VI.考察

6-1.「価値の地形」を読みとる

 本論でしめした「多角衆目評価法」の基本構造は、「多角評価法」→「ネットづくり」→「衆目評価」であった。
 国際協力(開発援助)で今までよく用いられている「評価5項目」に、「住民参加」をあらたにくわえた「評価6項目」は、評価の観点のもれおちをなくし、事業の全体的状況をつかむために有用であった。しかし、これらの項目(基準)による評価だけでは、多種多様な評価結果が列挙されるだけで、焦点がうきぼりにならず、要点がわかりにくいという難点があった。
 そこで、「多角評価」の評価結果の要点をラベルに書きだし「ネットづくり」をおこなった。この図解法により評価結果の要点を視覚的並列的にとらえられるようになる。そして、「衆目評価」により、評価結果の要点を構造化することができ、かくれていた論拠があかるみにでてくる。すると事業の本質が見えてきて、問題の急所や核心があきらかになる。
 よくできた評価をおこなうためには、第一に状況の全体把握が大切である。「多角衆目評価法」をつかうと、全体を見ながら、いろいろ関連する事柄を十分に見比べたうえで評価をおこなえる。「多角評価」でおこなった各項目の詳細な評価結果は、「ネットづくり」により横断的に比較される。「ネット図解」の全体の中に各情報が位置づけられていると、各項目の比較がやりやすくなる。情報を大観できると情報相互の比較が可能になるという訳である。そして、「衆目評価」をおこなうと評価結果を構造化立体化できる。
 「多角評価」は「縦」の評価であるのに対し、「ネットづくり」は「横」の評価、「衆目評価法」は「立体」の評価であると言ってもよい。
 「衆目評価」までくると、評価の高かった部分は濃い色でしめされ、評価の低い部分は薄い色でしめされる。評価とは、どうでもいいものをしずめ、重要なものを高める作業である。これは地形にもたとえられる。評価がもっとも高いところは山頂であり、もっとも低いところは平地である。その中間は山腹である。「衆目評価図解」を作成すると「情報の標高」をとらえることができ、いわば「価値の地形」を読みとることができる。

6-2.評価の過程で情報が処理される

 このように、評価とは価値を見定め価値を判断することであり、具体的には情報のランクづけ(格づけ)をおこなうことである。そのためには、もっとも価値のある情報ともっとも価値のない情報、つまり最高と最低をまずおさえて、そのなかに他の情報を位置づけていかなければならず、そのためには評価の指標を決めておかなければならない。今回の評価法では「6項目」が基本的な指標であり、これにより「様々な基準」による評価が可能になった。他方、「衆目評価法」では、多様な人々の「多様な目」による評価ができる。「様々な基準」と「多様な目」は評価方法の「車の両輪」であり、この二つの側面から事業を評価することにより、公平で総合的な評価が可能になる。また、定性的評価に定量的評価をくわえることもできる。
 このような評価の過程においては、多種多量な情報が迅速に処理されている。そもそも評価法とは情報処理法の一種である。「多角評価」では情報を大観的に処理する。「ネットづくり」では情報を並列的に処理する。「衆目評価法」では情報を統合的に処理する。本論で提唱した評価法では、「大観処理・並列処理・統合処理」という情報処理の3段階が生じている。そして、価値のある情報をえらびだし公表(アウトプット)すれば、それは周囲に自然にひろまっていく。

6-3.評価結果はあらたな行動ビジョンを生みだす

 どういう前提条件のもとで、どういう観点から評価するのか。この二条件のいかんによって、評価の結果は非常にことなったものになるのであるから、どういう観点から評価するか、あらかじめ関係者で話しあっておくことは非常に大切である。また、評価とは基本的には相対的なものであるから、評価する情報の範囲(フレーム)も決めておかなければならない。関係者で、価値観・観点・フレームについてよく協議しておくことは評価活動の出発点となる。
 その一方で、特に国際協力NGOがとりくむ評価活動では関係者のかかわり方が重要になってくる。アウトサイダーによる一方的な評価をおこなっても、評価結果があらたな事業立案のために役立たない。本論で事例としてしめした評価活動は、7人による評価チームが中核的役割を果たしたが、現地住民・現地人スタッフ・NGO会員にもできるだけ参画してもらった。特に「衆目評価」の最終的段階である投票と図解化には、評価報告会などで一度に多くの人が参加した。評価が入っていない図解を配布し、各自で評価(投票)をしてもらったのである。これにより、関係者は、関連情報の要点を総合的にとらえ、内容を咀嚼しながら評価そのものに参加できる。「衆目評価」は参加者を結集し、関係者の評価能力を統合的に活用できる仕組みになっている。これが参画型の評価というものである。
 関係者は、このような過程を通して、多段階の評価をしながら、情報の洗練度を高め、多種多量な情報を要約し単純化していく。価値がある情報は選択され、価値のない情報はすてられる。要約をつくると物事の本質がつかめ、こうしているうちに矛盾は解消され、あらたな価値観が整理されてくる。要約の集合はあらたな価値体系を形成し、関係者の見識を高める。評価は、あらたな価値体系をつくる方法でもあるのである。
 そして、情報の要約とあらたな価値体系は関係者に合意を生みだす。関係者の合意形成はあらたな行動ビジョンを生みだす。次にどこをねらっていけばよいか、誰の目にもあきらかになってくる。つまり要約は行動を生みだし、ここには「評価→要約→行動」という力強い流れが発生する。この流れには、わかりやすさと一点突破主義がある。わかりやすさが組織をうごかすのである。評価法はわかりやすさと単純さが第一である。
 こうして、あらたな事業の立案にむすびつけるという、事業評価本来の課題にこたえることができるのである。


謝辞

 本研究をすすめるにあたり、(社)国際農林業協力協会、(特活)アーユス仏教国際協力ネットワーク、(特活)ヒマラヤ保全協会、ネパール王国現地住民の方々に終始かわらぬご支援ご協力をいただいた。ここに記して、これらの方々にふかく感謝の意を表する。

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2005年9月23日発行
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