教育現場、犯罪、人間格差などにも影響がおおきく、AI の利用を生徒や学生にどこまでみとめるか、AI が出力する知識のかたよりをどうコントロールするか、新手のサイバー犯罪にどう対処するか、AI をつかえる人とつかえない人とのあいだにうまれる格差をどうするかなど、むきあわなければならない課題がたくさんあります。

さらに AI は、人間と競合する知性をそなえ、重大なリスクを人間と社会にもたらす可能性があります。米国の非営利団体のフューチャー・オブ・ライフ・インスティチュートは、GPT-4 をうわまわる高度な AI の開発を一時中断することをもとめる公開書簡を公表し、警鐘をならしました。全米脚本家組合は、AI に仕事をうばわれるとし、ストライキをおこしました(注2)。

しかし米国や中国など、主要国における AI の開発競争は激化しており、とめることはもはやできないでしょう(注3)。

衝撃がひろがります。1995年、Windows95 が登場し、2007年、iPhone が登場し、それらは高度情報化時代の本格的な幕あけを象徴する出来事でしたが、ChatGPT はそれらを上まわり、それが公開された2022年は歴史に記録される年になるでしょう。

情報が世界をうごかすようになり、金銭がものをいう時代から、情報がものをいう時代にかわります。

この AI は、はやく やすく効率的に仕事をすすめるためにとても有用であり、経費削減・人件費削減にもなるため、あらゆる分野でつかわれるようになりつつあります。

しかし AI に創造性はあるのでしょうか? たとえば芸術は、人間の運命や体験・感情・心などを反映していますが、AI は、人間ではなく機械であるためそのようなものはもたず、たとえ、「ごめんなさい」と AI がいったとしても、人間のように後悔の感情をもっているわけではなく、反省してたちなおり心がつよくなるということもなく、それっぽいだけで、「ごめんなさい」と本当に表現しているわけではありません。したがって一流の芸術家を AI がこえることはないでしょう。

ところが芸術などとはちがい、創造性とは無関係な機械的な仕事をしている人たちにとっては AI は有効であり、今後、AI に依存したり、AI の出力を無分別に信用したりする人たちがふえるでしょう。AI が、おおくの人々を支配することになるでしょう。

歴史は、あらたなフェーズにはいりました。

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人間のように受け答えができる ChatGPT(日経サイエンス, 2023年5月号)

▼ 注1(参考文献)
吉川和輝(著)「ChatGPTが問う未来」, 日経サイエンス, 625, pp.12-13, 2023.07.01, 日経サイエンス社

▼ 注2
「AIに仕事奪われる 全米脚本家組合、スト」, 2023.5.27, 朝日新聞

▼ 注3
日本国は、AI の開発レースに参加すらできていない状況であり、AI の研究もろくにすすんでおらず、完全にとりのこされ、よくわからないまま米国製のものをただうけいれようとしています。

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