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KJ法本部・川喜田研究所研修室 |
<目 次> |
解 説
要 旨
T.はじめに KJ法の研修体系は、1967年にKJ法創始者によりあらすじが完成し、本格的な普及活動がはじまる。そして、1969年の第1回移動大学「黒姫移動大学」以来、移動大学の実践のなかで、KJ法は普及・活用され次第に成長していく。1970年には、KJ法本部・川喜田研究所の主催により、第1回「KJ法基礎実技研修会」が開催される。その後しばらくは、移動大学の野外での実践と、それと平行的に、室内での研修会が随時ひらかれていく。しかし移動大学は、1977年の第15回移動大学「富士移動大学」を最後に休止状態にはいり、その後は、1989年に第16回移動大学「丹後移動大学」が開催されたのみである(注1)(注2)。 KJ法本部・川喜田研究所による室内での研修コースは今日まで継続され、次第に整備がすすみ、「KJ法上級コース」「KJ法入門コース」「取材学コース」などが順次開設されていく。W型問題解決モデル、6ラウンド累積KJ法を基礎としながら、「パルス討論」「表札づくり核融合法」「点メモ花火」「闊達話法」などの新技法が今日までつぎつぎにとりいれられてきている(注1)。また、外人のための研修コースも開催されおり、1996年には、スウェーデン人・ネパール人がKJ法本部において研修を受講している。KJ法の国際普及も近年本格化しはじめている。 1997年現在、KJ法本部で開講されているKJ法研修コースは、「KJ法入門コース〔I〕」(1日間)、「KJ法入門コース〔II〕」(2日間)、「KJ法日常情報活用コース」(旧取材学コース)(2日間)、「6ラウンドKJ法前期コース」(2泊3日)、「6ラウンドKJ法後期コース」(2泊3日)である。これらの各研修コースの終了直後には、研修コースをよりよいものに改善するために、研修を受講しての感想・意見などを受講者全員に「KJラベル」に記入し提出してもらっている。 一方、今日、世界は高度情報化社会へとおおきく転換し、あらゆるところで電子情報化が急速に進展しつつある。これにともない、パソコンを活用してKJ法を実践することが可能になってきた。「KJ法図解」や「データカード」のデータベース化(電子化)もいちじるしくすすんできている。KJ法研修コースでも、パソコンで図化した「KJ法図解」を紹介したり、パソコンを活用したKJ法のデモなどをおこなうようになってきている。 本研究では、このような時代的な背景のもとで、ここ2年半の間にKJ法の研修受講者からえられた、研修を受講しての感想・意見の元ラベル(502枚)を、パソコン(マッキントッシュ)上でKJ法によりくみたてることにより、パソコン上でのKJ法の可能性をさぐるとともに、電脳時代のKJ法の活用方法や研修方法のありかたを検討した。
U.パソコン上でのKJ法のすすめかた KJ法(狭義)の作業はすべてパソコン(マッキントッシュ)上でおこなった。使用したソフトはインスピレーションソフトウェア社が開発した「インスピレーション」(発売元:スリースカンパニー)(注3)(注4)である。 「グループ編成」は、桐谷征一氏が考案した「ポケットシートを利用した大量ラベル統合法」(注5)をパソコン上で実現するやり方により実施した。
1.ラベルづくり 1-1.ラベル入力用ウィンドウのひながたをつくる (1)「インスピレ−ション」を新規に開く。
(1)「ひな形」(ウィンドウ)をひらきながら「元ラベル」にデータを入力していく。
2.グループ編成 (1)1段目の「グループ編成」用に、元ラベルがはいっている作業用フォルダを別にコピーする。 2-2.ラベルあつめ(図3) (1)「ラベルあつめ」にともなうラベルの移動には、メニューから「編集」→「カット」→目的のウィンドウをひらく→「ペースト」を使用する。 2-3.表札づくり(図4) (1)新規に先の「ひな形」をひらく。 3.図解化 (1)メニューから「道具」→「シンボルパレット」→「ドローツールパレット」を選択する。
4.叙述化 4-1.文章化 作成された「KJ法図解」をよくあじわい、ワープロソフトを利用して文章化する。「インスピレーション」には「アウトライン」機能があるが、よりよい文章化のためにはそれはつかわないほうがよい。図解の各島・表札・元ラベルをよくよみ、よくあじわってから、それらを一旦心の中にいれ、そして、それをはきだすといった感じで文章化するのがよさそうである。 ただし、いそぐ場合には「アウトライン」機能は便利である。「インスピレーション」は、図解に表示されている階層構造をそのまま「アウトライン」形式で表示することができる。
4-2.口頭発表 パソコンを利用すると、A3用紙に図解を印刷し、それを配布して発表することが可能である。その場合は、図解の細部にいたるまでをきき手にしめしながら発表・解説することができるので都合がよい。 一方、図解をおおきく拡大して印刷することも可能であり、その場合は、従来の方法と同じように、図解をさしながら発表することができる。
V.KJ法研修受講者の声 作成されたKJ法図解「KJ法研修受講者の声」のインデックス図解(図7)を以下のように文章化した。 KJ法は、アタマだけでは決して理解することはできず、KJ法本部の正則な研修コースを受講し、切実な課題のもとで、KJ法の各ステップをみずから主体的に実践・体験することにより、はじめて習得することができる。また、自由であたたかい雰囲気と、研修のための条件がととのった環境のなかで実習してこそ、自由にたのしくKJ法を身につけることができる。KJ法は、創造的な環境のなかで、各自が主体的に実践して体得していくべきものである。 そして、研修コースで習得した技術を、今度は仕事や生活の現場で実践し、ひと仕事を達成し、実際に成果をあげていきたいものである。研修を受講しただけでは、なかなか効果があがらないので、KJ法がつかえる具体的で切実な課題をさがし、壁をのりこえるまで実践していきたい。さらに、研鑚をかさねてKJ法の奥義にふれ、底しれぬKJ法の魅惑的な世界にはいっていきたい。現場でKJ法をつかいこなし、問題解決の実践を累積していくことができれば、KJ法の本質にせまっていくことができるだろう。 そもそもKJ法とは、W型問題解決モデルを基本構造としている。このモデルの各ステップをふまえていけば、個人でも組織でもひと仕事を確実に達成できるように技法化されている。特に、取材〜データベースのシステムを身につけ、実践していけば、取材やフィールドワークはみのりあるものになり、現場や現実のニーズがつかめ、問題解決を確実に前進させることができるにちがいない。 また、KJ法をつかえば、渾沌とした情報それ自体をくみたて全体状況を掌握し、問題の本質をつかみ、総合的・多角的な問題解決の道を具体的にひらくことができる。KJ法には、予期せぬものを創造する、魅惑的な意外性が存在する。渾沌をしてかたらしめ、全体情勢を総合的に判断し、渾沌とした状況それ自体の中から、おもわぬ創造的産物をうみだすことができるのはおおきなよろこびである。 このような実践をつみかさねていくと、心の霧がはれ、気分が爽快になり、柔軟な発想や心身の健康がもたらされてくるようである。心の宇宙を探検しながら、きわめて質のたかい充実した時間を体験することができ、創造的な人生をきりひらく希望がもてるようにもなる。 KJ法は、我をなくし、無心になって己をむなしくすることが基本であり、禅の体験にもにているとおもう。また、元データ・花火・図解・発表のすべてに、それぞれの個性が表現され大変興味ぶかい。KJ法の実践を累積していくと、それぞれの個性を自由に発揮することができ、充実した時間と心身の健康がもたらされ、無我の境地から本来ある創造性がひきだされるといえるだろう。 一方、グループワークでKJ法を実践すると、多種多様な声をすべていかすことができ、ひとつの場ですなおにみながやりとりし共鳴することができ、全員参画で問題解決をすすめることができる。相互理解のために、生活レベルから国際交流までの多種多様なあらゆるレベルの情報を融合することもできる。KJ法研修会においても、参加者の熱意による無人各の生命力の集中はすばらしかった。誰もがすなおにやりとりし共鳴することができるようになり、バイタリティーが集中したひとつの場が形成されていく。 このように、KJ法は、わかりやすくステップ化された、万人に開放されているノウハウであり、ならえば誰でも実践でき、創造性を発揮することができるようになっているといえるようだ。また、科学の方法としても重要だとおもう。「KJ法」というネーミングがユニークなのも魅力のひとつであり、本質をついているのがよい。KJ法は、個性をいかす普遍的な方法であるということもできるだろう。 しかし、KJ法は、独力で実践するにはなかなかむずかしく、たしかな腕をもつリーダーが必要である。また、KJ法は、時間がかかりすぎ、現実的でないので、必要に応じて、各技術をつかいわけたり、部分的に適用するやり方もかんがえたほうがよいと感じることもある。実際には、KJ法を活用する人の技術力の限界や、組織の上下関係などの制約のため、みなが平等になって自由に発想することはむずかしい。KJ法研修コースも、日程・費用・教材・道具・テーマ・教授法などをもっと工夫・改良し、受講しやすい環境を用意し、KJ法が万人の武器になるように努力すべきである。つまり、非実用的・非現実的な側面や、活用技術や普及方法などをもっと改善し、誰もがどこでもつかいこなせるようにしていくべきである。 このような状況のなかで、パソコンを活用したKJ法は、人間の感性をそこなうことなく作業を格段にやりやすくし、KJ法のあらたな展開をもたらすであろうと期待することができる。パソコンはKJ法の作業を補助する道具として非常に有効である。 KJ法は、情報を処理・駆使し、よみかきを確実なものにするための基本的な方法として非常に役にたつ。かんがえる方法として大変有効であり、発散的思考と収束的思考とを協働させることもできる。 したがって、パソコンとKJ法の両者をむすびつけた「情報リテラシー」を身につけ、パソコン上でKJ法を実践し、情報を駆使することができるようになれば、これからの電子情報化社会において、みずからかんがえ表現することができる、創造的な人間になることは不可能ではないであろう。
1.情報の世界のフロンティア 1-1.パソコン上でのKJ法は有効である パソコン上でKJ法を実施しようとする場合、今までネックになっていたのは、「ラベルひろげ」と「ラベルあつめ」である。つまり、パソコンのディスプレーのおおきさの制約から、大量のラベルをひろげ一覧することは不可能であった。ひろげられた多数のラベルをよむためには、スクロールをしなければならず、それでは肉体的な苦痛が生じてしまい、とても手作業のようにはできないという問題があった。 このむずかしい問題は、桐谷征一氏が、「ポケットシートを利用した大量ラベル統合法」(注4)によりみごとに解決した。 今回、パソコン(マッキントッシュ)上において、桐谷氏のポケットシートを利用した方法が実現でき、数百枚のラベルであっても、パソコンを利用して苦痛なくKJ法の作業ができることがあきらかになった。 パソコン上でKJ法をおこなうと、作業を途中で中断した場合でも、そのときの状態をそのまま保存でき、あとで作業を再開するのがとても楽である。いそがしい毎日のなかでは特に有効である。また、大量のラベルであってもひろいスペースは必要としない。ノート型パソコンをつかえばどこでもKJ法ができる。今後、KJ法の作業は格段にやりやすくなることはまちがいない。 ただし、KJ法そのものをおこなうのはあくまでも人間であって、パソコンは人間を補助する道具であり、ペンやラベル・紙がパソコンにおきかわったにすぎない。その意味では、KJ法の正則な研修コースを受講し、KJ法そのものを習得・体得することがどうしても必要である。 なお今回、グループ編成〜図解化までに要した時間は100時間弱である。パソコンを使用すると図解化の時間はかなり短縮できる。
1-2.情報リテラシーがもとめられている 「KJ法研修受講者の声」からわかるように、KJ法の基本構造はW型問題解決であり、このステップを確実にふまえれば、渾沌をしてかたらしめ、渾沌とした状況それ自体のなかからおもわぬ創造的産物をうみだすことができ、ひと仕事を達成することができる。 このようなKJ法は、万人のためのノウハウであり、ひとりひとりの個性をいかすと同時に、ひとつのチーム(集団)をバイタリティーのある場にしてしまうようだ。 ただし、そうなるためには、KJ法の体得と実践とが必要不可欠である。みずから主体的に体得し、切実な課題のもとでKJ法を実践してこそ、本来ある創造性がひきだされるとかんがえられる。 しかし、誰もがどこでもKJ法を存分につかいこなせるようになるためには、活用方法や普及方法をもっと改善しなければならない。そのための突破口として、KJ法とパソコンとをむすびつけた「情報リテラシー」の開発や教育が今日もとめられており、ここに、グローバルな高度情報化社会においてKJ法があらたに展開する可能性がみえてきたといえよう。
1-3.電脳環境をフルにつかう 電子情報化がすすんだ今日、情報は電子化しておいた方がつかいがってがよいことはいうまでもない。したがって、現場・現地での取材記録や「花火日報」「点メモ花火」はペンとノートをつかうが、その後、そこから重要なデータを「データカード」にするところからはパソコンをつかったほうがよい。「点メモ花火」が開発され、パソコンが普及したため、「データカード」の作成は以前よりはかなり容易になった。 また、情報収集の場面で、パソコンやインターネット・マルチメディアからなる「電脳環境」をつかえば、短時間に多量の情報を入手することができ、それをKJ法に直接むすびつけることも可能になった。 したがって、これからの時代のKJ法の研修方法や活用方法は、コンピュータ・リテラシーとむすびつけたものにする必要がある。そのためには、KJ法(広義)を支援する専用ソフトがあった方が便利である。支援ソフトを開発する場合には、ラベルや紙をつかったやりかたが、なるべくそのままパソコン上にのるようにするのが自然であるとおもう。 いずれにしても、このような「電脳環境」を十分にいかしたこの「電子版KJ法」による創造的情報処理の世界は、グローバルな高度情報化時代におけるフロンティアである。
2.三次元情報処理システム 2-1.三次元空間内での「ラベルあつめ」の体験 今回の方法による「ラベルあつめ」では、最初からすぐにラベルはうごかさずに、5回ぐらいはくりかえしラベルをよんでいった。すると、全体がボヤっとみえてくる感じがする。さらに忍耐づよくひたすら読んでいくと、しばらくして、ラベルがあつまりだす。ラベルの方がうごきだすといった感じである。セットになったラベルは決して外にはださず、なかにおいておき、セットになったラベルも一匹オオカミもおなじように何回もよみかえす。 このようにして時間をかけていると、ラベルがつくる三次元空間が形成されるといった感じがしてくる。空間的視覚的な記憶を活用して作業をしているのである。そして、数百枚の元ラベルがつくる立体空間のなかに自分がはいりこんでしまうといった感覚がでてくる。その後、もうこれでよいという気持ちが自然に生じた時点で「ラベルあつめ」は終了する。 手作業の場合の「ラベルあつめ」は二次元(平面)でおこなわれていたが、今回の場合はあきらかに三次元(空間)で作業がおこなわれている。各ラベルの空間的な位置の記憶がのこりやすいので、ラベルを二次元にひろげたときよりも、今回の方法の方が「ラベルあつめ」はやりやすいとおもった。 つまり、今回の方法は三次元の情報処理になっており、より負担がすくない自然なやりかたであり、KJ法の本質をついているのではないかとかんがえられる。手作業の二次元的な「ラベルあつめ」から、今回の三次元的なそれへの情報処理のすすめかたの変化は、絵巻物から書物への進化に類似するとかんがえてもよさそうである。
2-2.「再配置図解」は発想をうながす 図解「KJ法研修受講者の声」は、最初に図7を作成したが、のちに「情報リテラシー」の島を中心にすえて各島を再配置した「再配置図解」を作成し、本論の考察をおこなった(図8)。 パソコンをつかって図解をつくれば、各島の空間配置の変更(水平的移動)がきわめて容易であり、「再配置図解」はあらたな発想をうみだしやすい。将来は、衆目評価法の結果にしたがって、高得点をえた島ほど中心にくるように再配置する方法が定式化するであろう。
2-3.ヘリコプター・ビュー パソコンを活用したKJ法の進展により、<現場体験→「点メモ花火」→「データカード」→「KJ法図解」→著作>という一連のシステムの構築が容易になってきた。これは、情報のボトムアップであり、情報の創造・体系化の過程である。一方、この逆コースは情報の検索であり、これもパソコンの進歩により格段にやりやすくなってきている。検索とは、自分の現場体験までをも想起することであり、トップダウン的である。同時にそれは次の創造のためのステップでもある。したがって、創造の体系は、同時に検索の体系でもあるといえよう。 このような意味で、「情報リテラシー」の習得とは、情報のボトムアップとトップダウンとが自在にできるようになることでもある。上下を自由にうごきまわり、全体と部分とをたえず往復するという意味で、このような世界は「ヘリコプター・ビュー」の世界とでも形容できる。現在のKJ法研修コースでは、「KJ法日常情報活用コース」においてこの点を特に強調している。 いずれにしても、パソコンを活用したKJ法は「三次元情報処理システム」であって、情報の世界のなかで水平方向でも垂直方向でも自由自在であり、人間の発想をおおきく支援し、あらたな創造のみちをうみだすことを期待させてくれる。
3.情報の創造的循環 3-1.全体状況を掌握する マルチメディアやインターネットを利用すると、課題をめぐり大量の情報を容易に入手することができるので、とりあえず全体状況をとらえるためには、やはり、この「電脳環境」を利用するのがよい。今日、課題をめぐって多様な情報をグローバルに収集することが可能になってきている。電子情報化の本質のひとつはグローバル化ということなのであろう。電脳環境から得られる情報は間接情報ではあるが、これをおおいにつかい、課題をめぐる全体像をつかむことが重要である。
3-2.現場に根ざす しかし、パソコンやインターネットを利用した情報処理とその活用は「書斎科学」(注2)的になってしまう傾向がある。問題解決の全体のバランスをたもつためには、「野外科学」や「実験科学」、特に、アクションリサーチ(注6)をふくむフィールドワークがどうしても必要である。 残念ながら、現在は「移動大学」はおこなわれておらず、KJ法の普及体制は室内での研修が主になってしまっており、フィールドワークや取材活動の訓練は極端によわくなってしまっている。これからは、パソコンやインターネットの使い方とともに、フィールドワークやアクションリサーチの方法を開発し普及しなければならない。 メディアからえられる間接情報だけでは判断をあやまることがあるので、現地調査(現場調査)をかならず実施し、直接観察・直接情報をもっとも重視する必要がある。現場でのフィールドワークやアクションリサーチをきちんと実施するかどうかが、問題解決の全体構造のなかで急所になることがほとんどであろう。 また、問題を解決するためには、現場において、なにがしかの実施(アクション)をおこなうのであるが、そのとき、その実施の過程それ自体から多量の情報を収集し、それらをふまえて問題の本質を追求するのがよい。一般的には、実施段階のあとに、認識をあらたにし、真の判断にいたる例がおおいとかんがえられる。 そのような意味では、現場での「点メモ花火」の研修は重要である。「点メモ花火」は通常の記録とはことなり、その時その場、あるいはその日の情景をありありと想起させてくれる。これからの情報処理教育では、コンピュータ・リテラシーにかたよることなく、ペンとノートをつかった「点メモ花火」を現場でつくる実習をもっとふやしていくべきである。 フィールドワークやアクションリサーチによってえられる情報は一般にはローカルなものであり、情報を収集するのにも時間がかかる。しかし、一つ一つの情報は現場の直接情報であり、それぞれにふかみがある。フィールドワークは生の世界を体験する段階であり、間接情報とのくいちがいが現場において発見されることもおおい。あるいは、間接情報による判断が現場でくずれることもある。したがって、たとえば、ききとり調査の場合には、現地人から直接取材すべきであるし、チーム内での「パルス討論」だけで問題解決をすすめるのにも問題がある。 問題解決の場面によって、間接情報であるか直接情報であるかはなるべく区別した方がよく、KJ法の作業も、そのどちらであるか元ラベルを区別するのが理想であろう。 このように、アクションリサーチをふくむフィールドワークを実践し、現場での実体験をつみかさね、現実に根ざした判断をみちびくことが、電子情報化がすすめばすすむほど重要になってくるといえるだろう。
3-3.情報の創造的循環システム 結局、電脳環境における情報処理と、現場でのフィールドワーク(アクションリサーチをふくむ)の両者をふまえて、思索をふかめるのがよさそうであり、そこでは両者のバランスが必要である。この両者にもとづいて、思索を深化させ、本質を追求し、情勢を判断していくべきである。 電脳環境を利用した情報処理は広がりが非常に大きく、グローバルな情報処理も可能である。それに対し、現場のでのフィールドワークは、ひろがりはちいさくローカルではあるが、ふかさがある。創造的な問題解決にはこの2つの場面が必要なのであろう。 最初は全体がボヤっとみえる感じでも、フィールドワークにより一ヶ所に焦点をあわせると、全体がより鮮明にみえてくるにちがいない。全体をみて、部分をみると、いままで以上に全体がよくみえるようになる。 これは、全体と部分の2つの視点(マクロとミクロの異質な視点)をくみあわせて総合的な判断をくだし、世界を認識していくということである。現代の、グローバルとローカルとの二層構造の世界を理解するうえでも、このことは非常に重要であろう。 そのためには、パソコン・フィールドワーク・KJ法の3つの基本技術(図10)を身につける必要があり、KJ法の研修コースもこのような観点にたって改革しなければならない。 そして、これらの3技術を身につけながら、全体状況の掌握・判断、現場での調査・実践、本質論という3段階をふまえて問題解決や仕事にとりくむのがよいだろう(注7)。全体状況の掌握・判断ではマルチメディアをおおいに利用する。現場(フィールド)での調査・実践では、取材法とデータベースがおおきな役割をはたす。本質論の展開ではKJ法そのものが必須である。しかも、これらのいずれの場面でも「電子版KJ法」はおおきく貢献することはまちがいない。 この3段階では場面転換をしっかりすべきであり、しかもこの3つの場面を循環的にくりかえすことが有効であろう。そして、この実践こそがまさに「情報リテラシー」の展開であり、これは、問題解決の創造的な循環システムである。このような循環過程をとおして、あらたな情報がつぎつぎに創造されていく。つまり、情報は循環しつつ創造されるとかんがえられる(図11)。 電脳時代のKJ法の研修方法は、以上のような観点から抜本的に再構築する必要があろう。すなわち、室内での研修コースでは、KJ法そのものの実習とともに、コンピュータ・リテラシーの実習をとりいれ、KJ法とパソコンとをむすびつけたトレーニングを実施する。その一方で、アクションリサーチをふくむ本格的なフィールドワークの実践を野外や現場で実際におこなう。そして、電脳環境での情報処理と野外での実践の両者をふまえて、課題について考察し、問題の本質を追求する。それにもとづいて、全体状況を判断し、さらにそれを現場での実践・実施にあらたにむすびつけつつ、その実践過程の中でアクションリサーチをつみかさねていく。そして、それにもとずいて、さらに本質論を展開し、状況判断をよりたしかなものにし、現場において具体的に問題の解決をはかっていくという、循環的な教育プログラムを提案することができる。
謝 辞 川喜田研究所・川喜田二郎理事長からはKJ法についてご指導をいただいた。「KJ友の会」会員の桐谷征一氏には、本研究開始のきっかけになった「ポケットシートによる大量ラベル統合法」をご教示いただいた。同会員三村修氏および永延幹男氏には、パソコン上におけるKJ法のすすめかたや活用法を研究するうえで、たえずご議論・ご協力をいただいた。KJ法研修コースを受講された方々たには有益なるご意見・ご感想(元ラベル)を提供していただいた。本論文作成に際し、これらの方々にふかく感謝の意を表する。
(注1) KJ法本部(1997):「KJ法の歴史」、KJ法研究20、p. 87 - 90 。 |
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