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思索の旅 第17号
日本科学未来館

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(東京都江東区青海)

目 次

17-1 空間的並列的処理と時間的統合的出力 -地図とあらすじ-
17-2 印象的な場面を体験のラベルにする
17-3 聞き取り調査では、内容のエッセンスを要約した記録が有用である
17-4 テーマを設定すると情報が自然にひきよせられてくる
17-5 現地を自分の目でみてこそ自分の世界がひろがる
17-6 哺乳類進化の物語を記述する
17-7 自然史とは「生物=環境系」の変化の歴史である
17-8 物語を記述することにより情報は圧縮統合され、伝達が可能になる
17-9 宇宙を旅する -プラネタリウム・メガスター-
17-10 印象の記載から旅行記を書きはじめる -旅行法入門-

17-1 空間的並列的処理と時間的統合的出力 -地図とあらすじ-

 『地図とあらすじで読む 歴史の名著』(寺沢精哲監修、青春出版社、2004年)には、世界の歴史的名著が「地図」と「あらすじ」によりきわめて簡潔にわかりやすく紹介されている。
 それは、ヘロドトスの『歴史』にはじまり、ギボンの『ローマ帝国衰亡史』、司馬遷の『史記』、マルコ=ポーロの『世界の記述(東方見聞録)』、そして太安麻呂の『古事記』など、東西の歴史の名著を網羅している。
 ヘロドトスの『歴史』は、「歴史の父」によって記されたペルシア戦争の全貌である。司馬遷の『史記』は、太古の五帝から漢の武帝までの壮大な「人間史」である。太安麻呂の『古事記』は、神話にいろどられた古代天皇家の歴史物語である。
 本書を通して「地図」をみながら「あらすじ」をよむことにより、それぞれの名著の要点を的確にとらえることができ、そしてさまざまに想像をふくらませることができる。名著には作者の熱意がこめられており、名著を通して歴史をまなぶことは、年表にしたがって歴史をまなぶこととはまたちがった印象をえることができる。このような概説書をよんだうえで、興味のある名著についてはさらにくわしくしらべると、歴史に関する理解は格段にすすむ。
 本書の「地図」と「あらすじ」をみていると、「地図」は多種多量な情報の「整理」を促進し、「あらすじ」は多種多量な情報の「圧縮統合」を促進していることがわかってくる。情報処理の過程では、こような「整理」と「圧縮統合」の両者が必要なのであり 、この両者がくみあわさったとき「わかった!」という感覚がえられ、テーマに関する認識は急速にふかまる。
 「地図」とは、情報を空間的並列的に「処理」する手段であり、「あらすじ」(要約や文章化)とは、情報を時間軸にそって統合的に「出力(アウトプット)」する手段となっている。つまり、「空間的並列的処理」→「時間的統合的出力」という情報処理がここではおこなわれている。
 このような情報処理の原理が理解できれば、歴史に関する学習が効率的になるだけでなく、情報処理一般の質を高めることができる。

17-2 旅行の印象的な場面を体験のラベルにする

 旅行の体験やその日のできごとを記載しようとするとき、全体をうまく要約できないことがある。あるいは要約をかいている時間がないことがある。そのようなときには、ひとまとまりの体験のなかから、もっとも印象的な場面を1つ選択して、それについて簡潔に記載するのがよい。
 このような印象的な場面の記載は、旅行全体を代表させる「ラベル」のようなものである。おりにふれてこの「ラベル」をみなおすことにより、旅行の全体をおもいだすことができる。「ラベル」は情報を代表すると同時に、情報を検索する手段としても機能する。

17-3 聞き取り調査では、内容のエッセンスを要約した記録が有用である

 聞き取り調査で録音機をつかう人がいる。たとえば外国での調査の場合、現地語がどうしても聞き取りにくい場合は、情報提供者の許可をとって録音しておいたほうがよい場合がある。
 しかし録音は、それを再生するのに録音したときと同じだけの時間がかかってしまうという問題がある。倍速再生のできる機械もあるが、時間がかかることにはかわりない。とくに長期間の調査の場合、録音の再生だけに時間がかかってしまっては、報告書や論文を書くどころではない。
 この時間の問題以上に重要なことは、そもそも情報提供者がしゃべったことすべてが必要なのかということである。映像記録などでは現場の実際の映像を撮影しておくことが必要なのだろうが、一般的な記録では、必要なのは内容の要約である。すべてを記載しようとしても不可能であり、要をえた簡潔な文章のほうが有用な場合が多い。
 そこで、たとえば相手(情報提供者)が1分間しゃべったら、キーとなる単語一語をメモする。あとでそのキーワードをみながら内容のエッセンスを文章にして記載する。そのエッセンスはいつでもどこでも活用でき、情報処理や文章化のための力になる。
 このように、普通の記録では状況を要約・単純化することが重要であり、やたらにたくさん記載しても意味がない。

17-4 テーマを設定すると情報が自然にひきよせられてくる

 「探検ネット」という図解法では、模造紙の中心にテーマをかき、その周辺に、情報を記載したラベルを放射状に配置していく。この図解をみていると、テーマを核にして関連する情報がひきよせられるようにあつまってくる様子がよくわかる。
 われわれの周囲には情報があふれている。しかしそれらは普段は漠然と存在するだけである。
 しかしテーマを明確にすると、その問題意識が結晶の核のような役割をはたす。テーマを中心にした意識の場をうめていくように情報が集積してくる。さらに、意味のあるストーリーが自然に形成されてくる。
 このように、テーマには情報をあつめ統合していく作用あるいは力がある。まるで磁場が生じるような感じである。
 このような意味でテーマをきめることは非常に重要である。日々のテーマや仕事のテーマだけでなく、人生のテーマ(ライフテーマ)を設定することも大切である。

17-5 現地を自分の目でみてこそ自分の世界がひろがる

 旅をすることの大きな意義は、現地に行って、自分自身の目で現実をただしくみることにある。自分自身の目でみることにより、それまでに気がつかなかった出来事の意味や意義を周囲にたくさんみいだすことができる。
 現代は情報化社会であり、現地にいかなくても、インターネットやガイドブックによって多量の情報をえることができる。このような手段でえられる情報は現地の大局をつかむうえでは有効であるが、そのような情報は他人の目による情報であり、他人の目でながめた情報にながされる結果となる。
 やはり現地にいって五感のすべてをはたらかせて、みずからの体験をふやしていくことが重要である。このような体験こそが自分の世界をひろげていくことになる。

17-6 哺乳類進化の物語を記述する

 「大陸大分裂 目に秘められた物語」(NHK地球大進化・第5週)が放映された。この番組では、目の進化に着目して話をすすめている。人間は、情報のおよそ80パーセントを目から得ている。目の役割はきわめて重要である。

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 アメリカ・ワイオミング州でサルの仲間の祖先の化石が発見され「カルポレステス」と命名される。手の親指が内側をむいており、物をにぎれる構造をもっているのが特徴である。今からおよそ5600万年前、恐竜絶滅からおよそ900万年後、夜行性で木のうえを移動し、広葉樹の果実をたべながら棲息していたとかんがえられる。このころの広葉樹は大な針葉樹のあいだにある小さな木である。
 一方で、「デャトリマ」とよばれる巨大な鳥がアジア以外の全世界に繁栄している。デャトリマは、強力なクチバシをもつ肉食動物であり、全長およそ2メートル、恐竜の絶滅後は最大級の動物として生態系の頂点に君臨している。空はとばず、地上を移動していたと推測されている。
 このときアジア大陸は孤立した存在である。ツルガイ海峡によってヨーロッパとアジアは分断され、北アメリカとアジアとは陸続きであったが、氷河におおわれていたため動物の行き来はできない。
 そのアジアで「ハイエノドント」とよばれる哺乳類が進化する。ハイエノドントは体重およそ5キログラム、肉食で、うごきが速く、集団で行動する。
 5500万年前になると、マントル対流により、ヨーロッパとグリーンランドの大陸大分裂がはじまり、マントルからマグマが上昇してきて海底堆積物中のメタンハイドレートに接触、はげしい爆発をおこしながら大量のメタンガスが発生する。メタンガスは地表に噴出し、地球の気温を10〜20度も上昇させる。地球温暖化は5500万年前から500万年以上つづき、地球環境を一変させていく。
 地球温暖化にともない、アジアからヨーロッパや北アメリカに哺乳類がわたり、哺乳類繁栄の時代がはじまる。
 アメリカ・オレゴン州ジョンデイ化石層国定公園で、4400万年前の巨大な広葉樹の化石が発見され、地球温暖化にともない広葉樹が巨木へ進化したことがあきらかになった。広葉樹は枝を横方向へ大きくはりだし、枝同士がかさなりあい「樹冠」とよばれる空間をうみだす。
 500万年後、「ショショニアス」というサルがその樹冠でくらしはじめる。樹冠は果実があり、天敵もいないあたらしい生活空間であり、霊長類はここで繁栄する。広葉樹が地球上にひろがるとともに樹冠の楽園もひろがっていく。たとえば今でも、マダガスカル島には広葉樹の森がひろがっていて、キツネザルの仲間は地上に一切降りることなく移動することができる。
 樹冠のサル「ショショニアス」は、以前の「カルポレステス」とちがい、目が顔の正面についているため、立体視ができ、距離を予測することができるという特徴ももっている。
 1992年、霊長類の頭蓋骨の化石が発見され、「カトピテクス」と命名される。「カトピテクス」は「ショショニアス」とはちがい、頭蓋骨の目の穴がふさがっておいる。この目のうしろの部分は「眼窩後壁」(がんかこうへき)とよばれ、「眼窩後壁」があると、はっきりとみえる場所が固定されるため高い視力をもつことが可能になる。
 現代のゴリラ・チンパンジー・テングザルなどの真猿類はみな「眼窩後壁」をもつ。高い視力をもつことと同時に、顔の筋肉が発達したため顔の豊かな表情をもつことも特徴である。高い視力が表情をみわけことを可能にし、表情はコミュニケーションの手段となる。チンパンジーは10種類の表情をつかいわけるという。そしてコミュニケーション能力が発達するとともに、霊長類の群れは、共同作業や分業ができる「社会」へと進化していく。

17-7 自然史とは「生物=環境系」の変化の歴史である

 生物の進化に関する研究は、化石をしらべる直接的方法と、現在いきている似た動物からの類推という間接方法があり、実際には両者をくみあわせておこなう。
 自然史あるいは進化を論じる場合、生物だけでなく、生物とその環境の両者の変化を論じなければならない。つまり「生物=環境系」という観点が必要である。
 自然史とは「生物=環境系」の変化の歴史であり、全地球的なデータにもとづく生物の進化と環境の変化を照合しながら、その全体像をあきらかにしていかなければならない。

17-8 物語を記述することにより情報は圧縮統合され、伝達が可能になる

 自然史や進化の記述は自然の物語を記述することである。物語を記述することにより、多種多様な情報を統合することができ、またメッセージを他人に伝達することができる。物語化とは統合的出力(アウトプット)にほかならない。上記の内容も、物語にせず、情報を箇条書きにならべただけだったらわけがわからないだろう。
 自然史に関するデータは、その数がすくないこともあり、その議論は全地球をひとまとまりにして論じることが多い。しかし、そのことが情報を統合することになっている。個々の地域について記述するのではなく、地球を舞台にした一本の物語をのべる。
 地図の作成や空間的認識は、情報の処理の段階にとどまっており、統合出力まではいたっていない。空間的に処理された情報を、こんどは時間軸にそって流すことが必要である。自然史、小説、歴史、みなおなじであろう。
 自分の体験を文章化するときもそうである。体験を要約するだけではなく、物語化することが重要である。そのためには、物語上あまり意味のないことはかかない方がわかりやすい文章になる。意味のない情報はすてることも必要である。何をひろい何をすてるかは結局テーマによるだろう。
 そもそも、文章化する前にテーマを設定して行動しておけば、それだけ意味のある体験が多くなり、後々、有意義な出力(物語化)ができるようになる。

17-9 宇宙を旅する -プラネタリウム・メガスター-

 日本科学未来館(東京都江東区青海)に、500万個の恒星数を投影するプラネタリウム「メガスターII コスモス」(MEGASTAR-II cosmos)が開設された。投影される恒星数は世界最多であり、ここでは、きわめてリアルな星空をみながら宇宙を実感することができる。
 プログラムがはじまると、まず、地上400キロからみた宇宙に案内してくれる。この高度では大気の影響をうけないため星空はきわめて鮮明である。国際宇宙ステーションはこのあたりにあるという。
 その後、太陽系を脱出、さらに銀河系をでて、わたしたちの銀河系を外からみる。ガリレオ=ガリレイは、天の川が無数の星の集合体であることを発見したが、天の川とは銀河系の断面を内側からみたものであった。
 さらに広大な宇宙をとんでいき、今度は宇宙を外からみる。わたしたちには、まだ、宇宙の4パーセントしかわかっていないという。
 宇宙飛行士の毛利衛氏はかたる。
「地球はたしかに存在する、しかしそれは決して特別な存在ではない」
 このプラネタリウムでは、視点あるいは座標軸の原点を自由に移動させて、宇宙旅行を体験させてくれる。原点がちがえば見え方も当然ちがってくる。座標軸の原点は相対的なものである。さまざまに移動させてみることが重要であり、またそのようなことが体験できる時代になった。
 また宇宙は「入れ子」構造になっている。原子モデルと太陽系とが似ているのは偶然ではない。この「入れ子」構造の原理を利用すると、部分をみて全体を類推(想像)することができるようになる。

17-10 印象の記載から旅行記を書きはじめる -旅行法入門-

もっとも印象にのこったことを書き出す

 旅行からかえってきたら、旅行全体をふりかえってもっとも印象にのこったことを単文あるいは単語に書き出す。たくさん書く必要はない、自分にとってもっとも価値のあることを書けばよい。このような単文あるいは単語はキーワードといてもよい。
 キーワードを書くということは、価値判断をし、心の中の情報を圧縮・要約することだ。旅行先では、実にさまざまなことを見聞きし、わたしたちは五感を総動員して心の中に情報を「入力」する。そして、それらの情報を心の中で整理し、価値を判断していく。これは情報の「処理」にほかならない。そして、キーワードを書き出すことは、心の中から情報を「出力」することである。
 したがって、旅行からかえってきてキーワードを書き出すことにより、「入力→処理→出力」という情報処理は完結する。これによって体験も一層ふかまる。書き出しをおこなわないと情報処理は不完全のままで、情報は放置され、しだいに拡散して、旅行は夢のかなたへきえていってしまう。
 また、キーワードは旅行のひとかたまりの体験の上部構造をつくり、旅行の「ラベル(見出し)」となる。これにより旅行の情報ファイルが心のなかに形成される。旅行の体験情報は膨大なものであるが、キーワードはそれを圧縮して情報をかるくし、一方で膨大な情報を検索する用もなす。そして、その後の情報処理をやりやすくする。まず第一に、旅行体験のファイルを完成させることが重要である。

場所ごとにキーワードを書き出す

 次に、印象にのこった場所ごとにキーワードを書き出す。旅行をおもいおこしてみて、印象にのこった場所はいくつもあるだろう。一方でつまらなかった場所もあるだろう。印象にのこった場所だけを書き出せばよい。出来事をおもいだすとともに情景をしっかりおもいだす。空間をしっかりみなおす。
 まず地名や建築物の名称を書き出し、そこでの出来事や印象をなどを圧縮・要約してここでも単文あるいは単語にして書き出すのがよい。長くだらだらと書く必要はない。体験を圧縮・要約・統合することが重要である。

日にちごとにキーワードを書き出す

 次に、日にちごとに印象にのこった場所と事柄をキーワードにして書き出す。長期の旅行では場所はおもいだせても、日にちはよくわからなくなっている場合が多い。とりあえずおもいだせる範囲でおこなえばよい。
 まず日付を書き、つぎにその日に印象にのこった場所を書き、つぎに、その場所ごとにキーワードを書き出す。前記の場所ごとキーワードからコピーしてもよい。
 このような作業をおこなうためには、旅行中に、おとずれた場所を日付ごとにメモしておくとよい。スケジュール手帳に書き込んでおいてもよい。
 このようにして、「日付+場所+キーワード」のセットをつくる。

写真をみながらキーワードをふくらませる

 旅行中にはほとんど人が写真を撮影する。これらの写真は体験を想起するためにきわめて有用である。サムネイル表示にすれば写真を一覧でき、旅行体験を鳥瞰できる。スライドショーをつかえば旅行体験を時間軸にそって再現できる。
 このような作業をしながら、すでに書き出したキーワードを補足し、ふくらませる。ワープロをつかえば容易にできる。あらたに別に書き出すのではない。
 日付ごとにキーワードが書き出せている人はそれとふくらませる。それができていない人は、場所ごとキーワードをふくらませる。あるいは時間があれば写真のデータとしてファイルに記録されている日付をみながら、ここで「日付+場所」ごとにキーワードを整理しなおし、それらをふくらませる。
 このような作業をしていると、現地ではできるだけたくさん写真をとっておいたほうがよいことがわかってくる。デジタルカメラはコストパフォーマンスにすぐれているのでそれは可能である。写真は旅行の重要な記録である。

価値のある写真をピックアップする

 撮影したたくさんの写真の中から自分にとって重要な写真、価値のある写真をピックアップする。それらは旅行体験の要約にもなる。ウェブサイトにアップロードする。ヤフーフォトやカメラメーカーのサイトを利用するとよい。おりにふれて写真をみなおすことにより、旅行を再現し、旅行をとらえなおすことができる。このような作業のなかからあたらしい発想が生まれてくることがある。

情報や意味を付加する

 地図やガイドブックをみなおしながら旅行全体をふりかえって、おもったことや かんがえたことを記載する。考察すると言ってもよい。これは、旅行体験にともなう様々な情報や知識、また体験したことの意味を文章化し、体験記に付加することである。
 しかし、それらすべてを書き出すことは不可能であり、またそのようなことをしても意味がない。意味のあることだけを書けばよい。

旅行記をウェブサイトにアップロードする

 自分のホームページをつくり、そこに旅行記をアップロードする。
 第1に自分にとって価値あることを、第2に他人にとって価値あることを掲載する。文章化とは統合出力である。まず、自分がつかうホームページをつくる。自分のデータバンクとしてウェブサイトをつかうことが重要である。文章と写真をセットにして掲載するとわかりやすいページになる。
 文章化してこそ体験や情報は統合される。情報処理を完結させ、体験を完成させることが大切である。このような作業をしてみると、次の旅行計画のアイデアがでてくる。

現地で体験をふかめる

 旅行記を作成していると、そもそも、現地で体験をふかめておくことが非常に重要であることがわかってくる。そのためには、現地でどのような作業をしたらよいだろうか。
 そのひとつのヒントは道具を工夫することにある。旅行では、地図・ガイドブック・デジタルカメラ・双眼鏡・メモ帳・パソコンなどが有用である。宿泊場所にも注意をはらいたい。ホテルにとまるだけでなく、キャンプやホームステイをすれば体験がふかまることは言うまでもない。

旅行に行ってみると計画の重要性がわかってくる

 現地での体験がふかまってくると、そもそも、旅行計画をしっかり立てることが重要であることがわかってくる。
 次の旅行の計画を立てるにあたり、まずテーマをきめる。そして、インターネットやガイドブックをみて、旅行先の情報を心の中に入力する。この段階では知識を記憶したりする必要はない。全体のアウトラインをつかんで問題意識がふかまればよい。
 そして、計画をかきだす。スケジュール(日付と場所)作成、チケットの予約、道具の準備、危機管理などをかんがえる。計画をたてるのは思考実験(シミュレーション)をするようなものである。計画を立てること自体がとてもたのしい体験である。

計画→現地体験→旅行記

 結局、旅行には3つの段階がある。旅行に行く前の計画を立てる段階、旅行をする(現地を体験する)段階、そして、帰宅してから旅行記を書く段階の3段階である。計画は、旅行に先立つ「判断」であり、この判断にもとづいて旅行は「実行」される。そして、旅行記は旅行の「結論」になる。つまり、旅行法では「判断」→「実行」→「結論」の3段階をふむことになる。旅行記の最後では、体験の全体をふりかえって考察をおこなうとよい。考察では「アウトライン統合速書法」が役立つ。
 このような3段階をふむことにより、それぞれの段階で情報処理がくりかえされ、体験はぐいぐいと深まっていく。
 そして、このような3段階を充実させると、将来的には、旅行法を、調査旅行・フィールドワークへと展開させることもでき、また、何らかの問題解決にもむすびつけていくこともできる。

デッサンに肉付けをする

 画家はまずデッサンをえがく。つぎに下絵をえがき、下塗りをはじめる。さらに何段階もの作業をつみかさねて絵を完成させていく。最初は大ざっぱな絵をえがき、しだいに細部を綿密に仕上げていく。はじめから完璧な絵を片隅からえがきはじめるのではない。デッサンに「肉付け」をしながら段階的に作品を完成させていくのである。「肉付け」では、それぞれの部分で並列的に作業をすすめる。
 旅行記を書くときも同様である。最初は大ざっぱに、段階をふみながら細部を仕上げ、体験をふかめていく。画家の方法が旅行記を書くときにも役立つ。

(2004年9月)

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2005年4月9日発行
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