推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
44.攻撃命令 “HOW TO DIAL A MURDER”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 2匹のドーベルマンがうろうろしている。

DVDチャプターリスト

(1)ローレルとハーディ (2)映画マニアの家 (3)“言葉を思い出せ” (4)キスとキル (5)犬たちの始末 (6)子犬と地雷 (7)オープンセット (8)警部の連想ゲーム (9)“バラのつぼみ!”

犯行の動機

「人生支配研究所」の心理学者エリック=メイスン(犯人)の助手チャールズ=ハンター(被害者、愛称チャーリー)は、こともあろうに上司メイスンの夫人ロレーンと不倫をつづけていた。それに気がつきおこったメイスンは、まず妻ロレーンを殺害し、次に、チャールズ殺害を準備する。

コロンボはいつどこでピンときたか

 護衛犬訓練所で、犬は訓練すれば、言葉や合図によって人を攻撃するように仕込めることを知ったとき。
 りこうな犬であれば、訓練によって飼い主の命令にしたがうようになる。したがって、メイスンも、飼っている2匹のドーベルマンを訓練し、それらに攻撃命令をだし、チャーリーを殺させることは可能だったはずである。

犯行を裏付ける事実

 事件当日、メイスンは3時に帰宅することになっていたが、大幅におくれて帰宅した。チャーリーがおそわれた台所で、電話の受話器がはずれていた。その電話からは、外からかかったときのお話中の音がしていた。チャーリーと電話で話していた相手は、チャーリーがおそわれたときの音を聞いたはずであるが、警察に通報していない。ちかくにいた女性によると、チャーリーは、犬におそわれたときメイスンをよんでいた。
 メイスンは、警察に保護されている2匹の犬にチョコレートをやりにきた。
 メイスンの家の台所にワラがおちていた。メイスンの家の台所の天井に何かをつるすためのフックがついていた。
 メイスンは、毎週末に犬をつれてどこかへ行っていた。メイスンは、週末に犬と外出して、キャラハン酒場撮影所からスポットライトのがらくたをもちかえっていた。キャラハン酒場撮影所の天井から鎖がたれさがっており、衣装かけのような棒がそばにおちていた。その棒は鎖につるすことができ、フックはさびていたが、金属同士がこすれる部分には光沢があった。
 チャーリーの服をしらべたら、一着だけ上着がないものがあった。行方不明の上着の切れっ端がキャラハン酒場撮影所から見つかった。チャーリーとメイスン夫人をうつした写真が、チャーリーの家からたくさん見つかった。メイスンは、チャーリーの家にしのびこみ何かをとろうとした。
 事件当時メイスンは心臓の検査をしており、心電図は3時ちょっとすぎに突然ストレスがかかった。犬は、3時すぎにチャーリーにおそいかかった。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボはメイスンに言う。
「あなたほど学識ある人にしては、みみっちい嘘で足とられましたねぇ。おしいこってす(For a man of your intelligence, sir, you got caught in a lot of stupid lies. A lot of them)」
するとメイスンは顔をこわばらせ、2匹のドーベルマンをよぶ。そして命令をだす。
「バラのつぼみ(Rosebud)」
 2匹のドーベルマンはコロンボにとびかかる。コロンボがあぶない!
 しかし、ドーベルマンはコロンボの顔をペロペロなめはじめる。
 実はコロンボは、「攻撃命令」の言葉が「バラのつぼみ」だったことに気がついていた。メイスンとの会話を録音したテープを犬たちに聞かせ、それに反応することを発見していたのだった。その後コロンボは、護衛犬訓練所にふたたび行き、「バラのつぼみ」の命令により、人を攻撃するのではなく、キスするように訓練をしなおしてもらった。犬の反応を変えるように仕込みなおしたのである。
 そうとは知らずにメイスンは、チャーリー殺害とおなじ方法でコロンボを殺害しようとし、殺害方法をみずから立証してしまったのである。

解説:仮説を連想する

 チャーリーがおそわれた台所で、電話の受話器がはずれていた。その電話の音は、外からかかったときのお話中の音がしていた。これらの事実から、「外から電話がかかってきて、チャーリーは誰かと話していた」という仮説〔A〕がまずたつ。
 次に、メイスンは、毎週末に犬をつれてどこかへ行っていた。メイスンは週末に、キャラハン酒場撮影所からスポットライトのがらくたをもちかえっていた。キャラハン酒場撮影所には、天井から鎖がたれさがっており、衣装かけのような棒もあり、鎖につるすことができる。フックはさびていたが、金属同士がこすれる部分には光沢があった。これらの事実から、「メイスンは、キャラハン酒場撮影所で毎週犬の訓練をしていた」という仮説〔B〕がたつ。
 また、チャーリーの服をしらべたら、一着だけ上着がないものがあった。行方不明の上着の切れっ端がキャラハン酒場撮影所から見つかった。これらの事実から、「犬にチャーリーのにおいをおぼえさ、チャーリーを攻撃するように訓練をしていた」という仮説〔C〕がたつ。
 さらに、メイスンの家の台所にワラがおちていた。台所の天井に何かをつるすためのフックがついていた。犬は電話のベルに反応するように訓練されていた。ほかの部屋の電話のプラグがぬけていて、台所のベルだけがなるようになっていた。これらの事実から、「台所で人を攻撃するように犬を訓練していた」という仮説〔D〕がたつ。
 そして、メイスンは、チャーリーの家にしのびこみ何かをとろうとした。チャーリーとメイスン夫人をうつした写真が、チャーリーの家からたくさん見つかった。これらの事実から、「メイスン夫人とチャーリーが不倫をしていたことが犯行の動機である」という仮説〔E〕がたつ。
 仮説〔B〕と仮説〔C〕からは、「チャーリーを攻撃するように、毎週、犬の訓練をしていた」という仮説〔F〕が引きだされる。
 また、事件当時メイスンは、心臓の検査をしており、心電図は3時ちょっとすぎに突然ストレスがかかり、それは犬がおそいかかる直前だった。その日は、メイスンは3時に帰宅することになっていたが、大幅におくれて帰宅した。これらの事実と仮説〔A〕から、「メイスンが電話をかけて攻撃命令をだした」という仮説〔G〕が引きだされる。
 仮説〔D〕と仮説〔F〕と仮説〔G〕からは、「メイスンは、3時すぎにチャーリーに電話し、台所で犬をけしかけ、チャーリーを攻撃させた」という仮説〔I〕がなりたつ。
 このようにかんがえると、メイスンが、犬にチョコレート(犬にとっては毒)をあたえようとしたり、チャーリーの家にしのびこんだのは、証拠を隠滅しようとしたためであると理解できる。
 そして、2匹の犬は、「バラのつぼみ」という言葉に反応したという事実と仮説〔I〕から、「メイスンは電話をして、台所にきたチャーリーに“バラのつぼみ”と言わせ、犬をけしかけ、犬にチャーリーを殺させた」という最終仮説に到達する。
 このようにして、チャーリーにふたたび「バラのつぼみ」と言わせる最後の場面にいたったのである。
 コロンボは、「バラのつぼみ」を発見する前に、メイスンと暖炉の前で連想ゲームをやっていた。
 連想ゲームでは、まず、何かの手掛かりとなる言葉を一つだす。すると、いくつもの言葉が連想されるが、とりあえず一つの言葉を言う。次に、もう一つ手掛かりになる言葉をだすと、連想される言葉は少ししぼられてくる。さらに、もう一つ言葉をだすと、連想される言葉はさらにしぼられてくる。このようなことをくりかえし、手掛かりとなる言葉がある程度ふえると、連想の範囲はせまくなり、一つの言葉に到達する。手掛かりが一つだと、たくさんの言葉が連想されてしまうが、手掛かりがたくさんあると一つの言葉に限定できる。
 コロンボは、捜査の過程でこれとおなじようなことをやっている。ただし、単なる「言葉」の連想ゲームではなく、もっと大きな「情報」の連想ゲームをおこなっているのだ。
 コロンボは、ある言葉に到達するのとおなじように、ある仮説に到達するのである。手掛かりが一つしかないと、たくさんの仮説がたって混乱してしまうが、手掛かりがたくさんあつまってくると、仮説は限定されてくる。さらに、仮説と仮説がくみあわさると、仮説はさらにしぼりこまれ、最後には、事件全体をみわたすことができる一つの大きな仮説に到達することができる。
 こうしてコロンボは、「連想ゲーム」に見事に勝利した。コロンボは最後にメイスンに言った。
「ゲームってやつが大好きだというだけです(It’s just that I enjoy the pleasur of the game)」


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2005年12月25日発行
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