思索の旅 第8号
カグベニ(ネパール)

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<目 次>
8-1 自然の情景にさまざまな知識をむすびつける
8-2 評価をして部分におもいきって入った方が能率があがる
8-3 人生にテーマをもつ
8-4 河口慧海はヒマラヤをフィールドワークした最初の日本人である
8-5 心の中から一気に言語出力する
8-6 メインとなる表現方法をきめて訓練をかさねる
8-7 読書をしたら関連する場所へでかける
8-8 情報の格づけをして実施に移行する

8-1 自然の情景にさまざまな知識をむすびつける

 小さいときに自然の情景を心の中にインプットしておくことは非常に重要である。
 たとえば山の上から風景をみたことがある人は、大地があり、町があり、川があり、森があり、海があり、空があり、雲がある、そしてそれらは変化していくということが心の中に記憶されている。
 そのような情景を心の中にもっている人は、成長の過程でいろいろな知識をあらたに身につけるときに、それらの知識をかつてみた情景のそれぞれの部分にむすびつけて記憶することができる。さまざまな知識は、情景のそれぞれの部分とむすびついて成長する。
 しかし、もし全体的な情景がなかったならば、さまざまな知識はバラバラになりむすびつくこともなく、個々の分断された専門分野でしかありえなくなる。
 専門分野だけでなく総合的な見方ができるかどうかは、小さいころに何をみていたかということが大きく影響するとかんがえられる。(040619)

8-2 評価をして、おもいきって部分に入ったほうが能率があがる

 音楽CDには何曲もの曲が入っている。最初に全曲をきいたら、つぎは、気に入った曲を何回もくりかえしきくという人も多いだろう。そしてしばらくしてまた全曲をきくと、そのCDのすばらしさがよくわかることがある。
 全曲のなかから気に入った曲をえらぶという行為は価値判断あるいは評価をするということである。全体からどこの部分をえらぶか、このとき、何らかの基準をもって誰もがごく普通に評価をしているのである。
 本をよむときもそうである。あるテーマをめぐる多数の書籍のなかから、何冊かあるいは1冊をえらぶ。あるいは、1冊のなかからある章をえらぶ、そのときに評価をしている。評価をして部分に入り、そのあとでもう一度全体をみなおすとそれまで以上に全体がよくみえてくる。
 このようなことを参考にして、普段の仕事でも、いつまでも全体にとらわれていないで、評価をしておもいきって部分に入ってしまった方が能率があがる。(040619)

8-3 人生にテーマをもつ

 「人生に目的をもとう」
 ある進路指導の関する資料のなかに記載されていた標語である。
 しかし、人生には目的をもたずテーマ(課題)をもつ人もいる。目的とテーマとは根本的にちがう。目的をもつということはゴールを設定することであり、人生のゴールを設定してしまった人はゴールに到達までは努力をするが、それ以後はなまけてしまう。それに対して、テーマを設定した人は、テーマの追求が生涯つづき、道を発見し開拓していくことになる。(040619)

8-4 河口慧海は、ヒマラヤをフィールドワークした最初の日本人である

 「河口慧海は、約100年前にヒマラヤのフィールドワークをおこない詳細な記録をのこした。それは、ナショナル・ジオグラフィック誌などでとりあげられたかい評価をえる。しかし当時の日本の学者は欧米の文献のみをとりあげ、フィールドワークをおこなっていなかったので、河口を中傷した」(高山龍三著『河口慧海 -人と旅と業績-』大明堂、1999年)。
 河口慧海は、ヒマラヤとチベットを最初にフィールドワークした日本人であった。彼の記載の正確さは現在ではよくしられている。むかしの日本には、欧米の学問を鵜呑みにして輸入するだけの人が多かったが、今ではそのようなことはなくなり、フィールドワークは普通におこなわれるようになった。(040620)

8-5 心の中から一気に言語出力する

 ヒマラヤ保全協会の『事業評価報告書』第1稿を完成させる。  文章化するまえに、図解や資料を心のなかによく入力(インプット)しておき、心の中から直接言語を出力する訓練をかさねていたら、はやく文章をかくことができた。今までは、横に図解や資料をおいて、それらを横目でみながらかいていたので時間がかかっていた。
 報告書などを作成する行為は、それ自体が情報処理のプロセスになっている。つまり、現地でえられた情報を評価手法によって処理し、その結果を公表つまり出力したのである。(040621)

8-6 メインとなる表現方法をきめて訓練をかさねる

 情報処理は出力(アウトプット)をもって1サイクルが完結する。したがって出力までかならずやりとげなければならない。
 そのときどのような出力をするか、メインとなる自分の表現方法をきめておかなければならない。ごく一般的には文章をもちいる人が多いだろう。しかしほかにも、はなすことがメインの人もいるし、写真や動画をつかう人もいる。音楽家や美術家もいる。
 いずれにしても出力方法(表現方法)によって訓練の仕方も随分ちがってくる。なるべくわかいときに中心となる自分の表現方法をきめて、地道にその技術をみがいておくことが重要だろう。
 表現方法がいったんきまると、それをターゲットにすることにより入力や処理も効率化される。(040623)

8-7 読書をしたら関連する場所へでかける

 何らかのテーマにとりくむ場合、まず、関連書籍を10冊ぐらい速読する。つぎにフィールドワークをおこなう。そしてフィールドワークの体験を中核にして考察・文章化をおこなうとよい。
 このときのフィールドワークは、時間がなければたった1日でもよいのである。場所は、野外にいけないなら博物館などの関連施設でもよいし、あるいはイベントなどに参加してもよい。どうしてもそこへいけない場合はビデオをみてもよいかもしれない。
 いずれにしても、行動することによりストーリー的体験をつくると、知識と体験とがむすびついて思考は一気にふかまる。読書をしたら、いつまでもかんがえていないでさっさと行動をおこすことが大切である。その方がたのしいし、効率もあがり、能力開発にもなる。
 このような行動を前提とした読書をしていると、問題意識をふかめる訓練にもなり、また、ポイントとなる場所、調査すべき場所をさがす姿勢やそれらを発見する能力が身についてくる。(040628)

8-8 情報の格づけをして実施に移行する

 評価をすることは格付けをすることである。そのことがわかっていない人が意外に多いことに気がついた。
 たとえばつぎのようなストーリーを想像してみよう。
 (1)ケーキ職人が5種のケーキ(A,B,C,D,E)をつくった。
 (2)1人の客が、それを全部試食して「おいしさ」を基準にしてランクづけ(順位づけ、格づけ)をした。その結果、5種のケーキを、おいしい順に「D, B, E, A, C」とランクづけした。
 (3)客は、Dを一番おいしいと感じたが、それは非常に高額であった。また、保存期間がみじかく、冷蔵を必要とした。それに対してBは、価格は手ごろであり、保存期間がながく、冷蔵も必要としなかったので、Bをおみやげとして買ってかえった。
 このストーリーを解説すると次のようになる。
 (1) 職人がケーキをつくるというのは一つの作業あるいは行為であり、それ以前に作成したケーキづくりのプランにもとづいておこなわれたものである。
 (2) 客が5種のケーキをランクづけしたとき、Dを一番おいしいと感じ、Cを一番おいしくないと感じ、その他のケーキは DとCの間に位置づけた。したがって、ランクづけ(順位づけ、格づけ)をするときには、一番上と一番下、つまり最高と最低をまずおさえて、その中で個々の対象の上下(高低)を決定しなければならない。(たとえば、ある国の民族を評価するときも、最上位階級の人々の生活と、最下位階級の人々の生活をまず知ることが必要である。)
 このようにしておこなわれる「ランクづけ」(順位づけ、格づけ)こそが一般に「評価」といわれるものである。評価とは単なるチェックではない。世の中には、学業成績の評価、人事評価、ホテルの評価、レストランの評価、書籍の評価、ウェブサイトの評価など実に様々な評価がある。評価の方法にも5段階評価や3段階評価など様々な方法があり、評価の表現方法にも、点数を定量的に数字でしめすもの、★印の数によるもの、模様や色によりしめすものなど様々な方法がある。
 (3) 客は、評価の一番高かったDではなく、Bを買ってかえった。このことは、評価結果は「実行」(あるいは実施)する項目と一致しないこともありえるということをしめしている。買うという「実行」(あるいは実施)の場面にいたると、「おいしさ」を基準とした評価結果だけではなく、価格、見た目のきれいさ、大きさ、保存期間、冷蔵は必要かどうかなど様々な「条件」を総合して判断しなければならない。
 以上から、「評価」とは、価値の高低をきめることであり、何らかの判断の最終場面において「実行」(あるいは実施や執行)をみちびきだすための基本材料を提供するためにおこなわれる行為であることがわかる。つまり評価は「価値判断」といいかえることができる。
 当然のことながら、一つの観点・基準だけではなく様々な観点・基準により、しかも定性的かつ定量的に評価をおこない、同時に、1人ではなく、できるだけ多様な人々の「多様な目」による評価をおこなえば、評価結果は安定したものになり、執行のための決断がしやすくなる。
 NGOその他がおこなう事業の場合、(1)は事業の実施に相当する。(2)は事業の終了時評価に相当する。(3)はあたらしい事業計画の立案とその実施に相当する。
 したがって、終了時評価報告書が公表された後は、将来計画を立案するという姿勢に転換して、評価報告書をよくよみながら、おもいついたアイディアや発想はすぐにメモし、それを計画案として会合などで積極的に提案していくことが重要である。(040628)

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2004年12月17日発行
(C) 2004 田野倉達弘