推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
41.死者のメッセージ  “TRY AND CATCH ME”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 アビゲイル=ミッチェルが、エドモンドを金庫室にとじこめる。

チャプターリスト

(1)我が最愛の姪 (2)殺意の金庫室 (3)マッチと原稿 (4)秘書の役割 (5)警部の名スピーチ (6)旅行用レッスン (7)車のキーはここに (8)あの日の写真 (9)ダイイング・メッセージ

犯行の動機

 売れっ子のベテラン女流推理作家・アビゲイル=ミッチェル(犯人)は、最愛の姪フィリスに全財産をのこすつもりでいたが、フィリスは4ヵ月前にヨット事故で死亡してしまった。今では、フィリスの夫・エドモンド(被害者)がただ一人の身寄りになっている。
 しかしアビゲイルは、フィリスが死亡したのは実際には事故ではなく、エドモンドが殺害したことに気がついていた。アビゲイルには、エドモンドを生かしておくことは到底できなかった。

コロンボはいつどこでピンときたか

 アビゲイルの家で、死亡したエドモンドの車のキーが見つからなかったとき。
 エドモンドは車できたので、車のキーは当然あるはずだが死体にはなかった。車のキーはどうなったのだろうか。
「キーについちゃ何にも証明できない。でも何とかやってみます。あたしのとりえはしつこいところでしてね(I can’t prove a thing about those car keys, but I’m going to work on it, ma’am. I’m going to work on it very hard)」
とコロンボはアビゲイルにつげる。

犯行を裏付ける事実

 金庫室のそばの非常ベルがオンになっていた(エドモンドはどうやって金庫室にはいったのだろうか。アビゲイルは、オンにするのをわすれたので、あとでメイドに電話でたのんでオンにしたと言った)。
 金庫室の電球はきれていた。アビゲイル著『その夜私は殺された』(THE NIGHT I WAS MURDERED)の原稿が金庫室内に散乱していた。エドモンドはマッチ棒6本をつかいきっていた。エドモンドはベルトをはずしており、そのバックルに黒 い塗料がついていた。エドモンドのつめにもおなじ塗料がついていた。端がぎざぎざになった白紙の紙切れが2枚金庫室にのこされていた。エドモンドは金属製の箱に何かの痕跡をのこしていた。
 エドモンドの部屋にはフィリス(亡妻)の写真がまったくなかった(夫婦仲は悪かった)。
 アビゲイルの秘書ヴェロニカが、急に、アビゲイルと一緒に船旅に出ることになった。
フィリスの遺体はあがっておらず、溺死したと確認はできていない(事故であることは本当には立証されていない)。
 アビゲイルは、エドモンドの車のキーをもっていた。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 死亡したエドワードはメッセージをのこしていったはずである。
 コロンボは、金庫室から4個の金属製の箱をとりだす。そこにはエドワードがのこしたひっかき傷がのこされている。
 コロンボは、それらの箱を上下にひっくりかえしたり、まわしたりながら、様々に組みあわせてみる。組みあわせは多数ある。しばらく試行錯誤をくりかえしていると、矢印がうかびあがってくる。
 もう一度金庫室にもどり、矢印が上をむくように箱を配置する。そしてその先を見ると、電球がある。電球をはずしてみると、紙切れがつっこんである。それをとりだしてみると、アビゲイルの原稿の題名が記されている。ちぎれてなくなっていた部分だ。
 アビゲイルが読みあげる。
「わたしは殺された、アビゲイル=ミッチェルによって(I WAS MURDERED by Abigail Mitchell)」
「その夜」の部分はマッチのもえかすで消されていた。
コロンボはアビゲイルにつげる。
「臨終の証言です(Deathbed testimony)」

解説:断片を組みあわせてパズルを解く

 コロンボは、金属製の箱を何回もならべかえ、矢印を発見した。そして、ちぎれてなくなっていた紙の真ん中の部分が見つかって、すでに存在していた2枚の紙片とぴったり組みあわさった。
 これはパズルを解く作業にほかならない。断片を、前後左右自由に入れかえながら、もっともすわりのよい組みあわせをさぐる。ぴったりとした組みあわせが見つかり、断片がおさまるべき場所におさまったとき、パズルは解ける。
 このときコロンボは空間を利用して作業をすすめている。パズルを解く鍵は、空間をうまく利用するところにある。コロンボの動作の中にはそれがはっきりあらわれていた。
 そもそもは、コロンボの捜査全体がパズルを解く行為であった。金庫室にのこされていたマッチ棒。はずされていたベルト。ベルトについていた黒い塗料。ぴったりあわない2枚の紙切れ。見つからない車のキー。これらはいずれも断片であり、簡単には組みあわない。しかしコロンボは、さまざまな組みあわせを試行錯誤しながら、次第にパズルを解いていった。
 今回のエピソードにかぎらずコロンボの捜査は、いつも大きなパズルを解く過程であるが、今回のエピソードの箱を組み合わせる動作のなかには、パズルを解くことの本質がシンボリックにしめされていた。
 パズルを解くためには空間が必要である。その空間は大きければ大きいほど、たくさんの断片を同時に操作し、情報を並列的に処理することができる。心の空間、心のうつわが大きい人ほど、断片の組みあわせや情報処理を迅速にすすめることができる。コロンボはこのようなことができる人物である。コロンボは能力が高いだけでなく、心のうつわが大きい人間である。
 このことが、犯行の方法だけでなく、犯人の動機や事件の背景までをただしく理解するための基礎になっている。
 港で、コロンボはアビゲイルに言っていた。
「かわいい姪御さんを亡くされて、さぞおつらかったでしょう。お察しします(That must have been very hard losing someone you love like that. That’s very hard)」。
アビゲイルはこたえた。
「あたしあなたが大変すきになってきましたよ、コロンボさん。やさしい方なのね(I’m beginning to be very fond of you, Lieutenant. I think you’re a very kind man)」
 そして最後に、
「あなたの動機はわかっているつもりです(I understand why you did it, Miss Mitchell)」(コロンボ)
「もしあなたが姪の事故の捜査やってくださってたなら、こんなことはせずにすんだでしょう(If you had investigated my niece’s death, all this need never have happened)」(アビゲイル)
 これで、パズルは完全に解け、事件は解決した。


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2005年12月25日発行
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