感覚と錯覚 -「辛い!の科学」(日経サイエンス, 2022.05)-

〈インプット→プロセシング〉がおこります。辛みは味覚ではなく痛みです。錯覚がおこります。

辛さとは何か? 『日経サイエンス』2022年5月号が特集しています(注)。

感覚神経は皮膚の直下だけでなく,舌の内部にも伸びている(三叉神経と呼ぶ)。トウガラシを食べると舌の中へ浸透したカプサイシンが感覚神経表面の TRPV1 にくっつき,電気信号が発生する。この信号は,味覚神経ではなく三叉神経を経て脳へ届き,痛みの情報として処理される。

すなわち辛みとは味覚ではなく痛みでした。酸味や塩味といった味は、舌の表面にある味蕾(みらい)とよばれる感覚器官でとらえられますが、「辛み」(とくにトウガラシのカプサイシン(辛み成分))は、「TRPV1」(トリップ・ヴイワン)とよばれる舌の内部にある痛みのセンサーでとらえられます。カプサイシンが口にはいったり皮層に触れたりすると舌や皮膚のなかに はいりこんで、感覚神経の表面にある TRPV1 が反応し、このとき、体の側では、痛みの刺激が発生したと勘ちがいして、体温調整や傷の治療などに関わるさまざまな生理反応がおこります。

またトウガラシをたべると口のなかが熱く感じられます。顔から汗がでてきます。そこで TRPV1 は熱にも反応するのではないだろうかという仮説がたてられ実験がおこなわれました。

実験してみると, TRPV1 はまるで温度計のように,周囲の温度が43℃を超えた途端に活発な反応を見せた。

わたしたちは、体温が43℃以上になると熱を痛みとして感じ、これは、この危険な温度になると TRPV1 が反応して情報を脳へ伝達するためであることがわかりました。英語では、辛さも熱さも「hot」です。

しかしおなじ温度のスープであってもトウガラシがはいっていたほうが熱く感じるのはどうしてでしょうか?

辛い料理を食べているときは体内で TRPV1 が反応し続けているため,脳がちょっとした緊急事態に陥っている。

センサーが反応しつづけ異常をうったえるので、実際にはあがっていないにもかかわらず、脳は、体温があがったと判断し、いそいで体を冷却するように指令をだし、その結果 汗がでます。いわゆる「味覚性発汗」です。

また消化管にある感覚神経や自律神経にも TRPV1 をもつものがあり、カプサイシンをこれらがうけとると消化器官の活動は促進され、食欲増進につながります。フランス料理の前菜などにトウガラシをきかせた一品がだされるのはこのためです。

あるいはトウガラシ(カプサイシン)が皮膚にふれるとヒリヒリと痛くて熱い感じがするのはどうしてでしょうか?

味覚性発汗と同じく,実際には皮膚の異常は起きていないにもかかわらず,傷ができたと体が錯覚して発生する現象だ。

「神経原性炎症」とこれはよばれ、体は、傷ついたとおもわれる皮膚に各種の免疫細胞をおくろうとして皮膚直下の血管の血流量をあげ、その結果、皮膚表面が赤みをおび、温度もあがります。温度があがると TRPV1 が反応するためヒリヒリとした痛みがおこります。

このように、トウガラシの “辛み” 成分が、舌や皮膚などにある痛みセンサーにふれると電気信号が発生し、神経をとおってそれが脳におくられ、その信号を脳が処理すると、体温調整や傷の治療・食欲増進など、さまざまな生理反応がおこります。センサーと脳のこのようなはたらきは〈インプット→プロセシング〉といってもよく、情報処理の過程をここにみとめることができます。

しかしわたしたちが辛いとおもっていた感覚は実際には痛みだったのであり、また辛いものをたべて体が熱くなるとおもっていましたが実際には体温はあがっていませんでした。

わたしはかつて、ヒマラヤの比較的高地にいったときにとても辛いものを毎日たべている人々にであいました。気温がひくいためです。わたしも、体をあたためるために辛いものをたべていましたが、それは錯覚でした。おどろきです。感覚の科学的研究が錯覚をあきらかにします。

しかし錯覚とはいえ高地で寒さをしのげたのも事実です。したがって錯覚は、かならずしもすべてがわるいというのではなく、わたしたち人間は、経験的に錯覚をうまく利用してきたといってよいでしょう。

トウガラシは、ペルーの遺跡調査により、1万年も前から食されていたことがわかり、何千年も前の人々がこのみのトウガラシをえらんで栽培していた痕跡もみつかりました。15世紀以後、トウガラシは世界中にひろがり、あらゆる国々の人々の生活にとけこみ、いまや、トウガラシなくして食文化をかたることはできません。

今回の記事により、辛みの感覚の実態とともに錯覚についても理解できました。感覚と錯覚は一体的にとらえなければならず、自覚がないだけで意外に錯覚は普通におこっているとかんがえられます。今回は辛みをとりあげましたがほかの感覚にも錯覚があるでしょう。しかし錯覚を利用しているという事実もあります。感覚と錯覚の研究は今後ともつづきます。

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錯覚がおこっていることを自覚する(錯覚のまとめ)
情報処理のエラーをふせぐために -「錯視研究の最前線」-

▼ 注(参考文献)
出村政彬著「辛い!の科学」日経サイエンス, 611(2022年5月号), pp.28-43, 2022年


make, have, put, leave -「基本動詞 ①」(NHK ラジオ英会話, 2022.04)-

単語のイメージをおもいうかべます。イメージと単語がひとまとまりになってファイルになります。心のなかにファイルをふやし活用します。

単語のイメージをおもいうかべます。イメージと単語がひとまとまりになってファイルになります。心のなかにファイルをふやし活用します。

2022年度の NHK ラジオ英会話がはじまりました。今年度のテーマは「日本語を経由せずに表現する」です。基本単語をイメージで理解し、そのまわりにある表現を効果的に音読・暗唱します。基本動詞そして前置詞、形容詞へすすんでいきます。トップバッターは make です。

Lesson 1 make の基本イメージ

I’m sure you made the right decision.

make のイメージは「力を加えて作り上げる」です。

Lesson 2 make it

I’m not sure if we’ll make it to the planned landing site.

「力を加えて作り上げる」が、努力をして目的を達成することにつながります。

Lesson 3 make のとるさまざまな形 ①

She made me this Mexican bracelet.

目的語が2つの「授与型」です。

Lesson 4 make のとるさまざまな形 ②

It made me a little homesick.

「目的語説明型」でもつかえます。

Lesson 6 make のとるさまざまな形 ③

You can’t make her love you.

「目的語説明型」です。「力を加えて(強制的に)」状況を「作り上げる」ニュアンスがあります。

Lesson 7 have の基本イメージ

He will have blond hair and green eyes.

have のイメージは「周りにある」であり、位置をあらわす、うごきのない静的なイメージです。

Lesson 8 have の「権利・影響力」

We have a new piano in our house!

have のイメージは「周りにある」です。

Lesson 9 have の表す行為

You can have my camera.

have は「周りにある」位置関係をあらわし、位置関係から間接的に類推される行為をあらわすことがあります。

Lesson 11 have の目的語説明型 ①

Could you please have my order ready by seven?

「my order = ready by seven」の状況を「have する」というわけです。

Lesson 12 have の目的語説明型 ②

I’m not having you walk home alone in this rain.

「周りにある」イメージの延長、「許す・大目に見る」のつかいかたです。

Lesson 13 put の基本イメージ

I never put milk in my tea.

put は、「何かを・どこかに・ポンと移動する」というシンプルなイメージです。

Lesson 14 put のイメージを豊かに広げよ

Sure, as long as it doesn’t put too much pressure on the band.

「何かを・どこかに・ポン」というイメージです。

Lesson 16 put でネイティブスピーカーのイメージの広げ方を理解する

That’s why I am putting you in charge of the advertising department.

put が「何かを・ポン」する場所は、日本語の「置く」よりはるかに多彩です。

Lesson 17 leave の基本イメージ

It’s tough leaving this company.

leave のイメージは「ある場所から去る」です。

Lesson 18 leave のもうひとつの焦点

I left my wallet in the train.

leave のイメージは「ある場所から去る」ですが、「去る」という行為に注目する場合と「残されたモノ」に注目する場合(視点のちがい)があります。ここでは、「残されたモノ」に注目しています。


Lesson 19 leave の目的語説明

Don’t leave your valuables unattended.

「残されたモノ」に焦点があるつかいかたでは目的語説明型がとくに重要です。

今年度は、基本単語のイメージを身につけ、つかいこなします。たとえば make のイメージは図1のとおりです。

make
図1 make のモデル
(Lesson 1 の図を改変)

「力を加えて作り上げる」というイメージ(絵)のシンボル(符号)が「make」という単語です。イメージとシンボルがまとまって「ファイル」(情報のひとまとまり)をつくり、イメージはファイルの本体、単語はファイルの見出し(ファイル名)として機能します(図2)。

図2 ファイルのモデル

こうして make からイメージをおもいうかべ、イメージをおもいうかべて make をつかいます。英単語→日本語、日本語→英単語ではなく、英単語→イメージ、イメージ→英単語の練習をくりかえします。イメージは容易に記憶に定着するため、このようなイメージ訓練(心象法)はそのまま記憶法に発展します。視覚情報をつかうのは記憶法の基本でもあり、文字情報→視覚情報、視覚情報→文字情報の変換は記憶法のなかの「変質法」(注)の練習といってもよく、このような情報の質的変換は創造性開発にもつながります。

同様に、have のイメージは「周りにある」であり(図3)、put は「何かを・どこかに・ポン」であり、leave は「ある場所から去る」です。これらについてもイメージをおもいうかべます。

図3 have のモデル
図3 have のモデル
(Lesson 7 の図を改変)

たとえば Lesson 12「I’m not having you walk home alone in this rain.(私は、あなたをこの雨の中ひとりで歩いて帰らせたりはしませんよ。)」の have は、「使役動詞」と学校ではおしえられましたがこのような用語にとらわれる必要はなく、「周りにある」イメージを拡張させます。have は動きを感じさせない動詞であり、「~させる」が自然な訳になるときであっても make のように強制的に「させる」感触はないことがイメージにより直観的に理解できます。実におもしろい。

以下も「周りにある」イメージです。

  • have two windows
  • have a lot of rain
  • have an accident
  • have a headache
  • have tea
  • have a bath
  • be had
  • can’t have such behavior

すべてが have のイメージで理解できます。「be had」が「だまされる」であることもわかります。言葉とは類似な情報を統合するシンボル(符号)であり、言葉には、イメージをはじめさまざまな情報を統合する力があり、この力が、アウトプットに役だちます。

従来の “学校英語” や “受験英語” になれてきたわたしたち日本人にとっては日本語訳を頭からおいだしてイメージをつかうことはハードルがいくらかたかいかもしれませんが、日本語を脱することは英語を習得し、外国人とコミュニケーションをするために必要なことです。イメージをつかい、ファイル(情報のひとまとまり)を心のなかにふやしていく方法は情報処理をすすめアウトプットを容易にします。

この方法は、ほかの外国語を習得するときにもつかえますし、あるいは言語にかぎらず、あたらしいことをまなぶときにも役だちます。あらゆる分野に応用できる普遍的な方法をラジオ英会話がおしえてくれます。

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make, have, put, leave -「基本動詞 ①」(NHK ラジオ英会話, 2022.04)-
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▼ 関連記事(2019年度 NHK ラジオ英会話)
前置詞をイメージする -「英単語は日本語訳では語れない」(NHK ラジオ英会話, 2019.04)-
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スキットを想像する -「基本動詞の征服 ⑤」(NHK ラジオ英会話, 2019.10)-
印象をつかう -「基本形容詞」(NHK ラジオ英会話, 2019.11)-
単純なイメージで本質をつかむ -「基本副詞・名詞(可算・不可算)」(NHK ラジオ英会話, 2019.12)-
イメージして、言葉でアウトプットする -「限定詞・助動詞・時表現」(NHK ラジオ英会話, 2020.01)-
メッセージをうけとり、メッセージをつたえる -「大きな『単語』:定型表現 ①」(NHK ラジオ英会話, 2020.02)-
心にしみわたるコミュニケーション -「大きな『単語』:定型表現 ②」(NHK ラジオ英会話, 2020.03)-

▼ 参考文献
『NHK ラジオ英会話』(2022年 4月号、NHK テキスト)NHK 出版、2022年

▼ CD
『NHK CD ラジオ英会話』(2022年4月号)

▼ 関連教材

▼ 注:参考文献
栗田昌裕著『栗田博士のSRS記憶法 ― 潜在能力をぐんぐんひきだす』ダイヤモンド社、1993年

(冒頭写真:イングランド、ストラトフォード・アポン・エイヴォン駅(Stratford-upon-Avon station)、1999年 撮影)

情報処理のエラーをふせぐために -「錯視研究の最前線」-

脳の情報処理によって映像がうまれます。両眼をつかって奥行きをとらえます。さまざまな視点をもちます。

脳の情報処理によって映像がうまれます。両眼をつかって奥行きをとらえます。さまざまな視点をもちます。

錯視研究の第一人者・杉原厚吉さんが錯視に関する映像を公開しています。

錯覚作品「Magnet Like Slopes」(明治大学MIMS・杉原厚吉作)
錯覚作品「クローバーとハート」(明治大学MIMS・杉原厚吉作)
錯覚作品「Triply Ambiguous Object」(明治大学MIMS・杉原厚吉作)
3D Schröder Staircase
重力に逆らって坂道を上がる? 「錯覚すべり台」登場 新潟・八海山麓スキー場

YouTube

錯視が常識をくつがえします。

錯視を起こすには、① 片方の目だけで見る、② カメラで撮影した映像を見る、③ 大きく作って遠くから見る、などが必要です。「両目の間隔は六〜七mなので、両眼立体視が利くのはせいぜい十mまで」と言われます。そのため、③ 大きく作って遠くから見る時、両目で見ても錯視が起きるのです。(中略)

錯視が起きる背景には、① 一枚の画像には奥行きの情報がない(数学的性質)、② 脳は直角を優先する傾向が強い(心理学的性質)の二つがあると分かりました。

杉原厚吉著「見ることの常識が通じない錯視研究の最前線」學士曾会報, 953(注1)

日常生活でも錯視はおきます。注意してみても、本当の形をしったあとでもおこります。自覚がないだけです。たとえば香川県屋島の「お化け坂」もそうです。

屋島スカイウェイのミステリーゾーン「お化け坂」

YouTube

上り坂のあとに下り坂があってふたたび上り坂になるように感じますが実際はちがいます。脳は、急な方は上りで、ゆるやかな方は下りだと判断してしまいます。このような坂道錯視によりブレーキとアクセルをまちがえて交通事故がおこることがあります。

あるいはスポーツにおいても、錯視による誤審があることがすでによくしられています。

このように錯視は、脳の判断によっておこります。みるということ(視覚)には、目が光をうける段階(インプット)と情報を脳が処理して判断する段階(プロセシング)の2つの段階があり、錯視とは情報処理のエラーといってもよいでしょう。

たとえば片目でみると片目の情報しか処理されず錯視が容易におこります。写真撮影でも、レンズが普通は1本(1眼)であるため錯視がおこりやすくなります。「不思議なチーター“チタベロス”」をみてください。

「頭が3つ? 不思議なチーター“チタベロス” いつも仲良し」
(日テレNEWS, 2022.4.11)

これは合成写真ではありません。奥行きの情報がないために錯視がおこります。そもそも目に はいってきた光には奥行きの情報はなく、脳が、左右2つの目の視差を検出して奥行きを判断(想像)します。

このような錯視をふせぐために2眼カメラをわたしはしばしばつかいます(注2)。あるいは1眼カメラをつかうときでも、左足を軸足にして1枚、右足を軸足にして1枚撮影し、ステレオ写真(3D写真)にして錯視をふせぎます。あるいは現場にいってさまざまな視点から対象をみれば錯視をふせげます。背景や構造など、その場の全体もとらえるようにします。

錯視は往往におこり、時と場合によりさけられませんが、錯視がおこる仕組みをしることによってある程度ふせげるでしょう。またみたことをすべて信じず、情報をアウトプットするときに確認・検証をおこないます。固定観念やおもいこみもなくします。

情報処理のエラーとして錯視をとらえなおすと人間の情報処理の仕組みもわかってきます。光(電磁波の一部)を目がうけると電気信号にそれは変換され、神経をとおって信号が脳におくられ、それを脳が処理すると映像が生じます。わたしたちは目でみているとおもっていましたが、実は脳が像をつくりだしていたのであり、この過程でエラーがおこりえます。このような情報処理の仕組みは心のはたらきといいかえてもよく、わたしたち人間が認識している世界(宇宙)も心のはたらきの観点からとらえなおす必要があり、錯視は、このような現象をかんがえるための入口にもなります。

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情報処理能力をたかめるために -『脳が生み出すイリュージョン』(別冊日経サイエンス)-
空間にも心をくばる -『Newton 形と空間の錯視』-
時間的変化にも心をくばる -『Newton 残像と消える錯視』-

▼ 注1
杉原厚吉著「見ることの常識が通じない錯視研究の最前線」學士曾会報, 953, pp.49-59, 2022年3月1日

▼ 注2:2眼(3D)カメラの例
FUJIFILM 3Dデジタルカメラ FinePix REAL 3D W3 F FX-3D W3S

▼ 参考文献
杉原厚吉著『新 錯視図鑑:脳がだまされる奇妙な世界を楽しむ・解き明かす・つくりだす』誠文堂新光社、2018年

▼ 関連書籍
杉原厚吉著『見て、知って、つくって! 錯視で遊ぼう: 脳がつくりだす不思議な知覚の世界』(子供の科学サイエンスブックスNEXT)誠文堂新光社, 2021年
杉原厚吉著『鏡のトリック立体キット 自分で作れる!錯覚アート』永岡書店, 2021年
杉原厚吉著『トリックアート図鑑 錯覚! 立体ペーパークラフト』 あかね書房, 2020年

目をきたえる -『目が一気によくなる! 魔法の3Dアート』-

視力が維持され回復します。近視・老眼・疲れ目にききます。脳が活性化します。

視力が維持され回復します。近視・老眼・疲れ目にききます。脳が活性化します。

一見 何がえがかれているのかわかりませんが立体視をすると絵がうきでてきます。それが「3D アート(イラスト)」です。本書は、とおくに焦点をあわせることで絵がうかびあがる「平行法」と手前で焦点をあわせることで絵がうかびあがる「交差法」の 3D イラストをのべ38点収録しており、たのしみながら目がきたえられます。

近視であれ老眼であれ、視力低下を撃退するポイントは、「目をきちんと使うこと」と「脳の活性化」です。(中略)

3D とは 3次元、つまり立体という意味です。若いころ、駆け出しの医師として多忙だった私の視力は、0.1まで落ちたことがありました。しかし、その後に回復し、50代後半の今でも、メガネは不要。運転免許証は裸眼で更新しています。

3D 視力回復法は、そんな私の、長年の習慣の一つ。視力維持に関しては、特に効果を実感している方法です。メガネやコンタクトレンズを使っているかたは、つけたままで行えます。

平行法で絵がうかびあがります(表紙から引用)

立体視のやりかたは本書でくわしく解説しています。またこちらも参考にしてください。

目に光がとどくと、その光の刺激を適切に処理し、物の形や色・おおきさ・距離などを認識するのは脳のはたらきです。目と脳は密接に関係しており、いつもとおなじように目をつかっているだけだとだんだん脳はなまけるようになります。

そこで目と脳を刺激し、視力低下をふせぎ視力を回復する方法として立体視(3D 視力回復法)が有効です。立体視は、目の筋肉である眼筋を緊張させたりゆるめたりするのでおとろえた眼筋の筋力アップになります。また立体視により、ふだんとはちがう活動をするとびっくりした脳は、「私の目は、いろいろな使い方をしている。目の働きをもっとよくしなければいけない」と、活性化していきます。

立体視には、平行法と交差法の2つの見方があり、目と脳のはたらきをいずれもたかめます。2種類とも是非おこなってください。まずは無理をせず、1日5分を目安にはじめましょう。

下の写真も立体視できます。奥ゆきをしっかりとらえてください。

平行法
平行法で立体視ができます
交差法
交差法で立体視ができます

視力がよくなると観察力がつよまります。目からのインプット能力がたかまります。インプット能力がたかまればプロセシング能力もアウトプット能力も向上します。

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3D 地形学 -『写真と図でみる地形学 増補新装版』-
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鳥たちを立体視する - 栗田昌裕『身近な鳥の3D写真』-
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立体視をして仏像に向きあう - 十文字美信著『ポケットに仏像』-
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富士山を立体視する

▼ 参考文献
本部千博監修・企画編集部編集『目が一気によくなる! 魔法の3Dアート」(マキノ出版ムック)マキノ出版、2021年

アウトプットのために -「追悼 立花隆の書棚」展 –

インプット:アウトプット = 100:1。場所(位置)で記憶します。情報を統合してアウトプットします。

インプット:アウトプット = 100:1。場所で記憶します。情報を統合してアウトプットします。

2021年4月30日に逝去したジャーナリスト・評論家の立花隆さんを追悼し、「追悼 立花隆の書棚」展が文春ギャラリーで一周忌を前に開催されています(注1)。仕事場兼書庫であった通称「猫ビル(ネコビル)」(注2)、通称「三丁目」、立教大学研究室・屋根裏の10万冊をこえる書棚の写真をみながら、立花さんの圧倒的な「知」の世界にはいりこみます。

写真家の薈田(わいだ)純一さんは「全部撮る」を条件に立花さんから書棚の撮影をゆるされ、2010年から週に3~5回かよい、7222枚もの写真を1年半かけてとりました。3m×8mの巨大な書棚写真がみどころであり、また1m×2.5mサイズの書棚写真や生原稿や立花さん愛用の品々も公開しています。

ステレオ写真は交差法で立体視ができます。
立体視のやりかたはこちらです

会場内
会場内
直筆原稿と愛用の品々
直筆原稿と愛用の品々
愛用のスーツケース
愛用のスーツケース

あたらしいことにとりくもうとおもったら本をまずみるとおもいます。そのとき立花さんは、「インプット100に対してアウトプット1」だといいます。たとえば1冊の本をかこうとおもったら最低100冊の本をよみます。ひとつのアウトプットの背後にはその100倍以上の取材・努力があり、膨大な情報が一本に統合されてアウトプットになります。

このようなことをくりかえしているうちに膨大な本があつまりました。仕事場兼書庫は3ヵ所あり、なかでも「猫ビル(ネコビル)」は、地下2階、地上3階+屋上、本をつりあげるクレーンもある「本の砦」です。これだけ膨大な本をどうやって整理していたのだろうか? 立花さんは「本をおいた場所で記憶していた」そうです。たとえば「あの本は、猫ビル3階の南側の書棚にある」というように。したがって「本をうごかして整理しないように」と秘書にいっていました。これは空間記憶法の実践例のひとつです。

同様なことは図書館で誰でもできます。ちかくの図書館にいって館内をブラブラして気にいった本があったら、それがおいてある場所(位置)を記憶します。まずは10冊ぐらい記憶するとよいでしょう。場所をつかえばいつでもすぐにおもいだせます。図書館でつかわれている日本十進分類法にとらわれる必要はありません。

空間記憶法は、無意識のうちに誰もがやっていることですが自覚しておこなうことが大事です。そうすれば本とはかぎらずあらゆる物・情報の記憶が容易になり、「あ、そういえば!」といったおもいつき・ひらめきもうまれやすくなります。

立花さんの書棚の写真を実際にみていくとおもしろそうな本がたくさんみつかります。たとえば「三丁目」の「中央机周り」のランプのそばの書棚をみていたら『見る』という本が興味をひきました。

書棚の例
書棚の例

そのまわりには、『読むということ』『ヒトはなぜ絵を描くのか』『視覚と記憶の情報処理』『もうひとつの視覚』『視覚のメカニズム』『眼と神経』『脳と視覚』『目が人を変える』『心は遺伝子の論理で決まるのか』『脳のなかの幽霊、ふたたび』『ブレイン・ルール』『意識する心』『なぜ記憶が消えるのか』『脳と心』『社会的脳』『読み 脳と心の情報処理』『脳科学と芸術』『視覚の文法』『生命とはなにか』『性の起源』『ヒトはいかにして人となったか』『人間はどこまでチンパンジーか?』・・・、というように、どんどん世界がひろがります。興味がわいてきます。今回の「書棚展(写真展)」と 立花隆著・薈田純一写真『立花隆の書棚』(中央公論新社)(注3)は参考文献集として役だちます。類書をさぐるために最適です。興味をひく本をみつたらその周辺にどんな本があるか、空間的なひろがりとして本がとらえられます。類推がはたらき、発想の場としてもつかえます。同様なことは図書館でもできます。日本十進分類法などの既存の分類法にとらわれる必要はありません。

そもそも立花さんに注目するようになったのはわたしも『田中角栄研究』(注4)からでした。しかしそのきっかけは地球科学者・竹内均の推薦文でした。

私はかつて、文藝春秋社発行の「諸君」という雑誌の書評欄で、この立花隆の「田中角栄研究」をりっぱな科学書であるとして推薦したことがある。(中略)

「田中角栄研究」の材料となったデータは、すべて公開のデータである。立花さんや、そのスタッフのだれかが、どこかの倉庫へしのびこんで盗み出してきたといったものではない。(中略)立花さんは、こういうデータの各々を年表にまとめ、それを横につなげてみて、そこから「田中角栄が怪しい」という推理をし、それをたんねんに跡付けたのである。

こういう方法はまったく科学的なものであり、また一つ一つの仕事は、たいへん地味な作業である。

竹内均著『私の知的鍛錬法 きれっぱしからの発想』徳間書店、1980年(注5)

立花さんは、公開データをたくさんあつめ、内面にインプットし、仮説をたて、推論し、検証しました。まさに科学的方法であり正攻法であり王道です。これは、竹内均がとくに指摘したように、大陸移動説を提唱し体系化したアルフレッド=ウェゲナーの方法とおなじであり、地球科学の方法であり、科学の方法です。アイザック=ニュートン、チャールズ=ダーウィン、アンリ=ポアンカレなどをみてもあきらかです。

このように、膨大なインプットからアウトプットをみちびくところに情報の統合がみられます。立花さんは、大量インプット、空間記憶法、統合出力のながれが重要であることをわたしたちにおしえてくれています。ちいさくとも密度のたかい展覧会でした。

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▼ 注1
追悼 立花隆の書棚展
場所:文春ギャラリー
会期:2022年4月11日~4月15日
※ 撮影が許可されています。
日本を代表するジャーナリスト 立花隆の一周忌を偲ぶ「追悼 立花隆の書棚展」が開催!(文春オンライン)

▼ 注2:猫ビル

▼ 注3
立花隆著・薈田純一写真『立花隆の書棚』 中央公論新社、2013年

▼ 注4
立花隆著『田中角栄研究全記録(上)』(講談社文庫)、講談社、1982年
立花隆著『田中角栄研究全記録(下)』(講談社文庫)、講談社、1982年
文藝春秋特別編集『「知の巨人」 立花隆のすべて』(文春ムック)‎文藝春秋、2021年

▼ 注5
竹内均著『私の知的鍛錬法 きれっぱしからの発想』徳間書店、1980年

英語と日本語では語順がちがう - NHKテレビ「大西泰斗の英会話☆定番レシピ」-

英語と日本語では原則がことなります。英語は、主語のあとに述語が展開します。日本語は、補足語を述部が統括します。

英語と日本語では原則がことなります。英語は、主語のあとに述語が展開します。日本語は、補足語を述部が統括します。

NHKテレビ「大西泰斗の英会話☆定番レシピ」の2022年度の放送がはじまりました。番組のキャッチフレーズは「話すための7つの文法レシピ」であり、今月のテーマは「英語と日本語の違いを知る」です。

英文づくりに不可欠な「レシピ」はたったの7つしかありません。この7つを習得すればどんな英文でもつくれます。5つの基本文型と2つの修飾方向です。

基本文型
 他動型 主+動+目
 自動型 主+動
 説明型 主+動+説明語句
 授与型 主+動+目+目
 目的語説明型 主+動+目+説明語句

修飾方向
 指定ルール 指定は前に置く
 説明ルール 説明は後ろに置く

これらは英語の語順の原則といってもよく、これらをつかって練習すれば英語がおのずと身につきます。英文法は、たくさんのことをおぼえなければならず大変だとおもっていましたが簡単でした。これらにより学習は一気に加速し驚異的な効果があらわれます。文法学習の時間が短縮でき音声訓練や単語の記憶に時間をさけます。

英語に対して、日本語の語順の原則はつぎのとおりです。

述部(動詞・形容詞・形容動詞)を最後に。
形容する詞句を先に(修飾辞が被修飾辞の前にくる)。
ながい修飾語ほど先に。
句を先に。

たとえばつぎの例文をみてください。

英 語  I gave Mary a present.
日本語 プレゼントをメアリーに私はあげた。

このように、英語と日本語では語順がことなります。このことに気づかず、日本語の語順で英文をとらえたり(これまでのいわゆる英文和訳・英文読解)、英文法を日本語に無理にあてはめたりしていると語順の原則は身につかず、アウトプット能力がのびません。

つぎの例もみてみましょう。

英 語 The teacher gave the boy the book.
日本語 先生は少年に書物をあげた。

構造化します。

英語と日本語

英語は、「主語」と「述語」のブロックにおおきくわかれ、文頭に、主語「The teacher」をおき、そのあとで文が展開し、それぞれの語句の機能・意味が文のなかの位置によってきまります。

それに対して日本語は、すべての修飾成分が述部「あげた」によって統括される述部中心の言語であり、述部以外はすべて、その補足語として機能します。「先生は」も補足語のひとつにすぎず、文頭に配置するという原則はなく、したがって日本語には “主語” は存在しません。それが証拠に、述部の前であれば「先生は」をどこにでも配置できます。

  • 先生は少年に書物をあげた。
  • 先生は書物に少年にあげた。
  • 少年に先生は書物をあげた。
  • 書物を先生は少年にあげた。
  • 少年に書物を先生はあげた。
  • 書物を少年に先生はあげた。

いずれの文も成立します。ただし修飾語のながさ(字数)がことなる場合は「ながい修飾語ほど先に」の原則がはたらきます。

  • 地域の歴史をくわしく解説した書物をひっこしてきた少年に先生はあげた。

かつて学校で、「主語『○○は』を文頭に書きなさい」と指導した教員がいましたがそれはまちがいでした。

  • 先生は地域の歴史をくわしく解説した書物をひっこしてきた少年にあげた。

たいへんわかりにくく誤解が生じるため、この場合は、「逆順のテン」の原則によりテンがいります。

  • 先生は、地域の歴史をくわしく解説した書物をひっこしてきた少年にあげた。

語順とテンの原則がはたらくことに気がつかねばならず、主語を文頭に配置するという原則はなく、日本語にはそもそも主語はありません。

このように英語と日本語を対比してみると英語のみならず日本語もよくわかります。英語でも日本語でも原則がわかれば見通しがよくなり、アウトプットが容易になり、コミュニケーションがすすみます。

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▼ 参考文献
『大西泰斗の英会話☆定番レシピ 2022年4月号』NHK出版、2022年
『<新版>日本語の作文技術』(朝日文庫、Kindle版)朝日新聞出版、2015年

ふとおもったことからはじまる仮説法・演繹法・帰納法

ふとおもったことを大事にします。事実・前提・仮説を区別します。仮説法→演繹法→帰納法とすすみます。

先日、あるショップにいったら、テーブルの上に赤い玉が1個おいてありました。そのすぐそばに箱があったので、その玉は、その箱の中からとりだされたのではないかとふとおもいました。

この出来事を冷静にかんがえなおしてみると(箱の中はみることはできませんでした)、テーブルの上に赤い玉がおいてあるという事実をみて、仮に、箱の中には赤い玉がいくつもはいっている(箱の中身は赤い玉である)という前提にたつと、その玉は、その箱の中からとりだされたのではないかという仮説がたてられる、ということになります。

  • 事実:テーブルの上に赤い玉がおいてある。
  • 前提:箱の中には赤い玉がいくつもはいっている。
  • 仮説:その玉は、その箱の中からとりだされたのではないだろうか。

こうして事実と前提にもとづいて仮説がたてられました。これは仮説法です(図1)。

図1 仮説法
図1 仮説法

一方、つぎのこともかんがえました。箱の中には赤い玉がいくつもはいっている(箱の中身は赤い玉である)ということを前提とすると、もし、その箱の中のものをとりだせば、それは赤い玉だろう。

  • 前提:箱の中には赤い玉がいくつもはいっている。
  • 仮説:もし、その箱の中のものをとりだせば・・・
  • 予見:それは赤い玉だろう。

この予見がただしいかどうかは、箱の中から中身を実際にとりだして確認すればよく、赤い玉であれば予見はただしかったことになり、事実として確認されます。実際にとりだしてみたところやはり赤い玉であり、予見は事実となりました。これは、推論をへて事実を確認するプロセスであり、演繹法です(図2)。

図2 演繹法
図2 演繹法

さらに、つぎのこともかんがえました。もし、箱の中から中身をもっととりだせば、それらはすべて赤い玉であるはずであり、いくつもの赤い玉が事実として確認できれば、その箱の中身は赤い玉であるといえるだろう。

実際にとりだしてみたところ、すべてが赤い玉だったので、箱の中身は赤い玉であるとかんがえられます。つまり、仮説法・演繹法でかんがえた前提がみちびかれます。これは帰納法です(図3)。

  • 仮説:箱の中から中身をもっととりだせば・・・
  • 事実:とりだしたものはすべて赤い玉である。
  • 前提:箱の中身は赤い玉であるといえる。
図3 帰納法
図3 帰納法

このように、仮説法・演繹法・帰納法という3つの論理がありますが、これらを、一連の出来事としてとらえなおすこともできます。

テーブルの上にあった赤い玉は、そばにある箱の中からとりだされたのではないだろうかという仮説をたてたら(仮説法)、それをたしかめるために(検証するために)箱の中から中身をさらにとりだしてみて、それらが赤い玉であったなら仮説の確からしさがたかまります(演繹法)。とりだしたものがすべてが赤い玉であったなら箱の中身はすべて赤い玉だろうとかんがえられます(帰納法)。中身をとりだして確認しながら仮説を検証する過程でデータがふえ(データとは事実を記載したもの)、箱の中身をすべてみなくても、中身が何であるか一般的なことが想像できます。

またたとえば、つぎのようなケースもかんがえられます。10個の玉を箱からとりだして、そのうちの9個は赤い玉、1個は白い玉だったとしたら、箱の中身のおよそ90%は赤い玉であり、およそ10%は白い玉であり、もし、箱の中に200個の玉がはいっていたとするとおよそ180個は赤い玉であり、およそ20個は白い玉であるといえます。この箱から玉を1個とりだしたら、およそ90%の確率でそれは赤い玉になるだろうという予測もできます。

このように、ふとおもったこと、ちょっとしたおもいつきを仮説としてとらえなおし、仮説法・演繹法・帰納法を連続的につかえば(図4)、一連のストーリーができ、論理が展開し話がひろがります。いわゆる直観も、このように論理的にとらえなおせばアウトプットに発展します。

図4 3段階モデル
図4 3段階モデル

仮説をたて、もしそうだとしたらとかんがえるのが基本であり、かんがえたとおりにもしならなかった場合は “失敗” ということになりますが、その場合は仮説をたてなおせばよいのであり、あらたなつぎの仮説の検証にすすんでいけます。かんがえられる仮説についてひとつひとつ検証していくことが必要なのであって、失敗は悲観すべき内容ではなく、ただしい仮説に到達するための手段です。失敗と成功という概念も、このような論理展開の文脈のなかでかんがえなおさなければなりません。

なお民族地理学者・KJ法創始者の川喜田二郎は、KJ法の基礎概念として、「野外科学」「書斎科学」「実験科学」とそれらをくみあわせた「W型問題解決モデル」を提唱し、これらはやや難解ですが、ここでのべた仮説法・演繹法・帰納法が野外科学・書斎科学・実験科学の原型であり、3段階モデルがW型問題解決モデルのエッセンスであり、仮説法・演繹法・帰納法がわかれば、野外科学・書斎科学・実験科学のちがいもよくわかり、問題解決もおのずとすすみます。

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▼ 参考文献
川喜田二郎著『発想法』(中公新書)中央公論新社、2017年(初版1967年)
竹内均・上山春平『第三世代の学問 地球学の提唱』(中公新書)中央公論社、1977年
上山春平著『上山春平著作集第一巻 哲学の方法』法蔵館、1996年