現場をきりとる -デジタルカメラ-

バングラデシュの子供たち
<バングラデシュ、ムンディア村>
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<目次>

写真撮影

代表的な写真をピックアップする

見出しをつける

体験をふかめる

 


2004年2月11日発行

 

 写真撮影

 わたしは、2004年1月5日から1月13日にかけてバングラデシュを旅行した。この間に、デジタルカメラをつかって合計895枚の写真を撮影した。短期間の旅行でこれだけたくさんの写真撮影をしたのは今回がはじめてであり、これは、コストパフォーマンスにすぐれたデジタルカメラの出現によって可能になったことである。

 帰国後、画像処理ソフトをつかってこれら895枚の写真をみながら、代表的で重要な写真を39枚ピックアップし、さらに、それぞれの写真に言語で見出しをつけていった。

 そして、代表的な写真・見出し・旅行中にとったメモをみながら、旅行記「現場からまなぶ -バングラデシュの旅-」を執筆した。

 

写真撮影から文章化まで

 

 この「写真撮影」→「代表的な写真をピックアップする」→「見出しをつける」→「文章化」という過程で、デジタルカメラで撮影された1枚1枚の写真が重要な役割を演じたことはいうまでもないが、それは、いったいどのような意味をもつのだろうか。

 旅行は連続している。切れ目も縫い目もない。その切れ目も縫い目もない旅行の中において、何かに注目することによって、あえて一区切りの場面をきりとり、保存する。それが「写真撮影」という行為である。何かに注目してきりとるということは、何らかの意味をその人がそこで感じたということであり、何をきりとるかはその人の問題意識によって大きくことなってくる。

 けっきょく、撮影された1枚1枚の写真は、旅行という連続する現実空間から「切断」された「断面」であり、写真をみるということは旅行の「断面」をみるということになる。

 そして、わたしたちはその「断面」をみながら、その「断面」の周辺とその写真が撮影された時間的前後までもおもいだすことができる。つまり、現実空間の全体的なひろがりやそのときの体験を想起することが「断面」があることによって容易になる。

 

 代表的な写真をピックアップする

 つぎに、代表的な写真を「ピックアップ」する。現在は、画像処理ソフトにサムネイル表示という便利な機能があるため、多数の写真から代表的な写真をピックアップするのは簡単である。

 この過程においても、撮影したときのひろい空間やそのときの体験をたえず想起していくことになる。それぞれの写真には、現実のひろい空間やそのときの体験が「圧縮」されているとみることができる。

 また、サムネイル表示をつかってピックアップされた代表的な写真の一覧をみるということは、旅行をみじかく「圧縮」していることにほかならない。いわば旅行の「要約」をつくっているようなものである。

 このように写真には、旅行をした空間やみずからの体験が「圧縮」されており、旅行を「圧縮」して再現することにより、きわめて短時間で旅行をふりかえることが可能になる。

 

 見出しをつける

 そして、ピックアップされた1枚1枚の写真に言語で見出しをつけていく。撮影された写真には圧縮されたひとまとまりの意味があるので、それぞれの写真の意味を明確にし、それを言語で表現することができる。

 言語とは一種のシンボルであり、意味はシンボルであらわされる。つまり、写真を言語化するということは、映像を「シンボル化」するということである。

 

 体験をふかめる

 このように、「写真撮影」→「代表的な写真をピックアップする」→「見出しをつける」という行為には、「切断」→「圧縮」→「シンボル化」という意味があり、えられたシンボル群をくみたてて旅行の全体的なイメージをつくりあげ、旅行を意味のある全体として把握していく。そして、それを体系化(システム化)し旅行記をかいていく。

 

現場の切断から体系化へ

 

 このように、わたしたちは、縫い目のない連続した世界から意味のある一単元を切断し、その意味を感じとり、えられたシンボル群を再構成することにより、世界を認識し表現している。この過程はいいかえれば「情報処理」をしているということであり、このような情報処理の結果として、われわれは世界を認識しているのである。

 帰国してから旅行記を執筆すると、旅行をしていたときよりも旅行の体験がさらにふかまるのは、こうした情報処理の過程で認識がふかまるためである。ここに、旅行やフィールドワークとその記録の重要な側面をみることができる。旅行やフィールドワークをおこなうときは、このような観点にたって、デジタルカメラで現場をしっかりきりとるとともに、そのまとめをおこない、体験と認識をふかめていくことが大切である。

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(C) 2004 田野倉達弘